14.自重知らず
天狐様が示した場所からせっせと掘り始めることにした。
「せいや!」
どこの土建のおじさんだ、と思うような掛け声で約1mの幅で深さ30㎝の穴が出来た。
「こんなものかな」
ノームとか一緒に来ていたら楽に掘れたかも、とは思ったけれど人目に晒すのはやっぱり悩むところなので、自分でやるしかない。
さてこのあたりの土はと…。
触ってみるととても柔らかでフワッとしている気がする。きっとこの世界でいるかどうかわからないけれど、あの者に近いのがいるに違いない。私は意外に大丈夫だったが、実家の母が天敵とばかりに騒ぐ土の中にいるうにゅうにゅと動くあれだ。
しかもやっぱり土が温かい。
うーん。これは意外に熱めのお湯かもしれない。どこからか水も引いてきた方がいいのかな?
「天狐様、冷たい水が出るところもこの近くになりますか?」
「うむ。少し離れているが、森の中にある」
それはラッキーだ。掘る穴は小さくしてもしもの時のため池にしてもいいかも。
「後でその場所も教えてください。お湯が思った以上に熱ければ、そこも利用したいので」
「報酬はパンケーキでよいぞ」
やっぱり食べたりなかったのか。
仕方ない。大食いを見てきたからそこは納得。しかしここで村人の食料をこれ以上貰うわけにはね。
「後日でいいですか?ここでは難しいですから」
「では、綾子の家に行くことにする」
「あ、はい。そうしてください。この場よりは甘いものが食べられると思います」
天狐様を見てもみんな人外ばかりだから、驚かないだろうし。
それを聞いてすぐにでも行きたいと言い出しそうな天狐様を宥めて話を戻し、私は穴掘りに精を出すことにする。
同じ幅を意識して穴を掘り始めたのはいいけれど、川までの道のりは大変だった。大きな岩が阻んでいたり、高低差があり過ぎて水の量次第で難しそうだったり、埋めたり掘ったりなんだかんだと結局4時間もかかってしまった。
レベルが上がって魔力もパワーもあるから力技があるから1時間程で行けると思ったんだけど、流石に石は砕けない。
さてこれから更に疲れる穴掘りが待っているけれど、どうしたものか。この世界にステンレスとかあるのかな。お風呂は木で作ればいいけれど、水脈からここまで通すためのものがあった方がいい。鉄だとすぐに錆びるだろうから、問題外だしね。そのままだと水圧で周りが削れてずっと泥が混じってくる可能性がある。
コンクリートとかある?
うーん。
どうしよう。
……。
あれ?
井戸とかどうやってるの?
家で待って貰っている村長さんに聞いてみることにした。
「井戸?土魔法が使えるものが掘りながら周りを固めていくんじゃよ。水脈は水と木魔法と探索があれば探せるらしい。ただその三つをもっている者が珍しい為、新しく村を起こすときには穴だらけにしながら井戸を作るか、湧き水や川に沿って作ることが多いのじゃ」
「…なるほど」
木魔法?土魔法じゃないんだ。どういう原理なのかわからないけれど、木魔法はとってないから水脈がわからなかったのか。これから使うかどうかわからないけれど、覚えておいても無駄にはならないだろうからポイントでとっておこうかな。残しておいたポイントも、砂糖とか米とか美味しいものが食べられると言えば天狐様が作ってくれそうだし、とれる魔法は家に戻ったらすぐにでも取ろう。
さて話は頭の中で逸れたが、掘りながら固めるのは何となくイメージが出来そうだから、私でも行けそうな気がする。
「役に立ったじゃろうか」
「ええ、とても。ありがとうございました。早速掘ってみたいと思います」
自信満々で答えると村長はその言葉に驚きの声を上げたが、綾子は気にしない。今更ここで自重する気はないのだ。
村長の方もどう突っ込んでいいのかわからないのか、最後には諦め顔になりボソッと一言だけぼやいた。
「この村はどうなるんじゃろうか」
村長のボヤキはもっともだとタケルは頷くが、綾子にそれを言ったところでわかるわけがないと静観した。
早速戻って掘ろうとしている綾子に、タケルがため息をつきながら話しかけてきた。
「温泉が熱すぎたらすぐにでも森でも掘ることになるのだろう?」
「うん、そうだね」
「腹も減ったし、明日でいいんじゃないか?」
腹が減ったという言葉に、ジュニアと天狐様が反応して綾子をジッと見た。
おおっ。その眼光怖いし。
それから逃げるように目を逸らしたが、確かにお腹が減った気がする。
「そう、だね」
「転移を覚えたんだから一度戻ってまたくればいいだろ」
……。
そういえば、そうだった。
忘れていたよ。
「忘れてたな」
笑って誤魔化して(誤魔化せてないけど)タケルの意見を取り入れることにした。
「村長さん、一度戻って明日また来ます」
「あい、わかった」
仙人のような顔をした村長さんは一言頷いて、明日来ることに了承してくれた。
呆れてるわけじゃないよね?という綾子の心の声にタケルは心で突っ込んだ。
呆れているに決まってるだろ。
どこまでも自分が非常識なことをしているとわかっていない綾子だった。




