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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第8話

 母親のシフォンさんとの話が途切れたところで、マリアさんが娘のミレーゼさんを連れて帰ってきた。


「皆さん、ご迷惑をお掛けして申し訳御座いませんでした」


 ミレーゼさんが、少し不貞腐れながらも頭を下げてきた。……帰ってくるまでに、少し時間があったし、マリアさんと何か話してきたのだろうか。


「ミレーゼさんは、俺と奴隷契約を結びましたが、俺はミレーゼさんを奴隷として扱うつもりはありません。ご自由になさってください」


「ありがとうございます」


 俺の申し出に、ミレーゼさんは礼を言ってくれたが……


『マリアさん。何を話したんですか? さっきまでのように、憎まれ口を叩かれているほうが、まだマシですよ』


『すみません。ケイさんの素晴らしさを説いたつもりなのですが、逆効果だったようです』


 俺とマリアさんが念話で話していると、


「ケイ、汗を流そう」


 アゼルさんが上手く提案してくれた。……シフォンさんも言ってたけど、アゼルさんって、普段、無口で天然っぽいのに、要所要所で気が利くよね。


「そうですね。ではお湯を用意しましょう」


 俺がタライを出して、お湯の用意を始めると


「ちょっと、なんでアンタが魔法を使えるのよっ! スキルがなかったんじゃないのっ!」


 ミレーゼさんが声を上げた。……やっぱり、さっきの余所余所しい態度よりも、こっちのほうがいいね。


「魔法スキルがなくても、魔法は使えますよ。魔法は自分の魔力使って、自分がイメージしたものを具現化することですから」


「そ、それくらい知ってるわよ。それに、アンタ、今、“魔法スキルがなくても”って、言ったわよね。他のスキルは持っているんでしょ。ステータスカードを見せなさいよっ!」


「はい、どうぞ」


 ミレーゼさんに頼まれたので、右手を差し出すと、


「えっ、いいの!? ステータスカードってあまり人に見せないほうがいいって習ったんだけど……」


 あれ? ちょっと、デレた?


「たしかに、あまり人に見せないほうがいいと思います。でも、俺はミレーゼさんを信用していますから」


「えっ!……そ、そんなこと言っても、エッチなことさせてあげないんだからねっ!」


 そう言いながらも、ミレーゼさんは少し嬉しそうに俺の右手に触れ、俺のステータスカードを確認した。


「……“料理”、“洗濯”、“掃除”、“計算”って、アンタ、冒険者でしょ! 何の役にも立たないじゃない!…………あっ、でも、ちょっと羨ましいかも……」


 ミレーゼさんは俺の手を握りしめ、罵声を浴びせてきたと思ったら、ぶつぶつと呟き始めた。


「あのう、いいですか?」


 俺の手を握ったまま、呟いていたミレーゼさんに声をかけると


「あっ! ごめんなさい。……って、なんで私がアンタに謝らないといけないのよ!」


 俺の手を握っていたことに気付いたミレーゼさんは、顔を赤く染め、慌てて手を放して謝ってきたが、すぐに謝罪を撤回してきた。


 ……この人、面白いね。


「構いませんよ。さぁあ、お湯の用意ができました。俺は出ていきますので、皆さんで先に汗を流してください」


「ありがとう……いや、違うっ! 当たり前でしょ! すぐに出ていってよ!」


 うん、やっぱり面白い人だね。……きっと俺のせいで、少し歪んでしまっただけで、元は心の優しい良い人なんだろう。


 俺が部屋から出ていこうとすると


「ケイ君、これは甘やかし過ぎよ。ケイ君の気持ちは嬉しいけど、私達は奴隷ということを除いても、ケイ君に養ってもらっているの。ケイ君よりも先にお湯を使うわけにはいかないわ。それに、あなた達は婚約しているぐらいだから、いつも一緒に汗を流しているのでしょう。私達があなた達の汗を流すわ。その後、私達がお湯を使わせてもらうから、それでいいでしょう」


 ん? 何を言ってるんだ、このお母さん。


「……」


 俺では答えを出せないので、マリアさんを見たが、マリアさんも考えているようだ。


「じゃあ、みんなで一緒に汗を流せばいい」


 おおっ! アゼルさんが解を導きだしてしまった。


「そうですね。これからもこの5人で一緒に過ごしますから、こういうことは度々起こるでしょう。しかし、お2人はケイさんに触れてはいけません。これは決定事項です。もちろん、言わなくてもわかっているとは思いますが、ケイさんがお2人に触れることも許されません。わかっていますよね!」


 マリアさんが決まり事を作ってしまった。でも、なんで俺が怒られているんだ?


「はい、わかっています」


「よろしい。……では、みんなで汗を流しましょう!」



 マリアさんの掛け声で、みんな服を脱ぎ始めたが、


「ブ、ブラジャー!」


 突然、ミレーゼさんが叫んだ。


「そういえば、ミレーゼさんも前世の記憶持ちでしたね。これ、可愛いでしょ。私達の家族のアリサが作ってくれたのです。アリサも前世の記憶持ちで、今は、アーク学園都市で、裁縫師をしているんですよ」


 ミレーゼさんの叫びに、マリアさんが答えてくれた。


「そ、そうなんだ。それって、アーク学園都市まで行かないと買えないの?」


「そうですねぇ……あっ! 良かったら、私のブラを使いますか?」


「……」


 ミレーゼさんが、リムルさんよりは大きいがBカップもないくらいの自分の胸を見下ろしたまま堅まってしまった。……マリアさん、それ、地雷だよ。



「それって、胸当てなの?」


 シフォンさんが、話題を変えるためにマリアさんに尋ねたのかもしれないけれど、嫌な予感しかしない。


「シフォンさんも興味ありますか? 良かったら私のブラを着けてみましょうか?」


「えっ、いいの!」


「はい。これ、可愛いだけじゃなくて、凄く楽なんですよ。……ここに、腕を通して……」


「うーん、これ、ちょっと苦しくない?」


 マリアさんのブラジャーを着けてもらったシフォンが少しキツそうにしながらそう言った。


「シフォンさん、大きいですからね。アゼルのを借りましょう。アゼル、いいよね?」


 アゼルさんは頷くと、自分のブラジャーをマリアさんに渡した。ブラジャーを受け取ったマリアさんが、またシフォンさんに着けているが……


「これは、ちょっと、緩いかな?」


「いえ、ここから肉を集めると、ほら、丁度じゃないですか!」


「うん、これはいいね! 揺れても擦れないし、肩も楽ね!」


「じゃあ、ワタシは何個か持ってるし、一緒に使えばいい」


「いいの、アゼル。ごめんね」


 なんか盛り上がってるけど、マズくないか……



「あのう、ミレーゼ、さん?」 


「……」


「すみませんでした」


 うん、声をかけるのは、俺じゃないよね。……めっちゃ睨まれてしまった。


「「「……」」」


 ああ、やっと3人もミレーゼさんの様子に気付いてくれたみたいだ。


「ミレーゼ、大丈夫よ。あなたは、私の娘なの。きっと大きくなるわよ」


「本当、お母さん! お母さんは、何才ぐらいから大きくなり始めたの?」


 さすが母親だね。一声かけるだけで、ミレーゼさんの顔に明るさが戻った。


「そうねぇ~、10才くらいだったかしら……」


 えっ!……もしかして……


「……じゃあ、15才のころは?」


「う~んとねぇ……今ぐらいはあったかな~」


 シフォンさんは、アゼルさんのブラジャーに包まれた自分おっぱいを持ち上げながら首を傾げつつそう答えた。……やっぱり、そうだよね。


「そ、そ、そ、それじゃあ! もう無理じゃないっ!」


 ミレーゼさんがキレてしまったが、これはキレても仕方ないよね。


「そう言われれば、そうね。ゴメンね、ミレーゼ」


 この母親、なんでそんな軽く言えるんだっ!


「だ、大丈夫です、ミレーゼ。先程言っていた、これを作っているアリサも、あと、リムルも大きくありません。小さいブラも可愛かったですよ」


 マリアさんがシフォンさんのフォローをしてくれたが、


「そんなの知っているわよっ! 前世でも悩んでいたんだからっ!……あっ……じょ、冗談よ。ぜ、前世では、普通だったわ……でも、そのアリサさんに頼んだら、私のも作ってくれるかな?」


 おっぱいの大きさが普通って、どれくらいなんだろう?


「もちろん作ってくれますよ。アリサもケイさんの婚約者ですから」


 ミレーゼさんの質問に、マリアさんが答えたが、


「えっ! 婚約者?……アリサも?……さっき、リムルとかマリアが言ってたわよね…………ちょっと、アンタっ! 何人、婚約者がいるのよっ!」


「はい、6人です。1人は手続きがまだですが」


「ろ、ろ、ろ、6人っ!……不潔よっ!」


 何で、最後は俺が怒られるんだろうか……



「2人でもどうかと思ってたのに、6人って、ありえないわ……」


 なんとか汗を流し終わったが、俺に対するミレーゼさんの怒りは収まらなかったようだ。まだ、ブツブツと1人で呟いている。でも、貧乳ネタからは離れることができたので良かったのだろう。


「ケイ君、何から何までゴメンね」


 俺がテーブルに料理を並べていると、シフォンさんが謝ってくれた。


「いいんですよ。俺は戦闘よりも家事のほうが得意ですから」


「それもどうかと思うんだけど……でも、こんな美味しそうな料理、初めて見たわ。前世の料理なの?」


「はい、そうです。でも、まだ手に入れることができていない食材もありますし、完全に再現ができたわけではありません。それに、この世界のほうが美味しい食材もたくさんありますから、折衷料理ですね」


「そうやって柔軟に物事を考えられるのが、ケイ君の強みなのかな。それに比べて、うちの子は……」


「……」


 シフォンさんにつられて、ミレーゼさんを見ると、“白いご飯”を見て堅まっていた。……いいね、この反応。俺的には嬉しいよ。


「では、皆さん。食べましょうか」


「「「「乾杯!」」」」


「ああぁぁ~ビールなんて何年ぶりかしら。って、なんでこんなに冷たいの? いや、美味しいんだけどね」


 シフォンさんが美味しそうにビールを飲んでくれた。奴隷として商館で売られていたので、お酒なんて出てこなかったのだろう。


「魔法で冷やしているんです。お替り入れましょうか?」


「いいの。私、ケイ君の奴隷よ」


 シフォンさんは言葉ではそう言いながらも、空の木製のジョッキを俺に差し出してきた。……こういう憎めない人っていいよね。タイミングや相手を間違うと痛い目を見るけど、シフォンさんなら、たぶん心配ないだろう。うん、たぶんだけどね。


「ケイ君、待って。私にやらせて」


 俺がジョッキにビールを注ぎ、冷やそうとしたところで、シフォンさんが頼んできた。


「ええ、どうぞ」


「ありがとう」


 俺からビールを受け取ったシフォンさんが魔力を込めると、


 “パリンッ!”


 一瞬でビールだけではなく木製のジョッキまで凍ったかと思うと、小気味のいい音を鳴らして粉々砕け散り、後には何も残らなかった。……たぶん、軽く魔力を込めただけだと思うんだけど、ヤバいねこの人。殺傷能力、高過ぎるだろう。


「ゴメン、ケイ君。これ、難しいね。コップまでなくなちゃった」


「い、いえ、いいんですよ。……俺がやりますから……」


 これ以上やらせるのはマズいだろう。せっかくリムルさん達が作ってくれたのに、ジョッキがなくなってしまいそうだ。


「シフォンさん、凄いです! なぜあんな少しの魔力であそこまで凍るのですか?」


 マリアさんが感動しているね。まぁたしかに凄かったけど。


「ああ、これはね……」

「……そうだったんですね」


 シフォンさんとマリアさんは、また2人の世界に入ってしまった。


 それよりも……


「ミレーゼさん、どうしたんです?」


「なによっ!……あれっ……なんで……ちょ、ちょっと見ないでよ!」


 涙を流しながら“白いご飯”を食べていたミレーゼさんに声をかけたんだけど、ミレーゼさん、自分が涙を流していることに気付いていなかったんだね。


「あら、ホント。ミレーゼ、どうしたの? そんなにケイ君の料理が美味しかったの?」


「お母さん! 余計なこと言わなくてもいいわよ!」


「ミレーゼが食べているのお米でしょ? たしかに珍しいし、ケイ君が作ると美味しいけど、何も泣かなくてもいいんじゃない」


「知らないわよ! 勝手に涙が出てきたんだから、仕方ないじゃない!」


 やっぱり、あの事故で死んで前世の記憶を持って転生した俺達にとって、“白いご飯”は偉大だよね。


「ああ、シフォンさん。お米が俺達の前世の国で主食だったんです。特に、このご飯と呼ばれる料理が好んで食べられていたのですよ」


「なるほどね。それじゃあ、泣くほど感動しても仕方ないわね。でも、ケイ君。よくお米を見つけたわね。一部を除いてほとんど流通なんてしてないでしょう。特に人間族はほとんど食べないと思うんだけど」


「えっ! そうなの?……ああ、そうか、私も食べたことなかったわ。……じゃあ、なんでここにあるのよ?」


「それはですね。俺が、転生前に神界でそういう運命になるように頼んだからですよ」


「なにそれ! アンタ、他に何を頼んだのよ!」


「魔法使いになって、白いご飯を食べたいですと……」


「えっ、それだけっ! アンタ、バカじゃないのっ!」


「えっ、少ないですか? ミレーゼさんは何て頼んだのですか?」


「わ、私は、白い狐の獣人で顔が狐なると嫌だったから人間とのハーフにしてもらったのよ。お母さんを見て思ったんだけど、純血でも顔が狐にならないってわかっていたら、ハーフにはしていなかったわね。もう仕方ないけど。それに、痛いのが嫌だから、回復系の魔法が使えることと、あとは……」


「あとは?」


「あっ、あれよねっ、ミレーゼ! “優しい旦那様とラブラブ生活” あなた、ケイ君の話をしていないときは、良くその話をしてくれたよね!」


 ミレーゼさんがためらっていたのに、シフォンさんが、オブラートに包まず、ぶっちゃけてしまった。……そういえば、奴隷商館でも、白馬に乗った王子様がどうのって、バラされていたね。


「……」


「な、なによっ! わるいのっ! まだわからないじゃない! 耳と尻尾はもう生えているけど、回復魔法だって、まだ使えないし、私のことを大事にしてくれる優しい旦那様がきっとこれから現るんだからっ!」


「ええ、そうです。何が悪いのですか、ケイさん。私もずっとそのように憧れていました。そして、ケイさんに出会えたのです。ミレーゼにもきっと良い人が現れますっ!」


「さすが、マリア。わかっているわね。そうよっ! アンタなんかに、乙女心がわかってたまるもんかっ!」


 いや、別にそのことを悪く思っているわけじゃないんだよ。それよりも……


「ミレーゼさん、質問があるんですけど、いいですか?」


「なによっ!」


「ミレーゼさんの言う、“優しい旦那様”の“旦那様”は配偶者である夫ですよね?」


「当たり前じゃないっ! それ以外に何があるのよっ!」


「「「……」」」


 他の3人もミレーゼさんの思い違いに気付いてくれたみたいだ。


「アゼルさん。アゼルさんの考える旦那様って、どんな人ですか?」


「ああ、奴隷の契約主ことだろ」


「えっ!……本当、アゼルっ!……マリアっ!……お母さんっ!」


 みんな、ミレーゼさんから視線を逸らせてしまった。


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