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第7話

 洗濯後、昨日の残りのクリームシチューを食べているときに、


「ベルさん。この魔法袋は中身を忘れた場合、取り出せないのですか?」


「入っているものを1度に全部なら取り出せるよ。ケイはまだ闇魔法の異空間魔法を使えなかったね。体の中にスケルトンがいるはずだから、魔力で探してごらん」


「……あっ居ます」


 たくさんのスケルトンが並んでいる。これが異空間か。


「そこがケイの作り出した異空間だ。そこに入れたものなら、可視化したり、文字化したり、検索したり、自由にできるはずだよ」


 俺は手にしていたスプーンを異空間に入れたり出したりしてみた。


「その異空間は、時間を止めることもできるのだよ。料理や生モノの保管には便利だね。あと闇魔法が成長すれば、生き物も入れることができるようになるから召喚魔法の代わりに使えるのだよ。世間に出回っている魔法袋では時間を止めることはできないし、重量制限もあるので、ケイも自分の異空間を使えばいいよ。ただし、闇魔法は私たち以外、誰も知らないし使えないから、その魔法袋を使っているように見せかけるといいよ」


「わかりました、ありがとうございます」


 サタン様も、ゴミ袋のためではなく、このためにくださったのかな……


「では、訓練をはじめようか」



 俺達は、外の広場に出た。外周200mぐらいのある地面が土の広場だ。


「ケイ、まずはまっすぐに走るといい。筋肉が偏るといけないからね。最初はゆっくり、無理をしないように気を付けるのだよ。あと森には入ってはいけないよ。危険だからね」


 そう言われた俺は、ハイハイで歩き始めた。しばらく広場を行ったり来たり、横切っていると、ベルさんはギルドへ帰っていった。俺は、昨日の文字練習を思い出しながら、ひたすらハイハイを続けていた。前世の頃から、単純作業は好きなんだよね。作業を続けながら、妄想の世界に浸っていたんだ……仕事中だけどね。



 朝起きて洗濯と掃除、朝食後はハイハイしつつ妄想し、夕食を作って食べた後は文字の練習というサイクルを一月も続けていると、文字を覚えることができた。ハイハイも成長し、膝ではなく足の裏を地面につけて走れるようになった。少しは四足歩行も成長しているはず……いつまで、続けようか? 普通、半年ぐらいハイハイしてたっけ?


 もちろんブイヨンもいい感じなってきたよ、毎日、野菜クズや骨を足して煮込んで灰汁を取って、ローブに包んでいるからね。24時間、火にかけている状態がキープできるんだよ。ローブの保温機能って使えるね。


 保温機能といえば、サタン様から頂いたローブにも付いているんだけど、快適すぎるから訓練中は脱いでいるんだ。だから訓練中は全裸で裸足、完全に野生児だね。ベルさんしかいないし、いいよね?



「ケイ、そろそろ文字の練習から、魔法の訓練に切り替えようと思うのだが、どうだろうか?」


「本当ですか!? お願いします」


 まだ難しい単語とかわからないのもあるけど、これから覚えていけばいいだろう。


「では 今日から夕食後は、魔法の訓練に当てよう。まずは魔法理論からだ。いいかい?」


「はい」


「“魔法とはイメージしたものを魔力を使って具現化する”というのが基本なのだ。私はこのイメージという部分が重要だと考えているのだが、最近は、“習得魔法陣”に頼る者が多い。“習得魔法陣”というのは、言い換えれば他者がイメージしたものだね。他者のイメージしたものに頼るのが悪いとは言わないが、前に言ったように応用が利かないし行動制限もされる。だから高ランクの魔物や人と戦闘するとき、あまり有効的だとは言えないのだよ。例えば、火魔法の初級“ファイヤーボール”の場合、誰が使っても威力、スピード、軌道が同じだし、取得した体の部位や魔道具からしか発動できないから、戦術の幅が狭くなってしまうのだ。だからケイには、自分でイメージして自分の術式を作って欲しい。いいかね?」


「はい、お願いします」


 イメージか。妄想は得意だけど、大丈夫だろうか……


「では次に、魔法の種類だが、スキルで言うと、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、雷魔法、樹魔法、氷魔法、光魔法、闇魔法とあるのだが、これ以外にもあると考えられているのだ。例えば、火魔法の“ファイヤーストーム”は、火と風を使っていると考えられているのだ。だから、柔軟な発想と明確なイメージがあれば、無限に作り出せると考えられているのだよ。このあたりは、また学校でも習うだろう。今はどういう解釈がなされているのか分からないがね」


「学校ですか?」


「あぁ言ってなかったね。ケイが12才になれば、アーク学園に行ってもらうよ。アーク学園を卒業することが、初期階級の奴隷を変えるのに、一番早いからね」


「あぁ奴隷であることを忘れてました。変えられるのですか?」


「普通は変えることができないのだが、アーク学園は教会が管轄しているからね。そこで勉強すれば変わる可能性が高いね」


「奴隷に職業選択の自由がないのは分かるのですが、他の方にもないんですか?」


「もちろんだよ。職業と住所に選択の自由はないよ。そこに自由を認めたら誰も辺境の村で畑を耕さなくなるだろう。前世では、認められていたのかい?」


「国家間での移住は許可制だったと思います。でも国内ではどちらも憲法で認められていました」


「憲法とは、何かね?」


「国家の枠組みを決めたもので、権力者に対する抑止力みたいなものでしょうか?……違うかな?」


「わからないのなら、構わないよ。でも職業と住所に選択の自由を認めて、問題はなかったのかい?」


「……たしかに今思えば、問題があったかもしれません」


 もしかして、ステータスカードって万能なのか……そうか神が管理してるから当たり前か。


「ケイが落ち込む必要はないよ。話を戻そう。……この世界では、階級と住所はステータスカードで管理されているので、町や村の入出も制限されているのだよ。変更は教会でしかできないと覚えとくといいよ」


「では、跡継ぎ以外はどうなるのですか?」


「その場合は教会が斡旋してくれるよ、弟子や見習いになることが多いけどね。……ただし、3年間アーク学園で学べば、ある程度の自由が認められているのだ。そして、学園には12才から入学できるのだよ。まだケイは0才だから、焦って決めなくてもいいよ」


「なるほど、わかりました」


 そうだよな。なぜか冒険者になるものだと思っていたけど、何でもいいのか。あと、教会は信仰の対象ではなくて、役場のような役割なのかな?……ちなみに俺のステータスカードは、


 氏名:ケイ

 年齢:0才

 種族:人間族

 階級:契約奴隷 (ベル・ラインハルト)

 住所:黒龍の森

 スキル:――――


 もちろん名前は白字だよ。



「よし、魔法の続きだ。魔法について、何か質問はないかい?」


「はい、では一つ。魔力について何ですが、魔力はヘソの下にある塊から放射状に線で伸びていますよね。この伸びている線を繋げて循環させることは、できないのですか?」


「できなくもないし、している人もいるね。魔力の節約になるからね。でも、同時に複数の魔法を使うことが難しくなるのだよ。ケイは、魔力をたくさん持っているしこれからも増えるだろう。できたとしても得られるものが少ないよ」


「あまり意味がなさそうですね。ところで俺の魔力はどのくらい多いのでしょうか?」


「現時点でいえば、人間族の中で父を除けば一番多いだろうね。これからの成長にもよるけど、種族的に魔力の多いハイエルフよりも増えるかもしれないね」


「種族による魔力の保有量に違いがあるのですか?」


「精霊系種族のエルフ族、ハイエルフ族、ドワーフ族は多いね。それに比べ、獣人系種族は少ない傾向にあるね。そして、人間族はその中間だね。あと例外で、狐人族や狸人族は獣人系種族にもかかわらず、精霊系種族並みに多いのだよ。でもケイのように個人差もあるから、当てにはならないね。あまり種族や見た目に惑わされないようにしないといけないよ。他に質問はないかい?」


「魔族はどうなのですか?」


「魔族は精霊系種族ほどではないが多い傾向にあるね。あと魔族は特殊な種族でね。体内に魔石を持っているのだよ。魔石は魔道具に使われている石だね。これはかなり繊細な話になるのだけどね。魔物とそうでない生物の違いも同じで、魔石を持っている生物を魔物と呼ぶのだよ。ここまで言えばわかると思うが、魔石を持たない種族からよく思われていないことが多いのだ。もちろん魔族もステータスカードを持っているので、神に管理された人であることは間違いないよ。逆に魔物はステータスカードを持っていない。だからクロエはどれだけ言葉を理解し理性を持ったとしても魔物なのだよ」


「サタン様にお会いしたこともありますし、そういった偏見はないようにしたいと思います」


「そうだね、ケイはサタンに会っているから心配なさそうだね。ただ魔族だけでなく、どの種族にも言えることだけど、信用できる人もいれば、信用できない人もいることを覚えておいて欲しい。あと、こういった偏見や差別があることも知っておくほうがいいだろう」


「ベルさん、奴隷に対する偏見や差別はないのですか?」


「まったくないとは言えないけどね。例えば、上級貴族の契約奴隷は下級貴族本人よりも立場が上だったりする場合もあるからね。偏見や差別よりも、妬みのほうが大きいと思うよ」


「実際に自分で感じるしかなさそうですね」


「そうだね。そう考えられるのなら心配ないかもしれないね……少し話がそれてしまったが、外に出て実際に魔法を使うから見て欲しい」



 ベルさんと外に出た。闇魔法が成長したからなのか暗闇でも目が見えるようになっていた。


「ケイ、今から私が魔法で手の上に水を作り出すから、魔力の流れを見て確認して欲しい。目に魔力を流せば見えるはずだ」


 ベルさんの丹田から右手に向かって魔力の量が流れ始めた。そして、手の上に魔力が集まり、魔力の色が白から青に変わっていく。その青い魔力が、水の塊へとゆっくり変化していった。50cmぐらいの水の塊で、激しく渦巻いている。


「これが、初級レベルの水魔法だよ。魔力の流れが見えたかね?」


 俺は、今、見えたことを説明すると、


「それだと、50点だ。もう一度やるから、魔力が集まる前の手の上に意識を向けるといい」


 ベルさんがそういうと、先程の水の塊が消え、ちいさな青い塊ができた。その青い塊に向かって魔力が集まっていく。するとまた、魔力が白から青に変わり、水の塊に変わった。


「手の上に、小さな青い塊が見えました。これが術式ですか?」


「そうだ。これは、私が手の上に水球を維持するというイメージが術式になっているのだよ。これが、“習得魔法陣のウォーターボール”だと打ち出すまでが、術式にこめられているから、単発でしか発動できないのだ。たとえば……」


 ベルさんがそう言うと、周りに20個ほどの水球が現れた。


「こんな風に、好きなときに連発もできるし、防御にも使えるのだよ」


 と言って浮かんでいる水球を連続で打ち出した。……地面がえぐれているよ、かなりの威力みたいだ。


「イメージが術式になる過程がわからないのですが」


「特に決まったものはないよ。結果が伴えば、過程に意味はなくなるからね。わたしもなんとなくやっているだけだから、習得魔法陣を作れないのだよ」


「わかりました。頑張ってみます」


「あぁすぐにはできないだろうが、努力することが大事だよ。……よし今日はここまでにしよう」


「ありがとうございました」


 ぜんぜんできる気がしねぇ……


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