9 ホットケーキと新たなもふもふ
子狼をクッションの上に寝かせると、綾子はタマゴに魔力を注ぐ。
どっくんと鼓動が返って来た。順調に育っているようで嬉しい。タマゴをしばらく撫でていたが、お腹の虫は待ってはくれないようで、要求が入った。
さて、もうすぐお昼になるけど、タケルはどれぐらいで帰ってくるかな?
お腹も空いたしいつ帰ってもいいように、作っておこう。
今日のお昼は久しぶりのホットケーキだ。ハチミツのことを考えていたら、食べたくなったのだ。
温かくても冷たくなっても美味しいのがいい。沢山出来たならアイテムボックスもあることだし、入れておけば腐ることもないし、作りたてならほかほかのままだ。
とにかく焼くのに時間がかかる。電気が通ってないから電気プレートは使えないので、ガスコンロでしかもフライパンで焼くしかない。二つを駆使して出来るだけ作るのだ。
夜ごはんが大量になるはずなので、お昼は手早く作りたい。
ホットケーキの元を二袋ボールの中に入れて、卵を二個落とし水を入れ混ぜる。時間があれば卵を泡立ててふんわりと作りたかった。今は時間が勝負なので、混ぜるだけ。
まぜまぜ混ぜて、熱くなったフライパンに適量流し込み、中火にしながら蓋をした。もう一つも同じように流し込み蓋をする。
約5分ほど火を入れて、表面にプツプツと気泡が出来たかを確認。いい感じなのでフライ返しで返す。
おお、いい色だ。
もう一つのフライパンも同じように返したら、後はもう少しだ。
小さく作れば短い時間で出来るのだが、ちまちまと食べるのは性に合わないからがっつり食べたいために、厚めのホットケーキになる。
よし!出来た。
タケルはまだなので、どんどん焼いて行こう。
匂いを嗅ぎつけてフェンリルがやってきてもいけないので、念のため出来たホットケーキは皿に盛られ、そのままアイテムボックスに入れた。
次々と焼いて8枚焼いたところで、用意していたネタがなくなったので終了だ。
そろそろ帰ってくるかな?
小屋の外に出てみれば、ちょうど戻ってきたようだ。
「タケル、お疲れ様」
クリーンをかけ、抱きついたところでタケル以外のもふもふの感触があった。
「また進化したの?」
「そんなわけない。よく見ろよ。毛の色が違うだろ」
よく見るとタケルの薄茶色の毛よりももっと薄いアイボリーに、クルンと毛先が巻いている毛が、背中から生えている。
「ぬいぐるみ?」
「そんなわけあるか。動いてるだろうが、ハニー・ベアの子供だ」
「なに、誘拐してきたの?」
「もう、突っ込むのも疲れた。親に捨てられていたらしく、木の下で泣いてた」
「なんで捨てられたの?」
「本当のハニー・ベアは毛の色は俺よりも濃い茶色だ。こんなに色素が薄いのはいない。森の中では目立つからな」
「ああ…アルビノ」
「外敵から狙われるのがわかっている子を育てるのには、リスクが大きい。特にハニー・ベアは体があまり大きくない為に集団で行動することが多い。その為親はこの子を手放さすことにしたのだろう」
「ふーん。放っておけなかったんだ」
からかいを含んだ声でいうと反射的に否定が返って来た。
「違う!こいつが勝手に背中に乗って来て、しがみついたんだ」
それでも振り払うことが出来る力を持っているタケルは、それをしなかった。
可愛い奴め。
「子供がもう一匹増えたところで、問題ないでしょ。ここなら外敵もいないし、先にはハチミツ採りたかったし。大きくなったら仕事ととして頑張ってもらえるから、ちょうどいいよ」
ハニー・ベアはハニー・ビーと共存することも多いと貰った本に書いてあった。ハニー・ビーを外敵から守る代わりに、ハチミツを分けて貰うらしい。
「そうか…」
「うん。ご飯食べよう。今日はホットケーキだよ。ハチミツかけるか、ジャムかけて食べたら甘くておいしいから」
先ほどから隠れるように(隠れてないけど)タケルに張り付いているハニー・ベアの子供は、ハチミツの言葉で反応して、こっちをみた。
「おいで、ハチミツ食べよう」
恐る恐る片手をあげてこっちに来ようとする姿に、綾子は萌えた。
リアルテディベアだよ。しかもぬいぐるみよりも肌触りがいいとか。こんな子が街に居たら絶対に誘拐される。
子狼もいいけど、この子もいい!
暫く抱き心地を確かめるように、ぎゅっとして揺れていた。
さて、うちの子になるなら名前つけないとね。
ハチミツ・ハチミツ…ハニーだと後呼びにくそうだし、ベアもそのまんま。
名づけ、センスないし、ボキャブラリもない。
男の子か、女の子かもわからないしねー。
うーん…。
「綾子、腹減った」
「ごめん、ごめん。先に食べようか」
アイテムボックスから皿ごと4枚出す。そのうちの1枚をタケルの皿に入れた。
「ジャムかハチミツか好きにかけて」
タケルは嬉しそうに両方を掛けて、フォークをさして豪快に食べ始めた。
「子狼のあなたは、何もつけないで半分ね」
ちぎって食べやすい様においてやると、はぐはぐと食べ始める。
「ハニー・ベアのあなたは、ハチミツだけ食べてみようか」
膝に乗せてるハニー・ベアにハチミツをスプーンですくって口に寄せた。
腕をバタバタさせながら、美味しいを知らせる姿はもう悶絶ものだ。
なんで、なんで私、カメラ持ってこなかったの…。
がっくりきている間にも腕をトントンして次を要求するハニー・ベアの子供に、ごめんねーと良いながら次ぎをすくって食べさせた。
回数にして6回目ぐらいになると、ゆっくり舐め始めた。もしかしたら食べられない時間が長かったのかも。
「よし!あなたは『メル』ラテン語でハチミツって意味よ。ハチミツたくさん食べて、大きくなろうね」
メルがじっと私を見たかと思うと、つたない念話が入ってきた。
「まま?」
「そう、ママよ。メル」
「まま、ままー」
呼びながら抱きついてくるメルを綾子は抱きしめた。子供には恵まれなくても寂しくなかったけれど、こんなにも温かい気持ちになれるなら、こっちに来て良かった。
ちょっと涙が出そうになったけどぐっと堪えて、誤魔化すように綾子はホットケーキを口にした。
「美味しいね」
「綾子、おかわり」
「もう一枚食べても良いよ」
たすたすと足元が叩かれる。
「子狼ちゃんは、半分の半分よ。それ以上はダメ」
四分の一をちぎって皿に乗せると、あっという間に食べきった。
「フェンリルの食事量って、難しい」
狼はどうかわからないが、確か犬は満腹感を感じないので与えた分だけ食べると聞いたことがある。
犬の種類や性格によるのも大きいと思うが、この子狼は間違いなくあればあるだけ食べそうだ。小さいからといって、侮れない。
綾子はテイムをますます悩むことになった。
なんだか…こっちにきてご飯の心配ばかりしてる気がするよ。
諦めにも似た溜息をつくと、残っているホットケーキに口を付けた。
夕食、作らなきゃ。
次回『夕食作りとメル』




