20 綾子の本領発揮 2
綾子は玄関を出るとき、気合いを入れ直そうと一度立ち止まった。心臓がばくばくと音を立てて血液を流している。緊張で身体が熱くなり手に汗をかくとか、仕事でプレゼンをする以来だ。それでもワクワクが勝っているのは、足元にはレオとジュニアが神妙な顔をして何故か護衛のように控えていているからだ。
ホント、なんだろうね。この可愛い生き物たちは。今すぐ抱きついて一緒にゴロゴロしたい気分なのだが、今は目の前のことを頑張ろう。
「ノームの皆さん、こんにちは!ここの主綾子です。抱いているのはハニー・ベアの『メア』足元に居るのはフェンリルの王ルプスの末の子『ジュニア』とグリフォンの『レオ』これからみんなで一緒に頑張って行きましょう!」
「主殿!色々とすまなんだ!これからもここに居ていいのか?」
「勿論!私もお願いしたいことが沢山あります」
「儂らに出来ることなら、なーみんな!」
「おお!もちろんじゃとも、これだけいたら何かは出来る」
「そんな皆さんに、まず植えて貰いたいものがこれです」
果樹でりんご・梨・ぶどう 桃 各3本
コムギ2000粒をグリーンに渡した。
「これを植えて良いのか?」
「これが実れば当分大丈夫かな?と思うのだけど、足りない?」
ノームがどれだけ食べるのかが全く想像が付かない。
「この3割もあれば、半年ぐらいは大丈夫だ」
「それなら、ここで出来る野菜、果実3割はノームさん達が食べて。残り7割のうち5割を私たちが貰うわね。後2割は種にするか備蓄として倉庫で保管しましょう」
「そんなにも、貰えるのか?」
「そのうち果実も幾つかはジャムやお酒にして順番に渡すから、楽しみにしてて」
「あ、もう少し落ち着いたら町にも行くから、売って欲しい物があれば持ってきて。あとルプスが狩ってきた魔物の皮・角・爪などでアクセサリーとか作れる?」
「それなら儂らが、細工を得意とする一族の長ワークだ」
「もしかして、付与魔法とかも使える?」
「聖魔法・闇魔法・空間魔法・時空間魔法以外ならそれに付けることが出来る」
「それなら、素材が出来たら渡すからお願い出来る?」
「任せてくれ」
これなら、流れの行商人として町に行くのもありだ。
「主殿、その解体は我ら狩りをする一族、長のハントにお任せを」
「それは是非にお願いしたい。ルプスが狩ってきてもすぐに食べられなくて困ってたから、すごく助かる。お肉も貰ってね」
「有り難く頂く」
どんな保存の仕方してるのかわからないけど、ベーコンとか作れるなら最高だよね。後で聞いてみないと。
「あ、主殿、我らは鉱石などで鍛冶をする長スミスだ」
「もしかして、ガラスとか作れたりする?」
「ポーションを入れる入れ物は、任せてくれ」
「お酒やジャムを作って保存するガラス瓶が欲しい。持ってきたのはすぐに足りなくなりそうで」
「主殿が身につける短剣も作らせて貰う」
「おお!異世界って感じだよ」
みんなハイスペックすぎる。それは隠れて住むのも納得だし人間が捕まえようとするかもしれない。欲をかけば一財産が作れる。そんなことを私がしないように、自重しないとね。
「みなさん、ありがとう!がんばろうねーー!」
私の言葉が合図だったかのように、井戸が2個と畑の横を小川が流れ出した。よーく見ると井戸と言っても完全に水道とかわらない感じだ。蛇口がついている。これならノームさん達も簡単に水が使えるよ。
それでもまあ井戸はなんとか理解出来るのだけど、小川は…ん、ファンタジーってことで。
ノーム達もあんぐりとしているから、普通ではないことは理解した。管理者からの計らいだと思っておこう。これで米も可能性が出てきたよ。ポイント貯めなきゃ。
今日のお昼は、チーズなしのビザ擬きにしよう。今ある強力粉・小麦粉・ドライイースト・砂糖・塩でピザ生地を作り、その上に野菜とマヨネーズを乗せ塩胡椒で味付ければ、そんな雰囲気になるはずだ。
それに狩ってきたお肉が間に合えば、お肉乗せもありということで。
「スミスさん、下手な絵で悪いんだけどこんな釜作れる?」
「ああ、多分大丈夫だ」
「これを3つ作って欲しい。みんなでお昼を食べよう」
「なんと!主殿が作ってくれるのか?」
「勿論手伝って貰うよ?一人で作れないし」
「もちろんじゃとも、この釜以外になにをすればいいのじゃ」
「用意して欲しいのは薪、「ウッドの薪を用意!」ここにある野菜の下ごしらへ「グリーンの野菜を切るのじゃ」ルプスが戻って来たら捌いて「ハントは王を待て」」
こうなるとワークにも仕事を作らないとダメだよね。えーと、えーと…期待された目で見られると余計に出てこないよ。
「全員が使うお皿やフォークとか?」
「全員今から総出で準備だ!」
「「おーーーー!!」」
合ってた。ウッドが担当だったらどうしようかと悩んだよ。
あ、兄1・2。目の前でお座りしてキラキラさせられても、困るんだけど。
「あー兄1はウッドの護衛兼リアカー引き。兄2はジュニアとレオのお守りしてて」
あ…疲れた。自分で全部動くには無理があるから、こうやってみんなで動くといいのはわかるんだけど、指示って難しい。
さて、メアを背負って私は生地をひたすら作りますかね。
ひたすら生地を練って練って練りまくり、30枚ほど伸ばして作った。少し生地を休ませてと思っている頃に、タケルとルプスが戻って来た。どうやら汚れているらしく入るのを躊躇していた。
さすがタケルだ。わかってるねー。
玄関まで行きクリーンを掛けると、特にルプスは嬉しそうに入ってきた。
ん?あ、昨日出入り禁止にしてたからか。忘れてたよ。
「入り口でハントに肉食材渡したけど3つほど渡したが、足りるか?」
「どれぐらいの大きさ?」
「フェンリル兄ぐらい」
「じゃあ、大丈夫。ご飯食べたら残りも幾つか渡して。捌いて貰うから。その素材でワークが色々作ってくれるって」
「ふーん。で、これから何作るんだ?」
「ピザ擬き」
「チーズがないからか。今回は仕方ないが後で一角牛でもテイムしに行くか?」
「近くにいるの?」
「山の奥に居た。一匹は狩ってきたぞ」
「いいねー。じゃあ、レモンの木が欲しいなー管理人さん」
牛乳がとれるようになるなら、色々料理の枠も広がる。チーズも出来るけど、パン混ぜるのに使えるし、スープにも出来るし、飲むことだって出来る。
きっとルプスに乗っていけば、すぐだろう。
一度生地をアイテムボックスに入れ、メアを背負ったまま外に出ると指定した場所に既に釜が出来上がっており、薪が中で煌々と燃えている。
それだけでなく先ほどタケルが渡したお肉は小川の近くで既に解体も終わり、部位ごとにブロックで積まれているし、野菜はてんこ盛りで種類別に皿に盛られている。
これは早く説明しないとほぼ全員がここにもう居るよ。
「あー、皆さん。今からピザを焼きます。私がこの生地にこのマヨネーズというものを掛けますから、このヘラで生地一杯に伸ばして下さい。こうやって伸ばすと綺麗に塗れます。次ぎに、お野菜をここに並べます。それからお肉を一口サイズに切り、野菜の間に並べます。お好みでこの塩と胡椒を振りかけて、この釜の中に入れて焼けるのを待つだけです。火が強すぎると焼けすぎますからこの調整が大変かもしれません」
「火の調節はスミスに任せろ」
「ということなので、皆さん部族ごとに好みもあるでしょうから4枚ずつ渡しますので、自分たちで盛りつけて下さい」
みんな楽しく盛りつけている。マヨネーズ20枚塗り終わったら、今度はみんなの分を作らないと腹ぺこ軍団が待っているから大変だ。間違いなく残りの10枚は食べるだろう。
肉多めのフェンリル3匹にレオで8枚、足りなければ肉を焼けば良い。均等に並べるのはタケルと私一枚ずつ。メアも私の一部をハチミツつけて食べさせてみよう。
次々に焼け上がっていくピザにみんな興味津々で待っている。一度に9枚は焼けるからみんなの分は2回転すればいけるだろう。
「冷めると美味しさが半減するので、焼けたものから食べて下さいね」
途中気を遣ってほぼお肉づくしのピザも焼いてくれた。まあよだれ垂らしているフェンリルの横で食べるのは勇気が要ると思う。食いしん坊達が迷惑かけるけど、宜しく。
みんな熱いものに食べ慣れていないのか、食べるのに苦労している。だけどやけどに気をつけながらはぐはぐと美味しそうに食べている姿を見ているのは、とても楽しくて嬉しかった。持ってきた小麦粉を半分以上使ったが、それだけの価値があった。ここでもこれ以上美味しいコムギがとれると良いな。
「ままー、おいち」
「まま、すごい!」
「お肉、お肉!」
「うん、美味しいね」
まずくはないが、舌が肥えている綾子には少し物足りなかった。贅沢と言われても!次はチーズで焼いてやる!
午後からの一角牛の捕獲に燃える綾子であった。




