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第7話

 マリアさん達から、俺が意識を失っていた10日間の話を聞いた後、少し眠っていたようだ。……もう万全だと思っていたのに、何でだろう?


「ケイさん、休まれているのですか?」


「まだ、本調子ではないのでしょう」


 キアラさんとマリアさんの会話が聞こえ、目を覚ました。



「キアラさん、お帰りなさい」


 体を起こし、キアラさんに声をかけた。


「ケイさん、もう大丈夫なんですか? 横になっていてください」


 キアラさんが慌てて俺を寝かそうとするが、さすがにもう大丈夫だろう。


「いえ、もう大丈夫です。……キアラさんもすみません。俺が寝ている間、お世話をしてくれてたんですよね」


「あっ! い、いえ、ケイさん、す、凄かったですっ!」


 顔を真っ赤にして、キアラさんが答えてくれたが……


「キアラっ! 駄目。ケイさんには秘密だって約束したでしょ」


 リムルさんが、キアラさんを止めた。……秘密ってなんだ? いや、今は忘れよう。


「キアラさん。教皇様は、何か仰っていましたか?」


「あっはい。もしケイさんの体調が良ければ、明後日に会いたいと仰っていました。大丈夫ですか?」


「ええ、明後日なら問題ないでしょう。こちらから、伺えばいいのでしょうか?」


「いえ、迎えの方が来られるようです。もし無理でも、その方に伝えればいいと仰っていました」


「そうですか。じゃあ、それまで暇ですね。何か依頼でも受けますか」


 そう言って立ち上がろうとすると、全員に抑えられた。


「何を言っているのですかっ!」


 マリアさんが真剣な顔をしてそう言った。他のみんなも怒っていそうだね。



「キアラさん、教皇様とお会いするのに、何か礼儀作法とかありますか?」


 確認しておかないとね。


「いえ、今回は謁見ではなく、ご自宅での面会だとお聞きしました。ですから、マリアさんもリムルさんもアゼルさんも来るように言われていますので、礼儀作法とかは必要ないと思います」


「そうですか、なら最低限でも問題なさそうですね」


 その後もみんなで少し話をしていたが、



「久しぶりに、みんなで汗を流しましょう。ケイさん、タライを出してください」


 マリアさんが提案してきた。


「では、すぐにお湯を沸かしますね」


 タライを出して、お湯を沸かそうとすると、


「いえ、ケイさんは、休んでいてください。キアラと私で用意しますので」


「でも……」


 俺が渋っていると、


「このサイズで、サタン様のタライなら大丈夫なはずです」


 マリアさんは、こう答えた。……このサイズ? サタン様のタライ? はず?


 そして、マリアさんがタライに手をかざすと、


「マリアさん、ちょっと多いですよっ!」


 キアラさんがそう言ってるが、たしかに多いよね。水が溢れそうだからね。


「大丈夫です。少ないよりもいいのです。いいですか、キアラ。いきますよっ!」


「はいっ!」 


 キアラさんとマリアさんが、水に手をかざし魔力をこめると、


「マリア、強すぎますっ!」


「いえ、これ以上は無理です。キアラが頑張って」


「無理です。アゼル、手伝ってくださいっ!」


「わかった」


「アゼル、強すぎます。ちょっと止めてくださいっ!」


「わかった」


 なんだ、これっ!? タライの水が凍結と沸騰を繰り替えしながら、物凄い勢いで水蒸気が出てるんだけど……

 それに、いつの間にか、アゼルさん。身体強化以外の魔法もできるようになってるし。



「リムルさん。もしかして、いつもこんなことしてたんですか?」


 不安になったので聞いてみた。


「違う。1回だけ。借りたタライがすぐ壊れた」


 そりゃそうだよね。こんな温度差に耐えられるタライなんか、普通、ないからね……



「できました。どうですか、ケイさん。私達も成長しているのです」


 マリアさんが、大きな胸を張って言ってるけど、室内でやるのは危険じゃないか……でも仕上がりは、量も温度も良さそうなんだよね。いい具合に蒸発したのかな。


「あっ、はい。お疲れ様です……」


 なんか見てるだけで疲れたんだけど、次からは俺がやろう。



「ケイさん。すみません」


 マリアさんが、俺の体を擦りながら、謝ってきた。


「何がですか?」


「あのう、ケイさんが倒れたとき、ケイさんのローブを出そうと勝手に魔法袋を開けて探したんですけど、出てこなくて、慌てて全部出してまったんです」


「いえ、構いませんよ。ありがとうございます。でも、ゴミしか入ってなかったでしょう」


「そうなんです。ケイさんの魔法袋、本人しか取り出せないのですね。さすが魔王様の魔法袋ですね」


「ええ、そうなんです」


 ホントは、違うんだけどね……闇魔法や管理者に関しては、まだ言わないほうがいいだろうけど、アンジュや戦争のことは、みんな、もう係わっているし、教皇様に会う前に話しておくほうがいいだろうね。




 翌々日、教皇様の使者が来た。


 使いの人が乗ってきた馬車に揺られ、教皇様の自宅らしき屋敷の玄関に到着した。……警備の人は物々しいけど、意外と質素な見栄えなんだね。


 屋敷の中に入るとき、外套を脱ぐように言われた。……俺も危険だけど、教皇様も危険だからね。


「鬼人族っ!」


 後ろのアゼルさんが帽子も取ったのだろう。御付の方が驚きつつも警戒の声を上げた。


「あのう、アゼルは、ここに残しておきましょうか?」


「いえ、申し訳御座いません。ケイ様の関係者、すべての方に来て頂くよう申し付けされておりますので」


 俺が確認すると、御付の方が丁寧に頭を下げて、そう言った。……でも、このクラスの人になると、鬼人族を知っているんだね。


 その後、教皇様のいる部屋まで案内された。そして、部屋の中に通されると、執務室のようだった。


 正面の大きな机の席に腰掛けた女性が、にこやかに出迎えてくれた。この人が、教皇様なのだろう。……見た目は20代後半ぐらいだろうか、意外に若そうだね。


「良くぞ、来てくれた、ケイ。そして、その仲間達よ」


 俺の横で、キアラさんが、片膝を付き、手を合わせ、指を組み握り合わせ、頭を下げていたので、それに倣おうとすると、


「いや、構わん。君は光の神の信者ではない。それに、キアラも面を上げよ。今日は、私的な集まりだと言ったであろう」


「すみません」


 キアラさんが立ち上がり、頭を下げた。


「お前達も、もう下がってよい」


 教皇様が、お付の方や警護の方に下がるように言ったが、


「いえ、しかしっ!」


 その中の1人の男性が、アゼルさんとリムルさんのほうを向いて、教皇様の言葉を否定したそうにしている。……異教徒な上、他種族だからね。


「構わん。もし私が死んでも、お前達は何も困らんだろう」


「いえ、そのようなことは決して……」


 教皇様の言葉に、その男性は口篭りながらも、しぶしぶ出て行った。その後に続いて、残りの人達も出ていった。


 教皇様は、こんな近くにまで政敵がいるんだろうか?……この国も大変そうだね。


 この部屋から出て行くべき人が全員出て、扉が閉められたところで、消音結界がはられた。きっと、教皇様だろう。


「ケイです。あと、こちらから、マリア、リムル、アゼルです。宜しくお願い致します」


 俺とキアラさんの後ろに並んでいた、3人を紹介しつつ、みんなで頭を下げた。……この場合、キアラさんは、どちらになるんだろう? わからないので、とりあえず、向こう側にしておいた。キアラさんは1度、礼を済ませているしね。


「ああ、こちらこそ、宜しく頼む」


 教皇様は、机の上で指を組み、にこやかにそう言ってくれたが、こういう人って、こんな時でも、いや、こんな時だからこそ、絶対に頭を下げないよね。


「まずは、謝らなければならない。アンジェリーナを取り逃がした」


「えっ!」


 教皇様の言葉だけの謝罪の内容に、思わず声を上げてしまった。


「いや、取り逃がしたと言うよりも、最初からあそこ居た兵達は、アンジェリーナの仲間だったようだ」


 なるほど、だから、あんなに早かったんだね。


「後、礼も言わせてくれ。反教皇派の策略を止めてくれて、ありがとう」


「いえ、私のした事が、このような結果となり、申し訳御座いませんでした」


 教皇様が頭を下げなくても、俺は頭を下げないとね……


「いろいろ聞いてはいたが、本当、君は喰えないね。キアラも、後ろの3人も、まったく動じないし、いい信頼関係を築いているのだろう。まったく、羨ましいよ」


「いえ、私には、出来過ぎた者達です」


 ちゃんと前もって、話しておいて良かったよ。……俺が動揺しちゃったけど。



「まぁあ、前置きはこれくらいでいいだろう。ケイ、キアラと婚約してくれないだろうか?」


 えっ!……婚約っ!?


 キアラさんも聞いていなかったのだろう。驚いているようだ。後ろの3人も、少し動いたような気がする。


「あの、ご説明して頂けるのですか?」


「ああ。もちろんだよ。取引だと考えてくれて構わない。後ろの鬼人族の子、アゼルと言ったかな。心が読めるのだろう。私が嘘を言ってたら、止めてくれて構わない」


 そこまで調べていたのか? いや、見ただけでわかるのか?……どちらにしても強気だよね。たぶん、断れないんだろうね。


「わかりました。ご説明、お願い致します」


「ありがとう。君がどこまで知っているのか、わからないので、順番に説明させてもうよ。まずキアラは、聖女になるために、この国に残りたいと言っている。しかし、この国で聖女になるという事の意味を、キアラは、まだ理解していない。……でも、ケイ。君はわかっているね?」


「はい。婚姻も含め、政治利用されるで、宜しいですか?」


 俺の答えに、キアラさんが驚いているが、知らなかったのだろう。


「そのとおりだ。これは私の力でも、どうにもならないのだ。この国の意思だからね。

 しかしだ。もし、すでに婚約している場合はどうなると思う?」


 なるほど……でも、


「この国でも、女性の重婚は認められていないのですか?」


「もちろんだよ。私達の信仰する光の神の意思……言ってしまえば、この国の意思だね。とステータスカードを司る神の意思は別だからね」


 おいおい、いいのか? 教皇様がぶっちゃけちゃったよ。


「少なくとも婚姻に関しては、キアラさんの意思を尊重できるということですね」


「そのとおりだ。そして、キアラは、ケイ、君との婚姻を望んでいると思う。……キアラ、勝手に決められた誰とも知らない男と結婚なんかしたくないだろう?」


「……はい」


 キアラさんが顔を赤くして答えた。


 汚ねぇ……誘導尋問じゃねぇかっ!


 後ろを振り向いたけど、アゼルさんが首を横に振った。


「どうだろう、ケイ。君が頷いてくれると円く納まると思わないかい?」


「待ってください。今の話のどこに取引があったのでしょうか?」


 だよね? 今の話は、一方的過ぎるよね?


「すまん、すまん。忘れていたよ。キアラの身の安全を、私のできるかぎり保証しよう」


「具体的にお聞きしても構いませんか?」


「もちろんだよ。キアラには、教皇であるこの私の付き人になってもらう。そうすれば、四六時中、私と一緒にいても不自然じゃないからね。それに、私が直々にキアラの鍛錬に付き合おうと考えている。どうだろうか?」


 たしかに、好条件だ。たぶん、この人、強いだろうし、キアラさんもこの人に憧れていそうだしね。……でも、婚約かぁ。


「いくつか、お聞きしてもいいですか?」


「もちろんだよ。なんでも聞いてくれたまえ」


 もう完全に負けているんだけどね。


「どうすれば、聖女として認められるのですか?」


「ああ、簡単だよ。聖女の加護を持っている者が名乗ればいいだけだよ。だから、キアラは、いつでも聖女になれるのだ。でも、キアラは聖女になりたいのではないのだよ。聖女としての力を欲しがっているのだ。だから、私とともに鍛錬することは、キアラが望んでいることでもあるのだよ」


 この辺の話は、キアラさんと、もう済んでいるのだろう。


「ということは、世間で言われている聖女の杖は何なのですか?」


「あんなのタダの飾りだよ。少なくとも、今いる聖女の中で使える者なんていないよ。もちろん、私も含めてね。それに、今、どこにあるんだったっけ?……そうだっ! シュトロハイム王国に嫁いだ聖女が持っているはずだね。その程度のものだよ」


 使えないのかよっ!……でも、だからと言って、その杖が古代遺物でないとは言い切れないんだよね。


「あと、キアラさんの危険性は、どの程度だとお考えですか? キアラさんは、セシール・ルヴォフ司教のいる反教皇派に属しているのですよね?」


「いや、違うよ。キアラは、まだ無所属だ。あと聖女を名乗った瞬間から、キアラ派だ」


 えっ!


「キアラさん、そうなんですか?」


「私、何派とか言われても、わかりません」


 ああ、そうなんだね。たしかに、無所属だね。というか、無党派層?


「わかりました……」


 困った……なんて答えよう。



「教皇様、発言をお赦し下さい」


 俺が黙って考えていると、マリアさんが教皇様に許しと願い出た。


「マリアだったかな。もちろん、構わない。今は、私的な場だ。遠慮することはない」


「有難う御座います。……ケイさん、お願いです。キアラと婚約してください」


 マリアさんの言葉で、俺とキアラさんが振り返った。


 振り返ると、マリアさんもリムルさんもアゼルさんも頷いている。


「で、でも、アリサとの約束が……」


 キアラさんが口篭りながらそういったけど、アリサさんとの約束?


「大丈夫です。ケイさんには、アリサさんや私達も含め、全員と婚約してもらいます。これなら、アリサさんとの約束も破ったことにはなりません」


「そ、そうですね。みんな、一緒ですっ!」


 キアラさんが明るく返事をし、みんなと頷きあっている。


 なるほどね。だから、この3人も一緒に呼ばれたんだ。さすが教皇をやっているだけのことはあるね。


「どうかね。話は纏まったかい?」


 教皇様が聞いてきた。……うん、教皇様、今日一番の笑顔をしているね。


「はい、教皇様のご提案、謹んで御受け致します」


「うん、ありがとう。でも、いい取引だっただろう?」


 たしかに、悪くないんだけど……


「そうですね。……あと、どうすれば、婚約になるのでしょうか?」


「簡単だよ。教会に行って手続きすればいい。今から行ってきて」


 なんでこの人、こんなに軽いんだ。まぁ公的な場では、ちゃんとしてるだろうし、こんな人のほうが安心してキアラさんを任せられるか。……あと、キアラさんが俺といるよりもこの人といるほうが、安全ぽいのも悔しいよね。



 その後、教皇様が用意してくれた馬車で、教会に向かった。


「キアラさん、教皇様の付き人になるみたいですが、よかったのですか? 以前、子供やお年寄りのお世話をしたいと言っていましたが」


「はい、子供やお年寄りのお世話をするためにも、護る力が必要です。私は、より多くの人を救うために力を身に付ける必要があるんです。もちろん、ケイさんが一番です」


 うん、立派なことを言ってるけど、あの教皇様に吹き込まれたんだろうね。……ただ、何も間違っていないから、否定できないんだよね。


「ケイさんも悪い。あんなドジ踏まなければよかった」


 リムルさんのツッコミが入った。


 ホント、そうだよねぇ……

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