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第5話

 俺の前世であったことを告白して、数日が過ぎた。

 キアラさんを膝に乗せて、馬車を走らせていると、アゼルさんが話しかけてきた。


「ケイ、そろそろ警戒してくれ。この辺りからカステリーニなんだ」


 そういえば、少し前から魔物や動物の反応が増えてきているね。


「では皆さん。おさらいをしておきましょう。今回は討伐依頼ではありませんので、避けられる戦闘はすべて避けて進みます。

 でももし戦闘が避けられない場合は、最初にキアラさんが、全員に防御強化魔法をかけてください。次に、マリアさんの魔法で敵の足止めをしてもらいますが、マリアさんとキアラさんの魔法が完成するまで、アゼルさんは、敵を威嚇し、注意を引き付けてください。マリアさんの魔法が上手くいけば、俺とアゼルさんで殲滅します。リムルさんは馬を頼みます。危険だと判断したら、乗って逃げてください。

 あとは、その都度、俺が指示します。いいですね」


 俺の言葉に、みんな頷いてくれた。


「あの、ケイさん。気になっていたいのですが、ケイさんの索敵範囲ってどのくらい何ですか?」


 マリアさんが尋ねてきた。


「今は2kmぐらいです。地下はそれほど深くまで無理ですが」


 “探知魔法”は、常に使ってるから、もう少し広げれるようになってるんだけど、俺の処理能力が追いつかないんだよね。


「えっ! それじゃあ……」


「ええ、まず不意打ちを喰らう心配はありません。ただ、いつでも動けるように心の準備だけはしておいてください」


「ケイさん、凄いです」


 キアラさんが俺の膝の上で無邪気に賞賛してくれるけど、あまりはしゃがないでね。慣れてきたとはいえ、催してくるから。あと、お尻で少し確認してから嬉しそうにするのも止めてね。みんなにバレるから。



「ところで、アゼルさん。他のみんなは、それなりに収入があったのでお金を持っていると思うんですが、アゼルさんは大丈夫なんですか? うちにいる間、働いていませんでしたよね?」


「ああ、心配するな。以前の貯えもあるし、今回はマスターの依頼も受けてる。あと、鑑定スキルを持っているから、商業ギルドの仕分けの依頼とかは受けていたんだ」


「ならいいのですが」


 知らない間に、ちゃんとやっていたんですね。



 結局、1度もまともな戦闘がないまま、最初の目的地であるカステリーニ教国の首都ロワール・サント・マリーに着いた。……アゼルさんの威嚇、怖いからね。低ランクの魔物じゃ、向かい合った瞬間に逃げ出してしまったんだよ。


「さすがに賑やかですね。まずは宿に行きますか?」


 俺がみんなに尋ねると、


「いや、まず商業ギルドで馬車を返そう。ここから船で川を渡るから馬を代えるし、しばらくここで稼ぐのだろう。馬の宿代もバカにならない」


 アゼルさん、計算が苦手って言ってたけど、ちゃんとできるんじゃないのか。


「そうですね。では商業ギルドに向かいましょう」



 商業ギルドで、アゼルさんの手続きを待っていると、


「ケイさん。私、まだ居てもいいんですか?」


 キアラさんが不安そうに聞いてきた。


「いいんですよ。最後にここでの依頼をみんなで受けましょう」


「そうです。キアラも、ずっと私達の仲間です。なんの遠慮も必要ありません」


 マリアさんが、俺の言葉に同意し付け足してくれた。


「ありがとうございます」


「ん」


 キアラさんのお礼に、リムルさんが答えている。ホント、みんな仲良くなってくれて良かったね。



「ケイ、コレ」


 アゼルさんが、俺達のもとに戻ってきて、お金の入った袋を俺に渡してきた。


「ちょっ、これ、なんですか!?」


 アゼルさんから受け取った袋が、明らかに重すぎる。


「馬の保証金とマスターの依頼の報酬だ」


「いくらあるんですか?」


「知らん」


「いや、その前に商業ギルドの依頼を受けたのは、アゼルさんですよね。それを俺に渡すのはおかしいでしょ」


「私は仲間じゃないのか?」


 そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ。何も言えなくなるじゃないですか。


「わかりました。とりあえず、俺が預かっておきます。まずは宿に向かいましょう」


「それでいい。ついてきてくれ」


 アゼルさんはそう言うと、商業ギルドを出て歩き出した。……良かった、機嫌を直してくれたみたいだね。



 宿に着いた後、すぐに、キアラさんが炊き出しの日の確認に行ってくれた。


「皆さん、聞いてください。ちょっとマズいことになりました」


「どうしたのですか?」


 俺の言葉に、アゼルさんもリムルさんも俺のほうに顔を向け、マリアさんが言葉を返してくれた。


「監視の目が多すぎて、俺の探知魔法が機能してません」


「えっ、キアラは大丈夫なんですか!?」


「キアラさんは、この国の保護対象です。何かあれば、この国が護ってくれるでしょう」


「そ、そうですね」


「ですから、皆さん。少し気を引き締めておいてください」


 俺の言葉に、3人とも頷いてくれた。



 お湯を沸かし、キアラさんが帰ってくるまでの間に、アゼルさんから預かったお金を数えてみると、250万Rだった。保証金が25万Rだったから、報酬は225万Rなんだろう……


「アゼルさん、いったい何を運んでいたんですか?」


「知らん」


「でも、これは預かり過ぎだと思うです。せめて、5人で分けませんか?」


「うん、それがいい。でも、1人いくらになるんだ?」


 ああ、やっぱり計算が苦手なんだね。感覚的に損か得かはわかるみたいだけどね。


「1人45万Rです。本当にいいのですか?」


「ああ、それでいい」


 アゼルさんが嬉しそうに笑ってくれているけど、それだけに、なんか騙している感覚になるんだよね。



「みなさん、ただいま戻りました」


 キアラさんが帰ってきた。


「キアラさん、お帰りなさい。これ、今回の報酬です」


「な、な、何ですか、この金額っ!」


 うん、そうだよね。おかしいよね。依頼を受けた覚えもないからね。


「アゼルさんが、商業ギルドで受けていた依頼の報酬なんです」


「でも、こんなにたくさんは……」


「いえ、5人で分けて、その金額なんです。受け取ってください」


「わかりました。アゼルさん、ありがとうございます」


「ワタシに礼を言うのは、おかしい。みんなで頑張った報酬だ」


「はい、そうですね」


 キアラさんは素直でいい子だね。



「それから、キアラさん。炊き出しの日はいつですか?」


「そうでした。明日なんですけど、大丈夫ですか?」


「何人前ぐらい必要なんでしょうか? 足りない分は、朝から買出しに行かないといけないのですが」


「材料や調理器具はもう用意できているので、作るだけで大丈夫です」


 調理器具っ! 忘れてたよ。炊き出しするんだったら必要だよね。あと食器も用意しないといけないよね。ここで予行練習ができることになって、ホント良かったよ。


「そうなんですね。でも忙しくなりそうなんで、早く汗を流して、ご飯を食べて、明日に備えましょう」



 次の日の朝食後、修道院の前にある広場に向かった。


 広場に着くと、すでに何人かの修道服を着た女性や手伝いらしき人達がテーブルやイスを並べたり、食材を運び込んだりしている。


「キアラ、こちらですっ!」


 年配の女性の声がしたので、そちらに向かうと、


「皆さん、本日は有難う御座います。私は、この修道院で司祭をしております、レイラと申します。……あなたがケイさんですね。キアラがお世話になりまして、有難う御座いました」


 修道服を着たレイラさんがそう言って、丁寧に頭を下げてくれた。


「ケイです、宜しくお願いします。キアラさんには、いつもこちらが助けてもらっていたのですよ。こちらこそ有難う御座いました。

 あと、こちらから、マリア、リムル、アゼルです。本日はご迷惑をお掛けするかもしれませんが、宜しくお願いします」


 そう言って、全員で頭を下げた。


「いえいえ、何を仰います。キアラからお聞きしていますよ、ケイさんの料理は大変美味しいと。私達も、昨日から楽しみにしていたのです。

 本日は、スープをお任せしたいのですが、宜しいでしょうか?」


「ええ、もちろんです。ご期待にそえるように頑張ります」



 挨拶も終わり、早速、料理に取り掛かることにした。


 ローブを脱ぎ、手を洗い、鍋と食材の確認から始めた。……アゼルさん、ちゃんと帽子を用意していたんだね。リムルさんも少し居心地が悪そうだし、この国は、人間族以外、住みにくそうだね。


「キアラさん、この鍋3つに作ればいいですか?」


「はい、いつもこれで作っていましたので、大丈夫だと思います」


 約30Lが3つか、ざっと500人分ぐらいなのかな。


「この豚肉も使ってもいいですか?」


「はい、ここにあるのは使ってもいいと言われています。何を作るんですか?」


「寒いですし、豚汁にしようかと思っているんですけど、いいですか?」


「はい、豚汁がいいですっ!」


「じゃあ、アゼルさんは、井戸から水を汲んできてください。キアラさんとマリアさんは、野菜を食べやすいサイズに切ってください。リムルさんは、火をおこしてください。火は保温に使いますから、弱火でいいです」


「わかった」

「「はい」」

「ん」


 みんな、返事をすると、それぞれに動き始めた。



 肉や魚のスライスは、半凍りぐらいがやりやすいので、豚肉を少し凍らせて削ぎ切りにしていると、


「ケイさん、氷魔法が使えたのですか!?」


 マリアさんが驚いてそう言った。


「でも、これぐらいが精一杯ですよ。戦闘では何の役にも立ちません」


「で、でも……」


 “私の存在価値が……”、マリアさんが何かブツブツ言っているが、まぁいいだろう。


 俺が豚肉を切り終わったところで、アゼルさんもリムルさんも手が空いたので、野菜を切るのをみんなで手伝った。……500人分って、半端ないからね。


 途中で鍋に水を入れ、ダシ用の昆布と鯛の薫製を入れておいた。……昆布は、水に付けて広がりきるぐらいでいいと思う。ねばりが出るほど付けておくと苦味も出るからね。


 切り終わった野菜を鍋に入れ、“加熱魔法”で、ゆっくりと温度を上げていった。……根菜類は、水から煮ないと煮えにくいからね。


「ケイさん。今回は、肉や野菜を炒めないのですか?」


 キアラさんが聞いてきた。……肉じゃがの説明、ちゃんと憶えていたんだね。


「ええ、そうです。豚汁は、汁も飲みますから、うま味がスープに出るほうがいいんですよ。今回は、ジャガイモを入れてませんが、ジャガイモは、別で湯がいて、後で足すと煮崩れしにくいですよ」


 ジャガイモを入れると、傷みやすくなるから、炊き出しのような大量に作って、残りそうなときは使わないほうが無難なんだよ。残ったものを棄てるのもったいないからね。


「煮物でも、いろいろあるんですね」


「そうですね。これという決まりはないと思うのですが、何時、誰が、どのように食べるか考えて作るといいですよ」


「そうですね」


 キアラさんの返事に合わせ、みんな頷いているけど、当たり前のことだよね。


 沸騰してきたので、昆布を取り出した。……昆布は、ダシが出切ると、その後、せっかく美味しくなった鍋のダシを吸うからね。食べるならいいけど、沸騰したら取り出してしまうほうがいいと思うよ。


 昆布を取り出した後、スライスした豚肉を入れ、アクを取った。……豚肉は、煮え過ぎると固くなって美味しくなくなるから、最後のほうに入れるほうがいいよね。


 後は、味を付ければ仕上がりなんだけど、豚汁だけでなく、味噌を使う汁物は味噌に風味と塩分があるから気を付けてね。風味が強いものは、それほど塩気を効かさなくても、美味しく感じるから、味噌を入れる前の下味は、薄め目でも大丈夫なはずだよ。味噌を入れた後に、味を足すこともできるしね。


 味噌を溶いて、味を調えた後、少しごま油を入れて、完成した。



 まだ、お昼まで時間があるのに、俺達が豚汁を作っていた場所には、少しずつ人が集まりだしていた。


「キアラさん、開始まで、まだ時間がありますよね?」


「司祭様に、聞いてきます」


 キアラさんはそう言うと、レイラさんのほうに走っていった。



「マリアさん。キアラさんと二人で、配膳をお願いしてもいいですか? リムルさんとアゼルさんには、裏方にまわってもらいます。俺は、両方のフォローをしますので」


「わかりました。そのほうがいいでしょう。キアラのためにも、問題を起こすわけにはいきませんからね」


 マリアさんの言葉に、リムルさんもアゼルさんも頷いてくれた。



 その後すぐに、炊き出しが始まった。


 忙しかった……


 お昼前なのに、1杯目の鍋が無くなったころ、


「ケイさん、申し訳御座いません。このままでは、最後まで足りそうにありません。追加を作って頂けないでしょうか?」


 レイラさんが、少し慌てながら尋ねてきた。いつもよりも、多く人が集まっているのだろう。


「もちろん、構いません。今、ひとつ目の鍋が空きましたので、作り始めますよ。あとは、様子を見ながら追加を作りますので、お任せください」


「そう言って頂けると助かります。ここはお任せしますので、宜しくお願いします」


 レイラさんは、少し表情は和らいだものの、また慌てて、俺から離れていった。


 結局、もう2杯、合計で6杯の豚汁を作ることになった。千人ぐらい来ていたのかもしれないね。

 パンも足りなくなったようなので、300個ほど提供した。みんな慌てていたからなのか、“たまたま、持ち合わせがありまして”と簡単に説明するだけで、納得してくれた。普通、焼きたてのパンを300個も、たまたま持ち合わせている人なんていないよね。



 残り物を食べた後、みんなで片付けをしていると、数人の子供を引き連れた修道女が俺に近づいてきた。


「本日は、有難う御座いました。この子達も大変喜んでおります。……さぁ、みんな、お兄ちゃんにお礼をいいましょう」


 修道女が、子供達に声をかけると、


「「「「お兄ちゃん、ありがとう!」」」」


 子供達が、笑顔でお礼を言ってくれた。……子供達の素直で純粋な笑顔って、癒されるよね。



 俺が、子供達に意識を向けた瞬間、


 “熱っ!”


 俺の左わき腹に、ナイフが刺さっていた。……シャルさんが言ってたこと、現実になっちゃったよ。


 

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