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うさぎに騙され異世界へ  作者: 桜田 律 
第3章 冒険
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4.フィンプラトー 2

そこにはいつ息が止まってもおかしくない者達が並べられていた。

「タケル、もしもの時はお願い!」

「わかった」

まずはクリーン!傷口を治すにあたりまずは菌を消滅させて、

「エリア治癒!」


全体に治癒をかけるとごっそりと魔力が抜けていくのが分かった。ここまで分かるのはブリスの時以来だ。

血だまりがなくなると同時に、段々と傷口が塞がっていくのをギルドマスターらしき男は、あんぐりと口を開けて見ていた。

呪いを消すよりは魔力は要らなかったらしい。だけど立っているのはきつい。


「ギルドマスターであってるか?」

タケルが声を出したことに驚いて、一瞬飛び上がった。

「驚かせてすまぬ。主を休ませたいのだが、どこかないか?」


「ああ…こちらこそすまぬ、気が利かなくて。ギルドマスターのヤンだ。今回は本当に助かった。すぐに案内しよう」

ヤンはうさぎに背負われぐったりとした綾子を見て、唸る。

これだけのことが出来るのだ。若いが高名な治癒師だろうと思った。そして運が良かったと思うと同時に、高額になる治療費がどれだけになるのかと頭を抱えた。


あれだけの回復薬があれば、外で治療している者も殆ど終わった頃だろう。外の様子も気になるが、治癒師の状態も気になり、ここを離れることも戸惑う。

ギルドの一角にある客間で綾子は横になって貰うことして、ヤンはどうしようかと悩んだ。


「ここは我らが主を守るから、外の様子を見に行って貰って構わない」

「いいのか?」

「大丈夫だ。主の世話は慣れている」

大丈夫だとばかりに足元にいるジュニアも鳴いた。


「それならば、言葉に甘えて」

ヤンは危篤者を見回った後、重傷者がどうなったのかを確認しにいった。



「ギルドマスター!ここに居ましたか。あの治療師の方は…」

「重篤者に治癒した後、倒れられたから奥で休んでいる。回復薬も多数あったが、まだ足りないのか」

「いえ、効き目が凄くて思った以上に凄くて、余裕が出ました。」

「じゃあ、なんだ」

「残りを買い取りできたらと」

「ああ、ここにある物は全部使い切ったからな。問題は…値段だ」

「…ですよね。治療費も合せてどれくらいになるのか」


「ひとまず治療費は相談するとして、回復薬は概算でいくらぐらいになる?」

「初級と言っても、世間に出回っている中級に近いものでした。出回っている初級が1本3000エン、中級が1万エンですから、8000エン程度が妥当です。×50本ですから40万エン。中級でも上級に近かったので、1本3万エンとして30本で90万エン。会わせて130万エンですね」


「回復薬だけなら、払えるな。後は特級に近かった治療だ」

「ええ、彼らを見ました。もう驚きました!身ぎれいになっているだけでなく、欠損していた手足まで生えているとか、神の御手みてを持つ者だと思いました。彼らの友や親族達は彼女のことを女神とか聖女と呼んでます」


「おい、ロジャー!すぐにその噂を収拾させろ!今すぐにだ!」

「なんでです?彼女の功績に相応しいと…――教会!!」

「そうだ。あの面倒な連中に絡まれたら…。恩を仇で返すようなことはさせない!周知徹底させろ!」

「了解!」


ヤンはとにかく女神とか聖女という噂を広めることを禁じた。


1.重篤者は数名で、彼女の持つ貴重な特級回復薬で完治した。

2.彼女の行った治癒は初級の軽い傷を治した。


以上二つの認識でいるように!


自分たちを助けたせいで、教会に囚われるようなことがあってはならぬ。

ギルドはもちろん何かあれば全面に表に立つことを決め、この街の冒険者は心に刻んだ。30名以上の犠牲者が出ればこの街近辺の魔物駆除が滞り、商人が来ないばかりか良くない噂が立つ。辺境の地だけにそれは命取りになることを、皆よく知っていた。


実際に近隣諸国の街が、それで廃れていったことは周知の事実。それが防げられたことはこの街にとって、僥倖だった。


ヤンはギルド職員に指示をしながら、奥の客間が開かれるのを待っていた。足りない物があるならばできる限りのことを用意したいと思うのだが、初めて会う人物に、初めて見る喋る従魔。失礼があってはいけないと思うと、中々言い出せなかった。


「ヤン、周りもかなり落ち着いてきましたし、ちょっと休んで食事しませんか?」

そう言われたら、腹が減っている。

「そうだな。…客人の食事も用意してくれないか。目が覚めたら腹も減っているだろう」

「そうですね。ただ、従魔は何を食べるのでしょう?」

「あのウルフらしき者は肉、だろうが、うさぎは何を食べるのだ?」

「人参、じゃないですよね。流石に…」

ヤンとロジャーは暫く悩んだが、全くの未知との遭遇で答えは出ない。


「取り敢えず、切り分けられるように肉を丸ごと焼いた物と、客人が食べる定食を2つ持ってこさせろ」

「それがいいですね」



食事の準備が整った頃、客間のドアが激しく叩かれた。

「なんだ!」


耳を澄ませると、どうやらあのウルフが肉の匂いをかぎつけて騒いだのを、あのうさぎが怒っているようだ。

起きてたら、腹も減るよな。

あのウルフの子が怒られるのも可哀想だと、食事が出来たことを知らせに行くことにした。

「食事食べますか?」

ヤンはできる限り丁寧な言葉と使おうとするが、荒くれを諫めることが多いギルドマスターなんてものをしているために、辿々しい。ロジャーに行かせるんだったと後悔した。


ドアが開けられるとあのうさぎが出てきた。

「ありがとうございます。ギルドマスター。ジュニアが肉の匂いで落ち着かなくて。あ、申し遅れましたが私主人である綾子の従魔キングラビットのタケルです。下に居る子はジュニア」

「丁寧にどうも。じゃあ、飯…食事はここに運びましょう」

「お願いします」


肉の塊に目を輝かせるジュニアにほっこりしながら食事を運び込むと、奥では綾子という女性がぐっすりと眠っていた。

「目を覚ましてから良い。話したいことがあると伝えて欲しい」

「伝えます。そして色々と手を回して頂き、ありがとうございました。また主人が起きたらすぐにでも、冒険者登録をお願いしたいです」


「察しが良くて助かる。それにしても冒険者登録がまだだったとは」

「近日まで山奥で修行ばかりしていましたので」

「なるほど。では、起きたら頼む」


話せば謎も少しは解かれるかと思ったが、あのうさぎタケルと話していると、余計に謎が深まった。高名な治癒師ではなく、もしかしたら彼女は凄い魔導士…魔女なのか?


やっぱりわからない。

起きてくるまでに食事と仕事を終わらせよう。

「どうだった?」

「ロジャーか。あのうさぎはキングラビットのタケルというらしい。ウルフの子はジュニア、主人である彼女は綾子というらしい」

「なんで、そんな浮かない顔を?」

「あのタケルの動きや仕草に全くに好きが見当たらない。物腰は柔らかいが、あいつはかなり出来る」

「Sランクのヤンがいうなら、そうなんだろうな。でもそんなことは関係ない。この街が救われた。それだけだ」

「ああ、そうだな」


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