5.フィンプラトー 3
綾子はいい匂いにつられるように目が覚めた。
「お腹空いた」
「起きたか」
「うん…」
目の前に持ってこられたのは定食らしきものだった。
この町の人が作ってくれたもの?
考えるよりも先に喉も乾いているし、スープに口を付けた。
あ、うん。味はするけど薄い感じ?
ちょっとズルをして塩を取り出しかけた。
これでいい。体から色々抜けた感じがあるから、汗かいて塩分も抜けたのかも。ちょっと辛いぐらいがいい。
ん?
「俺も掛けてくれ」
タケルのスープや野菜にも塩をかけると、満足そうに頷きながら食べ始めた。ジュニアは?というとお肉にニンニクが聞かせてあるみたいで、塩は気にならなかったようだ。
ニンニクって食欲そそるよね。
パンは…固い。スープに付けて食べるってラノベの本に書いてあったけど、クルトンでいいんじゃないの?ってレベルだ。
これ全部をかみ切れるほど、現代日本人の顎は逞しくないの!
三分の一は帰ってからクルトンとして料理に使うことにして、アイテムボックスにのけた。逆に以前焼いてあった柔らかなパンをこっそりだして、ハチミツたっぷりつけて食べた。
ジュニアの鼻を誤魔化すことが出来なくて、「まま、ずるい」と言われたら、出すしかないよね。
でもジュニアに誰がそんな言葉を教えたの?!少しだけ逆恨みしたくなった。
食べ終わってすぐにタケルから今の状況を教えてもらった。流石に長い耳は伊達じゃない。
治癒2が使える人間は教会に所属する必要があり、行動が制限されること。それをしてしまっては、恩を仇で返すことになるから、重傷者は特級回復薬で治したことにして、軽傷をあたしが治したことにしたと。
なるほど。有難い処置だ。それならばとてもいい関係でいられそうでホッとした。
正直嫌な感じはなかったから安心はしていたけど、力の前に人が変わることはあるからだ。
「わかった。じゃあ、顔を出そうか。今なら知りたいことを何でも教えてくれそうだから」
「あ、綾子は山で修行していたことになってる」
「りょーかい」
これは元々聞かれたらこう答えようと決めていた一つなので問題ない。
お皿は全部タケルが持って私に後ろをついてくる。始め違和感があったが、従魔だからそうしないとおかしいのかと、思い直して猫被っているタケルを見ないようにした。タケルに後ろから睨まれている感じは伝わるのだが、そこは完全にスルーだ。
ジュニアだけがおすまし顔で歩くのが、余計におかしかった。
「目覚められましたか!」
「食事ありがとうございます」
「いえいえ、本当に、本当にこの町を救って頂いてありがとうございます!」
綾子がドアを出て出会ったのは、ギルドマスターヤンとサブマスターロジャー。
二人は冒険者の命を救ってくれたことに感謝の意を伝えた。
とにかく何度も頭を下げてくるので、綾子は逆に困ってしまった。力を持っているからこそ出来ただけで、なければ出来ない。それだけのことだ。
そのことを伝えると深く頷き、自分たちが情報統一をしたのは間違いではなかったと、二人目を合わせた。
それから回復薬の買取の事になった。綾子は提示された金額に驚きを隠せない。お金は全くもっていなかったので、貰えるものは正直に嬉しい。
この世界での130万が高いのか安いのかわからないが、元の世界であの治療をすれば一人それぐらい掛かるはずだから、正当な報酬なのかもしれない。
少し考えていると少ないと勘違いしたようなので、それは否定しておいた。
「ああ、いえ。作ってくれた人の能力が凄かったのだと実感したんです」
「あれはアヤコ様が作られたのではないので?」
「アヤコ様は止めてください。ちょっと落ち着かないです。折角噂を統一して頂いたのですし」
「ああ、そうですね。では、アヤコさんで」
「それで構いません。そして先ほどの答えですが、私ではないのです。山奥で世間知らずに過ごしてきたために、友人が何かあった時にお金に換えればいいと、作ってくれたものです」
「…そうですか」
「あ、でも月に一回ぐらいなら、卸に来れますよ?」
「本当ですか!!」
ロジャーの喜びように何かあるのかと、聞いてみた。
「薬師の方が最近お年を召しまして、上級の回復薬の数が揃えれないのです。この街から勉強に旅立った者たちは、そのまま王都に残ったり、冒険者に雇われて定住してなかったりするので、供給が安定していないんです。それこそ低級なものは山に入れば薬草はあるので、誰でも作れるものなのですが」
どうやら思っていた以上にここは辺境地なのだと、綾子は思った。だからこそ、色々と今回は助かった。
ここでなら治癒のレベル上げに協力してもらうことも、可能かもしれない。
それから話し合いは続き治癒の代金の話になった途端に、二人の顔色が悪くなった。
というのも、特級に値する治療となると一人、100万エンになるそうだ。これはこの地での冒険者はBランクと言われる者ぐらいしか一括で払えない料金で、魔物計算でオークの肉2体に匹敵するらしい。
へー。ルプスが以前狩ってきた人型のやつだよね。見たら食べられないと思ったから、ハントに全部か任せちゃったけど、普通に美味しかった。あれ、そんなに高いんだ。三日で無くなったよ。知らないってある意味凄いね。人ごとのように遠い目をした。
目の前の二人の頭がどんどん下がっていく。やばい!逃避行している場合じゃなかった。
「ああ…別にいいですけど」
そんな呑気な綾子の言葉に、前後から「「そんなわけあるか―――!!」」と息の合った突っ込みがあった。
耳が痛い。
タケルとヤンががっしりと握手を交わし、ロジャーに可哀そうな子を見るような目で見られた。
払えなさそうだからいいって言ったのに。
なんで!
この後世間に疎いと言われている綾子の為に、ロジャーからこの世界の常識というのを永遠と語られた。それは助かったけど、なんで治療と回復薬の交渉を主の私じゃなくタケルとするわけ?
解せぬ。




