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第4話

 昨日は危なかったものの、なんとか乗り切ることができた。

 でも冷静になって考えれば、リムルさんは、俺を助けてくれたのかもしれないね……


 午前の移動中は昨日の予定どおり、女性陣は、女子会をしていた。それも消音結界まで使う念の入れようだ。

 こう何も聞こえないと、いろいろ妄想してしまうよね。いや、これもリムルさんの罠かも……



 昼食のとき、キアラさんとマリアさんが、俺と目が合うと少し恥ずかしそうにしていたけど、いったいどんな説明を受けたのだろうか。


 午後の移動が始まった。


「ケイさん。今日は私」


 リムルさんはそう言うと、当たり前のように俺の膝の上に座ってきた。

 リムルさんは、体が小さいのに、子供とは違う女性特有の柔らかい体をしていた。


 なるほど、ちゃんと大人なんだね。きっと爺やさんには、こういうことも見るだけでわかるのだろう。


「ん? 私の体でも反応してる」


 リムルさんが嬉しそうにそう呟くと、手綱を持って馬を走らせ始めた。


「リムルさん、馬の手綱、扱えるんじゃないですか?」


「もちろんできる。ケイさんに聞きたいことがあるから」


「聞きたいことですか……でもその前にワザとお尻を動かすの止めてもらえませんか」


「ゴメン。ケイさん、巨乳好きなのに、私にも反応してくれて嬉しくて、つい」


「たしかに、巨乳も好きですが……で、聞きたいことって何ですか?」


「なんで、我慢するの?」


「……」


 うん、ストレートだね。しばらく黙って考えていると、


「この世界は、一夫多妻が認められている。ケイさん、みんなの気持ちわかっているはず。もちろん、手当たり次第、新しい女を増やされるのは嫌だけど、みんなと仲良くしてくれるのなら、もっと増えてもいいとみんな思ってる。前世の感覚では信じられないんだけど、私やアリサですらそうだから、まだ幼かったキアラはもちろん、この世界の感覚しかないマリアもアゼルもそう思っているよ」


「はい、それはわかっていますし、男として嬉しいのですが……」


「私やみんなに聞かれるとマズいこと? なら聞かない。私達はケイさんに嫌われたくないから」


「いえ、そのうち、みんなには話そうとは思っていたのですが……」


「そう、それだけ聞ければいい」



 しばらく、黙ったまま馬車を走らせていたが、やっぱり聞いてもらうことにした。


「リムルさん、聞いてもらってもいいですか?」


「ん」


「俺、前世で、1回、結婚に失敗しているんです。結婚するときは、コイツのこと、一生守ってやるんだって本気で思ってたんですけど、気付いたら離婚してました。バカみたいでしょ。それでというか、離婚前からなんですけど、酒に溺れて、自己嫌悪になって、また酒に溺れて、自己嫌悪になる。そんな暮らしを死ぬまで、数年続けていたんです。正直、死んだってわかったとき、ほっとしたのも事実なんです」


「それ、ケイさんが原因?」


「わかりません。どちらが悪いってないと思うんです。好きだった人のことが嫌いになるって、何か相手に原因がありますよね。そして、相手がそんな言動をするようになるのには、自分に原因があると思うんです。その繰り返しで、どんどん心が離れていくんだと思うんです。負の連鎖っていうんでしょうか。もうそうなったら、始まりの原因も終わりの原因も関係なくなると思うんです。あのとき、ああしとけば良かった。いやもう遅かったかもしれない。いや、やっぱり間に合ったかもしれない。ってずっと、頭の中でぐるぐる廻っていて、前に進めなくなっていたんです」


「好きな人のことが嫌いになるって、恋愛では良くあることじゃないの? 私、前世でも、男の人と付き合ったことないからわからないけど」


 ああ、リムルさんも知識だけだったんですね。


「実際、俺も若いころはそうでした。女の子と付き合うっていうよりも、口説くことが楽しくて、口説き落として付き合い始めれば、嫌われるように持っていって振られて、また、新しい子を口説くみたいなことをしてた時期もありました。自分が傷つきたくないから振られるように持っていくんです。たぶん、最後に離婚したときもそうだと思うんです。自分が傷つきたくないから嫌われるように行動していたと思うんです」


「ちょっと待って、どうして、振られることが傷つかないことになるの。普通は、振られたほうが傷つくんじゃないの?」


「ああ、周りの目ですよ。アイツは女を振った酷いヤツだと思われるよりも、アイツは女に振られた可哀想なヤツだと思われるほうが楽だからです」


「私には、良くわからないわ。みんなは、どう?」


 リムルさんが、後ろの3人に尋ねているが、みんな首を横にふっているみたいだ。


「そうですね、矛盾していますからね。俺もわかっていません。……ただ、わかっているのは俺自身が傷つかないために相手を傷つけ続けていたことと、人を好きになることが怖くなったということだけです……」



 しばらく沈黙が続いたあと、マリアさんが、尋ねてきた。


「……ケイさん。1つだけ、お聞きしてもいいですか?」


「ええ、どうぞ」


「ケイさんは、前世で離婚された方のことが、今でも好きなのですか?」


「俺みたいヤツと結婚してくれたことには今でも感謝はしていますが、それはありません」


「わかりました。……ケイさんは心が病んでいます。だから、私達でケイさんの心を癒します。みなさん、いいですね」


 御者台に座り前を向いているので見えないが、マリアさんの言葉に、みんな頷いているようだ。



 その後は、今、話したことが無かったかのように、みんな、いつもどおり俺に接してくれている。


「リムルさん、なんで俺みたいなヤツのために、みんな優しくしてくれるのでしょうか?」


「そんなのケイさんのことが好きだからに決まってる」


「そうですか。……リムルさんに聞きたいことがあるんですが、いいですか?」


「ん」


「どうして、そんなに自分を犠牲にできるんですか? あまり喋らないのも空気を読めてない振りをするのも、みんなのためですよね?」


「それ、ケイさんにだけは言われたくない」


「すみません」


「ゴメン、そういう意味じゃない。喋らないのは種族特性もあるの。ドワーフ族は寡黙で職人気質の人が多いからあまり喋らないし、喋らなくても通じ合えるから。それに、前世でもあまり喋らなくても、アリサが全部代わりにやってくれたから、甘えていたの。空気が読めないのも、前世でそんな調子だったから、24才のくせに幼かったんだと思う。

 だから、自分を犠牲にしているのはケイさんで、私は違うって言いたかったの」


「でも、そこまでわかっているのなら」


「違うの、それがわかったのはケイさんのおかげ。ケイさんに出会わなかったら、今でもアリサに甘えていたと思う」


「でも、そこまで信頼できる人に、社会に出てから職場で出会えたのは、良かったですね」


「ほら、また。……まぁそこがケイさんのいいとこでもあるんだけど。

 アリサは違うの。アリサは、近所のお姉さんだったの。私が小さいころからずっと一緒だったから、私のことなんでも知っているの。まぁ、私もアリサのこと知ってるけど」


「そうだったんですね」


「そう。だから、ケイさん、少し気にしてたけど、心配ない。前世でも、アリサは男の人と付き合ったことないし、経験もないはず。たしかに、好きな人のために、ケーキを焼いたり、料理を作ったりしてたけど、渡せたことがない。いつも私達が食べていたから間違いない」


 いいのか、そんな暴露話、勝手にして。


「いや、俺はそんなこと気にしませんよ」


「別に気を使わなくてもいい。私も、前世のケイさんの別れた奥さんや付き合ってきた女性に嫉妬してるところもあるから」


「そ、そうなんですね」


「そう。だから、ケイさんも溜め込まないほうがいい。……いろいろね」


 真面目に話してたかと思ったら、最後、下ネタかよっ!……でも、なんか少し気持ちが楽になったような気がするね。


「ありがとう、リムルさん」



 その日から、自然とみんな一緒に裸になって、汗を流すようになった。最後の一線は、まだ、越えてないけど……


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