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うさぎに騙され異世界へ  作者: 桜田 律 
第3章 冒険
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9.天狐 3

綾子たちは急いだ。来る時よりも倍の速度で。

いつもならそんなに急ぐなと苦言をいうタケルも今回は並走している。

ジュニアは珍しくいつもと違う空気を感じ取ったのか、ちょっとだけ横顔が凛々しい。

近づいてくると空気が変わるのが分かった。


「綾子、止まれ」

ウッ、これはまずい。

すぐに結界を張る。


その天狐だったモノが動くたびに、周りの草や木を呑み込んで枯れていく。

もうこれは間違いない。呪いの類にまでなっている。

黒く濁ったものが通った後は、枯れるどころか土までヘドロのようになり息が出来ないぐらい臭いが酷い。

結界をしたから何とかこれで息が出来るが、逃げ遅れた動物らしきものがその黒いものに触れた途端に痙攣をおこして倒れていく。

何かを追いかけているのは確か。

それとももう冒険者は先ほどの動物と同じように、物言わぬ屍になっており自我を失ったモノが動いているのか、それともまだ追いかけている最中なのか。


探索を掛けると黒いモノの前に3つほど生命があるのが分かった。取りあえず生きているようだ。だがその先に入ってもらっては困る。その先はルプスの支配する森、目の前のモノに呪われるか、ルプスにかみ殺されるかの差だ。覚悟を決めてもらおう。


『ルプス!冒険者の動きを止めて』

私たちが街を出る時にはもう、ルプスは村に着いたらしいので近くにいるはずだ。

まずは足止めをしてもらう。

見極めなければ事を起こせない。


すぐにフェンリルだ!と叫ぶ声が聞こえたので、間違いなく足止めできたのだろう。魔法を唱える声や剣を振り回す男が聞こえるが、そんなのでルプスに傷をつけることは出来ない。精々怖がってもらっておこう。しでかしたことの大きさを知らなければ、また同じことを繰り返す。


「天狐様!あの者たちは何をしたのですか!教えてください」

止まる様子も、気に留める様子もない。

「お願いです。止まって下さい」


「フェンリルの王ルプスに足止めさせてます」

少しだけ興味を持ったのか、聞こえたのか歩みが遅くなったが、それでもまっすぐに冒険者に向かっている。

『ルプス!その冒険者たち何しでかしたかわかる?』

『狐たちの血を感じる。かなり斬殺したようだ。それに一匹瀕死だが生きている子狐を抱えているな』

『ルプス、その子を奪ってこっちに連れてきて。兄たちはそのまま冒険者の威嚇をして欲しいと伝えて』


ルプスは返事をする前に、子狐を抱えた冒険者こと咥えて運んできた。

要らないものまで連れてきて!と思ったがそれどころではない。

息も絶え絶えの真っ白で綺麗な毛が地で染め上がるほど傷が深い。


その冒険者から子狐を奪い取り抱き込んで治癒を施す。

傷はすぐに塞がったが、失われた血が多すぎるようで呼吸が浅い。

直ぐにアイテムボックスからお皿を出し、その上に水を出す。その上に持ってきたハチミツを垂らして混ぜる。その上に最高級の回復薬を混ぜたものをスプーンに掬い取り、無理やり口を開けて流し込んだ。


お願い、飲んで!

のどに詰まらせて息が出来ないのは本末転倒。背中をさすりながら少しずつ垂らしていく。少しだけど舌が動いた。

これならいけるかも。

何度も何度も根気よく飲ませていくと、ゆっくりと子狐が目を開けた。


――良かった…、良かったよ。

目を開けた子狐を撫でてゆっくりと抱き上げると、首元にすり寄ってくる。

可愛いよ、可愛すぎる子狐。

クリーンを掛け素敵な毛並みを堪能していると、タケルから呆れたような声が聞こえた。

「綾子、よくこんな状況で」


ハッ!私!

目の前の意識を向けるとルプスが天狐と対峙していた。本気で戦えば間違いなく天狐の方が強いだろう。そんな状況の中私を庇うようにして立つルプスは、流石はフェンリルの王。

カッコよかった。


ん?でも、タケルの声の感じだと話はついてる?

「天狐様、この子お返しします」

抱きかかえていた子狐をゆっくりと地面に下ろせば、私をチラッと見てありがとうという感じで短く鳴くと、すぐに天狐に駆けていった。


黒い禍々しいものが少し減っていきましたが、それでもまだ何かを訴えかけるように目の前で震えている男を睨んでいる。

「あなた、まだ何か盗んだの!」

「俺は…べつ、に」

「じゃあ、誰が何を盗んだの!」

「な、にも」

「じゃあ、ここで朽ちるといいわ。向こうの冒険者に聞くから」

迷わず向こう側にいる冒険者に向かってタケルを伴って走っていった。


「返しなさい」

「煩い!子狐を返したんだ。それでいいだろ」

「そう、そんなに死にたいんなら、死ねばいい。死体となればあなたたちが盗んだものがここに残される」

「おまえ、何で魔物に味方する」

「あなたたちが道理を外した行いをしたからに、決まってるでしょ」

「俺たちは冒険者だ」

「それが?」

「だから魔物を狩るのは当たり前だ」

「それで」

「その対価を求めて、何が悪い」

「じゃあ、あなたたちがしでかしたことの補填は、あなた自身で補って」


「ルプス、その男もここに連れてきて」

心底いやそうに男を咥えてきた。

ああ、確かに嫌よね。近くに寄りたくないほど、粗相をしている。


「天狐様、この男たちを差し上げますので、元のお姿にお戻りください」


『子の命を救ってくれたことには、礼を言おう。だが、聞きたい。人間であるお前が人間を突き出す』


「この世界の者でない、異物であるこの者たちがこの世界の理を破り、迷惑をかけたのです。その責任の重さを知るべきなのです。ずっと見守ってきた村を荒らすだけでなく、神の御使いであるあなたに刃を向けた。そのせいで村の守護は解かれてしまっている。このままだと村だけでなくこの近くの街、このあたりの森まで、砂漠化してしまうでしょう。違いますか?」


『なるほど。あの方が目にかけただけはあるか。それにフェンリルの王を従えてるとはのう…』


あれ?ものすごく覚悟して対峙してみたのだけど、なんか空気が緩んでる?

なんで?

あの方って言ったということは、これも管理者が絡んでるわけ?!

あ、でも放って置いたら世界が変わってしまうから、関与できるところはするのは普通なのか?


わけがわからない。


『名を綾子と言ったか?』

「はい、そうです」

『これを授ける』

「これは?」

『空間でさえ切りつけることが出来る。神刀だ』

へっ。

怖いよ、怖い。どこでも切り裂けるとか、そんな理を曲げるような物怖いって!

あ、でもこれだとアイテムボックスも切れるってこと?

最後は力づくでも奪って返せと。

ですよねー。あそこまで同じ世界の人間として裁いていいと言ったなら、私の手で方をつけるのも覚悟しなければ。


「で、お三方この神刀で無理やり切られて奪われるのと、大人しく出すのとどちらがお好みですか?」


「あ、言っておきますけど、私のレベルあなた方を凌駕してますので、力では勝てませんよ?ルプスその一番反抗的なの押さえつけておいて。兄たち二人はこっちの男を。タケル念のためその男逃げ出さないように見張ってて」

「ままーぼくは?」

「あー、その子狐君を守ってて」

「おー!」

嬉しそうにジャレついている子達を見て思わず和んでしまったが、顔を引き締めていかねば!


「で、どうします?アイテムボックス切り裂いたら、多分機能果たさなくなるから全部中身出てきますよ」

「そんなゲームのようなチートくさいものが、こんなところに…」


「あ、ごめんね。剣切っちゃった」

「おい、…嘘だろ。これドラゴンでも切れると言われる剣で、魔剣のひとつ…」


「さあ、決めてください。私…案外気が短いんですよ。あなた達が荒らした村に行きたいのです」


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