8.天孤 2
「ヤンさん、ロジャーさん取りあえずここに来るまでに狩った魔物をお願いしたいです」
本当は色んな効果を付加したペンダントとかお勧めだけど、なんとなくだけど今回はやめておいた方がいい感じがする。あの冒険者の人達が何者か分かってからでも、遅くない。
それに売るほど食べ物もあるけど、もし村が孤立していたら村の方が食べ物はいいだろうと思って、ここではウルフ5体や一角うさぎ5体、熊を1体を出す気でいた。
狩った魔物?ヤンとロジャーは呆気に取られていた。
本気であなたは一体何者ですか?!
冒険者のスキルや能力など聞いてはいけないという暗黙のルールはあるが、時間があればひざを突き合わせて問い詰めたい。
恩人に報いたいのは山々だが、こうも爆弾発言を繰り返されると火消しが難しい。
彼女がテイマーで魔術師というだけで、国が知れば召し抱えにやってくるぐらいの人材だ。それが本人は分かっていない。あのタケルといううさぎもある程度は人間の世界の常識を知っているが、駆け引きには向かないだろう。しかも人間でないというだけで、同じ土台に上がることは難しい。
「なあ、」
「ああ」
「「そうだよなー」」
二人はそれだけでお互いの言いたいことは伝わったようだ。
「アヤコさん、これからも街に来て回復薬など納品して頂けるなら、必ず俺かロジャーを名指しで呼んでくれ」
その言葉に綾子は首を傾げた。だが、次の言葉で何が言いたいのかわかった。
「それ、どこに入れているんだ?」
どう考えても言ったものを持っているようには見えないのだ。となると、一つしかない。
すぐにそれが思いつくからには、多少はそのスキルを持っている人間はいるのだろう。だがどうやらこの世界にアイテムボックスを持つものは少ないらしい。
綾子はやってしまったか…と思いつつも、確認しておかなければならない。
ここで聞いておかなければ、どこかで無意識にやってしまう。
「もしかして、アイテムボックスを持っている人は貴重ですか?」
「かなりな。居ないことはないが、魔力量によるためそこまで大きくない。そうだな…冒険するために必要な3人分のテントやその道具ぐらいが入るのがやっとか?」
それは小さい。オークが2・3体入れば御の字だ。
だったら3メートル以上ある熊とかそのまま出したら、その時点で普通なら容量オーバーに近い。その後のウルフを出したら、何者だって感じだ。
「そうでしたか。お手数をおかけします。で、買取はどうしましょうか?」
そこで普通の対応をする綾子に二人は諦めが肝心と大きなため息を吐いた。
「…ああ、その…主人が申し訳ない」
「いや、あんたも大変だな」
「…諦めが肝心なので」
なによ。タケルその澄まして悟った顔。ムカつく!
主人だなんて思ってない癖に。
私だってわかってるわよ。やらかしたことぐらい。
でも、ここで慌てたって何かが変わるわけじゃないし、色々と手助けしてくれるみたいだからお願いしちゃうしかないでしょ。どうせこれから色々とやらかすんだし、慣れてもらってた方がいいの!
人間の常識を教えてくれる人が、多分この人たちになるんだから。
結局ウルフ5体や一角うさぎ5体、熊を1体と回復薬のお金、あわせて700万エンを貰うことになった。
一日でこんなに稼いじゃった。
本当ならこれの倍の金額は払わないと駄目なんだが、いうボヤキは聞かないでおいた。そんなお金を払ったら、ギルドとしても治癒のことを誤魔化し切れないはずだ。
この世界の会計がどうなっているのかはわからないが、収支をつけるにあたり出来るだけ人の手が加わるものには、数字といえども見えないほうがいい。
特級の回復薬も渡したし、中級も残っていると言ってたから気絶していた人には、酷くなかったと言えば問題ないと思うし、そのこの手腕はあの二人に任せるしかない。
それに冒険者ギルドが銀行みたいなのを兼ねているらしく、その貯金から定額でその治療費や回復薬の料金を引くのだと聞いた。しかも保険代わりに一割は強制的に貯金に回されるらしい。もしも怪我、病気で冒険者が出来なくなった時に奴隷落ちしないためだとか。
保険という言葉があるのもびっくりだが、そのシステムを作った人はこっちの世界から言った人だと思う。しかも日本人。日本ほど保険が定着している国はない。だからこそ、長寿国となった。
話は逸れたが、後始末をおんぶにだっこ状態であっても、これからWin-Winの関係になるのだから問題ない!
ギルドは定期的にいい回復薬を手に入れることが出来て、冒険者を失わないでいいし、私は外貨を得ることが出来る。
回復薬のことを聞きつけて、どこからか商人や貴族が出てきたときの仲介役になると決まっていても、きっとギルドにとってはいいはず!二人が割を食うかもしれないのは、否めないけどね。
さて!いざ天狐?らしき者に会いに行こう!
あんな見られるだけで凍るような憎悪を向けている原因を何とかして止めないと。
「では、お世話になりました。タケル、ジュニア行くわよ」
「もう、行くのか?すぐに陽は落ちる。皆お礼を言いたがっているし」
「私がいない方が、治癒を使ったとわからないしいいのです。従魔は誤魔化しようがないけど、出来るだけ私の面が割れないほうがいいので」
「…確かに、そうだな」
「ええ。それよりも!ロジャーさん依頼があります。明日か明後日にここを出て村に行ってほしいのです。出来る限りのことをしたいのですが、後のことを任せたくて」
「……ああ、そう、ですね」
「ですから報酬にこれを渡しておきます。では、また!」
ブレスレットをロジャーに押し付け、綾子は逃げるように出ていった。
ブレスレットを押し付けられたロジャーは我にかえり、すぐに鑑定を掛けた。あの綾子が押し付けるようにして去ったことを考えたら、普通のお守りみたいなものだとは思えなかったのだ。
案の定、ロジャーは叫んだ。
「なんじゃこりゃ――――ッ!!」
マジックアイテムと呼ばれる類の物を後始末の依頼として渡す綾子に、ロジャーは暫く座り込んだ。
「あの人は人ではなく、本当に女神だったのか?」
鑑定結果…S級マジックアイテム ドラゴンの炎も防ぐ結界と重傷を直す治癒が付与されたブレスレット
綾子は鑑定能力がまだ1の為、そこまで凄いものが出来ているとは知らない。




