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魔法使いになって、白いご飯を食べたいです  作者: メイプルケチャップ
第5章 ダカール自由貿易国(アイリスの街)編
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第2話

 盗賊を迎え討つために夕闇のなか馬車を停めたが、盗賊達も止まってしまった。


「どうだ、ケイ?」


 アゼルさんが聞いてきた。


「200mほど離れたところで止まっているようです」


「そうか、じゃ夜だな」


「そうですね。しばらく大丈夫そうですね」


「そうだな」


 2人は納得しているみたいだけど、


「何が大丈夫なんですか?」


「それはですね、向こうも警戒しているのです。たぶん大した盗賊ではないでしょう。もし手練が揃っているのなら、時間をかけずに襲ってきます」


 たしかに、時間をかければ、その分、労働生産性が落ちるからね。



 目立つことを避けるために焚き火を作らず、食事の用意をしていると、


「ケイ、火を熾せ」


 馬の世話から戻ってきたアゼルさんがそう言ったきた。


「でも、暗くなると弓矢のいい的になりませんか?」


「大丈夫だ。アイツらは馬と馬車を狙っているんだ。弓矢は使わない。それに、火を熾すと、こちらが向こうに気付いていないと勘違いしてくれる」


「そんなことで、勘違いしてくれるのでしょうか?」


「それは、ケイさんが特別なだけです。普通は、これだけ離れていると気配すら感じることができません」


 マリアさんが補足してくれた。……そうか、俺は常に“探知魔法”を使っているから忘れがちだけど、普通は無理だよね。



 食事の時、気になっていること聞いてみた。


「あの盗賊達は、さっきの村の人達なんでしょうか?」


「たぶん、違います。内通者はいるかもしれませんが、この辺りは主要街道から近いので、犯罪者が村にいることは少ないです。それこそ冒険者のいいカモになりますからね」


 なるほど、犯罪者なら下っ端でも、殺してステータスカードをギルドに持っていけば、それなりの報酬をもらえるからね。


「しかし、あの手の村は同じだ」


 アゼルさんが呟いた。


「どういうことですか?」


「それはですね、この辺りの盗賊が奪った略奪品を買い取ったり、食糧と交換したり、しているのですよ」


 村の人は、直接犯罪に手を染めることはないけど、盗賊達と協力関係にあるんだね。きっと知らなかったことにするか、仲介人ブローカーが入れば、犯罪にはならないんだろう。だから、さっき、アゼルさんは“人がダメだ”と言っていたのだろう。



 2人には馬車で待機してもらい、俺が見張り役をしていると、松明の明かりが近づいてきた。10人全員で集まって来てくれたようだ。


「おい、兄ちゃん! 馬と女を置いて行くなら、逃がしてやる。行け!」


 先頭の男が大きな声で凄んでいるけど……


「おいっ! なんだっ、アレっ! 剣が浮いているぞっ!」


 別の男が叫んだ。……今回は、クロエさんの小太刀を最初から出しているからね。


「アレを見ろっ! 何なんだ、コイツらっ!」


 馬車から出てきた赤く輝いたアゼルさんを見た、別の男が叫んだ。


「コイツら、ヤバいぞ! 引けっ!」


 最初に脅してきた男がそう叫んだが……


「もう遅いです!」


 マリアさんの声が聞こえると、盗賊10人の下半身が一瞬で凍りついた。……凄い威力だね。


「なにしやがるんだっ! はなせっ!」

「おいっ! 誰かなんとかしろっ!」

「いやだっ! 死にたくないっ!」


 盗賊達が口々に叫びながら、持っていた松明や武器をこちらに投げてつけてきた。それらを、軽く躱していると、


「ケイさん、どうするのですか?」


 横に立ったマリアさんが尋ねてきた。


「まぁ見ててください」


 俺はそう言って、10体の“スケルトン”を出すと


「「「「……」」」」

「「……」」


 みんな、大人しくなった。……暗闇のなか、いきなり骸骨が現れたら、誰でも驚くよね。


「なにしやがるっ!」

「はなせっ!」

「こっちくるなっ!」


 “スケルトン”が盗賊達を担ぎ、俺の前に集め始めると、盗賊達がまた騒ぎ出した。


 会話をすると俺はすぐに情に流されてしまうので、盗賊達の言葉に耳を貸さず、生贄の魔法を使った。

 闇魔法のランクアップとともに、成長した生贄の魔法陣が、青く輝きながら5mほどの大きさまで広がると、盗賊達は、ステータスカードと装備品を残して消えてしまった。


 “スケルトン”は、盗賊達が残したものを仕分けした後、消えてもらった。



「ケイさん、今の、“スケルトン”ですよね?」


 マリアさんが戸惑いながら尋ねてきた。


「はい。黙っていて、すいません」


 俺が謝ると


「なぜ謝るのですか? 凄いじゃないですか! 召喚術ですよね!」


 マリアさんはそう言って褒めてくれるが、


「でも“スケルトン”しか使えませんので……」


「たしかに、死霊系はあまりいいようには言われませんからね。あの魔法陣って、使役できる“スケルトン”と契約するための魔法陣ですよね。ケイさんは、今、何体ぐらいのスケルトンを召喚できるのですか?」


「すべての“スケルトン”を出したことありませんが、500体以上は居ます。でも、怖くないのですか? 元は生きた人なんですよ」


「ケイさんが、犯罪者以外の人を“スケルトン”にするわけないじゃないですか。何を心配しているのですか?」


 マリアさんがそう言うと、アゼルさんも頷いてくれた。……俺のことを信用してくれているのだろう。


「しかし、マリアの氷魔法も凄かったな」


「そうなんです。これもケイさんの小太刀のおかげです。あんなに威力が出るとは思いませんでした。魔力の消費も抑えられているような気がします。アゼルはどうですか?」


「言われてみるとそんな気もするな」


「やっぱり、ケイさん凄いです!」


 俺のことを気遣ってなのか、アゼルさんが話題を変えてくれた。いや、マリアさんも俺が気にしていることに気付いているのかもしれないね。いつも以上に明るくしてくれているような気がする。



 翌日、また3人で御者台に乗って馬車を走らせていると、西側だけでなく、東側も森で覆われ始めた。気付けば、森の中を抜ける轍があるだけの道になっていた。


 疲れが出たのか、右側に座っていたマリアさんが俺に寄りかかり寝てしまった。昨日は、マリアさんの強い希望もあり、見張りを3交代にしたけど、普通は疲れるよね。


「アゼルさんは、大丈夫ですか?」


「鬼人族は、元々体力があるからな。不思議なのはケイのほうだ……」


 俺の問いかけに答えたアゼルさんが、珍しく何か言い辛そうにしている。


「どうかしましたか?」


「ああ、ケイが何を隠しているのか、ワタシにはわからない。でも、ワタシ達のことを思って隠してくれているのはわかる。だから、何も聞かない」


 アゼルさん、心を読めるんだったね。


「わかりますか?」


「特に精霊の話が出たあたりから、様子がおかしかったからな。それに、あれは召喚術ではないのだろう。マリアもわかっていたと思う」


 そうだね。召喚術は、対象物と契約をして、条件付で召喚する術だけど、俺の使う“スケルトン”は、“闇魔法”の“死霊魔法”だからね。


「はい、あれは……」


「いや、ケイの迷いがなくなってからでいい。心配しなくても、ワタシはケイを信じている。マリアも同じだ」


「そうですよ。私達はいつまでも待ちますよ」


 起きていたのだろう。マリアさんが俺にもたれかかったまま、そう呟き、また静かになった。


「すみません。話してもいいのかどうか、今の俺では判断ができません。もう少し待ってもらえますか?」


「ああ、それでいい」


 アゼルさんもそう言って頷いてくれた。



 マリアさんは目を閉じ静かにしているし、アゼルさんは元々自分からあまり話さないので、“闇の加護”や“管理者”のことも含め、これからのことについて少し考えようかと思ったが……甘かった。


「魔物です!」


 俺が告げると、アゼルさんは赤く輝き、マリアさんは杖を持って構えた。


「ケイ、どっちだ?」


 アゼルさんが静かに聞いてきた。


「上です。まだ離れていますが、たぶん、人面鳥ハーピーです」


 俺は手綱を掴んだまま振り向き、右後方から飛んでくるハーピーの群れに向かって指差した。


「群れか、どうする?」


 アゼルさんが確認し、マリアさんは静かに指示を待ってくれている。


 ハーピーは人の顔を持つ鳥の魔物で、空を自由に飛ぶことかできる。発達した牙による噛み付きと足に生えた鋭い爪が主な攻撃パターンだ。単体ではそれ程脅威にならないが、群れになると連携をとるので面倒だ。

 今回は、50体ほどの群れだ。アゼルさんには遠距離攻撃の手段がないし、マリアさんもこの数では無理だろう。……もう“闇魔法”を隠している場合じゃないね。


「俺がやります。アゼルさんは手綱をお願いします。マリアさんは馬車に近づいてきたヤツだけを攻撃してください」


 馬車を停め、俺が指示を出すと、2人は何も言わず頷いてくれた。


 俺は手綱をアゼルさんに預けると、御者台の上に立ち上がり小太刀を抜くと、ハーピーの群れの中に転移した。そして、目の前にいるハーピーの首を“曳き斬り”で切り落とした。始めはハーピー達も何が起こったのかわかっていなかったようだが、“転移”と“曳き斬り”を何度か繰り返し、10体ほど斃したところで、俺のこと危険だと判断してくれたのだろう。ハーピー達は一斉に引き上げてくれた。



「「……」」


 そのまま転移で馬車に戻ると、2人は目を見開いたまま堅まっていた。


「魔石と羽根の回収に行ってきます。2人はそのまま待機してください」


 2人が頷いてくれたので、斃したハーピーの元に転移し、換金できる魔石と羽根の回収をしてまわった。



「今のは何ですか?」


 死体の処理も済ませ戻ってくると、少し落ち着いたのかマリアさんが尋ねてきた。


「転移魔法です。まだ10kmほどしか移動できませんが、見えている場所か記憶にある場所なら転移可能です」


「転移って魔法陣がないと……」


「はい、説明します。聞いてください」


「でも、いいのですか?」


 マリアさんは心配そうに俺を見ているが、アゼルさんは黙って聞いてくれるようだ。


「はい。やはりこのルートは危険です。俺が自分のことで迷っている間に、2人に何かあるほうが俺は辛いです。それで、今から俺が話すことを聞いて、俺のことが怖くなったり、嫌になったりしたら、遠慮せずに言ってください。婚y……」


「そんなことはありえません! みくびらないでください!」


 俺が婚約の解消を口にしようとすると、マリアさんが本気で怒ってしまった。


「すみませんでした」


「いえ、私も言い過ぎました。急にケイさんが遠くに行ってしまいそうで怖くなったのです」


 マリアさんは、俺が謝ると、今度は目に涙を溜め縋り付いてきた。


「ケイ。マリアのこともわかってやってくれ。マリアは、自分だけがケイとの繋がりや特別な力を持っていないと気にしていたのだ」


 アゼルさんがそっと教えてくれた。……そうだったんだね。アリサさん、キアラさん、リムルさんは前世の記憶で繋がっているし、ベルさんとアゼルさんは人間族ではないからね。だから、マリアさんはいつも特別な力を身に付けることに固執していたのだろう。


「マリアさん。気付かなくて、すみませんでした。俺は、マリアさんが誰かと比べて劣っているとか考えたことはありません。俺にとって、マリアさんも大切な人です」


「じゃあ、私の前から突然居なくならないと約束してくれますか?」


「はい、約束します。俺は、マリアさんの前から突然居なくなりません」


「言いましたね、絶対ですよ! アゼルも聞きましたね!」


 俺とアゼルさんが頷くと、マリアさんに笑顔が戻った。


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