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第23話

 10月に入ってすぐの頃、夕食までの空き時間で、料理を仕込んでいると、


「ケイ、いるか? 連れてきたぞ」


 玄関の扉を開けて、グレンさんが入ってきた。


「グレンさん、お久しぶりです」


 なんでこの人は、いつも転移ゲートを使わないんだろうか……連れてきた?


「グレン、ここ、商業ギルドじゃなかったっけ?」


 グレンさんの後ろから1人の女性も入ってきた。


 褐色の肌にエルフ耳! ダークエルフかっ! 身長は俺より少し高い、ベルさんと同じくらいかな。ベリーダンスでも踊りだしそうな、露出の高い、ヒラヒラとした薄手で濃淡のある紫色の衣装は、銀髪と赤い瞳にピッタリだ。そして、なんと言っても、巨乳だ!


 あっ! ガン見してたら目が合った。お姉さんがニヤニヤ笑いながら、近づいてきた。


「あんたが、ケイ? あたしは、マーガレット。マギーでいいわ。よろしくね」


「ケイです、よろしくお願いします。ダカールからの商隊の方ですか?」


「そうよ、しばらく世話になるわ。でも……へぇ~、ベルはこういうのが趣味なんだ。いやあ、長生きするんもんだね、こんな面白いもの見れるんだ。来た甲斐があったよ」


「ベルさんとお知り合いなんですか?」


「まぁあ、ちょっとね」


「ケイ。すまんが、荷物を中に入れてもいいか? 馬車は、ここの裏、使えるよな?」


「ああ、グレンさん、すみません。どうぞ、馬車は、裏でお願いします」


 10人くらいの男性が、グレンさんと一緒に荷物を運び込んでいる。爺やさんが対応してくれてるから、大丈夫だろう。


「マギーさん。良かったら、先に汗を流してください。すぐにお湯を沸かしますので」


「気が利くわね。そうさせてもらうわ」



 自室にいたキアラさんにも手伝ってもらって、2階にある流し場の水瓶の水を沸かした。キアラさんは、まだ繊細な温度調整ができないけど、“加熱魔法”で水を沸騰させることはできるようになっていた。井戸から水を汲めるし、熱湯でもいいだろう。


「キアラさん、すみません。しばらく賑やかになるけど、我慢してください」


「私は、ぜんぜん大丈夫です。でも、今日の依頼、どうするんですか?」


「もちろん、行きますよ。爺やさんに任せておけば、問題ないでしょう。……そろそろ、いい時間ですね。夕食を食べて行きましょうか」


「でも、アリサさんとリムルさんはどうしますか?」


「あの二人なら放っておいても大丈夫ですよ。魔族の方達に混ざって飲んでたぐらいですから」


「そうなんですか。私、ぜんぜん気付きませんでした」


「俺もそうですよ。後片付けしているときに気付きました」


 俺もそうだけど、前世のあの爆発で死んだ人は、みんなファンタジー好きだよね。




 依頼を済ませ帰ってくると、案の定、二人も商隊の人たちと一緒に飲んでいるようだ。

 商隊のメンバーは20人くらいか、人間族が半数もいないように思う。この都市の住民は人間族が多いけど、ダカールでは違うのかもしれないね。女性も少ないけど、いるみたいだし、洗濯のサービスでもしようか、と思ってたら、


「ケイさん、早くビール冷やしてよ。ぬるいビールなんか飲めないわよ!」


「ん!」


 アリサさんとリムルさんが木製のジョッキを突き出しながら絡んできた。出かける前に樽のまま結構な量を冷やしておいたのに、もうなくなったんだね。


「すぐに、冷やしますよ。……それから、キアラさんは、先に寝てください。後はやっておきますので」


「ケイさん、私も飲んでみてもいいですか?」


 キアラさんは、あまりお酒を飲んだことなさそうだけど、大丈夫なんだろうか? でも、みんな楽しく飲んでいるのに、1人で寝るのも寂しいか。


「そうなんですか、無理しないでくださいね。アリサさん、キアラさんのことお願いしますね」


「私に任せとけば大丈夫よ。キアラ、ここに座りなさい。そして、早くビールを冷やすのよ」


「ん」


 この二人に任せるしかないんだけど、不安だ。



「ケイ、コレ、あんたが冷やしてたのかい?」


 マギーさんが、声をかけてきた。昼に会ったときは紫だったけど、今は黒の衣装に変わっている。黒もいいね。


「ええ、そうなんです。そのジョッキを貸してください」


 ジョッキにビールを継ぎ足し、魔法で冷やした。


 マギーさんが、俺から受け取ったジョッキをイッキに煽り、


「さっきも見てたけど、本当に魔法で冷やしてたんだね」


 そう言いながら、ジョッキを差し出してきた。うん、おかわりだね。


 二杯目のビールを冷やしていると、急に、周りが静まりかえった。


 俺とマギーのやり取りに、気付いたのだろう。みんな、俺に向かってジョッキを差し出している。まぁ冷やすつもりでいたので、挨拶をしつつ、全員のビールや他の飲み物も冷やしてまわった。



「お疲れ、ケイ」


 グレンさんが、労ってくれた。


「グレンさんもお疲れさまです。ところで、グレンさんはどうして商隊の方と一緒にいたんですか? うちには、たまに来てましたが、族長を引退してから行方知れずだと聞いたのですが」


「誰に聞いたんだ。そんなことないぞ、こないだ一回、カイの顔を見に帰ったし。まぁいいか、今は族長やってて錆びついた体を鍛えなおしているんだよ。それで、黒龍の森を出てから、南の地域をまわっていたんだが、ダカールでマギーさんに会ったんだ。この都市に向かうっていうから、頼んでついて来たんだ」


「グレンさんが護衛で頼まれたんじゃないんですか?」


「そんなわけあるか。マギーさんがいたら、俺なんか必要ねぇよ」


「マギーさんって、そんな凄い方なんですか? 強いのはわかるんですが」


「ケイは、知らないのか。マギーさんは、もう解散したはずだが“エレメントマスター”の元メンバーだ。ベルさんとこのパーティだよ。エルフ系種族4人のパーティだったんだが、全員がSランクだったからな。まぁ伝説のパーティだな」


「そうだったんですか。だから、ベルさんとお知り合いだったんですね」


「おい、グレン。人のことペラペラ喋るな、歳がバレるだろう」


 マギーさんが、笑いながら俺とグレンさんの会話に入ってきた。


「マギーさん、あんた、ベルさんと違って歳なんか気にしてないだろ」


「なにっ! ベルの奴、まだ歳のこと気にしているのか……ああ、こんな若い男ができたら気にもなるか」


 マギーさんは驚いた顔をしていたが、急に俺のほうを向いて、ニヤついた笑みを浮かべながら、茶化してきた。


 ベルさんは、昔から今と同じで、真面目で天然が入っていたんだろう。きっと、マギーさんに弄られたんだと思う。


「マギーさんは、昔からベルさんのことを知っているのですよね。ベルさん、昔はどんな人だったんですか?」


「おぅおぅ、やっぱり気になるか。よしっ、あたしがケイに聞かせてやろう。ベルのすべてを──」


 マギーさんはすごく楽しそうに話をしてくれるが、すべてベルさんの失敗談だ。……厭味よりも愛おしさを感じるので悪い気はしないが、ベルさんのためにも聞かなかったことにしよう。



 マギーさんの独演も落ち着いたころ、


「マギーさん、聞きたいことがあるんですが、いいですか?」


「なんだ、まだ足りないのか。いくらでも聞かせてやるぞ」


「いえ、ベルさんのことではないのですが、鰹節って知っていますか?」


「カツオブシ? 聞いたことあるなぁ……おいっ! 誰か、カツオブシ、知らないか?」


「姐さん、アレですよ。お好み焼きに乗ってるヒラヒラした奴ですよ」


 商隊メンバーの男性が答えてくれた。この世界にはお好み焼きもあるんだ。まぁ材料はあるし作れるとは思うけど……


「そうだ、そうだ。あの上に乗っかってる奴な。ケイ、それがどうしたんだ?」


「俺は前世の記憶持ちなんですが、前世の料理にどうしても鰹節が必要なんです。手に入りませんか?」


「カツオブシは取り扱ったことないな。おいっ!、誰か、知らないか?」


「この辺りでは見かけたことないですが、ダカールまで行けば、どこの乾物屋でも売ってますよ」


 今度は、商隊メンバーの女性が答えてくれた。


「だそうだ、どうする。取り寄せるか?」


「いえ、もう10年以上探していますし、実際に現物も見たいですから、学園を卒業したらダカールに行ってみます」


「ケイが、それでいいなら構わないが、あんなの何に使うんだ。上にかけるぐらいだろ」



 マギーさんと鰹節について話していると、急にリムルさんが、


「マヨネーズ!」


 久しぶりに、リムルさんから“ん”以外の言葉を聞いた。……マヨネーズ? 

 俺が、不思議そうな顔をしていたのだろう、アリサさんが説明してくれた。


「ケイさん。リムルはマヨラーなの。お好み焼きには、マヨネーズがかかっているわよね。それで、思い出したんだと思うよ」


 なるほど、リムルさんはマヨラーか。……でも


「マヨネーズですか……アレって、酸っぱくて、油くさくて、生臭くて、塩っ辛くて、不味くないですか? 俺、結構苦手なんですよ」


「んっ!」


 あっ、リムルさんが怒っている。


「ってことは、ケイさん、作れるよね。作ってあげてよ」


「でも、アレ、混ぜるの大変なんですよ」


「そんなの得意の魔法でなんとかなるんじゃないの?……あっ! ハンドミキサー! ハンドミキサーで思い出したけど、ケイさん、ケーキも作れるんじゃないの。私、前世で作ったことあるけど、材料はこの世界ので足りるよね」


「ケーキっ!」


 今度は、キアラさんが目を輝かせている。


「誰に作ったんですか?」


「そんなこと、今はいいのよっ! 絶対、作れるでしょ!」


「作れますけど……」


「私、ケーキがゴハンでもいいです」


 キアラさんはそう言うが、だから、嫌だったんだよ。もし、この世界の人にケーキを食べさせたら、ずっとケーキばかり作らないといけないようになりそうだからね。俺は、デザートではなく、白いご飯に合うおかずを作りたいんだ。


「ケイさん、すぐ作って! イチゴのショートケーキ食べたいっ!」


「いやいや、無理ですよ。3日はかかりますよ」


 アリサさんが煽ってくるが、無理なものは無理だ。……できなくは、ないけど。


「なんで3日もかかるのよ。私は1日もかからなかったわよ」


「それでもいいんですが、まず、スポンジは焼いてから、1日か2日、低温で寝かせるほうが美味しくなるんですよ。そして、生クリームを塗った後も、最低でも半日は、低温で寝かせるほうが美味しくなるんですよ」


「時間がかかるのは、わかったわ。美味しくなるほうがいいし。でも、トッピングしたイチゴどうなるのよ。萎びちゃうじゃない?」


 キアラさんも頷いている。リムルさんは、なぜか怒っている。


「じゃあ、イチゴは抜いて作ります」


「嫌よ、イチゴがないとショートケーキじゃないじゃない。前世のケーキ屋さんじゃ、どうやってたのよ」


「ナパージュですか?」


「ナパージュって何よ?」


 みんな頷いている。なんで、商隊の人まで頷いているんだ。


「ゼリーみたいな、イチゴの上に透明のヤツのってませんでしたか?」


「そういえば、アレ、ゼリーじゃないの?」


「ゼリーは、酸や水気に弱いんですよ。ナパージュでないと無理です」


「じゃ、無理じゃない」


 そんな、みんなで悲しそうな顔をしなくても……


「いや、まぁあ、リンゴかアプリコットのジャムで代用できますが……」


「やっぱり、できるんじゃない。罰として、ショコラケーキも作ってね」


 なんの罰だよ。


「アリサさん、この世界でチョコレートかココアを見たことありますか?」


「ないけど、どうせ、なんとかなるんでしょ」


「なるわけないでしょ。ココアの代用品なんて知りませんよ」


 ずっと、俺とアリサさんの会話をみんな黙って聞いていたが、


「ケイ、ちょっといいか。ココアってカカオだろ。ちょっと誰か取ってきてっ!」


「へい、姐さんっ!」


 マギーさんが会話に入ってきた。そして、マギーさんの呼びかけに商隊の男性が威勢良く返事をすると、荷物置き場に走っていった。モノを見せてもらったが、なんて都合いいんだろう、いや、悪いのか。ココアパウダーだった。


「なぁ、さっきから聞いていたんだが、“まよねーず”や“けーき”って、前世の食べ物だろ? 私たちにも、食べさせてくれ。なぁ、お前たちっ! 食べたいよなっ!」


「「「「「おおおぉぉおおぉおおおぉおおぉぉおお!」」」」」



 なんで、キアラさんやSランクの冒険者の人達まで、腕を突き上げて叫んでいるんだ……

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