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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第9話

「ミレーゼさん。奴隷の契約主だけが、旦那様と呼ばれているわけではありませんよ」


「えっ! 本当っ!」


「大店の店主のことを、従業員が旦那様と呼ぶこともあります」


「そんなの奴隷と一緒じゃないっ!」


 ミレーゼさんになんとか気を取り直してもらおうと説明したが、まだ足りないようだ。


「他にもまだあります。貴族などの名家の家長のことw……」


「だから、それも一緒じゃないっ! アンタ、私をバカにして、楽しんでいるでしょ!」


 うん、否定はできないよね……


「でも、なぜ旦那様なんて言い方をしたのですか? もっとわかりやすい表現が他にもありますよね」


「仕方ないじゃない、結婚したことなかったんだから……いろいろ頑張っていたのに、上手くいかなかったのよ……って、何を言わせるのよっ!」


「今のは、ミレーゼさんが勝手に……」


「うるさい!……そういうアンタはどうだったのよ? あんなところに居たんだから、どうせ年齢イコール彼女いない歴の引き篭りだったんでしょ」


 ミレーゼさん、それ偏見だよ。それにミレーゼさんもそこに居たんだから、自爆だよ。


「いえ、俺は結婚しましたよ。離婚もしましたが」


「えっ、そうなの……離婚って、どうせ浮気でもして愛想を尽かされたんでしょ。今のアンタを見てたらわかるわ」


「浮気をした憶えはないんですが、そう思われても仕方のない行動はしていたかもしれませんね」


「なんか上手いこと言うわね。まぁその話は今度詳しく聞かせてもらうわ。それよりも、アンタ、離婚までしているということは、結構な歳よね。何才で死んだのよ?」


 今度詳しく話さないといけないんだね……


「38才です」


「ププッ……38って、おっさんじゃない!」


 なぜ、笑われたんだろう?


「たしかに俺はおっさんですが、ミレーゼさんは何才のときだったのですか?」


「えっ! 私は…………じょ、女子高生よ!」


 何、その間? あと、女子高生は自分ことをあまり女子高生と言わないと思うんだけど……


「いえ、何才のときだったのかを聞きたかったのですが」


「えっと……17才?」


 なぜ、疑問系?……きっと、触れてはいけない部分なんだろう。


「そうなんですね。大変だったのですね」


「そ、そうよ。大変だったのよ。習い事に、フィットネス、エステとかいろいろ頑張ったんだけど、ぜんぜん駄目で、可愛いコスプレの衣装を着たら、男性の目を引けるって聞いたから、初めて行ったんだけど……って、だから、何言わせてんのよっ!」


 面白いね、この人。聞かなくても、全部、自分で話してくれるんだね。


「この話はこれぐらいにしておきましょうか」


「そうね。それがいいわ」


「良かったわね、ミレーゼ。優しい旦那様が見つかって」


 今まで黙って俺とミレーゼさんの話を聞いてくれていたシフォンさんが話しかけてきた。


「何言ってるのよ、お母さん。こんなヤツ、私の求める優しい旦那様じゃないわ。きっと、まだこれから現れるのよ」


「まぁ事故死によるお詫びの特典なので、現れるのは間違いないでしょう」


 ミレーゼさんの願望に、俺が補足すると、


「アンタ、わかってるじゃない。そうよ、これは運命で決まっていることなの。だから、お母さんは、何の心配もいらないわ」


「そうなの。私はミレーゼが幸せになってくれれば、それでいいんだけど」


「大丈夫よ、お母さん。私、絶対に幸せになってみせるから!」


 おおっ! なんか上手くまとまったみたいだね。



「じゃあ、その辺りも含めて、今後について話し合っていきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」


 俺が声をかけると、みんな、頷いてくれたので、続けて話を進めることにした。


「先程、シフォンさんとは、少し話をさせてもらったのですが、ミレーゼさんは、これからどうしたいですか? 具体的に言って頂けると助かります」


「そうね。まず、アンタにお金を返したいから、仕事を何とかしたいわ。私、家政婦ならできると思うんだけど、どこかいい職場を知らないかしら?」


「いや、待ってください。俺は、ミレーゼさんにお金を貸した憶えがないんですが」


「何言ってるのよ。私達を買ったときに使った1200万Rがあるじゃない。それに、日用品や食事まで用意してもらっているのよ。それを返すのは当然でしょ」


 何、この人。もっとわがままかと思っていたら、意外と真面目な人だったんだね。


「これは、俺のわがままと自己満足でやったことですから、忘れてもらって構いませんよ」


「駄目よ。私のプライドが許さないわ。それに、この世界。前世の日本と比べて、生活水準も文化も遅れているから、どうせ物価も安いんでしょ。1200万ぐらいすぐに何とかなるわよ」


「いや、普通、物価が低いと、通貨の価値は上がりますよね」


「えっ!……あそっか。じゃあ、1200万Rをあの頃の日本円に直すといくらなのよ! もしかして、1億円……まさかっ、10億円とか言わないでしょうね!」


「その心配は必要ありません。もし生まれた街で一生を過ごすのなら、前世の日本よりも少し物価が低いようにも思いますが、他の街や他の国に移動する場合、その移動に伴う費用は少し高いように思うので、合わせれば、だいたい同じぐらいだと、俺は考えています」


「そうなのね。アンタ、意外とよく考えているのね」


「ケイ君、ちょっといい。なんか難しい話をしているけど、何を話しているの?」


 シフォンが戸惑いながら尋ねてきた。


「簡単にいうと、ミレーゼさんが家政婦の仕事で何年働けば、1200万Rを貯めることができるかということです」


「その1200万は返すのだから、給金から生活費を引いたお金だよね?」


「はい、その通りです。シフォンさん、わかりますか?」


「私は、家政婦なんてしたことないからわからないわ」


 シフォンさんもわからないみたいだね。


「ケイさん、いいですか?」


 おおっ! ここに、元本職のメイド長が居たじゃないか!


「マリアさん、お願いします」


「詳しい年数はわかりませんが、住み込みのメイドだと、ひと月に1万も残ればいいほうだと思います。もちろん、技能によって格差はありますが」


「ちょっと、待ってよっ! 月1万って、100年もかかるじゃない! っていうか、返しきる前に、死んじゃうじゃない!」


 さすがスキル持ちだね。計算が速い。……あと、言語スキルって、どんなスキルなんだろう?


「大丈夫よ、ミレーゼ。私達の種族は、寿命が長いから、人間族とのハーフのあなたでも、あと100年ぐらいは生きられると思うわ」


 いや、そういう問題じゃないんですが……


「あのう、いいですか? 返して頂いても、返して頂かなくても、どちらでも構わないのですが、家政婦でないといけないのですか?」


「それもそうね。アンタ、頭いいわね。……でも、私、何ができるんだろう」


「ワタシ達と一緒にいればいい。早ければ10年もすれば、冒険者にも、商人にもなれる」


 突然、アゼルさんがそう言ってくれたが……あっ、徒弟制度! たしか、商人や冒険者、職人などの階級の人と師弟関係を結んで、複数年経つと、その階級になれるんだったよね。ただ、その複数年が問題なんだけどね。


「えっ! マリア、商人だったの?」


 ミレーゼさんが、マリアさんに尋ねた。……たしかにアゼルさんは商人に見えないけど、決め付けるのは失礼だよね。


「いえ、アゼルが商人です」


「あっ、ごめんなさい」


 マリアさんに指摘され、すぐにアゼルさんに謝ったが、すぐ謝ると間違いを認めたことになるから余計に失礼だよ。


「いや、いい」


 アゼルさんは、優しいね。


「でも、いいの。そんなに長くミレーゼが一緒に居ても。できれば、私もミレーゼと一緒に居たいんだけど、迷惑じゃないの?」


 シフォンさんがそう聞いてくれたが、


「もちろん、構いません。あっ、マリアさんもいいですか?」


「はい、もちろんです」


「アゼルさんもいいみたいですし、ミレーゼさん、どうしますか? アゼルさんと師弟関係を結びますか? 俺が冒険者ですから、冒険者にはすぐになれると思いますけど」


「えっ、どうしよう。……お母さんは、どう思う。私に商人や冒険者ができるかな?」


「そうねぇ~、あなた、人を見る目がないから、商人では大成できないわよ。それに冒険者には、戦闘が不可欠よ。あなた、大丈夫なの。半端な気持ちで始めたら、すぐに死んじゃうわよ」


「えっそうなの。でも、ケイは戦闘よりも家事のほうが得意だって言ってたよ」


「それはね。ケイ君の家事の能力が凄すぎるだけだと思うの。私は冒険者をやっていたから、戦闘のことなら少しはわかるけど、ケイ君の戦闘能力は、低く見ても、Aランクの下位よ。常に自然体でいるからわかりにくいけど、意識の張り巡らし方が半端じゃないの。あなたがこの部屋から出ていって、トイレにいるのを気付いていたのは、この中で、ケイ君だけなのよ」


 褒めてくれるのは嬉しいんだけど、なんてことを言うんだ、この人は。


「えっ!……ちょ、何!? アンタ、私がしているとこ覗いていたの!?」


「違いますよ! ミレーゼさんの魔力を追っていただけで、覗いていたわけではないですよ!」


「ケイさん、本当に、そうなのですか? 本当は、見えているのではないのですか?」


 マリアさんが、俺に疑いの目を向けてきた。


「まだ、そこまでは無理ですよ」


「“まだ”!? “まだ”ってどういうことですか?」


「いや、将来的にはそうなれればいいとは思っていますが、もちろん、トイレを覗くためではありません。より戦闘を優位に進めるためです」


「まぁ今日のところは、ケイさんを信じましょう。ただし、見えるようになれば、必ず、ご報告ください」


「はい、わかりました」


 なんとか、マリアさんも納得してくれたみたいだね。


「いいじゃない、見られるぐらい。あなた達はケイ君の婚約者だし、私達はケイ君の奴隷なのよ」


 えっ! まだ続くの、この話。


「はい、もちろん、私達婚約者が見られるのは構いません。しかし、ケイさんが他の女性を見るのは、許せません。シフォンさんも何か対策があれば、お教えください」


「まぁ私達が対策を考えても、ケイ君ならすぐにその上をいきそうなんだけどね。わかったわ。……ところで、ミレーゼ、あなたはどうするの?」


「私は見られるの、嫌だわ」


「何を言っているの、ミレーゼ。ケイ君達に仕事もお世話になるか、どうかよ」


 シフォンさん、切り替えが速いね。


「あっ、ごめんなさい。でもどうしよう。少し考えてもいいかなぁ」


 ミレーゼさんが自信なさげに呟いた。……痛いのが嫌で、回復魔法を使えるように特典をお願いしたぐらいなんだから、戦闘とか苦手そうだよね。


「もちろんです。俺は、この街でまだやりたいこともありますし、急ぐ旅でもありません。ゆっくりと考えてみてください」


「ありがとう」


 ミレーゼさんは素直にそう呟いた。



「ゴメンね、ケイ君。あなた達にも予定があるのに」


「いえ、この旅での目的の中には、シフォンさん達を奴隷から解放することも含まれていますから、お気になさらずとも結構です。ところで、俺に母乳を飲ませてくれた他の方々は、みんな幸せになれているのでしょうか? 俺が考えていたよりも、奴隷の立場が悪そうなのですが」


「たぶん、大丈夫よ。みんな、私と同じで、好条件で奴隷落ちしているから、自分の納得した契約主と奴隷契約を結んでいるはずよ。それで、失敗したのなら、さすがに自己責任だわ」


 それならいいのかな。もし気付くときが来れば、そのときに何とかすればいいか。


「でも、そんな好条件で奴隷落ちする人って多いのですか?」


「いいえ、そんな人、滅多にいないわよ。誰も好き好んで奴隷になんかにならないからね……でもちょうどいいわね。私達の話もしましょうか」


「はい、聞いてもいいのですか?」


「もちろんよ。ケイ君も係わっているんだから。ただね。信じるのか、信じないのかは、ケイ君が決めて。私は自分の見たことと感じたことをそのまま話すから」


 えっなに!? また、ファンタジーな展開なの……


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