24.呪われているあの子
食事を終え後片づけが終わった後、名前のないあの子の様子を見に行ったが、まだ水の膜で覆われたままだった。
どれだけの恐怖と痛みを知ってしまったのだろうか。
まだ浅く傷跡が残る肌を見て、綾子は胸を痛めた。
この調子ならまだ目覚めないだろうと思ったが、念のため端の方にタケルに居てもらって、起きたら念話で教えてもらうことにした。
オークに襲われたのなら、いくらウサギだと言っても怖いだろうから。
メアと一緒にお風呂に浸かり、これからのことを考える。
名前どうしようか。
それよりもあの子が自分の運命を受け入れてしまっていたら、ここにいることを躊躇するかもしれない。大丈夫だと分かってもらったうえで、ここの生活に馴染めるかだよね。
人族が私しかいない。
かといって、増やしたいけど雇用が出来る人がいるかどうかもわからない。ここを去ることがあったとしても、契約でしゃべらないということを縛れる人がいい。
そんな都合のいい人が、いるわけが…いるけど、正直それに嫌悪感がある。
それについては、あの子が起きてから最終手段にしよう。
「まま、ねむー」
「今日はカゴの中でゆっくり寝ようね」
部屋に戻るとタケルが隅で座り込んでいた。
「ありがとう。何か変化あった?」
「水の膜が少し薄くなったぐらいか?」
「そう、ありがとう。タケルもお風呂入って寝ちゃって」
「綾子は?」
「このソファで寝る」
「わかった。念のため結界を張って置けよ。パニックになったら何が起こるかわからん」
「…そうだね。そうするよ。おやすみタケル」
「ああ、おやすみ」
タケルの言葉に戸惑ったが、あれだけ怖い目に遭ったのだ、目が覚めて恐怖がよみがえり突然暴れたりすることも、頭に入れておかないといけない。ここには私だけじゃなくて、メアもいるのだから。
取りあえず、眠れるときに寝よう。
起きた時に食事が出来そうなら、アイテムボックスに入れているパンとスープを飲んでもらいたい。
どれぐらい眠っていたのだろうか。不意に人の気配を感じて目を覚ました。
何をするわけでもなく、じっとベッドの上で座っているあの子がいた。
「目が覚めた?」
身体を大きく揺らし、いきなり体を縮みこませ頭をかばう姿は、暴力に耐えるためのものだ。
一気にフラッシュバックしたのかもしれない。粗相をしてしまったようで、しきりに謝っている。
何が正解かなんてわからない。それでも抱きしめずにはいられなかった。
「いいの、これぐらいクリーンですぐに綺麗になる。ほら、綺麗になった」
「ご、めんな、さい。…めんなさい。ごめんなさい」
「あなたを殴る人はここにはいない。だから、大丈夫。大丈夫よ」
こちらの言葉は聞こえていない。
ゆっくりと抱きしめて揺りかごの様に体をゆっくり揺らしてみる。
そこに自然と出たのは、某アニメの曲だった。ノスタルジックで優しい曲、歌詞をちゃんと覚えていたわけじゃないので、鼻歌で歌う。
あのアニメと澄んだ声がとても印象的で、心に残る曲だった。
少しずつ、この子の声が聞こえなくなった。じっと見つめる目と合う。アイテムボックスから家から持ってきた飴を取り出すと、まず自分の口に入れてから、もう一つを子供の口に入れた。
目を真ん丸にして、その飴を舐めている。
全部が溶けてなくなった時に俯く顔が可愛くて、頭を撫でた。
まだビクッと体を震わせるが、初めよりは震えが少ない。
鼻歌を歌いながら、震えがなくなるまで撫で続けた。
ゆっくりと顔が上がると、ハチミツとパンを出して目の前に置いてみた。ハチミツの濃厚で甘い匂いが鼻腔をくすぐる。私でもぐうとお腹がなるのだから、この子のお腹が鳴るのは必然だろう。
抱き上げてベッドから降りると、パンが遠のいたからか目線が後ろに向いていく。
「大丈夫よ。ちゃんとこのテーブルに座って食べましょう」
簡単なミニテーブルに先ほどと同じように、パンとハチミツを出した。
ただこの世界にアレルギーがあるかどうかもわからないので、浄化を掛けたものを渡した。
抵抗力のない子供になにがダメなのか、探り探りだ。
パンをちぎって、ハチミツをつけ口のそばに持っていけば、誘惑には勝てなかったのかパクっと口にした。
「美味しい?」
こっくんと頷いたのを確認してパンを渡すと、ハチミツをたっぷりつけて食べ始めた。
2つほど食べた食べたところで、スープを取り出してみた。
スプーンに掬って口に入れると、ごっくんと飲み干した。
スプーンを渡すと玉ねぎを珍しそうに掬い口に入れる。美味しかったのか一言も発さないまま食べ続け、最後の一掬いを勿体なさそうに飲んだ。
「大丈夫よ。明日もあるから。また食べようね」
目を輝かせた後、でもすぐに沈んだ。
「どうしたの?」
「お金、持ってない」
「大丈夫、ここではお金は必要ないから」
「でも、ドレイはたたかれる」
「ここでは、奴隷なんて関係ないよ」
「でも…ドレイだから、生きてるの分かったら」
「ここは誰にも見つからないから、大丈夫」
「ホント?」
「本当。だから、もう少しお休み。明日また話しましょう」
頷いてすぐに、床に降りそこで蹲る子を抱き上げ、ベッドに連れて行った。
「ここでは、あなたはあなた、奴隷じゃないの。一緒に寝よう」
背中を撫でながら、鼻歌を歌う。
目を細めて気持ちよさそうにする子が寝るまで、それを続けた。
やっと寝た。
呪いのことは憶測だけど、しらないようだ。
このおでこの徴は、一体なんで。
軽くその徴を触ると、イタッ。バチッと静電気みたいなのが流れた。
なんなわけ?こんなもので迫害されるとか、腹が立つ。
「浄化」
少しだけ抵抗が少なくなった気がする。
「浄化」
「えい、浄化」
「浄化」
まだ抵抗するか。
「浄化‼」
あ、スキルが生えたのが分かった。
『治癒』
浄化も元々スキルにはなかった。イメージでどうにかなるとルプスも言ってたから使っていたけど、こじつけだからか、魔力ごっそりと減った感じがある。
治癒…レベル1 軽傷 レベル2 重傷(骨も治る) レベル3 軽症
レベル4 重症(蘇生は不可) レベル5 呪解
とりあえず、朝確認しよう。目が開けていられない。
綾子はレベルが更に上がり62になり、魔力も5000以上あったものが、今は300ほどに減っていた。
次は少し遅くなります。




