第1話
アリサさんや爺やさん達に見送られ、キアラさん、リムルさん、マリアさん、アゼルさんと一緒に5人で旅立つことになった。……でも、なんでだろう? 当初の計画では、ソロで冒険者生活を営もうと考えていたのに。その場のノリと勢いで、安請け合いをしてしまったのではないだろうか。もちろん、こんな若い女の子達と旅ができて、何の文句もないんだけど……
考え事をしながら学園都市の大通りを歩いていたら、東門に着いた。
「身分証の提示をお願いします」
制服を着た男性が、笑顔で身分証を求めてきた。見た目は戦闘とは無縁な事務職員にみえるけど、この人達、かなり強そうだね。
「お願いします」
縁取りが青の冒険者のギルドタグを石版に乗せると
「はい、けっこうです。お気を付けて」
あっさりと通してくれた。
みんなも順番に通してもらっているが、アゼルさんだけ金貨を1枚支払っていた。
商人は、通行料がいるんだね。リムルさんは払ってなかったけど、鍛冶師は要らないのかな。あとアゼルさんの肩の上は、リムルさんの定位置なんだね。
「アゼルさん、すみません。商人は通行料が必要なんですね。パーティの積立金から出しますよ」
「いや、それはおかしい。ワタシは、ケイ達のパーティメンバーじゃないし、積立金も払っていない」
「そうですね、俺が軽率でした。でもどうでしょう、この機会に、この5人でパーティを組みませんか。アゼルさんとリムルさんが冒険者ではないので、正式に組むことはできませんが」
「はい、それがいいです。みんな、仲間です」
キアラさんが真っ先に同意した後、みんな頷いてくれている。
キアラさんは、初めて会ったころからそうだったけど、仲間意識が強いね。前世からそうだったのか、聖女の加護の影響を受けているのか、わからないけど、最近は言動も積極的になってきたし、いい傾向だね。
「じゃあ、とりあえず、俺が立て替えときますね。あと、“ハウスキーパー”の積立金を精算しましょう」
「ケイさん、前に言いましたよね。立て替えるのはいけません。あと、“ハウスキーパー”の積立金の精算は必要ありません」
「そうです。積立金を精算してしまうと、“ハウスキーパー”が解散してしまうみたいで、寂しいです」
マリアさんの言葉に同意してキアラさんもそう言ってくれたが、いいのか。そう言われると清算しにくくなるんだけど……
「わかりました。では“ハウスキーパー”の積立金は俺が預かっておきます。あと、このパーティでの積立金を1人、1万Rずつ、いただけますか」
「そんな金額では、駄目です。皆さん、1人、10万Rずつ預けましょう。あと、キアラ、リムル、算術スキルを持っていましたよね。しっかりと計算しておいてください。ケイさんに任せておくと、足りなくなっても追加を求めてこないはずです」
うーん、マリアさんは、一緒に過ごした時間が長いせいか、完全に俺の性格を把握しているね。
「わかりました。任せてください」
「ん!」
キアラさんとリムルさんが力強く頷いているね。……たぶん、誤魔化せないんだろうね。
みんなから10万Rずつ預かり、金貨を1枚アゼルさんに渡した。
「みんな、ありがとう」
うん、アゼルさんも、ちゃんと俺以外にもお礼を言えるようになっていたんだね。最初はどうなるかと思ったけど。
「ところで、ケイさん。カステリーニ教国の首都ロワール・サント・マリーに向かうのですよね?」
マリアさんが尋ねてきた。
「はい、そのつもりですが」
「もしかして徒歩で向かわれるつもりですか? いえ、構わないのですが」
「えーと、そんなに遠いのですか?」
「たしか徒歩では、ひと月ほど必要だと聞いた憶えがあるのですが……ですよね、キアラ?」
「私は歩いたことないのでわかりませんが、ここに来たときは馬車で10日ほどかかりました」
えっ、そんなに遠いの! 道はあるけど舗装されてないし、まっすぐの道じゃないからわからないけど、少なくみても500kmはあるか……俺、1人なら大丈夫だろうけど、他のみんなは無理だよね。隣の国だからと思って舐めていたよ。
「普通、馬車ですよね」
「そ、そうですね。気付いてはいたのですが、ケイさんが、あまりにも自信ありそうな様子で歩いておられたので、何か考えがあると思っていたのです」
マリアさんの言葉に、みんな、頷いている。
考え事をしながら、門に向かって歩いていたから、自信ありそうに見えていたんだね……
「すみません、何も考えていませんでした」
「ああ、いえ、ケイさん、あまり都市の外に出られたことないでしょうし、仕方ありませんよ。でも黒龍の森から、どうやってここまで来られたのですか? もしかして徒歩ですか」
「ベルさんのて、転移魔法陣です。そのころは、まだ契約奴隷だったので」
危なかった、“ベルさんの転移魔法です”って答えそうになったよ。学園都市には、転移魔法陣を使わず、ベルさんの転移魔法で来たからね。……そういえば、俺が契約奴隷でなくても、ベルさんなら俺を連れて転移きるんじゃないのか? まぁあ、もう遅いけど。
「契約奴隷って、転移魔法陣を使えるのですか!?」
マリアさんが驚いているが、そういえば、マリアさんも元契約奴隷だったね。
「Sランクの冒険者の契約奴隷の場合、契約主と一緒になら使えるみたいですよ」
「そうだったのですね。ケイさんの家を除けば、本来、Sランクの冒険者に出会えることなんてありませんから、知らなくても仕方ないですね」
みんなも頷いてくれている。なんか勝手に納得してくれて助かったね。でも、このメンバーなら、俺の闇魔法や管理者のこと言ってもいいかもしれないね。ただ、これを知ることによって、どれだけ迷惑がかかるかわからないから、慎重になってしまうんだけど……
「そうですね。俺も聞かれるまで、忘れていたぐらいですから」
「でも、どうしましょう。戻って馬車を手にいれますか? 私はカステリーニ教国へ行ったことがありませんから、判断つかないのですが……ケイさんは、どうされるおつもりだったのですか?」
マリアさんが、聞いてくれたが、
「すみません。南東の方角に道なりで歩いていけば、そのうち着くと思ってました」
先のことばかり考えて、肝心の移動手段を考えていなかった。この世界に少しは慣れたつもりでいたけど、知らないことばかりだね。……でも、どうしよう。
「なら、ワタシが馬車を出すよ。あとカステリーニは西門だ」
アゼルさんが、そう言った。
「「「「えっ!」」」」
俺も驚いたけど、他のみんなも驚いている。
そうなの? カステリーニ教国って、ここから南東だよね。
「アゼルさん、カステリーニ教国までの行き方、わかるんですか?」
「当たり前だ。ワタシは行商をしていたんだ。道くらい憶えている。みんな、ついてくればいい」
アゼルさんはそう言うと、リムルさんを肩に乗せたまま、東門に向かって歩きだした。
「「「はい、お願いします」」」
なんか初めてアゼルさんが頼もしく感じるけど、俺が不甲斐ないだけか。
「なんだ、君達、忘れ物かい? 悪いんだけど、決まりだから、この商人のお嬢さんからは、通行料をもらわないといけないんだよ」
男性の門番の方が申し訳なさそう言ってきたが、
「いえ、これは俺のミスですから、構いませんよ。支払います」
「ケイさん、わかっていますよね?」
俺が自分の財布から支払おうとすると、マリアさんがそう言って、目で訴えかけてきた。……俺だけのミスではないんですね。
大通りを東門から西門に向かって歩いていると、
「ケイ。大河を渡ってドワーフの自治区に寄った後、ダカールにも行くのだろう?」
アゼルさんが聞いてきた。
「ええ、そのつもりですが」
「じゃ、商人ギルドで保証金を渡して馬車を借りよう。その方が速く着くし便利だ」
「そうなんですか?」
「そうだ」
そうなんですね。でも、説明はしてくれないんですね。
噴水の広場を抜けるとき、家の前にいた爺やさんと目が合った。ニヤついていたような気がしたけど、今回は幼女ではなく、俺たちを見てニヤついていたんだろう。……そう信じたい。
西門近くの商人ギルドの出張所に着いた。中に入ると 正面が受付カウンターになっていた。小さいが教会と似たつくりだ。
アゼルさんは、何の迷いもなく、おばちゃんの受付嬢に向かって歩いていった。他にも綺麗なお姉さんが並んでいるのに……
「あら、ウリボー。お友達?」
ああ、知り合いだったんだね。それに、アゼルさんは人を見る目があるらしいから、きっと、このおばちゃんはいい人なんだろう。
「そうだ、仲間だ。馬2頭と幌馬車を頼む」
「そうなの、ウリボーにも、やっと仲間ができたのね。……そこのお兄ちゃんね。ウリボーの事、よろしく頼むわ。この子、無愛想で、すぐキレるけど、悪い子じゃないのよ。もうわかってそうだけど」
うん、この世界でも、おばちゃんはマイペースなんだね。
「ええ、わかっています。でも俺のほうがアゼルさんに頼りっぱなしで。……あっ少し聞いてもいいですか、商業ギルドで馬車を借りるのと、馬車を購入するのとでは、どう違うのですか?」
「あら、ウリボー説明してなかったの?」
「すまん」
「しょうがない子ね。……もう今回だけの特別サービスよ。いいお兄ちゃん、一回しか言わないから、よく聞いておくのよ」
うん、さすが、おばちゃん。いちいち面倒くさいね。
「お願いします」
「まず、商業ギルドで借りる場合ね。馬車や馬の貸出のサービスは商人でないと受けることができないの。保証金と手数料が必要だけど、どこの商業ギルドでも返すことができるし、馬車や馬を交換することもできるの。だから、常にいい状態の馬車を使うことができるし、馬を休ませることも必要なくなるのよ」
それなら、馬車の整備は必要ないし、馬の管理も楽そうだね。
「それで、もし返却できなかった場合は、保証金が返ってこないだけですか? 借りた商人の方に罰則がついたりしないのですか?」
「心配ないわ。保証金が返ってこないだけよ。でもお兄ちゃん、優しいのね。今の説明で、一番の心配事がウリボーのことなのね」
「そんな言われ方すると照れますね。……あと、購入する場合の利点は何ですか?」
「あら、さらっと流すのね。まぁいいわ。……愛着が湧くわね」
流さないと、いくらでも長くなりそうだからね。……えっ!
「それだけですか?」
「あとは、高い馬を買えば、質がいいわね。力も速さも固体差があるからね。馬車も高いやつは乗り心地が違うわね」
なるほど、当たり前の話か。
「ありがとうございました。では、あとはアゼルさんに任せます」
「ウフフ。ウリボー、ホントいい人、見つけたわね。離したら駄目よ」
「わかってる。早く、馬と馬車を頼む」
「あいかわず、せっかちね。わかったわ、馬2頭に幌馬車で、25万Rよ。手数料はオマケしてあげるわ」
「えっ、そんなことして大丈夫なんですか!?」
驚いて、俺が聞きかえてしてしまった。
「いいのよ。私に文句を言える人なんていないんだから」
「わかりました、ありがとうございます」
みんなから集めた積立金から25万R支払った。……うん、1万ずつじゃ、いきなり足りなかったね。
「はい、確かに。ウリボー、ここにサインしなさい。あと、もう表に用意できているはずよ。気を付けて、行って来なさい」
えっそうなの。話は長いけど、仕事が速いね。
表に出ると、本当に馬車が用意されていた。
「アゼルさん、あのおばちゃん、何者ですか?」
「マスターだ。……よしっ、大丈夫だ。みんな、乗ってくれ」
アゼルさん、さすが行商をやっていただけのことはあるね。俺の質問に答えながらも、手際よく馬や馬車の確認を済ませてしまった。
なんか当たり前のように、アゼルさんが御者台に座り、残りの俺達は後ろの荷台に乗ってしまったんだけど……えっ!
「あのおばちゃん、商業ギルドのギルドマスターなんですか?」
「ああ、そうだ。なんか、おかしいか?」
アゼルさんは、すでに馬車を走らせながら、そう答えたが……馬車って思った以上に揺れないんだね。
「いや、俺の知っているギルドマスターは、あまり働いているように見えなかったので」
「あのマスターは、ケイの家が商業ギルドだったころから、カウンターにいたよ」
そうなんだ。まぁ、人の上に立つ者の姿として、いいのか、悪いのか、俺にはわからないけどね。
「そうなんですね。……でも、馬車の揺れって、こんなものなんですか?」
「あっ私も思いました」
「私もです。この馬車、マウイ様の馬車よりも揺れないかもしれません」
「ん」
「ああ、これは、見た目は普通にしてあるけど、いいやつなんだ。ホントは、もっと高いんだ。たぶん、マスター、ケイのこと、気に入ったんだと思う」
えっ……いやいや、例え、見た目がおばちゃんでも、女性だからね。悪い気はしないよ。
「そ、そうなんですね……」
なんか、みんなの視線が心持ち冷たいような気がするね……
西門に着いた。
「御者の方は、商人ですね。あと荷台の方達も、身分証の提示、お願いします」
門番の方の言葉で、4人一緒に石版へタグを乗せたが、これでもいいんだね。
「はい、馬2頭と商人がお1人、あとは冒険者ですね。3万Rになります」
「わかりました。これで、お願いします」
「はい、確かに。お気を付けて」
馬も一頭、1万Rなんだね。……ん? あとは冒険者?
「リムルさんも、冒険者になっていたんですか?」
「そう。アリサと一緒に、Eまで頑張った」
リムルさんが、嬉しそうに、縁取りが黄色のタグを見せてくれた。
「リムル、もう言ってもいいのですか?」
マリアさんが、リムルさんに確認しているが、口止めをしていたのだろう。
「うん、もういい。アリサのも、ケイさんにバレてる」
リムルさんも頑張っていたんだね。鍛冶師としても優秀な成績だったのに、空いている時間で冒険者の依頼もこなして、Eランクにまでなっていたんだね。
それに比べて、俺は駄目だね。みんなを引っ張っていかなければならないのに、反対に、足を引っ張ってばかりいるね。
あと、監視の人もゴメンね。出たり、入ったり、出たりして。




