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第19話

 人の噂も七十五日なんて、嘘だ!


 女子生徒から冷たい視線を浴び続け、3ヶ月が経った。状況は一向に良くならない。アラン達の噂はすぐに消えたのに。


 そんなある日、キアラさんとパーティーの後片付けの依頼を済ませ、家の扉を開けようとした瞬間、嫌な予感がした。


「キアラさん、気をつけて」


 

そっと家の扉を開け、中に入ると、


「「「「「おおおおぉぉぉっ! おおおぉぉぉおおぉおおぉぉっ!!」」」」」


「ケイっ!、やっと帰ってきおったかっ! 早く、ビールを冷やすのだ。皆、待っておったのだぞ! はっはっはっはっはっ!」


 奥のテーブル席で20人ぐらいの人が盛り上がっている。そんな中、一際でかい声が響き渡った。魔族らしき人に混じって、知った顔のSランクの人達もいる。……サタン様、どう見ても誰も待っていませんよ。


「すみませーん! すぐに、冷やします!……ごめん、キアラさんも手伝って」



「よしっ! お前達、聞くのだ! こやつが、ケイ。ここの主だ。そして、ここの料理を作っておる奴でもある。皆の者、感謝するのだっ!」


「「「「「おおおおぉぉぉっ! おおおぉぉぉおおぉおおぉぉっ!!」」」」」


 もう何言ってんだが、聞き取れねぇよ!……キアラさんが、ジョッキを一つずつ冷やしてくれているので、俺は樽ごとビールを冷やし注いでまわった。


 皆さん、いろいろ声を掛けてくれるが、完全に出来上がっているのだろう。ろれつが回っていなくて、何を言っているのかわからない。見た目は、翼が生えていたり、角があったりするが、表情のおかげだろう、恐怖感はない。どちらかと言えば、滑稽だ。キアラさんにはハードルが高そうなので、頃合いをみて先に寝てもらった。



 サタン様に聞きたいことがあったが、今日はもう無理だろうと諦めかけていると


「ケイ、今日はすまないね。少し話がしたいのだけど、こっちに来てくれないか」


 一対の黒い羽の大きな翼を生やした黒髪赤眼の美しい巨乳の女性が、俺の腕を取って、カウンター席まで引っ張っていった。なぜ、網タイツにピンヒール、ハイレグのボンテージなんだろうか? 今日、来ている魔族の女性は、みんな露出度が高いが、種族特性なんだろうか?



 これは、隠蔽? いや、違うか……


「ただの消音結界よ。外に声が漏れないようにしているだけよ」


「そうなんですね。……えっ! 心を読めるんですか!?」


「私は、元天使だからね。そういえば、挨拶がまだだったわね。私は、ルシフェル、“堕天使”よ。今は、デス諸島の宰相をしているの。宰相と言っても、ただの雑用係だけどね」


「ケイです、よろしくお願いします。……元天使で心が読めるということは、神界に居られたのですか?」


「えぇそうよ。もう500年以上前になるけどね」


「じゃあ、エリスさんをご存知ですか?」


「耳年増のエリスかい。金髪の娘だろ? 知ってるよ」


「耳年増ですか?」


「そうよ、あの娘はね、私達が恋愛話や下ネタを話しているとき、話に入ってこないくせに、いつも聞き耳を立てていたんだよ。だから、むっつりエリスとか、耳年増とか呼ばれていたんだ。エリスの制服、可愛かったでしょ? あれ、私がエリスのために考えたんだよ」


 あのスケスケの制服か……エリスさんが言ってた悪い上司って、アンタかよっ!……素晴らしい上司だね。


「でも500年前の話ですよね? エリスさんはそんなに長い間、我慢してたのでしょうか?」


「褒めてくれて、ありがとう。あの世界で1度決まったことを変える事なんて、エリスには無理よ」


「心を読めるんでしたね。ところで、なぜ、消音の結界を?」


「それはね、ケイ。あなたが聞きたいと思っていることは、魔族の中でも知っている人が少ないの。そして、知らないほうがいいことなのよ。あの中には、耳のいい子もいるしね。特にあの寝たふりしながら、聞き耳立ててる豹人族の娘とかね」


「あぁ、シャルさん。知らないほうがいいことって、魔族の歴史についてですか?」


「そうよ、歴史なんてホントかウソかわからないことなのよ。そのときの権力者が自分たちの都合のいいように改竄するからね。だから、私が知っていることもホントかウソかわからないわ」


「天使でもわからないのですか?」


「天使といっても、あなたが考えているような全知全能ではないの。神界で調べれば、わかるかも知れないけどね」


「では、この世界の神と神界の神は別ものなのですか?」


「いい表現ね、あなたにとって、神は“もの”なのね。そうよ、この世界の神と神界にいる神は別の“もの”よ」


 そんなつもりで言った訳じゃないんだけど……今のところ、この世界の神は、この世界の秩序を守るためのシステムだと思っているから、“もの”でもいいのか。


「では、ルシフェルさんが知っている歴史について、教えてもらえないのですか?」


「教えるわよ。そのために離れた場所で消音結界まではっているんだから。それに、私が言わなくても、サタン様は言うからね。私は宰相の立場から他の魔族に聞かれたくないだけよ」


「知られると危険なことなんですか? そんなこと、俺が知ってもいいんですか?」


「そうね、またアーク大陸と戦争になるでしょうね。あなたが知っていいのかは、私にはわからないわ。さっきも言ったけど、私は他の人に聞かれたくないだけよ。あなたについては、サタン様が言うんだから仕方ないわ。……ここまで言えば、もうわかってると思うけど、あまり他所では言わないでね」


「わかりました」


「じゃあ、確実にわかっていることから話そうかしら。500年前まで、魔族がアーク大陸と戦争をしていたのは知っているわね。そのときの魔王様やその一族郎党を皆殺しにしたのが、サタン様なの」


「どうして、サタン様はそんなことを?」


「アーク大陸との戦争を止めるために必要だったからよ。前魔王様はアーク大陸を好き放題、蹂躙していたからね。だから今、アーク大陸の人達が、魔族のことを良く思っていないのも仕方のないことなのよ。ここまでは、私も見ていたから間違いないわ」


「では、なぜ前魔王様がそんなことをしたのかが、不確実な魔族の歴史ということになるのですか?」


「そうよ。3000年前の話だからね」


「少しいいですか、この世界の人の寿命は長い人でどのくらいなんですか?」


「1000年ってところかしら。魔族の一部と精霊系種族の一部がそのくらいだと思うわ」


「それじゃあ、真実はわからないですね」


「そうなの、人間族に至っては100歳ぐらいで限界だから、500年前のことすら正確に伝わっていないはずよ。……ここからが不確実な魔族の歴史になるけどいい、続けるわよ。3000年前にアーク大陸、いえ違うわね、ラルス領を中心とした地域を治めていたのは、魔族なの。今、アーク大陸を治めている種族は、いなかったらしいわ。突然現れた今のアーク大陸にいる種族によって、奪われ、デス諸島に追いやられた。これが、魔族に残っている魔族の歴史よ」


「では古代遺跡は、魔族の遺跡なんですか?」


「それは違うと思うわ。もっと前からあったとも、3000年前に突然、出現したとも言われているわね。魔族の遺跡や遺物もあると思うけど、普通3000年も経てば、風化してなくなっていると思うわ」


「魔族に残っている歴史については、わかりました。では、ルシフェルさんの知っている歴史はどうなんですか?」


「ふふっ、やっぱり気になるわよね。あなたが思っているほど、私は詳しくないわ。さっきも言ったけど、神界で調べれば、わかるかもしれないけどね。私は知らないまま、神界を追放されたから、わからないのよ」


「追放!? 追放って、何をしたんですか?」


「ちょっと転生者に好みの男がいたから、手を付けただけよ。最初は注意で済んでいたんだけど、繰り返していたら、上がキレちゃってね。追放されたのよ」


 なんて羨ましい!……いや、ダメだろう、いや、ダメなのか?


「それじゃあ、仕方ないですね」


「そうなの、仕方ないでしょ」


「いえ、違います。上がキレてもですよ」


「まぁたしかにルールを破ったのは、私だからね。それに神界よりも、こっちのほうが楽しいからいいんだけどね」


「じゃあ、ルシフェルさんは知らないってことですか? でも、“アーク大陸”を“ラルス領を中心とした地域”に言い直しましたよね?」


「よく聞いていたわね、細かい男は嫌われるわよ。あなたも気付いているでしょうけど、この世界は、アーク大陸にいる人達や魔族が考えているよりも、もっと広いわ。だから、3000年前に、魔族が治めていた地域が他の地域から攻め込まれても、可笑しい話ではないのよ。ただ、今いる人達にとっては、自分の知っている世界だけがすべてだから、“突然現れた”になるだけよ」


 うーん、まただ。わかったような、わからないような、ミシェルさんもそうだったけど、何か隠してそうなんだよね。


「あとルシフェルさんは、心を読めるなら“闇魔法”についても知っていますよね」


「ええ、もちろんよ」


「では、サタン様が転移ゲートを作れる理由を知っていますか?」


「知らなかったの、サタン様が“管理者”の血族だからよ」


「“管理者”って、なんですか?」


「えっ! ちょっと待って。なんで、あなたが知らないのよ。“闇の加護”のないサタン様が知らないのならわかるけど、あなた、“管理者”でしょ!」


 今まで、余裕の笑みを浮かべて話をしていたルシフェルさんが、急に慌てだした。


「はぁ? どういうことですか?」


「どういうことって、あなた、“闇の加護”を持っているんでしょ。それが、“管理者”の証よ。……あぁなるほどね、何も聞かされていないのね。まぁいいわ、私も詳しくは知らないけど、“管理者”っていうのは、この世界の秩序を守るためのシステムを管理する人のことよ。さっき、神を“もの”扱いしてたのは、前世の記憶のせいなのね。“管理者”らしい思考だと思っていたわ。あなたの思考、読みにくいのよ。だいたい、今、話しているときでも、半分以上の思考を使って、私の体を見ているでしょ。いろんな雑念が混じって、どれが本心なのかわからないのよ」


「すみません」


「別にいいわよ、見られて悪い気がするわけじゃないし」


「ありがとうございます。“管理者”については、まぁいいです。サタン様が“管理者”の血族って、どういうことですか?」


「えっいいの? ホント、あなたの思考はわかりにくいわね。ずっと説明していることだけど、3000年前までラルス領を中心とした地域、もうラルス領でいいか。3000年前まで、魔族が今のラルス領を治めていたはずなの。そして、そのときの“管理者”は魔族だったはずなの。確定でないのは、さっきも説明したとおり知っている人がいないからよ。でも魔族には、“闇魔法”を使える血族がいたから、信憑性は高いわね。その血族が前魔王様の一族で、サタン様の血筋でもあるのよ。サタン様は一族郎党、皆殺しにしたから、今残っている“管理者”の血族は、サタン様だけなのよ。だから、サタン様が転移ゲートを作れても不思議ではないのよ」


 たしか、ベルさんも500年前までデス諸島には、“闇魔法”の伝承が残っていたと言ってたような気がするね。ベルさんは、どこまで知っているんだろうか。


「この話は、誰が知っているのですか?」


「そんなこと、私にはわからないわ。少なくとも、ほとんどの人が知らないのは確かね。そして、宰相の立場から言えば、魔族には知らせて欲しくないわね。まぁ、今のあなたが言っても、誰も信じないでしょうけどね」


「それもそうですね。ありがとうございました」


「えっ、“管理者”についてはいいの?」


「でもルシフェルさんは、知らないんでしょ」


「そうだけど、知らなかった割に、あっさりしているわね」


「“闇の加護”や“闇魔法”については、何かあると思っていましたし、ラルス様に直接聞いてみます」


「まぁあ、それが一番いいと思うけど。じゃあ、もう聞きたいことはないの?」


「あっ! そういえば、今日は何かの集まりなんですか?」


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