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うさぎに騙され異世界へ  作者: 桜田 律 
第3章 冒険
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1.街への道のり

「ねえ、タケル」

「なんだ」

「今更だけど、街までどれぐらいで行けるの?」

「はあ―――――あッ」

「あの時はほら、私も色々とパニックになってたし。落ち着いたと思ったら、またなにかある、の繰り返しだったから聞いたかもしれないけど、忘れちゃって」


呆れた顔をするタケルに色々と言い訳を入れる。しかも地図は示して貰っているけれど、地図の読み方がわからないとか言い出せなかったし。この世界の縮図がわからないんだよね。元の地図がじゃあ読めるのかと言われたら、それも微妙だけど。


ブツブツと言いながらも、タケルはちゃんと説明してくれる。

「綾子が山を駆けていたぐらいのスピードなら、一日8時間走って二日ってところ。普通にこうやって歩くなら、一週間か?」


そんなに近かったんだ。結界張ってなかったら、ダンジョンの偵察しにきた冒険者に見つかってたよね。

帰ったらブリスのこともあるから、もう一度結界の強度を確認しよう。


さて街への行き方だけど、8時間も走る体力はあっても、気力というか根気が続かない。状況に合わせて、走れるだけ走って休んでご飯食べて、また走るで良いかな。寝るときには土魔法で簡単な小屋作って結界張れば良いし。

ブリスも慣れてきたといっても心細いだろうし、早めに戻れるなら戻った方が良い。


「じゃあ、探索しながら一時間ぐらい走って休憩して、人が居たらこれくらいのスピードに落として歩く、ってことでいいかな?」

「ママ、かけっこ?」

「そうよ。ジュニア」

「タケルには負けない!」

ふんすっと鼻息を荒くしているが、少しは釘を刺しておかないと。


「ママを置いて行かないでね」

「わかってるよ。ママ」

レオほどではないけれど、ジュニアも随分と走れるし、大きくなった。きっともう半月も立てば、また変わるんだろうな。


『地図』

「このタケルが示してくれたマークが街ね?」

「そうだ」

「じゃあ、まずは行けるところまで!」


綾子が走り始めるとタケル、ジュニアも走り始め横並びで走り始めたが30分ほど走り始めたときに、タケルが先頭になり綾子のやや後ろをジュニアが走り始めた。

なんか、これが仲間!って感じで良いね!


綾子は初めて通る山道を楽しそうに駆けていた。ルプスが言っていたように、風に乗って走るイメージで脚を動かすと、身体がとても軽い。

いい感じじゃない?


お昼までは小休憩を挟みながらも、軽快に走り続けある程度順調に進んでいた。

ある程度開けた場所に来るとタケルがゆっくりと歩みを止めた。

「綾子、ここでいいんじゃないか」

「そうだね。お昼にしよう」


その言葉でジュニアが飛び込むように綾子の前にやって来た。

相変わらず成長期で食事には目がないようだ。

タケルと綾子はノームが作ってくれたお弁当を、ジュニアにはノームが焼いてくれていたステーキ2枚と野菜乗せた皿を出した。


食べ終わった後出来ればインスタントでもいいから珈琲を飲みたいところだけど、見通しがつくまでは我慢我慢。


食事と休憩入れて約40分ほど休んで、先ほどよりは少しスピードを落として再び走り始めた。

やっぱり身体の外側はある程度レベルが上がって強化されているけれど、内臓はそこまでじゃないのよね。元々消化器系が弱かったのがましになっただけで、タケルやルプスのようにすぐ対応できるものは持っていない。一時間走ったところで限界が来て、止まって貰った。


「大丈夫か?」

「ままー、だいじょうぶ?」

「うん、水分とってちょっとだけ休む。休んで終わったら、無理せず早歩き程度で進むことにする」

「ああ、わかっているならいい」


呼吸と整えながら、スキルで状況を探索する。タケルが気がついてないわけがないだろうから、この感じは大したことじゃないのだろうけれど、何かが引っかかる。

なんかこう、モヤッとするというか。

肌で感じるざわめきはいい感じがしない。もっと範囲を広げてみるのが良いのかな?


更に広く探索を掛けようとしたした時に、タケルに止められた。

「綾子、そろそろ行こう」

「あ、うん。でもちょっと東の方が気になって」

「ああ、以前ここから少し先に村があった」

「以前?ということは、今は無いと言うこと?」

「ああ、井戸が涸れたらしい」

「さすがタケル、よく知ってるね。でもこの気配は…」

「綾子、早く街に行って治癒のレベル上げて、あそこに戻るんだろ?」

「そうだけど」


その物言いに引っかかるモノを感じながらも、綾子は街に出発することを了承した。


了承したものの、先ほどから感じる強い気が気になってしょうが無い。少しだけ…そう思い意識を向けた途端に、刺すような痛みを感じた。

なに、これ…。


一瞬にして死を予感させるほどの殺気に充てられた身体は、凍るように冷たくなった。

このままではまずいとすぐに意識を切り、今までで一番強い結界を張った。

殺気が途絶えたことで、綾子はやっと息をすることが出来た。


タケルが行かせたくないわけだ。

結界を張れるだけの気力が残っていたのは、僥倖だった。


「まま?」

「大丈夫よ」


ジュニアを抱きしめて、わしゃわしゃと撫でることで心を落ち着かせた。

タケルの気遣いとジュニアの体温が、綾子に温かさをもたらせた。

私は、いい仲間を持った。


村のことが気にならないと言えば嘘になる。

だけど自分の奢った正義感で、タケルやジュニアを巻き込むわけには行かない。

一瞬にして死を覚悟したくなるようなモノがそこにいるのなら、それは避けるべきだ。

卑怯者と言われようとも、自分を含めて守るべき者を危険にさらせる愚かな者にはなりたくない。


私はもっと力をつけなければならない。

その為に、街でちゃんと常識を学ぼう。

決意を新たに、ルプスに念話を送った。


『ルプス、そこをお願いね』

『ここは任せておけ。それよりも』

『無理はしない』

『ジュニアを頼んだ』

『もちろんよ』



ジュニアとじゃれる綾子の背中に、タケルは胸をなで下ろした。

綾子が村の状況を知れば、間違いなく行こうとする。だがそれは俺だけじゃなく、全員の死を意味する。どんなに後から知った綾子に罵られても、俺は綾子を元の世界に戻す義務がある。

ここで絶対に死なせてはならないのだ!


村の方角を見ながらタケルは自分の無力を嘆いた。きっとここにルプスが居たなら、村も街もどちらも助けることが出来たに違いない。


「タケル?」

心配そうな声で呼ぶ綾子。


…ダメだ。今はそんなことを考えている場合ではない、とにかく安全に街に着くことを優先させよう。

「なんだ」

努めて明るい声を出したタケルに、綾子は笑った。


「ありがとう」

「なんだ、急に」

「…なんとなく?」

綾子もわかってしまったのか?だけど敢えて声に出さないのは、綾子も自分の無力さを知っているからかもしれない。


「少し急ぐか」

「そうだね。急がば回れっていうしね。ジュニア、競争だよ!」

「まま!行くよ!!」


小刻みに震える足に気合いを入れて、綾子達は走り始めた。



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