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うさぎに騙され異世界へ  作者: 桜田 律 
2章 異世界生活スタート
21/46

17 管理者の誤算 2

綾子はない影に怯えているようだった。実際に前の見えない霧の中を一人、彷徨っているようなものだった。いつもなら頼りになる相棒タケルの不在も重なって、一度芽生えた恐怖は消え去ってはくれない。


ルプスがどんな話をしているのかわからない。約束が違うとここに乗り込んでこられたら?

食料をくれと言われたら?

ここを乗っ取られたら?

幼いメアを連れて、どこに行けば良いのか。

極端に考えすぎかもしれない。だけど食糧問題は深刻だ。何がキッカケかなんてわからない。先の見えない不安は募ると暴動が起きる可能性があるのだ。特に食糧問題は1番危うい。


自分が生きることに慣れていないのに、赤の他人まで養う必要があるの。

今だってはっちゃんのハチミツを勝手に。畑を手伝ってくれるなら、という意味で機会があればと言ったけれど、とっていいというニュアンスは言ってない。…なのに来て早々。

畑の野菜だって、私の畑を勝手に育成させて収穫するし、みんな身勝手ばかり。


「主人のハチミツが」

はっちゃんからの念話だ。

「許可していないから、死なない程度に攻撃していいよ。責任は管理者にあるからどうにかするでしょう」

「わかった。明日は来るか?」

「ごめんね。行くと言ったのに」

「気にするな」

「ありがとう。このままだったら、タケルにでも行かせるかも。」

「なにかあったら、念話で伝える」

「うん。巣には近寄れないように今からしておくね」


魔法はイメージだから、完璧な結界でなくても出来るはず。

出来た。これでノームは近づけないはずだ。

うん。ちゃんと弾いてる。この家に突進して来られても困るから、ノームとルプスはこの家に出入り禁止。そういえば、いつの間に外の様子が見られるように?

はっちゃんかな?

なんでもいいや。これで寝られる。


ああ、帰りたい。

あの穏やかだった日々に、戻りたい。

考えないようにしていたのに、旦那は何をしているのだろうか。

ケーキが食べたい。アイスクリームが食べたい。

何もしないでゆっくりとひたすら寝たい。

もう何も考えたくない。


「ジュニア・メア・今日は疲れたからもう寝ようか」

タケルの分だけテーブルにおいて、綾子はキッチンを出た。

メアもジュニアも綾子の不安を感じ取り、ベッドでもしがみついて離れなかった。


「タマゴさん、今日もごめんね」

タマゴに魔力を渡しながら、疲れた身体はそのままベッドに沈んでいった。

綾子は見えぬ恐怖と不信感で限界を超えてしまい、明日が見えなくなっていた。



***



綾子が精神的に疲れて寝入った頃、タケルとフェンリル兄1が帰って来た。帰って来て驚いたのが様々なノームで溢れていたからだ。

「これはなんだ」


「おお。タケル良いところに帰って来た。我が家に入れぬ」

「だろうな」

この騒ぎの原因がルプスにあると踏んでいたタケルは素っ気なく返した。

「なんでだ」

「じゃあ、逆に聞くが今日なんで全員連れた来た」


畑にあった作物は、影も形も無くなりただの土だけになっている。蜂に刺されたと騒いでいる奴がいるのは、ハチミツを掠め取ろうとしてハニー・ビーの反撃にあったのだろう。自業自得だ。


「洞窟にいたら危ない。早く安全な場所に連れて来た方が、良いではないか」

「お前が居て何が危ないのだ。それよりもなんで綾子に迷惑がかかるとわからない。この場所は綾子の物だ。それを他人の迷惑を顧みない奴らに占領されなければならない?おかしいだろう。綾子が大事にしていたものを土足で踏み込みやがって!てめえら、全員追い出すぞ」

先ほどまで食糧が足りない。家に入れないと寝床がないなどと好き勝手に騒いでいたノーム達が、一瞬にしてどういうことだと静まった。


「ここはこの魔の森の王フェンリル様のものじゃー」


「そんなわけあるか!てめえらよく聞け。この庭、家全てこのフェンリルの主である綾子の物だ。了解もなしにここを荒らしたお前らにここにいる資格などない。いますぐ元に戻すか、出て行くか決めろ」


「ルプス、お前は誰の従魔なのだ?ノームに綾子の畑を何故好き勝手させている?呆れてものが言えない。管理者がノーム保護の為に何してくれた?戯言に耳を貸すのは良いが、お前にとって何が大事なものなのか、見極めを自分でしろ。綾子がこの世界から消えたら、綾子が望まない限り多分ここは消えて無くなる」


ノーム達は慌てた。魔の森の王フェンリルが外敵に襲われないで良い場所で、暮らせることになると言った。自分たちの家は作らなければならないと聞いていたので、怯えて暮らさなくて良いなら、始めは雨風だけでも凌げれば当分は大丈夫だろうと思っていた。食べ物のことは言わなかったが、保護して貰ってから王が狩りなどで足りない食事も用意してくれていたから、今回もどうにかなるだろうと思っていた。だけど、着いた場所には家があって畑と広い草原があった。


流石は、王だ!

ここまで準備してくれていたのかと感動していたが、家に入れない、思ったより作物が少なく王も狩りに行くと言わなかった。どうなっているのかと家の前に集まった時に、衝撃の事実を知った。

自分たちに用意されたと思っていた場所は王の主人の物で、好き勝手に動いた自分たちはここの主人の機嫌を損ねるものだった。

自分たちのせいだとわかり、項垂れる魔の森の王フェンリルにかける言葉がなかった。


見渡す限り、草原と土・花しか咲いていない果樹しか残されていなかった。




タケルは言いたいことを言って、家に入っていった。自分は入れるということは、そういうことなのだろう。結界とかいつ覚えたのかわからないが、多分ここまで荒らされたくなくて願ったのだろう。だれも入ってくるなと。そんな中で自分を認めてくれることが嬉しい。

ただこの調子だと綾子は完全に落ちているはずだ。折角前向きになってハニー・ビーを自分でテイムするとか、先には町に行こうとか言い出したというのに。


まあ、管理者の自業自得だ。ノームが人間の勝手で乱獲され絶滅させないように、フェンリルに頼んだ。それはまだいい。ただそのフェンリル、力はあってもおつむが足りない。こうなることが予想できなかった時点で、管理者もフェンリルもアホだ。そのツケを綾子が払うのは絶対に間違っている。

綾子のことだから食糧のことで危機感を覚え、管理者になんらかの形で強請ったと思う。それでもこの騒ぎなのは、それを拒否したのだろう。

自分がすべき仕事を綾子になすり付けておいて、自分は高みの見物か?押し付けられた赤の他人を自分の身銭切って買ってきた食糧を分け与えなければならないのか。この世界のお金さえ当たられていないというのに。

タケルは元の原因となった管理者に怒りを向けた。


綾子の部屋に入るとメイ・ジュニア・綾子が丸まって寝ていた。

しかも綾子の頬が濡れている。

「最悪俺が魔物狩りをして稼ぐから、綾子は心配するな。いざとなればここを捨てて町に住めば良い。だからここから居なくなりたいとか、帰りたいとか泣くな」



***



下界の騒ぎに管理者は頭を抱えていた。

1番目の誤算は、ノームが保護される事が当たり前のようになったこと。

2番目の誤算は、綾子がノームを怖がったことだ。


ノームが綾子に食糧の相談をし、綾子が持ってきた野菜の種やポイントで購入できる種で、ノームが自分達で育て自給自足が出来ると思っていた。その種や畑を借りる見返りとしてノームが作った物を綾子に渡し、綾子がそれを町で売り外貨を得る。その外貨で町で売っているものを買ってここに戻る。

お互いが持ちつ持たれつになることを望んだのに、結果はすべて裏目に出てしまった。


下界に直接働きかけることは出来ないと言っても、どうやらやり方を間違えたようだ。

このままでは状況は悪化する可能性がある。ノームが直接攻撃を受ける可能性はないが元の場所を破棄した今、食料の元となる物、種がない。しかも綾子の畑まで収穫してしまっては、話にもならない。

今までは綾子が水も魔法で生み出していた為に、この庭には命の生命線となる井戸さえないのだ。

綾子が許可を出せば、ノーム達が掘るのは簡単なのだが。


何故あの時、手を差し伸べなかったのか。確かにそうだと綾子の言ったことに心で同意していたのに、自分の青写真を描いたものを無理に押しつけた。

洞窟のダンジョン化が進み、時間があまりにも無いとは言えことを急がせすぎた。綾子が言うようにこの世界に来て数日しか経っていない者に、こちらの事情を押しつけてしまったことを管理者は深く反省した。


残された道はフェンリルが狩りをし肉を調達、ノーム達が薬草を取りに行きフェンリル兄妹が護衛、採ってきたものを畑で育てることが出来れば、綾子と歩み寄るキッカケとなるだろう。

ただそれを自主的にノーム達が出来るだろうか。


誤算が生じてもつれた関係。

この関係が円滑になるキッカケは、意外な者が持っていた。



次回『満を持してタマゴ誕生!」

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