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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第3話

 ハーピーを撃退した後、少し進むと開けた場所があったので、そこで休憩をとり、俺の話を聞いてもらうことにした。


 机とイスを用意し、お茶を淹れ、馬の世話をしている2人を待った。


「お待たせしました。でも本当にいいのですか?」


 馬の世話を済ませた2人が席に着いたところで、マリアさんが確認をしてくれた。


「実際、2人が知ることによって、どういった危険が及ぶのかわからないので、あまり口外しないほうがいいのかもしれません。それでもいいですか?」


 2人が頷いてくれたので、俺は話し始めた。


「まず、俺は“闇魔法”を使えます」


 2人は少し驚いたような表情をしたが、何も言わなかったので、“闇の加護”や“管理者”のことも含め、知っている限りのことを話した。



「では、その“管理者”になれば、ステータスカードの設定を自由に変えることができるのですか?」


 俺がすべてを話し終えたところで、マリアさんが聞いてきた。


「はい、俺にはまだ無理ですが、“闇魔法”の生贄の魔法陣の色が黒色になれば、俺にもできるはずだと学園長は言っていました」


「そして、“闇の加護”が“管理者”の証なのですね」


「そうみたいです」


「“管理者”ですか……アゼル、何か知っていますか?」


 マリアさんがアゼルさんに尋ねた……えっ!


「ああ、マリア達には話した。リムルもケイと同じでワタシの名前で気付いたみたいだ」


 アゼルさん、“堕天使”であることをみんなに話していたんだね。


「でも、いいのですか?」


「ああ、ワタシはルシフェル様に知られたくなかっただけだからな。もう知られているし問題ない」


 そういえば、そうだったね。


「でも、アゼルさんのことを護るように、ルシフェルさんに頼まれたのですが、あれは、“堕天使”だからではないのですか?」


「それは、ワタシにもわからない。でも、憶えていてくれたのだな。それだけで十分だ。気にするな」


 アゼルさんが嬉しそうにしている。……気にするなと言われても、何があっても護るんだけどね。


「それで、アゼルさんは“管理者”について、何か知っているのですか?」


「すまん。ワタシはあの仕事、苦手だったんだ。だから、まったく憶えていないんだ」


 そうだよね。キレて、転生者を殴るくらいだからね。あまり向いてなかったんだろう。


「でも、ルシフェルさんも詳しくは知らなかったようなので、アゼルさんが知らなくても可笑しくはないでしょう……それよりも、2人とも落ち着いていますが、俺のことを幻滅しないのですか?」


「たしかに最初は驚きました。でも、なぜ私達がそんなことでケイさんを幻滅すると思うのですか? ケイさんが特別なのは、初めて会ったときからわかっていました。それに、ケイさんが“闇の加護”を持っていることを私達が知ると、私達にも危害が及ぶかもしれないと危惧してくださっていたのですよね。ですから、感謝することはあっても、幻滅するようなことはありません」


 マリアさんがそう言い切ってくれた。アゼルさんも頷いてくれている。


「ありがとうございます」


 勢いですべて話してしまったけど、本当に良かったんだろうか。何もなければいいんだけど……



 それから1週間が過ぎた。


「大丈夫ですか、マリアさん?」


「ええ、すみません。大丈夫です」


 この1週間、ほとんど休む間もなく、盗賊や魔物に襲われ続けてきたせいで、マリアさんの口数は日に日に少なくなっていた。


「ケイ、ちょっとおかしい」


 さすがのアゼルさんも少し疲れの色が見せつつ、話しかけてきた。


「はい、そうですね。盗賊はそれほどでもありませんが、南に進めば進むほど、魔物が増えています。できるだけ避けようとはしているのですが、1本道なので難しいです。以前、アゼルさんが通ったときはどうだったのですか?」


「あのときは、大きな商隊を組んでいたし、ワタシは子供だったので、ほとんど戦闘に参加してないからわからないんだ。でも、ここまで襲われた憶えはない」


 大きな商隊相手じゃ、盗賊も魔物も近づかないか。


「どうしましょう。少し戻って様子をみますか?」


 行く先には魔物の反応が多くあるけど、来た道には少ないので提案してみたが、


「いや、もう少し行けば森を抜ける。その先に少し大きな街があったはずだ。そこで、情報を集めたほうがいいな」


 街は、村ほど人間性が酷くないと言ってたし、マリアさんも、1度、ゆっくりと休ませるほうがいいだろう。……こういう時のアゼルさんって、天然なのか、そうでないのかわからないけど、上手く気遣いができるよね。



 それから3日ほどで森を抜けることができた。


「すまん」


 アゼルさんが謝ってきた。アゼルさんの予定では、もう少し早く森を抜けることができると思っていたみたいだ。


「仕方ありません。魔物に襲われ続けて思うように前に進めなかったのですから。それよりも、みんな、怪我もなくここまで来られたのですから、良かったじゃないですか」


 俺がアゼルさんを労わると、


「すみません。私、足でまといですよね」


 マリアさんが弱弱しく呟いた。


「違いますよ。俺が“闇魔法”の“吸収”で疲れにくいだけです」


「そうだ、マリア。ケイがおかしいだけだ」


 アゼルさんがそう言うと、マリアさんは少し笑ってくれた。



 アゼルさんの言うとおり、森を抜け、少し進むと街が見えてきた。


「おい! 兄ちゃんら、北から来たよな? 大丈夫だったのか?」


 街門まで行くと、門番の男が心配そうに話しかけてきた。


「ええ、北からです。いつもあんなに魔物が多いんですか?」


「いや、たまにあるんだが……でもまぁ、あの森を抜けてきたんだ。兄ちゃんら、実力あるんだろ、歓迎するぜ! と言っても、通行料はもらうがな」


 男はそう言って笑顔になった。


 通行料は、3人と馬2頭で10万ルリだった。出入りで20万だけど、安全をお金で買うのだから、こんなものなんだろう。


 適当な宿に入ると、まだ昼間だというのに、1階の食堂が賑わっていた。


「いらっしゃい!」


 カウンターからおじさんが笑顔で声をかけてくれた。……儲かっているのだろう。


「3名と馬2頭ですが、泊まれますか?」


「3名か……ツイン1室でもいいか? 今、北に向かう奴等が足止めを喰らっていて、空きが少ないんだ」


 おじさんが申し訳なそうに言ってきた。……まぁ商売だから儲かるときに儲けないとね。



「良かったのですか、3泊もして。それに少し高いように思うですが……」


 部屋に入り、汗を流しているところで、マリアさんが尋ねてきた。……たしかに、ここのおっさん、悪いと言いながら、ツインなのに、きっちり3人分の宿泊料を取ってきたからね。


「お金は、魔物の魔石や素材、盗賊のステータスカードがありますので換金すれば問題ないでしょう。それに、マリアさんもアゼルさんも少し休むほうがいいです」


「そうだ、マリア。休むのも仕事だ。ワタシもよく言われていた」


「そうですね。ここはケイさんに甘えさせてもらいます」


 マリアさんはそう言って、裸のまま俺に抱きついてきた。……甘えるって、そういう意味じゃないと思うんだけど。



 汗を流した後、食事を済ませると、マリアさんは熟睡してしまったので、アゼルさんにマリアさんのことを頼み、1人で冒険者ギルドに向かった。



「ちょ、ちょ、ちょっと、待ってください! なんですか、その量っ!」


 この街のギルドは小さく、受付カウンターで素材の買取査定もしていたので、最近、仕留めた魔物の換金部位を魔法袋から出していくと、受付のお姉さんが慌てだした。


「じゃあ、これだけで」


「“じゃあ、これだけで”じゃ、ないですよ! もしかして、お兄さん、北から来たのですか?」


「はい、そうですが」


「ちょっと、待っていてください!」


 俺に確認を取ると、お姉さんはそう言い残し、奥へ消えていった……



「おい! なんで、タグの確認をしてないんだ!」


 しばらくすると、禿げた厳ついおっさんに怒鳴られながら、さっきのお姉さんが戻ってきた。


「兄ちゃん、冒険者だよな! タグを出せ!」


 カウンターの向こうに立ったおっさんが俺を睨みつけながら、そう言ってきた。


 少しビビりながら、タグをカウンターにあった石版に乗せると、


「……ってルーキーかよっ……おおっ!……ああ、コイツだ。間違いない。…………おいっ! おまえ等っ! コイツに絶対ケンカを売るなっ! 殺されるぞっ!」


 おっさんは、画面を見つめながら呟き、ギルドにいた他の冒険者達に怒鳴ると、奥へ消えていった。


「……」


 俺が呆けていると、


「こちらをどうぞ」


 受付のおねえさんが、羨望の眼差しを俺に向けながら、タグを返してくれた。……お姉さん、俺のタグの情報を見たんだろう。


「すみません。少しお聞きしてもいいですか?」


「はい、彼氏はいません! 大きさに自信ありませんが、形には自信があります! 婚約者がいても大丈夫です!」


 いやいや、何の話。……興味はあるけど。あと目聡いよね。婚約指輪に気付いていたんだね。


「いえ、そういうことではなく、俺で間違いないって、どういうことですか?」


「あっ、マスターの話ですか……それはですね、高ランクの魔物や冒険者が移動すると、森の生態系が変わることがあるんです。近づくだけで小動物は逃げ出しますので、それを餌にしている動物や魔物も移動するのです。それが変に重なると今回のように、街の近くの森に集まることがあるのです。高ランクの魔物の場合は、この街にも危害が及ぶ可能性がありますが、冒険者の場合は、しばらくすると元に戻るので心配ないのです」


 やっぱり、あのおっさん、ギルドマスターだったんだね。……って、俺達が原因かよっ!


「すみませんでした」


 とりあえず、謝っておいた。


「いえ、今回の場合は、街が潤うので問題ありません。感謝するのは、こちら側です」


 そうなんだね。ならいいか。


「では、査定をお願いしてもいいですか?」


「そうでした。大きな声では言えませんが、この街、税金と手数料が高いのです。ケイさんは、アイリスの街に向かっているのですよね?」


「はい、そうです」


「なら、魔石と盗賊のステータスカードはアイリスで換金するほうがいいです。魔物の素材は痛みますので、ここのほうがいいと思いますが」


 お姉さんが小声で教えてくれた。……こんなこと教えてくれてもいいんだろうか。


「ありがとうございます。じゃあ、魔物の素材だけでお願いします」


「わかりました!」


 お姉さんは、たまに俺に話しかけながら、嬉しそうに査定をしてくれた。……1人で来て良かったね。


 お姉さんは税金と手数料が高いと言っていたけど、魔物の素材だけで、200万R近くになった。あと魔石と盗賊のステータスカードも残っているし、討伐系の冒険者って意外と儲かるんだねって考えていると、後から入って来た冒険者が俺に近づいてきた。


「おい! やめろっ!」


 先にいた誰かが気付いてくれたのだろう。すぐに止めてくれた。禿げのおっさんが注意してくれてなかったら、絡まれていたのだろう。感謝しないといけないね。


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