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第11話

「それが、“黒龍牙”と“黒龍爪”ですか?」


 俺が、2本のクロエさんの小太刀を魔法袋から取り出し、みんなで囲んでいたテーブルの上に浮かべると、マリアさんが尋ねてきた。


「そうです。そういえば、見せた事ありませんでしたね」


「ええ、話には聞いていたのですが、見たのは初めてです……」


 マリアさんはそれだけ言うと、また黙ってしまった。他のみんなも黙ったまま小太刀を見つめていたが・・・


「こ、こ、これ、何ですか! も、も、も、もしかして、呪いの武器ですか!?」


 沈黙を破って、クリスさんが声を上げた。


「呪いだと! ケイ! 私を謀ったのかっ!」


 クリスさんの言葉を受けて、スザンナさんも声を上げたが……意味がわからない。


「いえ、違いますよ。クリスさんに見て欲しかっただけです。それに、呪いの武器なんかじゃありませんよ。これは、リムルさんの曾お爺さんが作ってくれた小太刀に、黒龍のクロエさんが“加護”を付けてくれたんです」


「リムルの……たしかゲルグと言ったか。有名な鍛冶師らしいな」


「そうです。サタン様の紹介で、俺に武器を作ってくれることになったんです」


「サタンって、魔王かっ! ベル様の事もそうだが、お前は、いったいどんな知り合いがいるのだ!?」


 俺とスザンナさんが話していると、


「ちょっと待ってください。そんなことよりも、黒龍様ってどういうことですか!?」


「そ、そうだ。黒龍様もだ!」


 クリスさんが割り込んできたかと思うと、スザンナさんもクロエさんのことを聞いてきた。……黒龍様って、やっぱりクロエさんも偉い人なのか?


「黒龍って、魔物じゃないんですか?」


 ああ、そういえば、ベルさんの母親のミシェルさんは、クロエさんのことを“別の地域から来た者”と言っていたけど……


「いえ、人間族の間では、そう考えられているそうですが、エルフ族の間では違うのです。エルフ族の伝承では、“精霊”にはランクがあるのです。そして、“精霊”は成長すると実体化すると言われています。その実体化したモノが龍族だと言われているのです」


 おおっ! だから、黒龍様なんだね……


「でも、ドワーフ族のゲルグさんは、龍族のことをSランクの魔物だと言ってましたが」


 龍の説明はゲルグさんから聞いたからね。……いや、あの時は、クロエさんが自分で説明をするのを避けたんだったっけ?


「それは仕方ありません。今話していることは、エルフ族でも一部の人しか知らないことですから」


 なるほどね。今、クリスさんが話してくれたことは、エルフ族の伝承だし、ミシェルさんも確証がなさそうだったし、結局、何もわからないんだね。……まぁあ、これもクロエさん本人に聞くしかないか。でも、あの人、“のじゃー”とか言いながら、本心を隠しているからわかりにくいんだよね。俺の信頼するベルさんが信頼しているみたいだから、悪い人ではないと思うんだけどね。


「それで、この小太刀のどの辺りが呪いの武器なんですか?」


「ああ、そうでした。この小太刀に“精霊”達が怯えているのです。たぶん、この小太刀のせいで、ケイさんに“精霊”が近づけないのだと思います」


 たしかに、そう言われると呪いだね。


「じゃあ、この小太刀から俺が離れれば、“精霊”は寄って来るのでしょうか?……マリアさん、この2本の小太刀を持って、俺から離れてもらえますか?」


「はい、わかりました」


 マリアさんは素直に返事をすると、机の上に浮かんでいた小太刀を持って、俺から離れてくれた。


「どうですか?」


 俺がクリスさんに確認すると、


「すみません。違ったみたいです。……でも先程、その小太刀には、黒龍様の“加護”が付いていると言っていましたよね。どういった加護なのですか?」


「“守護”です。俺に対する攻撃は、俺の意思に関係なく防いでくれます。たとえ、魔法袋の中にあってもです」


「で、でも……」


 小太刀を俺に返しながらマリアさんが何か言いたそうにしているけど、きっと、カステリーニ教国で俺がアンジュに刺されたことだろう。


「すみません。あの時は、出てこないようにお願いしたまま、忘れてました」


「バ、バカですか! あの時、私達がどれだけ心配したと思っているのですか!」


「すみません。今は、ちゃんといつでも出てくるようにお願いしているので……」


「当たり前です!」


 マリアさんが怒ってくれているけど、当然だよね……


「あのう、続きいいですか?」


 俺がマリアさんに怒られていると、クリスさんが入ってきてくれた。


「お願いします」


「はい。おそらく、その小太刀はケイさんと繋がっています。ですから、小太刀がケイさんから離れても、小太刀の効果が切れないのでしょう」


 たしかに、クロエさんの話では、俺専用の武器らしいからね。……でも、魔法が苦手なのは、小太刀にクロエさんの“加護”が付く前からなんだけどね。


 と考えていると、


「あと、もう1つ、その小太刀には面白い効果があります。アゼルさん、火魔法の身体強化が得意でしたよね。全開で使ってもらえますか?」


 クリスさんがアゼルさんにそう頼んだ。


「わかった。……おおっ!」


 返事をしたアゼルさんがイスから立ち上がり、力を込めると、激しく赤く輝きだした。アゼルさん自身も驚いたみたいだけど、これって、前にベルさんが俺の家の地下闘技場で見せてくれた時よりも、凄いかも知れないね……


「ケイさんがその小太刀を出すと、ケイさんの周りにいた精霊が逃げ出して、火の精霊はアゼルさんの元に、水と氷の精霊はマリアさんの元に集まるのです。ですから、アゼルさんの火魔法の身体強化が威力を増すはずなのです。アゼルさん、どうですか?」


「ああ、これはスゴイ! 魔力が切れそうだ」


「いやいや、魔力が切れる前に止めてください!」


「ああ、そうだな」


 アゼルさん、相変わらずだね。俺が止めなければ、魔力が切れるまで続けてたんじゃないか。


「凄いです!」


 アゼルさんに意識を向けていると、隣でマリアさんが声を上げた。


 確かに凄いね。マリアさんが、掌の上に作り出した水球の中が渦を巻いて濁流と化している。……絶対に、あんなの喰らいたくないよね。


「はい。後、何が凄いって、私と姉さんの周りには、“精霊”が寄って来ません。それどころか、普段よりもかなり少ないです。これは、戦闘時、かなり有利になると思うのですが、どういう仕組みになっているのでしょうか? できれば、私達と居る時は、その小太刀を出さないでほしいです」


 クリスさんが説明してくれたが、


「俺にもわかりませんが、とりあえず、仕舞っておきますね」


 俺が小太刀を魔法袋に入れると、


「あっ! クリスさんの言う通り、威力が落ちました」


 マリアさんは威力の落ちた水球を見つめながらそう言った。


「これで、間違いありません。ケイさんの持っている小太刀は、“精霊”に干渉しています。そして、ケイさんの婚約者の方には、プラスの影響を及ぼし、そうでない人には、マイナスの影響を及ぼすと考えて間違いないと思います。これも、ケイさんを守護するためなのでしょう」


「なるほど、便利ですね」


「便利!? いや、そうなのですが……あと、これは伝承というよりも、お伽噺に近い話なのですが、黒龍様は、“闇の精霊”が成長し実体化した姿だと言われています」


「えっ!」


「どうかなさいましたか?」


「いえ、続きをお願いします」


「はい。私には、“闇の精霊”が見えませんので、実在しているかどうかわかりません。もしかしたら、ケイさんの周りの精霊の居ない空間には、“闇の精霊”がいるのかもしれません」


 なんか信憑性はありそうなんだけど、見えないからねぇ……


「“闇の精霊”ですか……」


「ええそうです。闇魔法を使う魔物は居ますので、“闇の精霊”が居てもおかしくありません」


 そういえば、この世界では、そういう認識だったね。


「ちょっといいか? そろそろ出発したほうがいい。この辺りの魔物は危険だ。日が高いうちにできるだけ、森の外縁部に近づくほうがいい」


 スザンナさんがそう忠告してくれた。


「すみません。話に夢中になっていました」


「いや、構わない。私も興味がある話だ。それに、目的の村までは2日はかかる。また、ゆっくりと話そう」


 俺が謝ると、スザンナさんはそう返してくれた。



 すぐにテーブルやイスを片付け、移動を開始した。今回の“フォレスト・ウォーク”はスザンナさんが使ったみたいだけど、川に沿って伸びている。直線だけでなく、こんなこともできるんだね。


 そのまま西の空が赤くなるまで、3頭連なって走ってきたけど、この世界の馬って丈夫なんだね。クリスさんのほうが疲れているように見える。


「すまないが、この辺りで休もう。クリスが限界だ」


 スザンナさんがそう言って、馬を止めた。


「俺達は急いでいませんし、もう少し行程を遅らせても構いませんよ」


「すまんな。そうさせてもらうよ」


 俺の申し出を、スザンナさんは素直に受け入れてくれた。クリスさんには、かなりキツいのだろう。


「みなさん、すみません……」


 馬から降りたクリスさんが、息を切らせながらそれだけ言うと座りこんでしまった。


「俺がもう少し早く気付くべきでした。すみません。……また、3人には、馬の世話をお願いしてもいいですか? 俺は寝る場所と食事を用意します」


「そうだな。話していても仕方がない。早く休めるようにするほうがいいだろう。ケイ、頼む」


 俺の提案に、マリアさんとアゼルさんは頷き、スザンナさんが同意してくれた。



「ケイさん、すみません。私、足手まといですよね」


 俺が寝るための馬車を出し、机やイスを並べ、食事の用意をしていると、クリスさんがぽつりと呟いた。


「そんなことありませんよ。今まで村から出たことがなかったのですから、仕方ありません。さっきも言いましたが、俺がもう少し早く気付くべきだったのです。クリスさんもそうですが、スザンナさんも気負っているところがありましたからね」


「でも私達は、ケイさんに恩を返したくて案内を申し出たのです。それなのにご迷惑をかけてしまって……」


「そんなことありません。十分、俺達は助かっています。まず、俺達だけでは、この森に入ることすらできません。それに迷うこともなく、魔物に出会うこともなく、ここまで来られたのは、クリスさんとスザンナさんのおかげです。あと、“精霊”について、知ることができたのはクリスさんのおかげです。感謝することはあっても、足手まといとか思うことはありません。……それに俺のほうがみんなに迷惑をかけているんですよ。座ったままでいいので、聞いてください。俺達のこれまでの旅の話をしましょう」


 俺は食事の準備を続けながら、この旅で婚約者達に迷惑をかけることによって気付いた、

 己の無知や愚かさについて話し始めた――――。



「ケイさんは、何でもできる人だと思っていたのですが、そんなことがあったのですね……」


 俺が話し終えると、クリスさんは複雑な表情を浮かべてそう呟いた。


「それもほんのふた月ほど前の話です。……だからといって、このままでいいとは思っていません。俺も自分が成長するために頑張りますので、クリスさんも一緒に頑張りましょう」


「はい!」


 少し気が紛れたのか、クリスさんは明るく返事をしてくれた。



「クリス。少しは元気になったのか」


 マリアさんやアゼルさんと一緒に、スザンナさんがそう言いながら戻ってきた。


「はい、ケイさんのおかげで気持ちが大分楽になりました。まだまだ皆さんには、ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」


 クリスさんがそう言って頭を下げると、みんな笑顔で頷いてくれた。



 この日は、クリスさんだけでなく、スザンナさんも疲れていそうだったので、食事を取り、早めに休むことにした。


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