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裏表  作者: 竜頭蛇尾
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第一の足跡 始まりの夏

 これは暑い夏の日のこと。甲高いせみの鳴き声が辺り一帯に響いている。脳天にまで響くようなうるさい声は暑さに苦しむ人々をさらに苦しめているだけだった。

「・・・」

 そんなことを考えていても、暑さはどうにもならない。と、少年は買い物袋を両手に持ち、帰り道をただひたすらに歩いている。足取りは重く、まるで幻にでも会ったようにふらふらとしている。帰り道はレンガ通りだが、なんだかよく分からない機械がその辺の空中や道路を進んでいる。あ、もうだめかも――。



「ちょっと!」

 せみのような甲高い声ではないが、うるさい女の声が脳天に響く。

「う・・・ん?」

「ったく、買い物の途中で倒れてこないでよね・・・配達の途中に見つけてよかったものの・・・」

「・・・倒れてたのか?」

 確認を求めながら少年は、自分の額に手を触れる。冷たい何かに触れたようで、手が一瞬にして冷やされた。「頭に熱を下げるシートでも貼ってあるんだろう」と少年は思ったが、触り心地で氷単品が額に乗せてあることが分かった。

「そうよ。ちょうどここから100m先ね。私の空中配達便の途中にたまたま寄ったら倒れてるんだから」

「あぁ、もう倒れてたことは分かったから。まぁありがとな。お礼」

 少年は寝ていたソファから立ち上がると、自分が持っていた買い物袋からアイスバーを取り出し、うるさい女に投げた。コントロールが最悪だったが、なんとか女の目の前付近に投げることができた。しょうがないさ、俺は文科系だから。

 変な納得をしながら少年は自分もアイスを手に取った。あずきばーだ。うるさい女はもう口に半分以上アイスバーを入れている。一気に食ってしまうつもりなんだろう。

「ひゃぁわはひはいふね」

 じゃぁ私は行くね。あくまでこれを日本語として捕らえ、なおかつ少年に対する言葉だとして日本語で訳した場合こうなる。

「おう、またな」

 うるさい女は、この家の扉を丁寧に内側から押して出ていった。女の行動を丁寧に直した場合にのみこう伝えられる。どこからどう見てもぶっ壊して出ていったようにしか見えないからだ。しかも蹴りで。



「・・・今日の仕事は午後から移動か」

 少年は、ぶっ壊された扉を簡単に修理・・・いわゆる応急処置をし、企業に連絡し、明日には修理に来てもらえるように頼んだ。そして、一枚の紙切れをじーっと見ている。広々とした部屋がこの家のリビングとなっている。天井までの高さは優に10mを超す。そして、巨大なテーブルが中央を占領し隅っこにソファがいろんなところに置いてある。

 そんな部屋で、ソファに寝転びながら少年は紙を見ている。

「さて、まだ時間があるな・・・ゲームするのも嫌だし、向かうついでに飯でも食ってくかな」

 少年は応急処置された扉の下をくぐり外へ出た。外は相変わらずの暑さだった。



「カルボナーラ一つ、お願いします」

「かしこまりー」

 店の注文をとる人が、常人には考えられないスピードでメモを取る。わずか1秒。そして、それを風の流れに乗せて厨房へ運んだ。

 さて、どういうことかこの街は暑くない。さきほどの通りとは大違いで逆に寒いくらいだ。人々は体を縮こまらせて歩いているし、蜃気楼のようなじわじわとした感じがしない。表現の仕方が幼いとか言わないでほしい。まだ少年、いや自分は青年なのだ。外見的に見たらの話だがな。

「お待たせしました。カルボナーラです」

「ありがとう」

 注文をとる人は再び厨房に入り、皿を洗ったりスープの加減を見たりと大忙しだ。出されたカルボナーラは出来立てと思えるタバスコの香りが・・・たばすこ?

「やっぱすごいよね。タバスコとかキムチって。どんな料理でも合うからね」

 さて、いつ現れたのか知らないのは少年だけで、注文をとっていた人も先ほど「いらっしゃいませ」と言っていた。地面から2,3cm浮いているバイクのようなものを椅子の横に止め、先ほどのうるさい女がその椅子に座っていた。ちょうど、少年の向かい側だ。

「俺のカルボナーラに何してんだ、てめぇ!!」

「美味しくなるようにトッピング」

「ありえねぇよ! カルボナーラという完全体にタバスコという変なウイルスまがいなものぶち込まれて何で良くなるんだよ!!」

「そのしゃべり方いい加減直したら? 比喩表現もりだくさんなしゃべり方」

 女はそう言いながら「ウイルス」のせいで赤く変化したカルボナーラを、フォークで巻き取り口に入れた。少年は、そのカルボナーラを見ながらかなりうるさい歯軋りをしていた。目はカッと開き、かなり変化した形相で女をにらみつけている。

「そろそろ仕事の時間でしょ」

 スルスル口の中へ吸い込むように流しいれた女は、にらみつけている少年にそう告げたのだが・・・少年の方は一向に直ろうとしない。

「そうだけどな・・・お腹が・・・」

「ほらほら。仕事の場所まで送ってくから」

「・・・むぅ」

 宙に浮いているバイクにうやむやにされた少年はまたがり、お金をテーブルに置いた。うるさい女は「お金ここに置いときますねー!!」とこれまたうるさい声で店内に向けて叫んだ。注文をとる人がお金を取りにテーブルに近づいたとき、その目の前には土煙が立ち込めていた。

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