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第35話

 ジーンさんの店を後にして、一旦、家に戻った。


「マリアさん、すみませんが、今日は1人で依頼を受けてもらえますか?」


「構いませんが、また、トラブルですか?」


 ついにマリアさんまで、“また”って言いますか。


「俺と同じ刀術の流れを汲む可能性が高い人と会ってきます。嫌な予感はしますが、気にもなりますので……」


「そうですか、気を付けてくださいね。ケイさんは、すぐにトラブルに巻き込まれるのですから」


「そうですね、気を付けます」


 マリアさんに心配されながらも、鬼人族の居住区に向かった。



 そういえば、南の居住区には、あまり来たことがなかったね。最近は、北の高級住宅街ばかりだったし。


 学園の裏近くまで来たけど、不思議な雰囲気だ。たぶん、学園長の認識阻害の結界がはられているのだろう。意識してなかったら通り過ぎてしまいそうなるね。


 意識して中に向かっていくと、人通りが増えてきた。みんな帽子やフードを自然に被っているので、ジーンさんから聞いていなかったら、気付かなかっただろう。


 しばらく歩いていたが、俺を監視する視線がなくなった。きっと、見失ったんだろう。


 道場は、すぐにわかった。他の建物よりも大きいのもあるけど、殺気というか闘気が漏れ出ているからね。



「すみませーん。アフラ様はおられますか?」


 玄関から声をかけてみた。しばらくすると闘気が弱まり、奥から誰か来てくれるみたいだ。

 

 大太刀だろう、刃渡り130cmはありそうな刀を抜き身のまま片手で持った、長身で巨乳の女性が現れた。額には2本の小さな角の生えた、赤髪赤眼で二十歳ぐらいの美人さんだが、怖い。なぜが怒っていらっしゃる様だ。でも、なんで虎縞模様のビキニに、同柄の腰巻きなんだろう。パンツは履いているんだろうか……なーんて、エロいこと考えてたら、


 左肩から右脇腹に向かって、冷たい線が奔った。


 迷う暇もなく、後ろに跳んだ瞬間、強烈な闘気が吹きつけてきた。あとには、大太刀を振り切った姿勢で止まった女性がこちら見て、ニヤリと笑っている。


 去年の学年末試験のあとから、やたらと勘が鋭くなっているんだよね。きっと、リーナ先生のおかげだろう。あの模擬戦で一皮剥けたんだと思う。


「やるじゃねぇか、兄ちゃん。オマエ、誰だ?」


「いやいや、ちょっと待ってください。避けなかったら、死んでましたよ」


「そりゃそうだろう、そのつもりで斬ったからな」


「おかしいでしょう。初対面でなんでいきなり斬るんですか?」


「そりゃあ、そんな凄そうなローブみたら、斬れるか試したくなるだろう、普通」


 なんだこの人、頭おかしいのか? ローブ斬るのに、なんで俺まで斬られないといけないんだ。このサタン様のローブなら斬れなかったかもしれないけど……


「俺まで、斬ろうとしましたよね?」


「そういや、そうだな。すまんかった」


 えっ! 謝った? 女性が軽く頭を下げている。


「いえ、謝ってもらえれば……」


 いいのか?


「兄ちゃん、男だろ。細かいこと気にすんな。で、なんのようだ?」


「そうでした。アフラ様にお会いしたいのですが」


「なんだ師匠か、早く言えよ。呼んで来てやるから、上がって待ってればいいよ」


 女性はそう言うと奥に消えていった。


 早く言えよって、そっちがいきなり斬ってきたんだろう。まぁもう居てないからいいけど。

 

 この道場は外観は洋風で、この都市によくある建物と変わりないけど、中は小上がりで板間になっていた。ブーツを脱いで上がったが、これ以上どうすることもできず、立ち尽くしていると、


「妾がアフラじゃ。其方、何用じゃ」


 先程の女性よりも低いが170cmはありそうな、額に一本の角を生やした、黒髪黒目の女性が話しかけてきた。見た目は40歳ぐらいか、この人も美人だね。そして、裏地が赤の黒の着流しを着ている。この服装でこの口調、間違いないだろう、同じカエデさんだ。


「すみません。ジーンさんの紹介で来ました、ケイです。俺も刀術をやってまして、一度、ご指南頂きたいと思い、お伺いしました」


「おお、そうか、そうか。お主がジーンの言っておった奴か、よしっ、アゼルっ! 宴じゃ!」


 “宴じゃ”はクロエさんの口癖でなく、カエデさんの口癖だったんだね。……そして、あの戦闘狂の女性は、アゼルさんって言うんだね。



「「「乾杯!」」」


 えっ! 陶器にコップに注がれた酒を飲むと米の濁り酒だった。


「これって……」


「どうじゃ、旨いであろう。妾のお気に入りなのじゃ」


「このあたりで、手に入るのですか?」


「いや、無理じゃ。アゼル、説明してやるのじゃ」


「はい。この酒は、この辺りにはないが、ダカールまで行けば、すぐに手に入る。ワタシが買いに行ってるんだ」


「みりんもありますか?」


「ああ、あの料理で使う甘い酒だろ。ワタシは料理をしないから買わないが、ある」


 やっぱりあったんだね、日本酒もみりんも。……ダカールか。鰹節もあるし、益々行かなければならないね。……あと、アゼルさん、パンツ履いているんだね。板間で胡坐をかいて座っているから、丸見えだよ。


「ところで、ケイ。其方、刀術をやっておるのじゃろ。型を見せてくれんか?」


「基本の型しか習っていませんが、宜しいですか?」


「もちろんじゃ、基本が大事なのじゃ」


「では……」


 今回は、小太刀の一刀流でクロエさんから最初に習った型を丁寧に舞いきった。


「なんだソレはっ、女子供のお遊戯かっ、アハハハ……」


 アゼルさんが、笑っている。まぁ見た目は、踊りを舞っているようなもんだからね。


「だ、黙れっ、アゼルっ! ケイ、その型は、だ、誰に習ったのじゃ?」


「クロエさんって方です。カエデさんに直接習ったらしいです」


「やはりそうか。カエデ様の柔の型を見ておるようじゃったわ。いや、ほんに、長生きはするもんじゃのう。こんな懐かしい気持ちになったのは、いつぶりじゃろう」


「師匠っ! 今の型のどこが凄いんだ。あんなの一太刀で終わるだろっ!」


「アゼル、ならケイと試合ってみるがいい。たぶん、其方の太刀では、掠りもせぬぞ」


「ああ、やってやるよ。ケイ、覚悟しろよっ!」


 ええっマジでっ! アゼルさん、たぶん、寸止めとかできない人だよ。


「ケイ、すまぬが、軽く揉んでやってくれ。妾達は、種族特性のため、剛の動きは得意なのだが、柔の動きが苦手なのじゃ。特にアゼルは剛の動きしかできぬ。柔の大切を教えてやってくれぬか」


 おっぱいならしっかりと揉みたいけど、嫌とは言えないんだろうね。


「わかりました。殺し合いじゃないですよね?」


「もちろんじゃ、ただの試合じゃ」


 でもね、アフラ様。アゼルさんは、完全に人を殺す目をしてますよ……



「では、始めっ!」


 アフラさんの掛け声で始まった。


 さっき1回見てるから間合いはわかるし、速くて力強いと言っても、ゲルグさんほどでもないから何とかなるか……


 来るね。


 上から袈裟斬りにきた大太刀を、踏み込んで両手で持った小太刀で下から上に払い、受け流した。久振りに一刀流でやるけど、受け流しは、やり易いね。ただ、これだとまだ間合いが遠いから、次にもう一歩踏み込まないといけないんだよね。


 受け流したあと、そこからもう一歩踏み込み、袈裟斬りにいったけど、後方に跳んだアゼルさんに躱された。やっぱり遅れるね。


「なぜだ?……」


 アゼルさんが何か呟いているが、まだ、構えているし続けるのだろう。……次はなんだろう。


 また?


 さっきと同じ、袈裟斬りだ。試しにさっきと同じように受け流し、今度は、俺が後ろに跳んだ。


 やっぱりね。


 また、アゼルさんが袈裟斬りにきた。きっとアゼルさんはこれしかないんだろう。もう完全に太刀筋も覚えたので、受け流さずさらに深く踏み込んで、左逆手に持ち替えた小太刀の柄をアゼルさんの右わき腹に突き刺した。


「そこまでっ!」


 アフラさんが止めた。


 アゼルさんは、立ってはいるが辛そうだ。そりゃあ、シャルさん仕込みのリバーブローの応用だからね。立ってるだけでも凄いと思うよ。


「2手か、いや玄関のもいれたら、3手か。アゼル、いつも言っておろう。最初の一太刀が躱されたら、こうなるのじゃ。一つのことを極めることが悪いとは言わん。じゃがな、それだけでは、駄目なのじゃ。戦闘では、誰も待ってくれんし、受けてもくれんのじゃ」


 辛そうにしているアゼルさんに、近づき回復魔法をかけた。俺のショボイ回復魔法でもないよりはマシだろう。でもアゼルさん、背高いね。ルシフェルさんくらいだろうか? ん、ルシフェルさん? もしかして、


「アゼルさん?」


「あぁ、すまんな。ケイ、魔法も使えるのか……」


「いえ、それは構いませんが。アゼルさん。もしかして、堕天使ですか?」


「…………」


 辛そうにしていたアゼルさんが、一瞬硬まった後、俺を小脇に抱え走り出した。


 後ろ向きに抱えられているため、顔の横にはアゼルさんのお尻がある。アゼルさん、お尻もいいね。


 道場の空き部屋だろう。中に入ると、アゼルさんは扉を閉めた。


「ケイ、なぜわかった?」


「堕天使のことですか?」


「そうだ、なぜだ?」


「前世でアゼルという天使が堕天使だったような気がしたので……あと、ルシフェルさんも堕天使だったので」


「ル、ル、ルシフェル様……た、頼む、なんでもいうこと聞くから黙っていてくれ」


 アゼルさんが、震えながら土下座して頼みこんできた。……この世界にも土下座があったんだね。いや、カエデさんの影響かな。


「もちろん頼まれれば、言いませんよ。でも、何かあるんですか?」


「ほ、本当か!」


 今度は、俺の腰に縋り付き、上目遣いだ。……ヤバいね、この体勢、ムズムズしてきた。


「はい、言いませんよ。理由も言いたくなければ、言わなくてもいいですよ」


「いや、構わない、聞いてくれ。ケイは、ルシフェル様を知っているのだろう?」


 この体勢のまま、続けるんですね……


「はい、一度、お会いしたことがあります。たぶんですが、また、そのうち来られると思いますよ」


「ルシフェル様は、この都市に来るのかっ! マ、マズいな……」


「ルシフェルさんと何かあったんですか?」


「何もない。あっては困るんだ。あの人に見つかったら、また扱き使われるに決まっているんだ。あの人だけには見つかりたくないんだ。頼む、黙っていてくれ」


 きっと神界では、アゼルさんもルシフェルさんのオモチャだったんだろう。


「わかりました。言いませんから、離れてもらえますか?」


「すまん。ケイは信用できる奴だ、信じよう」


 少し残念だけど、アゼルさんが、離れてくれた。……でも、簡単に信じるんだね。大丈夫か、この人?


「ルシフェルさんに見つかりたくないから、堕天使であることを隠してるのはわかりました。でも、どうして神界からこの世界に追放されたんですか?」


「ああ、それはな。ムカつく転生者がいたから、殴ったんだ。最初は注意で済んでいたんだが、何回もやってたら、上司がキレたんだ」


 この人も、転生者に手を出したのかよ……ルシフェルさんとは意味が違うけど。

 あと、なんで、俺のアレをチラチラ見るんだ。仕方ないだろう、美人に縋り付かれたんだから……


「そうですか、それじゃあ、仕方ないですね」


「そうなんだが……ところで、アレがアレって、アレなんだろう? ワタシは経験ないが、知識はあるんだ。お礼にワタシの体を使うか?」


 ルシフェルさん、経験ない人に、何を教えてんだ……


「嬉しいのですが、経験ないなら、大事に取っておいてください。そのうち、治まりますから」


「そ、そうか……やっぱりケイはいい奴だな」


 アゼルさんは、少し残念そうにした後、いい笑顔で答えてくれたが、俺のどこに、いい奴要素があったんだ。


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