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第3話

 エルフ族の姉妹を助け、2人が森へと帰ったあと、食事の準備に戻った。


 そして、食事のとき、


「ケイさんが、モテるのはもうわかっていますが、ほどほどにしてくださいね」


 マリアさんが釘を刺してきた。他の2人も頷いているけど、今のは違うんじゃないか……いや、流してくれそうだし、ここは謝っておこう。


「すみませんでした。……ところで、あの2人がキャシーさんの妹で、族長の娘という話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」


「ん。マスグレイブ家は、エルフ族のなかでも名門。今の族長は、あの2人の父親。母親は違うかも」


 なるほど、そういえば、キャシーさんは家名持ちだったね。良いとこのお嬢さんだったんだね。あと、母親が違うということは、族長も多妻なんだろうね。


「でも、そんな家に生まれたキャシーさんは、なぜ冒険者になって、アーク学園都市にいるんでしょうか?」


「それは知らない。今度、聞いてみればいい」


 そうだね。あの姉妹、また来るんだったね……


「あと、なぜ樹属性の魔石を探していたのでしょう?」


「それは、薬のためじゃないですか?」


 俺の質問に、マリアさんが答えてくれた。


「ん、そう。エルフ族は、樹属性の魔石を使ってエルフの秘薬を作る。たぶん、誰か病気なんだと思う」


 リムルさんが説明を付け足してくれた。なるほど、だから、あんなに焦っていたんだね。……えっ!


「エルフの秘薬って実在するんですか!?」


「わからない。だから、秘薬」


 リムルさんが答えてくれた。……そうだね。普通に知られていたら、秘薬じゃないよね。


「それと、巫女ってなんですか? お姉さんが妹さんのことをそう言ってたような気がしたんですが」


「巫女は、精霊に愛されている人。人間族の言う、加護を持ってる人」


 なるほどね。……じゃあ、男は禰宜?



 翌日、日の出とともに出発した。


 山の裾に沿って、少しずつ上へと登っているんだろうけど、これは道なんだろうか? 木や草が生い茂り、獣道ともいい難いんだけど……


「リムルさん、これって道なんですか?」


「ん、そう。私の通るところが道」


 リムルが、なんか哲学っぽく答えてくれたけど、ベルさんが使っていた“フォレストウォーク”の簡易版みたいなものかな。それに、低ランクの魔物は寄ってくるけど、高ランクの魔物はリムルさんを避けてくれてるみたいだね。



 山の北側から登り始め、東側をまわり南側まで来ると、何本もの煙が立ちも昇っているのが見えた。


「あれが、私の村。行こう」


 リムルさんが嬉しそうにそう言った。……故郷っていいもんだね。



 山間にある村と聞いていたので、勝手に小さい集落だと思っていたけど、かなりの人で賑わっていた。中には人間族もいるみたいだし、考えを改めないといけないね。


「リムルさん、身分証の確認や通行料がなかったんですが、いいんですか?」


「ん、大丈夫。ここまで来れる人は精霊に認められた人だから」


 そういえば、普通は精霊系種族しか近づけないんだったね。


「まずは、どこに行きますか?」


「商業ギルドに行って、馬を返す」


 リムルさんがそう言ったけど、


「いや、馬はこのままのほうがいい。依頼だけ済まそう」


 アゼルさんがそう言った。……きっと宿場街の商業ギルドのお姉さんが、いい馬を用意してくれたんだね。この辺りの感覚はアゼルさんを信用しておけば、間違いないだろう。



 商業ギルドの隣にあった冒険者ギルドで所在確認を済ませた後、リムルさんの家に向かった。

 リムルさんの家は、村の中でも標高の高い位置にあり、低い位置にある家よりも大きな家だった。たぶん村の中では上流階級なんだろう。


「ただいま」


 リムルさんがそう言って家の扉を開け中に入っていった。


「あら、リムル、お帰りなさい。学園はどうだった? ん、外の方、お友達?」


 そう言って扉からリムルさんに良く似た女性が出てきた。


「初めまして、ケイです。こちらは、マリアとアゼルです。よろしくお願いします」


 俺がそう言って頭を下げると、マリアさんもアゼルさんも頭を下げた。


「あらあら、ご丁寧に。リムルの母です。どうぞ、狭いところですが、中に入ってください」


 リムルさんによく似た女性がそう言って、中に入るように勧めてくれた。……えっ、母!? どう見ても、歳の近いお姉さんだよ。


 俺が驚きつつも中に入ろうとすると


「リムルっ! 帰ってきたのかっ!」


 という叫び声とともにドタバタと人の走る音が響いてきた。


「お父さん」


 リムルさんの呟きとともに現れた男性が、リムルさんに抱きついている。髪は茶髪だけど、ゲルグさんによく似た男性だった。


「リムル、よく帰ってきた。……なんだっ、その指輪っ! オマエかっ! ワシは認めんぞっ!」


 リムルさんに抱きついたお義父さんは、目聡くリムルさんの婚約指輪をみつけると、俺に向かって怒鳴ってきた。


「すみません」


 俺がすぐに謝ると、


「いや、構わん。1度、言ってみたかっただけだ。それに、ワシのリムルが選んだ男だ。間違いないんだろ?」


 普通のテンションに戻ったお義父さんが、俺の目をジッと見つめそう尋ねてきた。


「はい」


 俺は、お義父さんの目を見つめ返し、一言だけ返した。……前世の結婚のときも、お義父さんは何も言わず認めてくれたけど、きっとこんな気持ちだったのかもしれないね。ご期待を裏切って、すみませんでした。


「しかしなぁ、人間族とはなぁ。母さん、ゲルグ爺さんにはなんて言おう」


 お義父さんは急に弱気になって、お義母さんに相談を始めた。


「ん、大丈夫。ケイさん、お爺ちゃんと仲良し。問題ない」


 リムルさんがそう言ってくれたが……そうだよね。ゲルグさんは人間族のことが嫌いで、デス諸島に移り住んだくらいだからね。


「そ、そうなのかっ! さすが、ワシのリムルが選んだ男だ。歓迎しようっ!」


 そう言ってお義父さんは、俺の背中をバシバシと叩いた。……安心したのはわかるけど、力が強いから痛いんだよね。


「そうだったんですね。ゲルグさんに認められた人なら、本当に間違いがないですね。……リムル、2階の部屋、好きに使っていいから、ご案内しなさい。お湯を用意しておくから」


「ん、わかった。でもお湯はいい。ケイさんが用意してくれる」


「そうなのかっ! さすがワシの息子だっ! 母さん、みんな呼んで宴会をしよう。ワシはみんなに声をかけてくる」


 お義父さんはそう言うと、外に走って出ていってしまった。


「お父さんったら、浮かれちゃって。さぁあ、どうぞ。上にあがって、ゆっくりしてください」


「すみません、お邪魔します」


 お義母さんに勧められるまま、2階に上がり、複数ある中の1室に入った。



 いつものように、みんなで汗を流していると、


「ケイさん。今日は私が料理をする」


 リムルさんが言ってきた。


「俺も手伝いますよ」


「駄目。ケイさんが作ると、私の成長がみんなに伝わらない。だから、ケイさんは蒸留酒だけ作っておいて。アゼルは、ケイさんを手伝って。マリアは、私を手伝ってほしい」


「そういうことなら、構いませんが」


 そう言って俺が頷くと、アゼルさんもマリアさんも頷いていた。



 汗を流し終わり、リムルさんの家の庭に出ると、すでにお義父さんやお義母さんをはじめ、何人かの女性がテーブルやイス、篝火の用意などをしていた。


 なかには、高齢にみえる女性がでかい木の机を1人で運んでいるシュールな光景もみることができた。と、その女性が、


「おうおう、アンタがリムルの旦那かい。いい男じゃないか。ついでに、この婆ぁも貰ってくれんか。はっはっはっはっ!」


 でかい机を抱えたまま、冗談まで言っている。……冗談だよね?


「駄目。ケイさん、早く、あっち行って。このお婆ちゃん、面倒くさい」


 リムルさんが、俺の背中を庭にある小屋のほうに押しながらそう言ってきた。


「ケイです。よろしくお願いします」


 リムルさんに押されながらも挨拶だけはして、酒蔵らしき小屋に向かった。……さすがドワーフ族だね。家に酒蔵まであるんだね。

 アゼルさんと一緒に小屋へと向かってる途中、後ろでは、


「ほれっ、あの子もいいって言っておるではないか。はっはっはっはっ!」


「違う。今のは、ただの挨拶」


 お婆さんとリムルさんが言い争っているが、たしかに面倒くさそうだね。でも、リムルさんに任せておけばいいだろう。



 小屋の中から芋酒や麦酒などの穀物酒を運び出し蒸留を始めたが、少し気になっていたので、アゼルさんに聞いてみた。


「この村の人達は、俺に対してあまり悪意を向けてこないように感じるのですが、アゼルさんはどうですか?」


「いや、そんなことはない。かなり警戒されている。リムルの両親もゲルグさんの話がでるまではケイのこと警戒してた」


 悪意ではなく、警戒か……


「じゃあ、マリアさんは大丈夫なんでしょうか?」


「そこまで心配ないし、マリアは気付いてる。うまくやるだろう」


 そうだね。マリアさんなら大丈夫だろう。


「ところで、アゼルさんはどこまで人の心がわかるのですか?」


「ああ、ワタシはルシフェル様ほどわからない。相手の感情ぐらいだ。元から苦手だったんだ」


 そうだったんだね……



 夕暮れのなか篝火が焚かれ、宴会が始まった。


 30人ぐらい集まっている。女性はそれぞれ少しずつ違うように思うが、男性はみんな、ゲルグさんに似ているような気がする。違いといえば、髪と髭の色ぐらいだろうか。歳を老いていくほど、白くなっていくのだろう。


「ビールを冷やすと旨いなぁ」


「これ、リムルが作ったのか。成長したな」


「ほら、あの人よ。リムルちゃんの旦那さん」


 みんな口々に楽しそうに喋っていたが、ビールを一通り飲み終わり、蒸留酒に変わりだしたころ、空気が凍りついた。……なんか、失敗したのか。


「ケイっ! なんだコレっ!」


 お義父さんが怒鳴ってきた。


「すみません。お口に合いませんでしたか?」


 恐る恐る聞いてみたが、


「いや、旨いっ!」


 旨いのかよっ! めっちゃビビったじゃねぇかっ!


「良かったです。氷で割るのもいいですよ」


 ロックも奨めてみたが、


「いや、これは、でやるほうが、絶対いいはずだ」


 お義父さんの言葉に、みんな頷いている。……やっぱり、みんな酒飲みだね。


「ケイって言ったか。これはすぐにできるのか?」


 別の男性が聞いてきた。


「樽3本が1本になるんですが、30分ぐらいでできると思います」


 俺がそう答えると、


「そうか。頼む、作ってくれっ!」


 その男性は頭を下げて頼んできた。


「俺も頼むっ!」


「うちもよっ!」


「ケイ、俺も頼むっ!」


 みんな、一斉に俺に頼んできたが……


「ちょっと待ってっ!」


 珍しくリムルさんが怒鳴ると、一瞬で静かになった。


「作ってもいい。でも条件がある」


 リムルさんが立ち上がり、そう言って周りを見渡した。みんな黙って頷いている。……リムルさんって意外とこんなこともできるんだね。


「ケイさんは、私達に作って欲しいものがある。それが条件」


 リムルさんがそう言うと、お義父さんが尋ねてきた。


「リムル、何を作ればいいんだ?」


「ひとつ、馬車の改造。ふたつ、大きな鍋。みっつ、大量の食器よ」


「そんなことでいいのか?」


 リムルさんの要求に、お義父さんが確認している。


「もちろん、タダよ」


「そんなの当たり前だ。……おいっ、みんなっ。やるぞっ!」


「「「「おおおおっ!」」」」


 お義父さんの掛け声、みんな拳を突き上げていた。



 その後は宴会を続けながらも、お義父さんが中心となって、俺の要望をひとつひとつ細かく確認し、集まっている人達に仕事を割り振ってくれた。……この辺りは、さすが職人だね。


「リムルさん。もしかして、最初からこのつもりだったんですか?」


「そう。上手く交渉すれば、みんなタダでやってくれる」


「いいんですか?」


「みんな喜んでる。問題ない」


 まぁ、お酒の蒸留はやらないといけないと思っていたし、タダなら俺も有難いんだけど……


 俺が申し訳なく思っていると、


「ケイ。みんなの警戒が解けた」


 アゼルさんが教えてくれた。


 リムルさんが草原で言ってた通り、みんな、お酒で心を開いてくれたんだね……


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