3 管理者登場
やっと始まる予感。
「あ、すみません。管理者様この者が今になって駄々をこねまして。所謂クレーマーという」
聞き捨てならない言葉が並ぶので、それに言葉を大声で被せた。
「あんたが、悪いんでしょ。こんなことになるとか、聞いてない!!」
「とにかく仮想世界農園でチュートリアルだけでいいからして欲しいって泣いて頼んだのは、あんたでしょうが。それが終わっていきなり異世界へ行けとか、なに考えるわけ?そもそもどういう社員教育してたらこうなるのか、ききたいわ。何個か果実育ててとったぐらいで、異世界いけとかあんた、私に死ねというわけ?」
言い切った、言ってやった。息継ぎ殆ど無しでここまで言い切った私は凄い!生死がかかるとやれるもんだ。さて、帰してくれるよね?元の世界に!!
えっ。
どうだと顔を上げると、管理者らしきおじいちゃんが、目の前で土下座していた。
どういう、こと?
「すまない。履歴を確認したが、こちらの契約違反だということが確定した。よって契約無効が正しいのだが、もう可決の印鑑がおされてお主が行くことは決定しておる。転移の魔方陣が完成している為に、止めることは出来ないのだ」
……。
………。
その言葉に理解が出来るまで、数分の時間を要した。
えっ。
「お詫びに欲しいスキルを授ける。それ以外に補填が出来ない。すまないが、行ってくれぬだろうか」
「ムリ―――ッ」
「何かそれ以外に欲しい物があるなら」
「異世界での欲しい物より、現実の世界でイライラしてでも暮らした方が良い。今の生活を捨ててまで欲しい物なんてない!」
えーと。どうして目の前のおじいちゃんこと管理者さんは固まってるの?
―――もしかして、暴言吐いたからいきなり飛ばしてやるとか、横暴系になったりしないよね?だって、当たり前のことしか言ってないし。だ、大丈夫よね?
なんか、言ってくれないかな?
この音一つしない、自分の呼吸しか感じられないこの空間、凄く怖いし。このまま連行されるなら前みたいに後ろに下がったら元に戻るとか、試す価値があるかもしれない。
ごくんと乾ききってない唾を飲み込み、抜き足差し足で後ろに下がる。この対応が間違っているとかいないとか、45年間生きてきてもさっぱりわからない。それでもただ待つという選択肢だけはなかった。
「あ、待てくれ」
気づかれた!これって減点?状況悪くなるとかまずい。だったら、生きていく為に情報を得て前向きに考えるしかない。何でもスキルくれるって言った。だったらよく話に聞くアイテムボックスとか言語翻訳・鑑定は必須で、農業するなら土作りの土魔法・育てる為の水魔法もいるよね。それとも…。
「おーい。聞いてくれるか」
「あ、はい!」
まずい、自分の世界に入り込んでいた。
恐る恐るおじいさんを改めて見たところどうやら私には怒ってはなさそうだし、あの悪徳うさぎの耳を持って逃げ出さないようにしているところを見ると、悪いようにはならない気がしてきた。おじいさんが指ぱっちんでだした椅子に進められるまま座ることにした。
とにかく、冷静に冷静が第一。
「こやつ、本当に何も説明してなかったのじゃな。お主がどうしてそこまで固辞するのかが、先ほどの叫びでわかった」
「…といいますと?」
「向こうへ言って貰うのは、年齢にもよるのじゃが5年から30年じゃ。そしてお勤めが終わればこの時間に戻ってくることが出来る。こちらでいうゲームのような世界(異世界)に若返って言って貰い、その分世界を発展させてくれという話じゃ。当然ゲームではないから病気や怪我それが元で死ぬということはありえるが。その分向こうの世界の人間よりは頑丈なボディになっておるがの」
「人によって年数の振り幅があるのは?」
「若返った年数じゃな。お主が10年若返ったなら、10年向こうで過ごすことになる」
「あー、この年齢から10年若返っても、向こうで動けるとは思えないし、かといって20年過ごすつもりもないから、戻ってくると言われても…。」
「あー今の年齢が…か。では、20才若返らせるから、5年行くというのはどうじゃ」
「そんなこと出来るの?」
「…普通ならあり得ない処置じゃが、こやつめのチョンボを取り消すとなるとそれぐらいはしないと逆に支障が出そうじゃ。なんせ信用が第一、クレーム0がモットーじゃからの。潰れてしまっては、向こうに現在行っている人たちに迷惑をかけることになる」
「なるほど…」
「だから行ってくれまいか」
そこまで言われて行かないとは、言えなくなった。見ず知らずの者達ばかりだが、向こうに行っている人たちの迷惑になるのも気が引ける。融通してくれるというのなら、行くしかないかな―。
「おお、行ってくれるか!」
……。
どうやら心が読める模様。これは、勝てない。
「わかりました。一日時間を下さい。欲しいスキルと考えると共に、準備をさせて貰います」
「了解じゃ。こちらで用意できるスキルと向こうの世界プロスペリティの常識をまとめた本を渡しておくから、あとこのうさぎをアドバイザーとして明日一日と向こうの世界でつけるからこき使って貰って構わない」
「そ、そんな殺生な」
これって厄介払いとかいうやつ?
「こんなのでも、結界が張れるし探索が出来るから役に立つぞ」
「それなら、いいか」
騙されたような、言いくるめられたような気がしないでもないが、身を守るすべが増えるのはいいことだ。
とにかく郁と決まったのなら、時間が勿体ない。準備しないと!
綾子が管理者にポジティブになるように誘導されたことに気が付いたのは、『異世界プロスペリティ』に着いて一日目だった。
第一章まで変化があまりないので、あと何回かは早めに投稿予定。