閑話 マウイ・バウティスタの手紙
拝啓 マリア様
花便りも伝わる今日この頃、皆さん、お変わりございませんか。
さて、堅い挨拶はこれぐらいでいいだろう。本題にはいるが、私は、もちろんのこと、マリアの家族や友人、知人等、できるかぎり確認したが、戦争の影響もなく、皆、元気だ。安心してくれ。あと、このような安否を伝える手紙が、マリアと離れてからの1通目になって、すまなく思っている。言い訳ではないのだが、少し私の愚痴を話してもいいだろうか。いや、私の愚かさを聞いてほしい。
私は、何も知らなかったのだな、マリア。きっと、父上やマリア、周りの者達がエイゼンシュテイン王国の、バウティスタ家の良いところだけを私に伝え、悪い部分は隠していてくれたのだろう。しかし、勘違いしないでくれ。私はマリアに感謝しているのだ。おかげで、何の憂慮もなく、学園生活を送れたのだからな。
これから、書く内容のなかには、表には出せない内容も含まれている。読んだ後は、マリアの心のなかに留めておいてほしい。
私が、マリアと離れ、本国に戻ってからだが、渉外部の担当に回されることになった。あの食糧輸入再開の功績を認められてのことだそうだ。渉外といえば、文官のなかでも、内務と並んで、エリートコースだからな。マリアの手助けがあってのことだ、感謝している。それもあって、忙しくてゆっくり手紙を書く時間すら取れなかったのだ、すまない。
しかし、実際に仕え始めて知ったのだが、この国は腐っているな。私には、バウティスタ家の後ろ盾があるので、上層部の会議をみる機会もあるのだが、あれは何なのだ。戦争が近い、いや、戦時中でさえも、御家自慢や既得権益を守るための言い争いしかしていないのだ。それも酒を飲みながらだ。その会議には、若い女性が少ないからかもしれないが、厭らしい目で私を見てくる者もいる。この渉外部だけがこのような状態ならまだいいのだが、たぶん、そうではないのだろう。
その後、すぐにわかったことなのだが、マリアは知っていたのか。アーク学園都市に対するゴブリン王の襲来は、この国が画策したことだったのだな。食糧の輸出を止められても、自業自得ではないか。すまない、マリアに対して、怒っているのではないのだ。何も知ろうとしなかった、自分に腹立たしいのだ。
そして、今回の戦争だが、ブラナスをアルガスに明け渡すのは、会戦前から決まっていたのだ。もともと、実権を握っていた保守派勢力がゴブリン王の襲来を画策したらしいのだが、失敗によって、多額の損失を被った。その補填をカステリーニ教国が申し出てくれたのだが、その条件として、アルガスへのブラナスの明け渡しと改革派勢力への権力の委譲を求めてきたのだ。それを了承し、会戦から終戦まで、シナリオ通りに進んだようだ。詳しくはわからなかったが、ガザのほうも同じようなものらしい。
さらに驚いたのが、我が家に関することだ。もちろん、マリアも知っていると思うが、我がバウティスタ家は、代々保守派の家系だ。しかし、今回の件で、私の功績を利用し、改革派に鞍替えしたのだ。父上が家族や一族のことを考えて行ったことであるとわかってはいるのだが、これでは、完全に風見鶏ではないか。私が何も知らないだけなのだろうか。
でも、ブラナスの明け渡しのとき、都市の住民を見殺しにする案があってね。たしかに、旧王都であるブラナスは、保守系の住民も多い。しかし、同じ国民を見殺しするなど、私には、耐えられなかった。会議の場では我慢したが、後で父上に話すと、動いてくれたのだ。たぶん、このことで、父上の立場が少し悪くなるかもしれないが、バウティスタ家としての誇りを失っていなかった父上を、私は尊敬しているのだ。安心してくれ。
長々と愚痴を書いてしまったが、すべて、私の無知によるところが大きい。これからも、たくさんの障害に出会うだろう。しかし、私は、この国をより良くするために、頑張ると決めているのだ。マリアも自分自身のために、頑張って欲しい。
かしこ
追伸
ケイとは上手くいっているか、マリア。
マリアがケイに相談した後から、あれだけ毎日、ケイの話題ばかり話されては、いくら無知の私でも、マリアが、ケイのことを慕っているのは、さすがにわかったよ。
ケイは、マリアが見込んだとおりのいい男で信用のできる人だと、私も思う。
だから、一枚目の手紙は、ケイにも見ておいてもらいたいのだ。ケイなら知っていることばかりかもしれないけどね。
もちろん、この2枚目も見せても構わないよ。これを見せれば、マリアの気持ちが、ケイに伝わると思うよ。どうせ、まだ想いを伝えていないのだろう。
あと、一枚目にも書いたが、マリアも、自分の幸せを一番に考えてほしい。私も、私の幸せを一番に考える。これは、約束だ。その上で、互いに助け合える関係を作っていこう。
マウイ・バウティスタ




