12.パンケーキ
パンケーキを作る為に奮闘中の綾子だが、バターで焼き始めてからすぐに周りに集まってきた天狐と子狐とジュニアに困っている。
バターの香りって凶悪だもんね。
いつできるのかとずっと眺められていては、正直やりづらい。
フライパンもコンロも2つしかないのだから、すぐに出来るわけじゃない。――なのに、一口で食べられて次まだかと無言の圧力をかけられるのが目に見えている。
料理をするのが嫌いなわけじゃないけど、正直一日の半分近くが料理に費やされるのは、勘弁して欲しい。誰か信用が出来る人がいれば是非任せたいのだけど、どうやってそれを決めていいのかわからない。
はいはい。ジュニア、残念だけど並ばれてもあなたにはないの。
タケルに目配せすれば仕方ないと鼻から息を大きく吐き出し、ジュニアを抱えて連れて行ってくれた。
明らかにショボンとした表情に、あげるから!っと言いたいのをグッと我慢。あなたにはパンにジャムとハチミツかけたものをあげるから、もう少し待ってて。
何とか焼き上げた二枚を切り分け、ジャムとハチミツをたっぷりかけてお皿に並べて目の前に出してみた。
これだけか?という顔は無視。
すぐに焼き始めたけれどすぐに出来るものじゃないし、気にしていては負けだ。
そんな大きさだから一口なんですよ?だって、ほら子狐は一口じゃないし!
ジト目はやめてください。だ・か・ら!
「天狐様!念波じゃなくて、是非念話でお願いします!」
「いやー、悪かった。どこまで伝わるのか知りたかったのでな」
「もう、本気でお止めください。ガリガリと何かが削られてしまいます。はい、二枚目です」
「ああ、すまぬ。確かにうまいが、量がなあ…」
「天狐様って人化は出来ないのですか?」
「……、忘れておった。人化することなど300年ぶりだ」
ポンッと音がしたような気がすると、そこには絶世の美女がいた。
おおおおおおおおっ!人外って、神々しい‼
ボキャブラリーがないので形容詞し難いのだけど、金銀糸の見事な御髪で光の加減により金とも銀にも見えキラキラと輝き、白磁のような肌に目じりに朱が入って色っぽい。じっくり見ると男性とも女性とも見える中性的な顔立ち、勝手に女性だと思っていたのだけどもしかして性別がない?
なんかよくわからないけど、背筋が寒くなったので考えるのをやめた。
そうこうしている内に3枚目が焼きあがったのでお皿に乗せて、食べ方を伝える。
「天狐様、このスプーンでジャムを掛けてフォークで食べてください」
ナイフの使い方を教えていたら焼けないから、そこは切って渡す。
子狐には細かく切って、ジャムをかけてハチミツかけて渡した。
それを何度か繰り返して、やっとタネがなくなった。
疲れた。
ジュニアにはちゃんとパンを出して甘々にして渡したら、それで問題なかったらしくはぐはぐと機嫌よく食べていた。
「綾子、これはいつも食べられるのか?」
「どうでしょう。小麦にも限界があるだろうし、砂糖なんて特に難しいかと。天狐様が新しくそんな植物を作るか、品種改良なされば出来ると思いますけど」
「例えば、なんだ」
「……それって、問題ないのですか?」
「ない。理不尽な魔法があるのだ、これが良くてこれがダメとかあるわけがない」
ああ、なるほど。世界が違えば、常識が違う。
狐さんたちも魂が傷ついてなければ、復活する様な事いってたし、神の類がいうのであれば問題ないのか。
ん?だったらそれをうちの庭植えたら、めっちゃ楽!サトウキビまだ植えてないし、これはラッキーなのでは?!黒糖は好きだけど、お菓子には向かない。白砂糖の作り方なんて知らないから、初めから諦めていたけど、それならば!
「サトウキビという作物を品種改良して頂きまして、白と黒が採れるようにしてほしい」
「そんなことでいいのか?」
「うちの庭に植えるのは、果実のように育ててたら砂糖がなる木が欲しいですけど、他ではちゃんと作った方が問題が少なくなると思うので」
「ふーん」
「…頻繁に食べたいんですね。だからこの村でお供えしてもらいたいのですね」
だからなんで神に連なる者は、面倒くさいのか。それとも自らの望みをかなえることは出来ないが、願いを叶えるということが出来るのか。
「では、神木として祠の横に砂糖がなる木を植えられたらどうでしょう」
「それが良い!」
「………」
さて、砂糖がなる木って、どんな木だ?
鳥がつついて食べてなくなると問題だから、見た目は果物に見えない方がいいし、すぐに割れたら中身出るのはね。――となると、クルミみたいになればいい気がする。
「あい、わかった。それで作ることにする」
あっという間に苗が目の前に現れる。
はいはい、これを村人に授けるのね。
先ほどからかなり遠巻きに見ていた村人たちに視線を向けると、硬直した。
「あ、村長さん呼んで頂けたら嬉しいでです」
慌てて何人かの足音が遠のいて行くのが聞こえたので、ここで待っていればいいか。
「あのー、お呼びとか」
「あ、村長さん。これは天狐様から下賜された神木です。祠の横で育てるようにとのことです」
「ご神木?!」
「砂糖、というものが取れます。これを舐めてみてください」
「甘い!真っ白で甘いとか、まさに神の粉」
この村ではサトウダイコンみたいなものが使われていたので、それなりに甘味料はあるけれど白砂糖のような甘さは出ない。優しい味のテンサイも好きだけどね。
「これがこの木にはなります。それを使って甘いものを是非作って天狐様にお供えしてください。ジャムも果実酒も格段に美味しくなります」
「かしこまりました。天狐様、お目にかかることが出来身に余る光栄です。これからさらに村の者一同で誠心誠意お仕えさせて頂きます」
「ウム、よろしく頼む」
「あのー、村長さん。砂糖がこの村で採れることが分かると、争いの種になる可能性があります。サトウキビという食物も一緒に出してもらうので、村ではそれを育ててください。そうすれば、この村の特産として街に卸すことも出来るのではないでしょうか?」
「村の為に、ありがとうございます。ありがとうございます」
土下座しそうな勢いの村長さんを立たせて、仕事を作る。
考えさせてはダメだ。勢いで進めなければ、きっと私はここから去れない。
すぐに天狐は綾子がいう黒・白の砂糖が採れるサトウキビを生みだした。
「開墾します。どこなら植えても大丈夫ですか?」
やっぱり今ある畑を砂糖にするのは気が引けるから、騒ぎの原因を作ったこちらが別で作らないとね。
のんびり更新で、頑張ります。




