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第22話

 図書館を後にし、学園に向かいながら、今までのこと思い返していた。……さて、学園長はどこまで答えてくれるんだろうか?



「ケイ、今日は何じゃ?」


 いつも通りのじじいの姿で、そして、いつも通りの様子で、学園長が聞いてきた。


「学園長は、ここの管理者ですか?」


「ほう、なぜそう思う?」


「いえ、ミシェルさんからステータスカードの制限を変えたことがないと聞いたので」


「残念じゃが、ワシはここの管理者じゃ。惜しいんじゃがな。ワシも会ったことがないので自信はないが、ワシの前任者である人間族の管理者がいたのであれば、その者はここの管理者ではないと思うておる。ステータスカードは、誰でも生まれた地域の管理下に入る。だから、ワシもそうだが、このラルス領周辺からデス諸島に到るまで、人は種族を超えて、共通の管理下にあるステータスカードを持っておるのじゃ」


 そりゃそうか、俺の考えだと、今、このアーク大陸にいる種族とデス大陸にいる魔族では違うステータスカードになるか。


「じゃあ、なぜ、制限を変えないのですか?」


「じゃあ、逆に聞くが、なぜ、変えねばならんのじゃ?」


「……それもそうですね。無理に変える必要もないですね」


「そうでもないんじゃがな、ワシもいろいろ考えたが決めきれんだけじゃよ」


「あと、俺にもステータスカードの制限を変えることはできるのですか?」


「たぶん、まだ無理じゃろうな。ミシェルのところで試さなかったのか?」


「はい、試していません。図書館にある母体で操作するのですか?」


 どうなるか、わからないのに怖いし。


「そうじゃ。だが、ワシが制限を変えることができるようになったのは、生贄の魔法陣が黒色になってからじゃ。石版をつくるのは、青色じゃったかな」


「じゃあ、俺には石版すら作れませんね。それと、生贄の魔法陣で気になることが出てきたのですが、もしかして、同じ管理下にある人ならどの種族でも生贄にできるのですか? ベルさんには、同じ種族でないとダメだと言われたのですが」


「それは、ワシも考えたことがあるが、同じ種族だけなんじゃ。ワシは人間族。サタンは魔族。ベルはたぶん人間族とハイエルフ族じゃ。ベルは人間族しか生贄にしていないはずじゃが。ケイは違うかもしれんがのう」


 ハーフは、ハーフではなく、どちらでもいいんだね。


「もう一つ、もし俺が管理者の操作をしたら、学園長はどうなるのですか?」


「わからん。ミシェルは、管理者から解放されると思っておるみたいじゃが、どうなるんじゃろうな」


 ミシェルさんが、言いたそうにしていたのは、このことかな。


「ところで、学園長は長命ですが、不死なのですか?」


「不老みたいじゃが、そんなことはないはずじゃ。少なくとも3000年前の魔族の管理者は死んでおるはずじゃし。闇魔法の使い手も500年前に死んでおるからな。ケイも気を付けるのじゃぞ。少々では死なんと思うが、絶対ではないからな」


「そうですね……」



「ところでじゃ、ケイ。お主は秋の祭りに参加はせぬのか?」


「祭りって、闘技大会ですか?」


「違うわ、魔族じゃあるまいし。収穫祭じゃ。その日は祝日でのう、希望者が露店を出して、皆でその年の収穫に感謝して祝う日じゃ」


「神に感謝するのですか?」


「なぜ、神が出てくるのじゃ。関係なかろう。感謝は、自分を支えてくれる周りの人々に対してじゃ」


「なるほど、で、参加ってなんですか?」


「そうか、ケイは初めてじゃったな。お主の家の前で、食べ物の露店などはせぬのか?」


「考えていませんでしたが、家の前は、俺の土地じゃないですよね」


「たしかにそうじゃが、昔から慣習で建物の前はその建物の持ち主に使用する権利があるのじゃ」


「やったほうが、いいのでしょうか? それなら何か考えますが」


「そうではないのじゃ。今年はゴブリンの襲来があって領民が沈んでおるのでな、盛り上げるために南の自由貿易国ダカールから商隊を呼んでおるのじゃ。その商隊のためにお主の家の前を貸して欲しいのじゃ。あと、その商隊を泊めてやって欲しい」


「構いませんが、いつですか?」


「そうじゃったな、10月10日じゃ。頼んだぞ」


 あと、ふた月ほどか。学園長は、もっと前から動いていたんだろうね。領主ともなれば、いろいろ考えないといけないんだろうね。


 管理者については、しばらく保留にしておくほうがいいか。管理者について、今まで俺に教えてくれなかったのも、俺がこの世界のことを知らな過ぎるからだろう。この都市では、調られべることも限られているし、まずは冒険者にならないと外に出られないからね。


 この後は考えることも多いので、依頼は受けず、家に帰って料理を作って過ごした。



 夕食のとき、フレディさんが、


「ケイ君。最近、何か悩んでいるようだけど、大丈夫かい?」


 みんな頷いている。気にしてくれていたんだね。


「特に問題はないのですが、いろいろ考えることが多くて。あっそうだ。冒険者にはどうすれば、なれるのでしょうか? 俺は2年生からの都市の外での実習に参加できないのですが、大丈夫なんでしょうか?」


「それは、大丈夫だよ。最低ラインがEランクに上がることだから、ケイ君はもう達成しているよ。あとは卒業するだけだね」


 みんな、初めて知ったような顔をしているが、あんたらも冒険者だろ。いや、初期階級が冒険者の人もいるか。


「でも意外と難しくなかったんですね」


「いや、そうでもないんだよ。ケイ君のように、ソロで依頼を受ける人は少ないから、評価基準に達しにくいし、一年生の間は授業があるから、まともに外の依頼を受けられないからね。2年生になってから外の依頼を受けるようになるんだけど、低ランクの依頼は失敗すると評価に響くから失敗できないし、FランクからEランクに上がるのは意外と難しいのだよ。まぁあ学園で普通に過ごしていれば、だいたい誰でもなれるはずだけどね」


「そうだったんですね。アリサさんのところも何か基準はあるんですか?」


「私たち生産系は、自分たちのギルド、私なら裁縫ギルドね。そのギルドに作ったものを買い取ってもらうことが条件になっているわ。これがなかなか大変みたいね」


 なるほど、裁縫ギルドにあるであろう石版も、ステータスカードの母体と情報を共有しているのかな。良く出来ているね。


「そうだ、ケイ君。これが悩みごとに関係あるかわらないけど、アルガス帝国は、今年は動きそうにないよ」


 フレディさんが、微妙な言い回しで教えてくれた。


「“今年は”ってことは、来年ですか?」


「そうだね。今はまだ兵を集めている様子はないから、次、動くなら春だね。あの国は、雪が積もるから、今から動くことはないと思うよ。もちろん、西側の辺境地域とは、小競り合いを繰り返しているけど、今回は、東側のエイゼンシュテイン王国に侵攻するだろうね」


「戦争には、冒険者も参加するのですか?」


「冒険者の中には傭兵を専門にしている人もいるからね。あと、自分の国のために戦う冒険者もいるね。でも、戦争に参加するような人は騎士を目指すから少ないよ」


「冒険者が参加する場合、名前の色はどうなるのですか?」


「ステータスカードの名前の色は、冒険者ギルドを通して依頼を受ければ、人を殺しても変わらないよ」


 うまくリンクしているんだね。たしか、戦争時でも略奪や陵辱は赤に変わるはずだし、学園長も言っていたけど、簡単に制限を変える必要はないのかな。



「少しいいですか? 帝国が、南にあるこのラルス領に来ることはないのですか?」


 アリサさんがフレディさんに聞いている。たしかに、気になるね。


「それは、考えられないのだよ。この都市には、各国の高官や上流階級のご子息やご息女がいるよね。だから、人質を取っているようなものなのだよ。ラルス様もよく考えておられるね」


「なるほどね、自分の国の高官や子供を引き上げても、他所の国に喧嘩を売ってるようなものですものね」


「そうなんだよ。だから、この大陸では、ラルス領が一番安全なのだよ」


 さすが、学園長だね。考えるだけでできることじゃないのに、長い年月をかけて作り上げたんだろうね。その学園長が戦争は避けられないと言っていたんだから、そうなんだろう。……見ているしかないか。



「ああ、そうだ。皆さんも聞いておいてください。10月10日の収穫祭のときに、ダカールから商隊が来るのですが、その商隊の方たちをこちらで宿泊してもらうことになりました。どうなるかわかりませんが、よろしくお願いします」


「若様、お気遣いは有難いのですが、前にも申した通り、若様が気に病む必要はありません。この爺やにお任せください」


 みんな頷いてくれているし、大丈夫だろう。いつものように、爺やさんが否定してくれたが、一応伝えておかないとね。

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