閑話 カイ・リーブスの手紙
リーナへ
リーナ、まずは謝らせてくれ、すまなかった。
いまさら、お前にこんなことを書くのもなんだが、できれば読んで欲しい。
お前のことが、気になりだしたのは、学園の入学式の日だったと思う。最初、誰ともしゃべらず、1人、静かに座っているお前を心配して声をかけたつもりだったが、そんなヤツ、他にも大勢いた。それでも、お前に声をかけたのは、今思えば、一目惚れだったのだろう。
それから、一年間は、少し話すだけだったが、2年生からは、マルクやアンジュと4人でパーティを組むことになったよな。あのとき、オレが、お前を誘ったのも、お前が誰か他のヤツと仲良くするのが、嫌だったんだと思う。
その後、“栄光の翼”として、俺達4人は、学園卒業後も一緒にいることになったが、あのときのオレは、リーナが側にいてくれるだけで楽しかった。いや違うな、それすらも気付いていなかった。お前がオレの側にいてくれることが当たり前のことだと思っていたんだ。ホントに、オレはバカだよ。あのとき、オレが、自分の気持ちに気付いていれば、今、こんなことにはなっていなかったんだと思う。
そして、あの日だ。オレは、アンジュに告白されて、本当に大切にしなければならいものを見失ってしまった。お前が側にいてくれることが当たり前になっていたオレは、お前の気持ちも考えず、アンジュの告白を保留してしまった。あのとき、アンジュの告白をハッキリと断っていれば、こんなことにならなかったのにな。
その後、お前がオレの側から離れていって、やっと、お前のことが好きだという気持ちに気付くことができたんだ。ホントに、オレはバカだよ。
ただ、これだけは信じて欲しい。オレとアンジュの間には何もない。今までも、これからもだ。そして、オレが、生涯、愛する女は、リーナ、お前だけだ。
本当は、直接、お前に会って、このことを伝えたかったが、お前が、どこで、何をしているのかオレは知らない。こんな手紙にして、親父に預けることを許して欲しい。そして、これから書くことは、リーナ、お前自身で判断して欲しい。
お前がどこまで知っているか、わからないが、
今回のアルガス帝国の起こした戦争を画策したのは、カステリーニ教国だ。いや、教国の反教皇派だろう。おそらく、アンジュは、今回の戦争で、オレが率いる狼人族とマルクが率いる反勇者派貴族の連合軍が、ガザを攻め落とすために、オレに告白をした以前から動いていたのだろう。
今、ガザの統治について話し合いがされているが、カステリーニ教国の司教も来ている。今回の連合軍の遠征にかなりの資金がその司教の派閥から送られていたらしい。その見返りとして、ガザに光の神の修道院を建てることが決まっていたらしいのだ。
本当に、情けないよ。今回、旗頭であるはずのオレが知らなかったんだ。アンジュにのせられて、その気になって、仲間を殺された報復だって叫んで、また、仲間を殺してしまったんだ。オレが何も知らないばかりに、何も知らない仲間を殺してしまったんだ。
リーナ、オレはどうしたらいいんだろう。
最後に、こんな情けない男からの忠告だが、聞いてほしい。
まだ、カステリーニ教国の画策は終っていない。奴らの、いや、アンジュの目的は、マルクをシュトロハイム王国の国王にして、自分がシュトロハイム王国の王妃になることだと思う。
そして、マルクは、このことを知らないはずだ。
オレがこのことに気付いたときには、すでに、マルクはシュトロハイム王国に帰っていた。きっと、オレとマルクを会わせないためだろう。
気を付けてくれ、リーナ。
お前だけは、こんなことに巻き込まれて、死んで欲しくないんだ。
カイ・リーブス




