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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第7話

「何を言っているのだ、ミレーゼ! こちらのケイ様は、お母さんのお知り合いで、ご婚約者も居られる素晴らしいお方だ。どこが気に入らないのだ!」


「嫌なものは、嫌なの! 生理的に無理っ!」


「いや、そこを考え直すように言ってるのだ!」


 ミレーゼさんが奴隷契約を拒否したことに俺も驚いたが、奴隷商のおっさんも驚いたようだ。ミレーゼさんを必死に説得している。せっかく吹っ掛けたお金がパーになりそうだからね。そりゃ必死にもなるだろう。


 あと、女性から“生理的に無理”って言われると泣きたくなるよね。……いや、それよりも、奴隷に拒否権なんてあるのか? と考えていると 


『ごめん、ケイ君。まさかミレーゼが断わると思っていなかったから、言うのが遅れたけど、私が奴隷落ちしたときの契約で、私も生まれてくる子供も、気に入らない契約主は断わってもいいという契約になっているの。だから、ミレーゼが拒否すると奴隷契約が成立しないの』


 シフォンが念話で教えてくれた。


『そんな契約があるのですか?』


『ええ、私は誰かに弱みや借金があったわけではないし、比較的好条件で奴隷落ちしているの』


 なるほど、じゃあ、シフォンさんだけでもいいか……って訳にはいかないよね。



「始めまして、ミレーゼさん。ケイです。俺のどこが無理なんでしょうか? 改善できるところは、何とかしますので、考え直してもらえませんか?」


「何が始めましてよっ! 私の事、ずっと無視してた癖に……私が必死で気付いてもらおうと頑張っていたのに、アンタ、お母さん達のおっぱいや尻尾しか見ていなかったんじゃないっ!」


 うん、たしかにそうだね。俺の他にも子供が居たことは憶えているけど、まったく興味がなかったね。


「ああ、なるほど、ケイ様は、あのときの奴隷だったのですね」


 おっさん。今頃、気付いたんだね。まぁスキルもないただの人間族の男の乳児なんて、憶えているわけないか。


「すみません、そこまで余裕がなくて……」


「何が、余裕がなくてよっ! やらしいことばかり考えていただけでしょ!」


 ダメだ。まったく否定することができない。


「ケイさん! やっぱりそうだったのですね!」


 えっマリアさんも敵に回るの!?


「いえ、あの頃は、まだ子供で、理性よりも本能のほうが強くて……」


 俺がマリアさんに言い訳をしていると、シフォンさんが説得に乗り出してくれた。


「ミレーゼ、良く聞きなさい!」


「お母さん」


「あなた、小さい頃から、“私には、白馬に乗った王子様が迎えにきてくれるの!”って言ってたけど、この世界はそんなに甘くないの。あなたは、若く、私に似て容姿もいいから、多くの男性があなたを求めてくるわ。でもね、あなたは白狐の血を引いているからどうしても高くなってしまうの。種族特性のスキルがないにも係わらずね。この意味がわかる。あなたを買えるような余裕のある人は限られているの。それにね、あなたは人を見る目がないしょう。ちょっと優しい笑顔を見せられると勘違いして、騙されて契約してしまいそうで、お母さん、心配なのよ」


 シフォンさん、自分を上げつつ、ミレーゼさんを落としまくっているね。


「お母さん、こんな大勢の前で、そこまで言わなくても……」


 ミレーゼさんが恥ずかしそうにしている。自覚があるんだね。


「いいえ、あなたは何もわかっていないの。ケイ君はね、あなたと同じ奴隷だったのよ。それも同い年ね。あなたもここで教育を受けたのだから、知っていると思うけど、ケイ君が奴隷から解放されたのは、早くても半年前よ。たった半年で、私達を助け出すためにお金を稼いできてくれたのよ。ケイ君が、この15年間、どれだけ苦労して、どれだけ頑張ってきたか、あなたにわかるの。あなたが思っているほど、奴隷は甘くないの。たしかに表向きは奴隷の権利も守られているわ。でもね、そんなの契約でどうにでもなるの。そして、その主導権を持っているのは契約主なの。奴隷ではないのよ。こんなチャンス、もう2度とないかもしれないのよ。よく考えて話をしなさい」


 俺は、ベルさんのおかげで、そこまで苦労した憶えはないけど、たしかに奴隷ってそういうものなんだろう。いくらでも騙しようはあるし、奴隷本人が1度認めてしまうと、契約主でないとその契約は解除できないからね。


「わかったわよ……でも、条件があるわ! 特記事項はすべて白紙よ!」


「わかりました。最初からそのつもりですから」


「えっ! そうだったの? 私やお母さんの体が目的じゃないの?」


「当たり前です!」


 痛っ! なんでマリアさんは肘で突いてくるんだ。まぁたしかに、あの尻尾は捨てがたいけど……


「ミレーゼ、いいわね。ケイ君に契約してもらうわよ」


 シフォンさんが俺を横目で見ながら確認をしてくれた。


「わかったわ。でも、絶対にエッチなことは何もさせないわよ!」


「当たり前です。私達がそんなことをさせません」


 ミレーゼさんの最後の希望を、マリアさんがあっさりと認めてしまった。……まぁいいんだけどね。


「ケイ様、ご提言ありがとう御座います。皆様、宜しいでしょうか?」


 おっさんが俺に礼をいい、まとめてくれた。……説得してくれたのは、シフォンさんなんだけど、俺はお客さんだし、まぁいいか。



 ミレーゼさんの希望通り、特記事項は白紙のままでサインをすると、契約書は、2人の首輪に吸い込まれ消えてしまった。


「では、ステータスカードの確認をお願い致します」


 おっさんに言われて、2人のステータスカードを確認すると


 ステータスカード

 氏名:ミレーゼ

 年齢:15才

 種族:狐人族×人間族

 階級:契約奴隷 (ケイ)

 住所:アイリス

 スキル:言語・計算


 ステータスカード

 氏名:シフォン

 年齢:36才

 種族:狐人族

 階級:契約奴隷 (ケイ)

 住所:ノールランド共和国

 スキル:氷魔法・灼魔法・幻術・体術


 ミレーゼさんはさっき見たからいいけど、シフォンさん、36才だったんだね。


「何か文句あるの!」


 シフォンさんが、何かに気付いたのか、冷たい視線を俺に向けてきた。


「いろいろ初めて見る項目があったもので……」


「そう。ならいいわ、後から何でも教えてあげる。何でもね」


「お、お願いします」


 シフォンさん。俺の顎を撫でながら、そんなこと言うのは止めてください。マリアさんやアゼルさんだけでなく、ミレーゼさんも怒っていますよ……


「ご確認頂けましたでしょうか?」


 奴隷商のおっさんが助け舟を出してくれた。


「はい、大丈夫です。ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 おっさんはそう言って、笑顔で見送ってくれた。おっさんもいい取引ができたのだろう。俺も予想より安く済んだし、いい取引だったのだろう。



 これからの事を相談したいので、2人の着替えや日用品を買ってから宿に戻った。


「あんた。2人も買ったのかい! それも獣人の親子だろ? いい趣味してるね!」


 宿屋のおばちゃんはそう言って、俺の肩をバンバンと叩いた。


「いえ、2人は知り合いなんです。もう1部屋、お願いできますか?」


「なんだい、そういうことかい。早く言っておくれよ。勘違いしたじゃない。兄ちゃん達は、昨日と同じ部屋を使いな。そっちも親子だし、ダブルでいいね。隣の部屋を使うといいよ」


「ありがとうございます」


 支払いを済ませ、鍵を受け取り、今朝まで使っていた部屋に向かった。



「ケイ君、いいの? いろいろ買ってもらったし、この隣も同じ間取りでしょ? 奴隷の親子が使うには良過ぎるんじゃない」


 部屋に一緒に入ってきたシフォンさんが申し訳なさそうにそう言ってきた。


「でも、奴隷にも人権は認められていますし、この程度は普通じゃないんですか?」


「そんなの表向きだけよ。実際は、私達を野宿させても何もないわよ」


「マリアさん、そうなんですか?」


「そうですね。死なせなければ問題ないので、最低限の食事さえ与えておけば大丈夫だと聞いたことがあります。あと、契約の内容次第では死なせても問題ありません」


 なるほど、そこまで酷かったんだね。


「でも、俺がお2人の契約主ですから、俺のやりたいようにやります」


「たしかに、そうなんだけど……」


 シフォンさんは、まだ納得してくれていないみたいだが……


「ところで、ミレーゼさんは、ずっと何をしているのですか?」


「さぁあ……ミレーゼ、トイレなの? ケイ君、優しいからトイレぐらい行かせてくれるわよ」


 ミレーゼさんは、俺と奴隷契約を済ませた後から、ずっと、腕を曲げたり伸ばしたり、手を握ったり開いたり、呻ったり力んだりを繰り返していた。


「違うわよっ! お母さん、私も奴隷の首輪のせいで魔法が使えないだけだって言ってたじゃない。もう特記事項がないから、使えると思ったんだけど、魔法ってどうやるの?」


 ああ、なるほど、歯向かったり、逃げ出したりしないように、売られている奴隷にも魔法を使えなくする契約が首輪に施されていたんだね。


「ええ、使えるはずよ。……ほら!」


 シフォンさんが右手を伸ばしてそう言うと、右手に氷の篭手が現れた。


「凄いです! シフォンさん、どうやっているのですか!?」


 シフォンさんの“氷魔法”を見て、マリアさんのテンションが上がった。


「あっ、これはね……」

「……そうなんですねっ!」


 シフォンさんとマリアさんが2人の世界に入ってしまった。それを見ていたミレーゼさんは黙って俯くとプルプルと振るえだした。……本当におしっこじゃないんだろうか?


「違うわよっ!」


 なぜか俺に怒鳴ったミレーゼさんは、部屋から出て行ってしまった。……何で俺の考えていたことがわかったのだろうか?


「あのう、いいのですか?」


 まだ話を続けていた2人に聞いてみたが、


「ゴメンね、ケイ君。あの子、新しい環境に戸惑っているだけなの。少し見守ってくれると嬉しいんだけど、いいかな?」


 シフォンさんはそう言ったけど、本当にそうなんだろうか。俺、かなり嫌われているような気がするんだけど。


「ケイさん。“探知魔法”でミレーゼさんを追いかけているのでしょう?」


 マリアさんが聞いてきた。


「ええ、追いかけていますよ。今、この宿のトイレに居られます」


「ケイさん! もしかして、私がトイレに行っているときも“探知魔法”で追いかけているのですか!」


「ええ、まぁ、心配ですので……」


 仕方ないよね。心配なんだから。


「いえ、そうですよね。……私達は追ってもらっても構いません。でも、他の女性はダメです! あっでも、今は……ああ、もう、私が迎えに行ってきます!」


 マリアさんは、自己解決して、ミレーゼさんを迎えに行ってしまった。


「マリアって、いい子ね。アゼルもよく気が利くし、ケイ君、いい婚約者を見つけたわね」


 マリアさんを見送ったシフォンさんが、俺に話しかけてきた。


「ええ、俺には過ぎた人達ですよ」


「えっ! ちょっと待って。今、“2人”ではなく、“人達”って言ったわよね。他にもいるの!?」


「ええ、あと4人、居ます。1人は手続きがまだですが」


「ケイ君、君、まだ15才だよね。何人奥さん作るつもりなのよ。……でも、さすがあの人の子ね。ついでに、ミレーゼも貰ってくれない?」


 “あの人”って、俺の母親? いや、父親?


「シフォンさん、俺の両親を知っているのですか?」


「ええ、もちろんよ。でも、その話は後でね。どう、ミレーゼは?」


「それは……シフォンさんが望んでも、ミレーゼさん、俺のことを嫌っていますよね?」


「今はね。でもあの子、元々ケイ君のことが好きだったのよ。……ああ、アゼル、心配ないわ。あなた達がケイ君を想う好きと、ミレーゼがケイ君を思う好きは、違うのよ」


 アゼルさんの様子に気付いたシフォンさんが説明してくれた。……アゼルさん、その説明で理解できたんだね。


「なんとなく意味はわかりますが、詳しく聞いてもいいですか?」


「そうね、聞いてくれる。……ミレーゼが言葉を喋れるようになったのが、ケイ君が買われていったすぐ後ぐらいだったかしら。最初に喋った言葉、何だと思う。……“ケイ”よ。そこからしばらく片言だったんだけど、ケイ君のことばかり話していたの。そう、私と離れる5才になるまでね。まぁあ、全部、悪口だったんだけどね」


「いやいや、それじゃ、ぜんぜん、好きじゃないじゃないですか!」


「それは違うわ。普通、嫌いな人のことなんて、話したくもないし、思い出したくもないじゃない。興味のない人のこともね。でも、あの子はケイ君の悪口ばかり言っていたの。それはね、ケイ君のことが好きだったからなの。……あの子、さっき言ってたでしょ、“私が必死で気付いてもらおうと頑張ってたのに”って。あの子なりに凄い頑張っていたと思うの。母親の私でも、ミレーゼが前世の記憶を持っていて、ちゃんと自我が芽生えていると気付いていなかったから、ケイ君が気付けなかったのも仕方ないとは思っているんだけどね。本来は、母親である私が気付いてあげるべきだったのに、ケイ君に嫌な思いさせて、ゴメンね。……だから、あの子のことを好きになってとは言えないわ。でも、できれば嫌いにはならないであげて欲しいの。私の凄いわがままなんだけどね」


 シフォンさんはそう言うけど、ミレーゼさんがね……


「これから先のことはわかりませんが、現時点でミレーゼさんを嫌っているとかはないです。今は、もう少し何とかできたのではないかと悔やんでいる感じでしょうか」


「ええ、それで十分よ。やっぱり、ケイ君は優しいね。みんなに愛されているのがよくわかるわ。さすがはあの人の子ね」


 また“あの人”が出てきたね……でも、


「いや、そんなに褒められても……」


「そうよ。もう1つお願いがあるから褒めたのよ」


「えっ!」


「嘘よ。……いえ、お願いがあるのは本当だけどね」


 どっちなんだ!……さすが大人の女性だね。感情がまったく読めないよ。


「ええっと……もう1つのお願いは何ですか?」


「えっいいの? 私、ケイ君の奴隷よ」


 汚いよね、その聞き方。そんな聞き方されたら、俺が断われないのをわかって言っているよね。


「はい、できないこともありますが……」


「もちろんよ。無理なら断わってね。……ケイ君、私達を奴隷からすぐに解放するつもりでいるわよね?」


「はい、そのつもりです。ミレーゼさんは初期階級が奴隷なので、解放しても奴隷のままですが、シフォンさんが契約主になればいいと思っています」


「本来は、凄くありがたい話なんだけどね。少し待って欲しいの。具体的には、ミレーゼのケイ君に対する気持ちの整理がつくまでかな。今、あの子がケイ君から離れると、あの子、ケイ君にずっと縛られたままになると思うの。……ホント、これも私のわがままね。もちろん、あの子がケイ君達の足手纏いにならないように、私が何とかするわ。一応これでも、昔はAランクの冒険者だったのよ。大分衰えているけど、それも何とかするわ。だから、お願い。解放をするのをしばらく待ってくれないかしら?」


「そういうことでしたら、もちろん、構いません。いつまで居てもらってもいいですし、いつ解放してもらってもいいです」


「いつまで居てもいいのね」


 シフォンさんはそう言うとニヤリと笑った。


「あっ!」


「嘘よ。……半分はね」


 どっちなんだよっ!


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