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第5話

『ここは、転移ゲートの部屋ですか?』


『そうだよ、黒龍の森、私たちの家だよ』


 扉を開けながら、ベルさんが答えてくれた。


『ケイ、すまないが、私はこれから出かけなければならない。夕方には戻ってくるが待っていて欲しい。しばらく横になるかい? 疲れただろう』


『あまり疲れてないので、少し体を鍛えようかと思います』


『そうかい、好きにすればいいよ。でも外は危険だから出てはいけないよ。あと誰か来れば……この紙を見せればいいよ』


 ベルさんは何か書かれた紙をローブの内ポケットに入れ、カウンターと掲示板の間のホールに俺を寝かせてくれた。今は正午ぐらいか、夕方まで……


『ベルさん、すみません。トイレに……』


 こうして、俺の初めてのお留守番がはじまった。



 さて、何からしようか……やっぱり寝返りからかな。あと発声練習もしよう。同時にできるし。


「あ$い#えおq%、か”きく#こか%、させし#────、ん」


 たぶん、ぜんぜん言えてないような気がする。あと転がってるとローブが汚れそう……これって脱げるんだろうか?……あっ脱げた。よしっ続きだ。


「あえいう$お!お、か$き#けこ!こ、させ“────、んっ」


 発声練習しながら、全裸でごろごろ……8才ぐらいの見た目なら許されるよね? 38才なら捕まるけど……けどね、結構楽しいよ。時間を忘れてしまうぐらいには……


 よし、寝返りはマスターしたはず……裏切りじゃないよ!……次はハイハイかな? 確か赤ちゃんのときに、ハイハイの期間が短いと大人になっても腕力がつきにくいって聞いたことがあるんだけど、本当なんだろうか?……ハイハイは長めにしよう。よしっ……膝痛っ。この体、さっきからぜんぜん疲れないんだけど、優秀なのか優秀でないのか良くわからないな。まぁとりあえず膝痛いけど、ハイハイ頑張るか……


「あえいうえおあお、かけき、おっ噛まずに言えてるじゃん。させし────んっ!」


 さすがに全裸でごろごろ、3時間もやると滑舌も良くなるね。……そんなこんなでベルさんが帰ってくるまでハイハイを続けていた。



「あ────んっ!」


 転移ゲートの部屋の扉が開き、ベルさんが帰ってきた。俺は犬のように、四つん這いでベルさんに駆け寄った。


『ケイ、ただいま……なんで全裸なんだい?』


「あっ……」


 俺は立ち上がり、歩いてローブを取りにいった。


「ケイ、立って歩けるようになったのだね。それに喋れるようにもなったのかい?」


「あぁそういえば、立って歩いてますね……」


 留守番中のことをベルさんに説明した。



「ハイハイにそんな関連性がね。私は聞いたことないが、好きにしてみればいいよ……じゃ夕食にしようか」


 休憩所のテーブルで、食事を摂ることになった。


「さっき、父のところに寄ってきてね。色々聞いてきたのだよ。まずはこれを食べてみてくれるかい」


 鍋を取り出し、スープを器に入れてくれた。


 この香りはもしかして……


「味噌?」


「あぁそうだよ。父がね、ケイの胃袋は、まだ成長していないからしばらくスープを飲ませるように勧めてきてね。あと倭の国の記憶があるなら味噌のスープがいいのではないかと話をしていたら、母が張り切ってね、作ってくれたのだよ……どうかね味は?」


 うん、味噌は嬉しい、スープも胃に優しいだろう……でも、やっぱり肉と野菜がぶつ切りだ。間違いなく親子だね。味噌風味のスープにごろごろとした肉と野菜が……ガンバレ、俺の自動修復!


「ありがとうございます、嬉しいです。味噌があったんですね。醤油もありますか?」


「しょうゆ?……どこかで聞いたことがあるね。うちの食料庫を探してみるといい。あるかもしれないよ。部屋の時間を止めてあるから腐っていないはずだよ」


「ありがとうございます」


 よし耐えた。せっかく作ってくれたのに不味いなんて言えないよね。もう明日から料理作ってみようかな。



「今日は、詳しい説明もなく無理をさせて申し訳なかったね。ケイの不安を取り除くには、考えるよりも行動するほうがいいと考えてね。どうだね。殺人に対する気持ちの整理はついたかね?」


 食後、ベルさんが聞いてきた。


 しまった……1人になる時間を作ってくれたんだ。調子に乗って発声練習しながら、ごろごろして、ハイハイしていただけだよ。まぁそのくらい気にしてなかったってことかな。でも、あのことは気になるよね、聞いてみよう。


「ありがとうございます。思っていたよりも罪悪感はないです。そういえば、少し疑問に思ったことがあるんですが……生贄の人が消えるとき、何か憑き物がおちたような穏やかな顔をしていたのですが、苦しくないんでしょうか?」


「それは私たちにもわからないのだ。ただ、死霊魔法で使うスケルトンたちが言うことをきいてくれるので、術者に対して悪い印象を持っていないというのが私たちの認識なのだよ」


「スケルトンと、会話ができないのですか?」


「今のところ、私にはできないね。ケイならできるかもしれないが。闇魔法について私たちも知らないことのほうが多いからね……他に質問はあるかい?」


「今日、体を動かしていて、気になったんですが。疲れないのは自己修復のおかげですか? あと筋力の成長が早いように思うのですが、闇の加護のおかげでしょうか?」


「私には闇の加護がないからなんとも言えないが、確かにケイの成長は早そうだね。あと自己修復や耐性強化も万能ではないから、疲れや痛みも普通に感じるはずだよ。他の人よりも影響が少ないだけで……実際、今のケイは少し眠そうだしね。今日はもう休むといい。続きは明日にしよう」


 そう言われ、ベルさんと一緒のベッドで寝た。何も言われないし、一緒でいいよね。



 翌朝、日の出前の薄明かりのなか、目を覚ました。ベルさんはもう起きているようだ。


「ケイ、起きたね。昨日のスープでいいかい? まだ残っているからね」


「はい、大丈夫です」


 まだ、調理は無理みたいだね。焦らなくてもいいか。



「今日の予定だが、まず闇魔法を緑の段階まで上げよう。ケイなら今日中に上がりそうだよ。緑まで1ヶ月はかかると思っていたのだが……今日も昨日と同じガザ周辺の盗賊を探そう」


「ガザですか?」


「そうだよ。アルガス帝国の辺境の街でね。アルガス帝国は新興国だから、まだ政治的に不安定でね、大きな街なのに治安が悪いのだよ。だから街狙いの多くの盗賊が日中、近くの森に潜伏しているのだよ。潜伏先は洞窟や水場の近くなど、だいたい決まっていてね、探す手間が省けるからね。あと私は昨日からガザの街に泊っていることになっているから、いろいろ都合がいいのだよ」


「わかりました。お願いします」



 朝食後、3ヶ所ほど盗賊の潜伏先を廻り、魔法陣の色が緑になった。身長も150cmぐらいになり、体重も30kgはあると思う。


「私は、ガザの街に討伐報告に行くが、待っていてくれるかい?」


「早くこの体に慣れたいので、夕食を作ってもいいですか?」


 まだ昼過ぎだし、時間はあるよね。


「そうかい頼んでもいいかい。それじゃ食料庫の食材は好きに使ってくれていいよ。ついて来てくれるかい。……よしこれで、ケイにも開けられるよ。開けてごらん」


 ベルさんが、カウンター奥にある、転移ゲートの部屋とは別の扉に触れ、促してきた。


 扉を開けるとそこには、スーパーのように陳列された食材が並べられていた。


「これは、ベルさんが陳列しているのですか?」


「そうだよ、闇魔法の異空間を使っているから、見やすいように自動で並べ替えてくれるのだよ」


 ベルさんは、自慢げにそう言った。


「そ、そうなんですね。……あとどこで作ればいいですか?」


「2階の私の部屋のキッチンを使えばいいよ。あそこなら魔道具があるから、魔力を流すだけで火をおこす必要がないからね。ケイになら使えるだろう」


「わかりました」


 魔道具の使い方がわからないけど、ここと違って掃除が必要なはずだ。掃除が終わってから、考えよう。


「じゃ行ってくるね。楽しみにしているよ」


「はい、お気を付けて」


 ベルさんを見送り、ひと息ついた。

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