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第6話

 賑やかだった広場に、俺達を中心として、静寂が広がっていった。


 さっきまで、笑顔を浮かべていた子供達も表情をなくし堅まっている。何が起こったのかわからないのだろう。……俺もわからないけど。


「あっはっはっはっ! 全部、全部っ! お前のせいだっ!」


 静寂のなか、俺のわき腹にナイフを突き刺した修道女が高笑いを上げ叫んでいる。……アンジュかっ!


 とその時、


「駄目だっ! アゼルさんっ!」


 大太刀を抜刀し斬りかかろうとしているアゼルさんとアンジュの間に体を入れ、そう叫ぶので精一杯だった。……ヤバい、毒か!? 意識がとびそうだ。


「なぜだっ、ケイっ! どけろっ!」


 アゼルさんも叫んでいる。


「駄目です。あの人は悪くない。俺が悪いんです」


 思考が止まりそうだ。説明する余裕もなく、こう答えるしかなかった。


「マリアさんっ! 駄目ですっ! 毒ですっ!」


「えっ!」


 俺の声に、わき腹に刺さったナイフを抜こうしてくれていたマリアさんの手が止まった。


「そうよっ! そのナイフには、毒が塗ってあるの。もうお前は、死ぬのよっ! あっはっはっはっ!」


 アンジュは、すでに兵士達に取り押さえられ、狂ったように叫んでいるが、兵士なんてどこにいたんだ……わからない。


 子供達が泣き始め、周りも騒然としだしているが、なぜか、遠くで騒いでいるようにしか聞こえない……


 もう気にしている余裕もないので、刺さったままのナイフを空間魔法で異空間に取り込んだが……


「ケイさんっ! 私の解毒魔法じゃ効きませんっ! どうしたらいいですかっ!」


 キアラさんが、泣きながら叫んでいる。


「お前程度の光魔法で、その毒を消すことなんかできるわけないだろう。それは、エイゼンシュテイン王国で研究されていた、対魔族ようの毒だ。聖女でも、無理なんだよっ! あっはっはっはっ!」


 アンジュも、叫んでいる。


「そ、そんな、そんな研究、とうの昔に……」


 マリアさんが呟いている。



 が、もう限界だった……




 目が覚めると、前日に泊まった宿の部屋だった。


 “前日”……なのか? 頭がはっきりしない……


「「ケイさんっ!」」

「ケイっ!」


 マリアさん、リムルさん、アゼルさんが、俺を呼んでいるような気がする……



「はっ! みなさん、おはようございます」


 意識がはっきりしてきたので挨拶したけど、マリアさん、リムルさん、アゼルさんの3人が全裸の俺に泣きながら抱きつき、何も答えてくれない。……俺、なんで全裸なんだ!?


 しばらく、そのままにしていたが……あれっ!?


「マリアさんっ! キアラさんはっ!?」


 慌ててマリアさんの肩を掴み、顔を上げさせて尋ねると


「え? あっ! キアラさんは、教皇様のところです。大丈夫です。ケイさんが心配しているようなことは何もありません」


 良かった……でも、俺が問題を起こしたことは事実だし、キアラさんやこの国の人達に迷惑をかけたことだけは間違いないだろう……


「いけませんっ! ケイさんは何も悪くありません。教皇様もここに来られた時、そう言っておられました。悪いのは、あの女ですっ!」


 俺がネガティブな思考に入りかけたのを察したのだろう、マリアさんが止めてくれた。リムルさんも、アゼルさんも頷いている。


 教皇様がここに来た? いつ?……いや、そんなことよりも、みんな、アンジュを怨んじゃいけない……


「あのう、いくつか聞きたいことがあるのですが……」


「駄目です。まだ、安静にしていないと……」


 マリアさんはそう言うと、まだ横になっていた俺に抱きついてきた。


 しばらくすると、3人とも俺に抱きついたまま寝てしまった。きっと、ずっと看病してくれていたのだろう。




 ……俺は、甘かったのだろう。


 前世でも、黒龍の森でも、アーク学園都市でも、ただ周りの人達や環境に守られていただけなのに、自分の力だと過信し、少しぐらいは自分でもできると思っていた。一度、学園長に言われたのに、何もわかっていなかった……


 馬車の操り方も知らず、通行料のことも知らず、目的地の行き方も知らず、宿の泊まり方も知らず……


 それに、アンジュのこともそうだ。俺のことを怨んでいることぐらい、考えればわかることなのに忘れていた。きっと俺のことを怨んでいる人は、アンジュ以外にも大勢いるはずなのに……


 何か見えないものに対して警戒はしていた。いや、警戒しているつもりになっていただけか……みんなには気を引き締めるように言っていたのに、一番、気を引き締めていなかったのは俺なのだろう。調理中は仕方ないにしても、せめて片付けのときぐらい、サタン様のローブを着ていれば……


 それにクロエさんの小太刀にも出てこないようにお願いした後、そのままだった。サタン様もクロエさんも、俺の安全のために、せっかく用意してくれたのに……



 3人とも寝ているので、1人考えこんでいると、静かに扉が開いた。


「キアラさん、お帰りなさい」


 俺が声をかけると、


「ケ、ケイさん、ごめんない。わ、私が悪いんです……私がわがまま言ったから……」


 キアラさんは、俺に抱きつき、そう言って泣き出してしまった。



 キアラさんの何が悪いんだろう? キアラさんは、何時、わがままを言ったんだろう?


 キアラさんが帰ってきて、3人が起きだした。


「マリアさん、キアラさんは、なぜ俺に謝るのですか? 俺が悪いのに……」


「ああ、えーと……」


 マリアさんの歯切れが悪い。


「すみません、起きたばかりなのに」


「いえ、違うのです。キアラは、ずっとこの調子なのです。私達がキアラは悪くないといくら言い聞かせても、聞いてくれないのです。ここに教皇様が来られてからは、特に……」


「教皇様……あの、俺が気を失ってからの話をしてもらってもいいですか?」


「そうですね。そのほうが早いでしょう。でも、ケイさんは大丈夫なのですか? もう10日も寝たきりだったのですよ」


 10日か……昨日じゃないとは思っていたけど、けっこう経っていたね。


「ええ、万全とは言えませんが、話をするくらいは大丈夫です」


 ホントは万全なんだけどね。俺には闇魔法の吸収があるから、森や都市など生物の多い場所では、ほとんど食べる必要がないからね。


「ケイさんは、この10日間、衰弱していくというよりも、少しずつ回復されていましたので大丈夫だと思うのですが、無理をなさらないでくださいね」


「はい、ありがとうございます」


「まず、ケイさんが倒れた後のところからで宜しいですか。あのときのことは、私も混乱していて記憶が定かではないのです」


 俺が頷くと、マリアさんが続けて話してくれた。


「ケイさんが倒れた後、ケイさんを刺した修道女は、兵士が拘束し連れ去りました。その後すぐに、司祭のレイラ様が病院を手配すると言ってくださったのですが、アゼルさんが頑なに拒みましたので、みんなでここに運びました」


「すまん、レイラというヤツは信用できるが、後ろにいたヤツはダメだった」


 アゼルさんは、そんなことまでわかるんですね。


「アゼルさん、ありがとうございます。マリアさん、続きをお願いします」


「はい。その後、何人かの治癒師の方に来て頂いたのですが、解毒は無理でした。でも、ケイさんの容態は3日程で落ち着きました。そして、その次の日に教皇様がここに来られました」


「教皇様は、何と?」


「“私達の国の問題に巻き込んで申し訳なかった”と仰ってくださいました。そして、別室でキアラさんと話された後、お帰りになられました。

 その後、ケイさんは少しずつ回復されていましたので、キアラは、教皇様の力でケイさんが良くなったのだと考えているはずです。……そうですね、キアラ」


「はい、今の教皇様は、聖女の加護をお持ちです。聖女でもあるんです。

 私が、聖女になりたくないとわがままを言って修練を怠ったから、ケイさんが死ぬような目にあったんです。私がちゃんとやってれば、ケイさんは苦しい思いをしなくても、よかったんです。全部、私が悪いんです。

 だから、私は決めました。もう逃げません。また、もしケイさんが傷付いても、絶対に癒せるように、必ず聖女になります。

 まだ、ケイさんの心も癒せないですが……絶対になるんです……」


 キアラさんは、そこまで言うと、また泣き出してしまった。


 なるほどね。……うーん、でも困ったね。聖女を目指すのは、悪くないと思うんだけど、理由がねぇ。


「マリアさん、リムルさん、アゼルさん、どうなんでしょう? 教皇様の力で、俺は回復したんでしょうか?」


 俺の問いかけに、3人が首を横に振っている。……そうだよね。俺も違うと思うんだよね。


 少し考えていると、


「私、教皇様に報告してきます」


 急に顔を上げたキアラさんがそう言って、扉に向かおうとしたところで、


「待ってください、キアラさん」


 呼び止めてしまった。


「はい、何でしょう?」


 キアラさんが止まって振りかってくれたが、何も考えていなかったんだよね。


「アゼルさん?」


 自分でも、なぜかわからないけど、アゼルさんに聞いてみた。


 アゼルさんは、ただ1度、頷くだけだったが……


「キアラさん、教皇様に宜しくお伝えください」


 俺から出てきた言葉は、これだけだった。


「わかりました」


 キアラさんは笑顔で答え、部屋から出ていった。



「宜しかったのですか?」


 キアラさんが出ていった後、マリアさんが尋ねてきた。


「アゼルさん、教皇様は、大丈夫なんですよね?」


「ああ、教皇は大丈夫だ」


 また、微妙な言い回しですね……



「ケイさん、ゴメン。私、何もできなかった……」


 ずっと黙っていたリムルさんが、俺に謝ってきた。


「何を言ってるんです。何もしないように我慢してくれていたのでしょ。こちらこそ、気を使わせて、すみませんでした」


 リムルさんはドワーフ族だからね。この国では、ただの一言でも、どんな問題になるかわからないからね。


「そうです。リムルも、寝たきりのケイさんのお世話、頑張っていたじゃないですか」


 マリアさんが、リムルさんのフォローをしているんだろうけど、寝たきりの俺のお世話っ!……たしかに、体もシーツも綺麗だね。って普通、ありえないよね。


「すみません。そんなことまでしてもらって」


「何を言っているのですか、ケイさん。私達は言いましたよね。“ケイさんの身の回りの世話をする”と。ケイさんが謝る必要などないのです。私達が好きでやっていたことなのですから」


 マリアさんの言葉に、リムルさんも、アゼルさんも頷いている。……が、3人とも、少し顔が赤い……まさかっ!


「リムルさんっ!?」


「うふふっ、内緒っ。……でも、1つだけ教えてあげる。ケイさん、元気だったよ」


 マジかっ! いや、まだ、どこまでか、わからないし……


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