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ホラー短編作品集

ケンカ屋VS蜘蛛《くも》

作者: 候岐禎簾

それはオレにとって些細ささいなな出来事だった。

友達との関係がうまくいかずムシャクシャしながら家への帰り道を歩いていた時の話だ。道端に小さな蜘蛛クモがいた。ゆっくりと道端を歩いていた。


「グシャ!」

オレは勢いよく蜘蛛を踏んだ。

別に意味はない。ただなんとなく踏みたかった。間違いなくクモは死んだろう。

ムシャクシャしていなかったら踏むことなんてなかったろう。

「運が悪かったな…。それにしても何度考えても腹が立つ。智也ともやのやつめ!クソッ!」


オレはそう言いながら再び歩き出した。



「誰だ!?」

背後に人の気配を感じたオレはとっさにそうつぶやきながら後ろを向いた。

いない…。気のせいだろうか。いや、ただでさえ人気ひとけのまばらな田舎道いなかみちだ。そんなわけはない。もしかして智也がつけてきているのか?学校でのケンカの決着をつけるために?


「おい、誰かいるのか?智也か?隠れてないで出てこいよ!ケンカの決着つけに来たんだぞ!ここなら思う存分ケンカできるぞ!オラッ!」


オレは後ろを向いてたった今感じた「何かの気配」に向かってそう叫んだ。


返事はない。

静寂せいじゃくが周りを支配する。

聞こえるのは風の音だけだ。

カサカサと雑木林ぞうきばやしの葉が揺れた。

やっぱり気のせい立ったのだろうか?


「考えすぎだった…か…?」


オレはそう思い直して前を向いた。


その時だ。


「ドン!」


オレは何か大きい物体にぶつかった。

大きい。なんだんだ?さっきこんな物はなかった。

柔らかい。人なのか?

オレは顔をあげようとした。

ダメだ。なんだか見てはいけない気がする。

怖い。なんだこの気持ちは…。オレはこれまで怖いと思ったことなんてなかった。ケンカでも負けたことなんてない。どんな奴でもムカついたら殴り飛ばしてやった。それがオレの生きる意味なんだと思っていた。


でも…今は……怖い。 なんなんだ?この存在は?

オレはどうすればいい?

いや、オレに怖いものなんてない。もちろん今もそしてこれからもだ。


やってやる。たとえ相手がなんであろうとも。オレをこんな気持ちにした奴のツラを見てやる!


オレは顔を勢いよくあげた。


なんだ…!?コイツ…。パッとみても2メートル以上はある。デカイ…。改めてしっかり見るとそのデカさがよくわかる。

ぶつかった時、人間だと思ったのはある意味正解だった。


でも人間じゃない。なぜなら顔だけが蜘蛛なのだ。

蜘蛛だ…。蜘蛛人間だ…。


「オマエクモノイノチカンガエタコト…アルカ?」


蜘蛛人間がうめき声のような声でそう言った。


「はぁ?考えたことなんてねぇよ!ケンカうってんのか!なめんなコラッ!」

オレは強がった。ここで負ける訳にはいかない。

オレに怖いものなんてないのだ。なんだか知らねぇがやってやる!たとえ相手が蜘蛛人間であってもだ!


「とりゃあ!」

オレの鋭い右ストレートが蜘蛛人間の腹にヒットした。

いくつもの強敵を沈めてきた右ストレートだ。

たとえ相手が蜘蛛人間であっても一撃で沈むはずだ。

「決まった…。どうだ…何!?」


蜘蛛人間はまるでダメージを受けてない。なぜだ?まさかオレの右ストレートがきかないのか…。


「オマエバカカ?ソンナパンチキクカヨ。コンドハ……。コッチノバンダナ!」


蜘蛛人間がオレに反撃してきた。

ダメだ…。防ぎきれねぇ。蜘蛛人間……手……多すぎだろ?

オレ人間だから手2本しかねぇよ。


勝負は一瞬でついた。

オレはボコボコにされた。

自分でもわかるがオレは今…虫の息だ…。

殺される…。こんな奴にオレは負けるのか?

人間が蜘蛛に負けてしまうのか…。情けねぇ。蜘蛛なんてついさっき踏んで殺してやったのに…。コイツはその仕返しに異界から来たとでもいうのか。


次第に遠ざかる意識の中でオレは考えた。



「う…。ここは…?」

オレは目を覚ました。結局、あの蜘蛛人間はオレを許してくれたのか?チクショウ。あいつには正直勝てねぇ。修行しねえとな。てか、あの手の多さは反則だろう。もしオレにも手がたくさんあったなら勝てていた。


強くなりたい…。そしてあいつに勝ちたい!


オレは固くこぶしにそう誓った。

しかし、さっきからオレの体が変だ。風景もなんだか大きく見える。

オレは小さくなってしまったのだろうか?それになんだか頭も痛い。


その時だ!ゆっくりと子どもがオレに近づいてくる。

オレは手をふった。気づいてくれるだろうか?助けてくれ。


「あっ!蜘蛛だ!踏んじゃえ!」


一瞬だった。オレは踏まれた。

痛みは感じなかった。

その時、オレは自分がどうなったのか理解した。



オレは蜘蛛になったんだと。




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