11 フェンリルの事情と貢ぎ物
肉じゃがに味を馴染ませている間、土鍋にお米を入れて炊くことにした。
初めは歯ごたえのあるフランスパンをだして、終わらせようとしていたがそこはやっぱり違う!と本能が米を食べたがった。今時の若い子なら米を食べ慣れない子も多いと聞くし、パンでもありなんだろうと思うけど、実年齢的にはパンより米が食べ慣れているのだ。
多少の水加減の間違いはご愛敬と言うことで、チャレンジ!
でも流石に竈では怖くて、ガスコンロにした。火加減難しいし、いきなり全部お焦げかおかゆみたいなことはしたくない。貴重な食料なんだし。
米が炊けたと思う頃に、フェンリルたちがやって来た。
本当に家族出来たよ。
王たるフェンリル、子狼の兄1・兄2らしい。
狼って番で子育てして、何ヶ月かで旅立つんじゃなかった?
動物と魔物では違うのだろうか?
謎だらけだよ。
「これらはこの森でとれた物たちだ」
フェンリルがカゴ一杯山積みにした何かを渡してくれた。
「凄い!」
「ふふん、これが実力だ」
「このカゴは?」
「これはノームが作ってくれたのだ。良いできであろう?」
「器用という話は聞くけど、本当に凄いね」
「やつらは多彩だからな。植物を育てるのが上手いやつ、鉱物を探すのが得意なやつ、小物を作るのが上手いやつ、いろんなのがいる」
「ノームだけで村ぐらいは出来そうだね。カゴの中鑑定したけど、薬草もあればハーブもあるし」
「アイテムボックスがあるのであろう。肉も持ってきた。ギルドで捌いて貰うと良い」
そして兄1が持ってきたモノが、………。
鑑定したらコカトリスとなっていた。
なるほど。この庭の外は危険が一杯と。
「ありがとう。今度捌いて貰ってみる」
アイテムボックスに収納すると強く願うとコカトリスが吸込まれていった。
良かった。本気で良かった。触らなくても入れられたよ。
「肉は軟らかくてうまい。お勧めだ。もう一つ、綾子が欲しがっていたという魔石だ」
「おお!これが魔石!」
「我は魔石は食べない。だからお主にやろう」
「ありがとう!これで色々作ってみる」
と答えたものの、やけに人間くさいフェンリルだ。こっそり鑑定してみたけど私より上位の者は見えないようになっているらしく、種族しか分からなかった。そして声に出さなかった私偉い!フェンリルは母(雌)だと思っていたのに、雄。本当に王だったのだ。
ごめんよ―。勘違いしてて。どうりで子狼がやけに懐くと思ってた。母がいなかったのか。
話が脱線したが、これはもう確定だ。このフェンリルもあの管理者の回し者だ。管理者だから偉いんだけど、狡いよね。
ここからはぶっちゃけタイムと行きましょうか。
こんなこと私が思うのって、今までならあり得ない。そんな自分に笑ってしまうけど、メルを見ているとそれもいいかもしれないと思う自分がいる。そんな自分が嫌いじゃない。
「ねえ、フェンリル。管理者になに吹き込まれたの?」
「な、な、なにを」
「良いよ、良いよ。怒らないからぶっちゃけて。ある程度は覚悟したよ」
「そうか、それならば」
フェンリルがしゃべった内容は、綾子の想像を遙かに超えていた。
静かにあいつめ!と管理者に怒りを表わしながらも、どこか受け入れていた。
要約すると、
「今すんでいる洞窟が突如ダンジョンになった。ダンジョンはで生まれた魔物は王たるフェンリルの配下ではないので、統率が出来ない。その為に一緒に生活していたノームの村がゴブリンに襲われるようになって困っている。だからここで匿ってくれ。と言うことで良い?」
「うむ」
「でその数が100を超えていると」
「うむ」
「ここに住んで貰うのは良いんだけど」
「良し!それならすぐにでも、連れてきて」
「いや、いや、いやフェンリルさん。その数今すぐはここに入りきれないよ」
ぶっちゃけとは言ったけど、すぐ行動って。
「お主のレベルが上がれば、この庭も畑も、家も拡大するのであろう」
「あーそう言えば」
「だから我を従魔にするのだ」
なんか言ってるよ。フェンリルさん。年のせいか耳が可笑しくなったのかな。それともこれがこの世界の常識?
「レベルがすぐに上がるぞ。そうすれば家にお風呂が出来て、トイレが進化して水道なるものがついてくるらしいぞ」
「りょーかいです」
「他にも…ん?いいのか?」
今までの私なら二つ返事ってありえないもんね。フェンリルが呆けている。
管理者に色々、色々吹き込まれていただろうから、説得の材料となるものを貢ぎ物として持ってきたのだろう。普通魔石なんて持ってこない。必要なのは魔道具が必要な人間だけ。
まあ、私も必要以上にあれこれ考えすぎてた気がする。身体が若返っても所詮頭の中は45歳。地球では折り返し地点を過ぎている。だから老後の心配がないないように、やることも考えることも無難な道を選んで、老後の心配がないように、平穏無事に生きることを目指してきた。こちらにきてもそれは変わらない。5年間どう平穏に過ごせるかを考えている。
だけどそれだけではこっちに来た意味がないのだろう。10代の時のように頑張れば何でも出来るとエネルギーに溢れ、それなりにはっちゃけた青い時代。そんな勢いもこの世界にいる限り必要な気がすし、欲望に忠実なのも、ありでしょ!
お風呂とトイレ。これ大事!!
それに、
「この子狼のことも、ノームのことも心配なんでしょ。この間の子狼の傷は間違いなく人間が仕掛けた罠だったし、自分が狩りでいないときに何かあったらと思うと、落ち着かないよね」
「我の番もそれでやられた」
「そう」
「この世界は弱肉強食。弱い者が負けるのは道理だが、そうならない為に強くならなければならない。それにはお主に名を貰うことが必然だ。そうすれば我はもっと強くなれる」
ネームを持っている方が特殊個体ってやつ?
だからタケルも種族が変わって新種になったってこと?
じゃあ、メルも特殊個体に育つってことだ。
ちょっとテンション上がってきた!
「名前…は『ルプス』で、この子狼はルプスジュニア。お兄ちゃん達はいずれ番を見つけるためにここを出て行くでしょうから、名前はつけないでおくね」
「我の名はルプス」
フェンリルが光った。タケルの時もきれいだと思ったけれど、格が違う輝き。これが王たる所以。吉兆を思わせる七色の光は、徐々に空全体に広がりこの世界のオーロラとなった。
「どうすんの、これ」
これが後にいう『魔の森の変革』として数多くの著書が出されるのだが、その序章、フェンリルの王の誕生を意味していた。
次回『綾子覚醒』




