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第5話

 酒屋のおっちゃんが達にお酒の蒸留の仕方を教え始めて、3日が過ぎた。


「おーいっ、ケーイっ! これでどうだっ!」


 俺とマリアさんが居る酒蔵の前から、少し離れた場所にあるかまどで蒸留を繰り返していたおっちゃんがコップを抱え走ってきた。


「酒精の強さはいい感じですね。これで、何回蒸留しました?」


 受け取った蒸留酒を飲んでみると、アルコール度数は40度ぐらいになっていた。


「7回だ」


「やっぱり、結構かかりますね」


「いや、構わん。鍋も管も試作品だ。それに料理用のかまどじゃ、熱が均等に伝わらないからな」


「そうですね。どうしても鍋の中のお酒に温度差が生じますからね。蓋をしてるから混ぜれないですし、どうしましょうか?」


「心配するな、もう考えもある。今は、寝かせる前の酒を作れるようになれればいい」


「ならいいのですが」


「ところでよ。蒸留した酒を寝かせるには土の甕のほうがいいって言ってたが、木の樽と何が違うんだ」


「木の樽でもいいんですが、木の香りが付いてしまうんですよ。短いもので5年、長いものなら30年以上寝かせれば、木の香りもいい味わいになるんですけどね」


「30年かぁ……よしっやってみるかっ! いい話が聞けた。ケイ、ありがとよっ!」


 おっちゃんはそう言うと、かまどのほうに走っていった。……やっぱりドワーフ族って拘りを持った職人が多いみたいだね。



 その日の夕食のとき、


「ケイさん。ハンバーグ、教えて欲しい」


 とリムルが言ってきた。


「ハンバーグですか。構いませんが、急にどうしたんですか?」


「アゼルと泥まみれになってるときに思い出した」


 なんかわかるような、わからないような……でも、ハンバーグかぁ……どうせなら、分厚い鉄板も欲しいけど、これ以上頼むのも気が引けるんだよね……


「ハンバーグを教えるのはいいんですが、代金を支払いますので、鉄板を用意してもらえませんか?」


「サイズはどのくらい? お金はいらない」


「いや、これ以上甘えるわけにはいきませんよ」


 俺とリムルが話していると、お義父さんが割り込んできた。……割り込んできたと言っても嫌じゃないんだよ。ホントだよ。


「ケイ、心配するな。今日、アゼルがミスリル鉱の新鉱脈を見つけやがったんだ。それなのに、アゼルは権利を放棄して、村に寄贈すると言っていてな。今、村の長老連中がどうするか話し合っているところなんだ」


 ミスリル!? 新鉱脈!?……アゼルさん、なんでもありだね。


「権利って何ですか? この山で採れたモノは、この村のモノじゃないんですか?」


「もちろんそうなんだが、採掘量に対して、ほんの一部だが、発見者に報奨金が支払われる決まりなんだ。ほんの一部と言っても、ミスリルだからな。埋蔵量もわからないが、かなりの額になるはずなんだ」


「なるほど、そんな仕組みになっていたんですね」


 でも、そんな怖い権利いらないよね。


「しかし、いいのか。ケイはアゼルの婚約者だろ。お前が権利を主張しても取れるぞ」


「いえ、アゼルさんの判断が正しいです。もし、この村出身のリムルさんが権利を持っても妬みが生まれるはずです。それを他種族の俺やアゼルさんが持ってしまうとどうなるか想像もできません」 


「たしかにそうだな。命の危険もありえるか……しかし、アゼルは凄いな。何も考えてなさそうで、そうじゃなかったんだな」


 たぶん直感でそうしただけで、何も考えていないと思うんだけどね。


「そのミスリルの話はわかったんですが、権利を放棄しますから関係ないですよね」


「関係ないことはないだろう。それに、アゼルはバカみたいに鉄も採掘してるからな」


 ああ、そうだったね。……それにしても、アーク学園都市を出てから、お金を稼いでいるのアゼルさんだけだよね。


「ん。だから、お金はいらない。サイズは?」


「そうですね。縦90cm、横120cm、厚みが5cmぐらいのが欲しいんですが」


 ホントはもっと厚みが欲しいけど、焼き面も最低これぐらい欲しいし、仕上がりの重さを考えるとこれぐらいが妥協点なんだよね。


「かなり厚みがあるな。なぜ、そんな厚みが必要なんだ」


 お義父さんが、また割り込んできてくれた。


「それはですね。湯がいたり、揚げたりするときも同じなんですが、水や油、鉄板などをちょうどいい温度まで熱しても、食材を入れたり、乗せたりしたら、温度が下がりますよね。また温度上げればいいんですが、この温度差で仕上がりの味がかなり変わるんです。温度差がないほうが美味しくなります」


「そうなのか!」


「ええ、鉄板ができたら、違いがわかると思います」


「わかった。リムル、お前は馬車の改造をやるんだろ。鉄板は、お父さんに任せとけ」


「ん」


 話が勝手にまとまっているけど、本当にいいんだろうか……



 その日から2日後の夕食のとき、


「ケイ、やっぱり何かもらってくれんか。お前も言ってたが、長老達がお前達を信用してないんだ。後から何か言ってくるんじゃないかってな」


 お義父さんが困った様子で話しかけてきた。……まぁそうだよね。タダほど怖いものはないっていうぐらいだからね。


「アゼルさん、何かないですか?」


「何も言わないのも迷惑になるんだな……じゃあ、今使ってる大太刀よりも重い大太刀が欲しい」


 そうか、アゼルさんの使ってる大太刀、火魔法の身体強化ができるようになる前から使っているから、軽過ぎるんだね。


「おお、そりゃあいいっ! アゼル、今使ってるヤツ、見せてくれっ!」


 お義父さんはそう言って、アゼルさんから大太刀を受け取った。


「ほぅ……かなり古いヤツだが、いい刀だな。よしっ、わかった。アゼル、長さはどうする?」


「長さは、これがいい」


 アゼルさんは、お義父さんから大太刀を受け取りながらそう言った。


「わかった。明日、ちょっと付き合ってくれ。大太刀の重さの確認をしよう。それと、半年ほどかかるがいいか?」


「いつでもいい」


 ちゃんと1から作るとなると、時間がかかるんだね。



 それから、また4日ほど過ぎたころ、


「ケイさん。これで終わりですか?」


 マリアさんが尋ねてきた。


「そうですね。同時に3つ蒸留することにも慣れてきましたからね。大分早く済むようになってきましたね」


「いえそうではなくて、もう蒸留する樽がないので、明日からは、手が空くのか聞きたかったのです」 


「ええ、リムルさんの一族の分はこれで終わりです。でも、明日には、酒屋さんの注文の分が届くはずです」


「そ、そうなんですね……」


 たしかに、俺とマリアさん、この10日ほど、ずっと蒸留をしているだけだったからね。……でも明日からは、俺もやっとお金を稼げるんだよ。


「すみません。こんなことに付き合わさせてしまって」


「いえ、違うんです。私は、ケイさんと一緒に居られるだけで幸せですから。でも、リムルはもうすぐお別れなのに、ケイさんと一緒に過ごせないのが気になってしまって……」


 そうだね。……それもあるけど、婚約したのに、リムルさんを置いて旅に出ることを、お義父さんとお義母さんはどう思っているんだろう……



 翌朝、酒屋のおっちゃんが馬車を引いてやってきた。


「すまんな、ケイ。うちのも頼むわ」


「時間に限りはありますが、できるだけ頑張ります」


「ああ、それで構わん。色つけるから頑張ってくれ」


「はい、ありがとうございます。あと、少し違う話になるんですが、米を取り扱っていませんか?」


「うちは米酒用に持ってるぐらいで売るほどないが、八百屋で買えばいいだろ?」


「昨日、時間があったので聞いてみたんですが、量が少なくて」


「どのくらいいるんだ?」


「3千kgほど……」


「3千か……そりゃ、八百屋じゃ無理だな。でもどうするんだ、そんな米?」


「俺、前世の記憶持ちなんですが、前世にいるとき、米が主食だったんです。だから、どうしても手元に欲しくて。……あっそうだっ! コレ、食べてみてください」


 おっちゃんに持っていたおにぎりを勧めてみた。


「おっ! まだ、熱いな。……これ、米なのかっ!? 俺も喰ったことあるが全然違うぞっ! それになんでこんなに白いんだ!?」


 白いご飯のおにぎりをひと口食べたおっちゃんが、驚きの表情を浮かべ聞いてきた。


「稲の籾を取ると黄色い米が出てきますよね。それを俺らは玄米と呼んでいました。そして、玄米の表面を削ると白くなるんです。それを白米と呼んでいました。その白米を少し特別な方法で煮るとそのご飯になるんです」


「その白米ってのは、酒にするとどうなるんだ?」


 おお、さすが酒屋さんだね。


「臭みのないお酒になります」


「……おいっ、ケイっ! どうやって米を削るんだっ!」


 しばらく考えこんでいたおっちゃんが、俺の肩を掴んで詰め寄ってきた。……結構身長差があるのに、やっぱり力強いね。


「水車、ありますよね? それで突けば、いけると思います」


「ああ、水車か……でもあれじゃあ、米が潰れてしまわないか?」


「その辺りは、上手く力加減をすれば……」


「そりゃそうか……」


 おっちゃんがそう言って、また考えこんでしまった。……俺も水車の構造は詳しく知らないからね。


「うん、いけそうだな。どちらしても、これもここの親父だな」


 おっちゃんはそう言って、1人で納得しているが、


「すみません。お米、なんとかなりませんか?」


 俺も忘れそうになっていたよ。


「おお、そうだったな。その量なら米の産地に行けばいい。……でも、マズいな。ここからだと、エルフ族の自治区を通ると近いんだが、ケイ、お前、人間族だからなぁ……」


「近いということは、回り道もあるんですか?」


「ああ、この山を越えて、西側の街道に出てから南に行けばなんとかな」


「なんとかなんですか?」


「ああ、目印がないからな。エルフ族の自治区を通るなら、川を下れば間違いなく着くんだがな」


 そういえば、キャシーさんもそんなこと言っていたね。


「そうですか、考えてみます」


「すまんな。エルフ族のことは、俺達じゃ、どうにもならんからな」


「いえ、ご迷惑をお掛けするつもりはありませんので……」


「何を言ってるんだ。この村でお前達を悪く思ってるヤツなんて、もういないぞ。蒸留酒だけでも十分なのに、ミスリルの鉱脈の権利まで、村に寄贈したんだろ。気にし過ぎだ。もっと甘えてもいいんだ」


「すみません。ありがとうございます」


 たぶん、村の人全員に受け入れてもらうことはできないだろうけど、少しでも多くの人に認めてもらうことが置いていくリムルさんに対しての償いになればいいんだけどね。


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