第二の足跡 街と町の試合
「兄貴、今日の仕事内容はなんですかぃ?」
大柄な男が木でできたオンボロの椅子に座りながら、ビールジョッキを口に運ぶ。分かっているのに質問された「兄貴」と呼ばれた男は確認を取るためだと考えてこう告げた。
「試合」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「お前は試合を試合と認めないのか?」
「そこまで屁理屈言われても俺は対抗できないっすよぉ〜」
ビールジョッキをこれまたオンボロなテーブルの上にドシンッとまるで叩きつけるかのように置いた。大柄な男は、椅子から立ち上がりその辺に置いてあった刃が鋼で出来た剣を取り、素振りを始めた。「兄貴」と呼ばれた男は、オンボロな椅子に座りながらこっくりこっくりとうたた寝している。
「まぁ、相手がなんであろうと兄貴とおいらの力で倒すだけですけどねぇ〜!!」
剣を斜め上に構えて大柄な男はそう叫ぶ。「兄貴」と呼ばれた男の顔がその声と共に、にやりと一瞬にやけた。
「今日の仕事の内容は何なのよ!」
「・・・試合」
「何で試合なの」
「知らんよ。街同士の戦いらしいけどな」
「・・・あんたよくそんなのに巻き込まれて平気よね」
「別にいいんだよ。俺に影響はないし」
そう、俺には関係ない。仕事で試合をするとしても任務として頼まれただけである。まぁ、受注するときに責任転換は出来上がってるけどね。もちろん街側に。
少年と少女は軽やかに、それでいて豪快に突き進むバイクに乗りながら南の方角へと進んでいる。待ち行く人々がまるで珍現象でもみるみたいな目でバイクを見ている。まぁ、それも仕方ない。この街にそんな技術は無いんだから。
「うん、試合会場はそこの闘技場」
指を刺した少年の言うとおりに、少女はバイクを起用にコントロールしかなり無駄なドリフトターンをしながら、闘技場の前にバイクを止めた。バイクはウンウンとうなり、周りの土を吹き飛ばしている。でかいな。闘技場の大きさは、家一軒丸ごと入る。・・・と考えると小さかった。
「じゃ、がんばってね。報酬出るんでしょ」
「・・・出ても『こいつ』のゲーム代で消えそうだがな」
少年は『こいつ』と言いながら自分を指差していた。おかしな話だが、少女は別になんとも無い様子で「そうね」とあいづちを打つ。静かな風の流れが二人の周りの土埃を、闘技場の中へ吸い込まれるように運んでいた。その風の流れに少年はそのまま乗るように足を動かしていた。少女の心配そうな顔を少年は知るよしもしなかった。
闘技場の内部構成は案外しっかりしていた。まぁ闘技場としてはしっかりしていたのだが、街と町の決闘の為にはいくらなんでもここまでの闘技場は使わなくてもいいだろうと少年は思っていた。しかし、不吉なことはこんな立派な闘技場を使うということは、相手はまさかの冒険者か歴戦の勇者か、激戦の戦争真っ只中を生き抜いてきた戦士なのか、かなりの修行を積んで恐るべき魔法を備えた『魔術師』なのか。少し怖くなってきた。
受付のところでエントリーを済ませると、控え室へ案内された。なんとも言えない緊張の雰囲気が漂っていた。
「えぇ、みなさまハンカチ、空き缶、また座布団など。別に投げるべきものとして持ってくるものではありませんので、一切私に投げないよう・・・お願い申し上げます」
闘技場の中心で審判なのか、司会者なのか、実況中継者なのかよく分からない男がマイクを片手で思いっきり握り締めて語って(?)いる。控え室まで声が届いているぞ。はっきり言えばうるさいということ。しかしながら、町の決闘でここまでお金を入れるとは我が町もついに本気か。それともただ、お金の無駄遣いがすきなのか。どちらにしても俺には関係ない。
「それでは、お客の人数も増えてきたところで選手の紹介と参りましょう!」
「・・・さて、いつ『チェンジ』するか」
少年は控え室のベッドに座り、そして足をブラーンとさせながらそうつぶやいた。闘技場の声も十分響くが、少年ただ一人がいる控え室には少年の声の方がより響いた。静かといえば静かな控え室だ。
「東の街『旅人の街』代表・・・東の街では有名にも有名な二人の戦士! 『悪魔のコンビ デビルブラザーズ』です!」
司会者はおそらく東の街出身だろう。他の街からの戦士を呼ぶのにあそこまで高らかと誇りを持って宣言するだろうか? 普通はしないだろう。最低限、知り合いであることが司会者の発言に必要なことだ。
「続いて、西の町『異界の町』代表・・・無名といわざるを得ない、その名を『機車 コンビ』!」
少年は、その呼び名と共に体をベッドから下ろし、少しだけ準備運動をしてから闘技場の中心へ向かった。少しぺたぺたと響く廊下を一心不乱に少年は歩く。光が見えてきた。少々の罵声が聞こえるが気にしない。おそらく準備運動をしていたせいだろう。
光が少年を照らす。歓声と罵声の入り混じった声の中に細々としたマイクを持った人と、身の丈を超える剣を持った人、そして、その隣に赤いローブを身にまとった人が立っていた。
「・・・あ、あれ? この試合は二人のコンビ対決では・・・? えぇー実況の私も少し戸惑っています」
「大丈夫ですよ。後で『来ます』から」
「そ、そうですか。では、ここは正式ルールに則って・・・タイマンで」
「いいえ、別に二人でかまいません。その方が『あいつ』もめんどくさくないと思うので」
「おおっと! これはかなりの自信満々な発言だ!!」
「・・・てめぇなんかなめてんじゃねぇのか? あぁ?」
大柄な男が剣を肩で持ったまま近づいてくる。
「いいですよ。本当に。ただし・・・怪我するかも」
「・・・一応、ルール上は相手が行動不能になればいいんですので、その辺は私が中断を入れます」
「そうですか。なら安心ですよ」
「その自信のほど、しかと見届けるべきものだな」
ローブをまとった人がいきなりしゃべり始めた。そして、実況の人声を高らかと上げてこう言い放つ。
「それでは『旅人の街』VS『異界の町』の対決です!! 試合開始ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」