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第38話

 ケビンさんとの対談の後、マリアさんの依頼も済ませ、帰る途中、


「ケイさん、フリードリヒ様は、いかがなされたのですか?」


 フリードリヒさんか……あの人は、何も知らなさそうなんだけど、中立派のケビンさんと仲良くしていることを思えば、政権交代の可能性はありうると考えているのかもしれないね。


「古くからの知り合いが屋敷に来られていたんです。その方が、ベッカー邸の庭を気に入られたようで、俺の話になったみたいです」


「その方に、何か言われたのですか?」


 マリアさんが、俺の眼を見つめながら、尋ねてきた。……ホント、鋭いね。でも、歩いてる途中に横を向くと、ほらっ、


「大丈夫ですか?」


 マリアさんが躓いて、俺に寄りかかってきた。……おっぱいの感触は癒されるのですが、ワザとやっていませんか?


「す、すみません。……でも、どうなんですか?」


 俺の腕に、手を絡ませたまま続けるのですね。……なかなか、積極的ですね。


「まぁあ、嫌な期待のされ方をしましたが、命の危険はなさそうです」


 歩くのを再開し、結論だけ答えた。……美人さんを腕に絡ませながら、街を歩くのも悪くないね。



 マリアさんを連れて、冒険者ギルドに入ると、一斉に視線を集めた。……マリアさん、完全に俺の腕に抱きついているからね。


「あっ!」


 マリアさんが、慌てて俺の腕を離して、顔をまっ赤に染めている。前にも、こんなことあったね。


 キャシーさんのところで、報酬を受け取り、ついでに聞いてみた。


「キャシーさん、少しいいですか?」


 この時間は空いているし、それに、キャシーさんは、地味なせいか、いつも暇そうだからいいだろう。


「ええ、構いませんが、ケイ様、何か失礼なこと考えていませんか?」


 キャシーさんも、鋭かったんだね。


「いえ、そんなことありませんよ。……あのう、キャシーさんもそうですが、エルフ族の方は、緑色の瞳の方が多いですよね?」


「そうですね、少し青っぽい方や黒っぽい方も居られますが、緑系の方が多いですよ」


「赤色の方は、少ないのですか?」


「ケイ様、あの噂話を信じておられるのですか? ただの迷信ですよ」


「噂ですか?」


「ご存知なかったのですか、昔、大罪を犯したエルフの一族が、名前の色だけでなく、瞳の色まで赤色に変わり、その子孫も、赤い瞳を受け継いでいるという話です」


 ケビンさんのことを考えると、本当っぽく聞こえるんだけど。


「そうなのですか?」


「いえ、ただの迷信です。シュトロハイム王国で大成したラザフォード家を妬んだ人が作った噂話だと言われていますね。あと、ダークエルフ族やハイエルフ族の方にも、赤い瞳の方が居られるので、種族間の仲が悪かったころの名残りだろうと言われています」


「シュトロハイム王国では、ラザフォード家以外にも、エルフ族の貴族が居られるのですか?」


「はい、あと3家ほど居られるはずです。シュトロハイム王国は、三大大国のなかで、唯一、人間族至上主義の緩い国ですから、人間族以外の種族の貴族や住民も多いのです」


「他の2国は、やはり人間族至上主義が強いですか」


「そうですね。高ランクの冒険者は別ですが、そうでない方は、冒険者でも訪れるのを避けておられると思います」


 だから、ジーンさんも、俺の住所を確認していたのかな。


「ありがとうございました」


「いいえ、こういった情報を提供するのも、私たちの仕事ですから」



 ギルドを出て、家に向かった、


「マリアさんも、他種族に偏見がありますか?」


「そうですね。頭では、わかっているのですが、まったくないと言い切れない感じでしょうか」


 生まれた時から、エイゼンシュテイン王国で育っているんだから、そう簡単に払拭できないか……


「だから、アゼルさんとも、あまり上手くいかないのですか?」


「いえ、アゼルさんは、そういう訳ではなくて……」


 着いた。隣だからね。


「お帰りなさいませ、若様、マリア様。はて、マリア様、どうかなさいましたか?」


「いえ、何でもありません」


 マリアさんは、俯いて黙ってしまった。



「ケイさん! 来て来てっ! どうよ、このスポンジ!」


 キッチンで、アリサさんとリムルさんとキアラさんの三人が、ケーキのスポンジを焼いているようだ。


「少し待ってくださいね」


 手を洗ってから、アリサさん達が焼いたスポンジを、手のひらで軽く押さえてみた。


「いい感じですね。これで、冷やして、寝かせるといいと思います。冷やしましょうか?」


「ケイさんは、いいわ。私も、冷たくする魔法、練習してるの」


「えっ! アリサさんも魔法が使えるのですか?」


「この世界では、スキルね。生地を織るときや、皮をなめすときに、術式を組んで魔力を込めるのよ。そうすると、保温機能や自動修復機能とかが付くのよ。でも、これって、魔法と同じだと思うの」


 なるほど、そうやって、ファンタジーな機能の付いた製品ができていたんだね。


「リムルさんも、そうなんですか?」


「ん」


 そうなんですね。


「もしかして、それにも、習得魔法陣があるんですか?」


「もちろん、あるわよ。でも、習得魔法陣でやると、1種類の機能しか付与できないのよ。だから、私は自分で術式を組むのよ」


 なんでもは、上手くいかないんだね。


「でも、冷やす魔法は、裁縫スキルに関係ないですよね?」


「何言ってるのよ、ケイさんもキアラも、氷魔法スキル、持ってないじゃない。私にだって、できるはずよ」


 たしかに、そうだね。俺は、料理スキルがあるからわからないけど、少なくとも、キアラさんにはないからね。

 でも、この人、どこに行こうとしているんだろう。


「ところで、アリサさん。料理ばかりして、本業のほうは大丈夫なんですか?」


「もちろん、大丈夫よ。2年になって、授業でも、ギルドの下請けの仕事ができるようになったし、ここでは、Sランクの人の防具とかのメンテナンスもさせてもえるから、余裕が出てきたのよ」


 余裕? 余裕って、時間だけじゃないよね。


 まさかっ! 


 爺やさんを見たが、話を聞いていたはずなのに、普段と変わりがない。まぁこの人が、こんなことで表情を変えるはずがないか……じゃ、


「キアラさん」


「は、はい」


 キアラさんは、返事をしてくれたものの、目を逸らした。……確定だね。

 でも、キアラさんを責めるのも、違うか。元はと言えば、俺の至らなさだからね。


「爺やさん、いつからですか?」


 俺が爺やさんに尋ねると、


「アリサ様、宜しいですか?」


「え、えぇ、もう仕方ないので、構いません」


 爺やさんが、アリサさんに確認をした。きっと、口止めをしていたのだろう。


「アリサ様が、入居された月からで御座います。家賃に関しては、マリア様、アゼル様も含め、学生の方は、ひと月、5万ルリ頂いております。皆様、もう少しお支払いするつもりでおられましたが、若様ならこの辺りをご提示されるかと、爺やの判断で決めさせて頂きました。あと、通常の食事に関しては、家賃に含まれておりますが、デザートや飲み物などは、別途お支払いになっておられます。もちろん、今、お作りなっているケーキなどの材料費も頂いております」


 だから、食事のとき、好きなものを食べていなかったんですね。それに、飲み物や材料費……


「皆さん、すみませんでした。俺が、最初にきっちり決めておくべきでした」


「ケ、ケイさん。私が悪いんです。私、アリサさん達に初めて会ったときに、相談したんです。私、何もできないのに、ケイさんにお世話になりっぱなしで、何かできることがないかって」


 あぁ、あのキアラさんの装備を頼みにいった日だね。材料を買いにいってる間に、そんな話もしていたんだね。


「違うわ、キアラ。私が悪いのよ。ケイさん、勝手なことして、ごめんなさい。いっしょに住み始めてからも、改めて思ったんだけど、ケイさん、何でも自分でできるから、いい案が思いつかなくて。私が軽率だったわ」


 アリサさんがそう言ってくれるが、


「いえ、アリサさんもキアラさんも悪くありません。キアラさんは、こういうことを知らなくても、おかしくない年齢です。本来、俺が教えなければならないことを、アリサさんが代わりに教えてくれたのですから」


「そうです。ケイさんがおかしいのです。だいたい、私達はパーティですよね。なのに、どうして、報酬が等分されるのですか。自分で受けた依頼の報酬を全額頂けるのは、まだ理解はできます。でも、パーティで受けた依頼まで等分はおかしいです」


 マリアさんはそう言うが、


「でも、うちのパーティ、パーティとして使う経費がありませんから」


「今までは、そうかもしれません。でも、これからはどうですか? もし必要になった場合、ケイさんが出すのでしょう。キアラさんは、それが当たり前だと思っているかもしれませんよ」


 たしかに、そうだね。明日のことは、明日にならないとわからないし、これから先、キアラさんが、別の誰かとパーティを組む可能性も否定できないからね。


「はい、そうです。すみませんでした」


「ケイさんは、いつもそうです。優しいけど、冷たいのです」


 マリアさんはそう言うと、また、俯いてしまった。

 マリアさんは、俺のこと、ずっと心配してくれていたからね。それに、さっきのこともあるし……



「少し宜しいですか。……今回の事に関して、誰も悪い方は居られません。ただ、皆様が、相手を気遣いとった行動に、少し行き違いが生じただけで御座います。これには、原因が御座います。皆様が、相手を思うあまり、気持ちが伝わっていないからで御座います。

 そして、今回、このように思いを伝えあうことができて良かったのだと考えるべきです。これで、また、皆様の絆が深まったのですから。

 失礼致しました。年寄りの戯言だと聞き流して頂いて構いません」


 ただの変態じゃないと思っていたけど、さすがだね、爺やさん。


「いえ、ありがとうございます、爺やさん。……そうですね、今までことは、これで終わりにしましょう。そして、この機会に、これからの話をしましょう。

 まず、家賃、その他、飲み物やケーキの材料費等は、今までどおりでお願いします。俺がもっと早くに気付くべきでしたが、皆さんの気持ち、ありがたく受け取らせて頂きます。

 あと、お互いに気持ちをどう伝えるかですが、これは、すぐには無理かもしれません。しかし、俺達には、まだ時間があります。みんなで、少しずつでも変われるよう努力していきましょう。

 皆さん、よろしいですか?」


「「「はい」」」

「ん」  


 お互いの事を理解した上で、相手に甘えることは、支えあうために必要なことだけど、その場に流され、知らずしらずのうちに、甘えてしまっていたんだね。俺も、まだまだだね。


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