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第18話

 夕食で今日作ったピザを出した。


「ケイさん、ピザじゃないですか! こんなの作れるんだったら、もっと早く出してくださいよ!」


 アリサさんのテンションが上がった。最近、ほとんどタメ口になっていたのに、敬語になっている。また、作れということだろう。他のSランクの人たちと同じように好きなもの食べればいいのに、一応、遠慮してくれているのかな?


「ほう、これはピザというもので御座いますか。無発酵パンとも違うようですが、生地がパリッとして美味で御座いますな」


 あっ爺やさん、髭にチーズが……言ったほうがいいんだろうか? おっナフキンを取り出して拭いた。さすが、こだわりのカイゼル髭だね。すぐに整えているよ。


「美味しいです」


「ん」


 この二人は、おいといていいだろう。


「ケイさん、配達でよくあった、生地の厚いやつは作れないの?」


「できますよ。今日は酵母の確認のために、クリスピー生地にしただけですから、今度、作って食料庫に保管しておきますよ。爺やさんに言って、出してもらってください」


「やったー! このピザ食べたら、急に懐かしくなってね。完全に忘れていたよ。ありがとう、ケイさん」


 うん、タメ口に戻った。



「ところで、アリサさん。最近、学校でアラン様の噂を聞きますか?」


「なに、ケイさん、まだ友達できないの。まぁ構わないけど。ちゃんと学園には来ているらしいわ。もう、誰も気にしてないし、大人しいものね」


 ほっといとてくれ、俺は1人での楽しみ方を……いや、もういいだろう。本当に悲しくなりそうだ。


「そうなんですね。あと、学園にはアルガス帝国出身の人もいるんですか?」


「何言ってるの、ケイさん。ケイさんのクラスにも絶対いるはずよ。学園では、アルガス帝国出身者が一番多いんじゃないかな。あと、なんと言っても真面目ね。この学園は優秀な成績で卒業すれば、他国への移住も認められているからね。だから、アルガスの人達は皆、必死で勉強しているのよ。あの国から出たいからね」


 そうだったんだ。知らなかったよ、そんな制度。たしかに、将来が有望な若者ならどこの国でも欲しいか。でも、たくさんいるなら、アランも接触しやすいのかな。考えすぎるのも良くないし、この話はもういいか。



「ゲルグさん」


「なんだ」


 おいおい、ピザソースとチーズで白い髭がえらいことになってるぞ。こっちは言わなくてもいいだろう。


「ゲルグさんは、デス諸島に住んでいますよね。魔族の歴史について知っていますか?」


「うーむ、知らんわけではないが、ワシの口から言えんのう。誤解が生まれる可能性があるからな。やっぱり、この話は本人達に聞くほうがいいのう。こないだ家に戻ったときにサタンに会ったが、近いうちに来ると言っておったぞ。あいつ等の近いうちは、いつになるかわからんがな」


 やっぱり差別とかもあるし、繊細な問題なんだろうね。


「フレディさんも、同じですか?」


 やっぱり、この人は優雅だ。ピザの食べ方まで、美しいね。


「そうだね。私はゲルグさんほど詳しくはないと思うけど、言わないほうがいいのだろうね。だけど、アルガスの事なら教えてあげられるよ。最近は依頼で帝都に通っているからね」


「フレディさん、依頼受けていたんですか? ずっとここに居るからどうしているんだろうと思ってたんです」


「まぁあ、ずっと居ても構わないんだけどね。昔、世話になった人に頼まれて断れなかったのだよ。ただ、あっちは治安が悪くてゆっくり寝られないから、いつも帰ってきているのだよ。食事も美味しいからね」


 “帰ってきている”って、完全にここが家じゃん。まぁいいや、


「そんなに治安が悪いのですか?」


「ケイ君も知っての通り、政情に不安があるからね。でもその分、冒険者も多いのだよ。ラルス領周辺にいる高ランクの冒険者は、ほとんどアルガスにいるね。他の国は安定しているから、高難易度の依頼が少ないのだよ」


「そういう需要もあるんですね。じゃあ、アルガスでは亡命者の受け入れとかされていますか?」


「いや、それは無いね。ただ、不法滞在者は大勢いるけどね。亡命者の受け入れを認められているのは、デス諸島だけだよ。“また”何かのトラブルかい?」


 また、“また”か。


「いえ、少し気になっただけです」



「ケ~イく~ん、ただいまぁ~。お姉さん、帰ってきたよぉ」


 煩いのが帰ってきた。そして、後ろから抱きつくなっ!……いや、ごめんなさい、嘘です。


「シャルさん、お帰りなさい。もう依頼は片付いたんですか?」


「ああっ! ゲルグさん、何その髭。自分だけ美味しそうなもの食べて。私にもちょうだいよ!」


 相変わらず、騒々しくマイペースな人だ。


「なんじゃ、シャルロットか。ケイ、早う、お前が相手しろ。騒々しくてかなわん」


「わかりました。シャルさん、あれは、ピザと言って。前世にあった食べ物です。今日、試しに作ってみたんですが。って、えっ!」


 話し終わって振り返ると、もう食ってるし。ずっと俺に後ろから抱きついていたよね? どうやって取ったの? Sランクだから?……Sランクって凄いね。


「ところでぇ、ケイ君。あの娘たちはなにぃ? また新しいおんなぁ? お姉さん、寛容だからぁ、遊びなら許してあげるけどぉ、本命はお姉さんよぉ」


「け、け、けいさん。そ、そ、そ、そんな関係なんですか?」


「ああ、キアラさん。この方は、シャルロットさん。Sランクの冒険者です。たぶん、依頼明けで疲れておられるのだと思います」


 うん、まったく説得力がないね。だって、頭におっぱい乗ってるし。あと残り二人、ジト目は止めて、ジト目は。頼むから何か言って。


「そうよぉ、ケイ君。お姉さん、疲れたぁ~、癒してぇ~」


 ちょっ、おっぱい、プルプルさせないでっ!……いや、ごめんなさい、嘘です。


「すみません、キアラさん。俺、今、手が離せないので、ビールを冷やしてもらってもいいですか?」


「わ、わ、わかりました!」


「何、この子っ! ケイ君の魔法、使えるのっ? すご~い。私、シャルロット。シャルって呼んでもいいわよ。よろしくね」


「あっはい、キアラ・ルミエールです。よろしくお願いします。こ、こ、これ、ビールです」


「ありがと……ところでぇ、ケイ君。さっきまで暗かったけどぉ、何話していたのぉ」


 いや、暗いって、あんたが明るすぎるんだよ。


「アルガス帝国について、フレディさんに聞いていたんです」


「そういえばぁ、フレディもアルガスで依頼受けていたわねぇ。……フレディっ! フレディは、帝都だったっけ」


「そういうシャルロットさんは、辺境の都市でしたね。辺境の都市は、どうですか?」


「もう無理ね。いつ反乱が起こってもおかしくないわ。皇帝に対する不満が限界よ。また、戦争でも起こしてガス抜きするしかないんじゃない」


「そうですか。帝都では、そこまで危機感を持ってなさそうなんですけどね」


「フレディさん、危険なんですか?」


「ちょっとぉ。何でお姉さんじゃなくてぇ、フレディに聞くのよぉ」


 そんなんだからだよっ。


「まぁあ、いつもの事だから、ここに居れば心配ないよ」


「そうなんですか……」



「「「おーい、ケイ。来たぞ~」」」


 Sランクの冒険者の人達が、ぞろぞろやってきた。なんでこの人達は新しい料理を作ったら、いつも湧いてくるのだろうか? Sランクになれば、第6感にでも目覚めるんだろうか?





 それから10日程過ぎた朝、学園の教室で、


「ケイ、コレ」


 この間、マウイ様の手紙を届けてくれたクラスの女の子が、また、手紙を渡してくれた。何か怒らせるようなことをしたんだろうか、俺。


 “今日の放課後、学生食堂で待つ。  文官コース3-1 マウイ・バウティスタ”


 手紙の内容は同じだ。



 放課後、またダッシュで学食に向かった。しかし、入り口から中に入った瞬間、何人かの女の子から冷たい視線を浴びた。闇魔法の認識阻害があるはずのに、この視線には、何かあるのだろうか。


 前回、座っていた窓際の席には、すでにマウイ様が座っていた。


「マウイ様、お待たせして、すみません」


 早歩きで近づき、頭を下げた。……食べる席では、どんなに急いでいても走ってはいけないよ。ホコリが立つからね。


「構わないよ。さぁ席に掛けたまえ」


 マウイ様はご機嫌な様子だ。


 マウイ様の向かい側の席に着くとマリアさんがお茶を出してくれた。


「ありがとうございます」


 礼を言って、口を付けると、こないだの“いいお茶”だった。


「まずは、礼を言わせてもらおう。この間のケイの助言どおり、本国に連絡を入れたら、輸出の再開が私の功績になってね、本当に感謝しているよ。ありがとう。これで、卒業後の私の進路も安泰だよ」


 マウイ様は体を乗り出し、俺の手を両手で握って感謝してくれている。……が、頼むから早く手を離してくれ、周りの女の子の視線の冷たさが増してきてるんだよっ!


「いえ、どう致しまして……」


 やっと、手を離してくれた。


「ところで、また相談なのだが、構わないだろうか?」


「ええ、私にできることでしたら、構いませんが」


「君は、アルガス帝国の現況を知っているかね?」


「知っておられるかもしれませんが、辺境の都市で皇帝に対する不満が限界のようです。いつ反乱が起こってもおかしくない状況らしいです。その不満のガス抜きのために、帝国は戦争を起こすのではないかと噂されています」


「ケイ、君はなんでも知っているのだね」


「いえ、なんでもは知りません……」


「いや、ありがとう。今回も助かったよ。あと、マリアも話したいことがあるらしい。私は帰るが聞いてやって欲しい、頼むよ」


 そういい残し、立ったままのマリアさんを残して、マウイ様は去っていった。


「えーと、マリア様。席に座ってもらえませんか。結構、周りの視線がキツいです」


「すみません。あと、様付けは止めてください。同じ階級ですので」


「わかりました。……ところで、話したい事とは、何でしょうか?」


「かなり個人的なことになるのですが、宜しいでしょうか?」


 告白……じゃないよね、そんな雰囲気じゃないし。


「お聞きするぐらいしかできないかもしれませんが、それでも宜しければ、どうぞお話しください」


「お願いします。まず、私の生い立ちからになりますが、私の母は、私を産んですぐにマウイ様の乳母になりました。そして、幼き日から今まで、マウイ様は上級貴族のご息女、私はマウイ様の契約奴隷と立場は違いますが、ご一緒に成長してきました。マウイ様は大変お優しい方で、外では立場を弁えておられますが、内では姉妹のように接してくださいます。今まではこれで良かったのですが、もうすぐ私たちは15才になります。その日をもって、私を解放し自由にすると仰られているのです。私はこのままでいいのです。いえ、このままがいいのです。マウイ様はお優しすぎて心配だというのも勿論あります。でも、私はマウイ様の契約奴隷として生きていきたいのです。私はどうすればいいのでしょうか? こんなこと誰にも相談できません。でも同じ契約奴隷で、しがらみも少ないケイさんに聞いて欲しかったのです」


 何コレっ!……俺にどうせぇっちゅぅねん!


「そうですね。私のこともお話しましょう。私もマリアさんと同じで幼いころから契約奴隷でした。ただし違うのが物心付いたころから、契約主であるベル様に15才になれば解放すると言って育てられました。そして、私は15才になれば解放してもらうつもりでいます。ですので、マリアさんとは立ち位置が違いますが、聞いていただけますか?」


「はい、お願いします」


「今、私にお話ししたことを、そのままマウイ様にお伝えすればいいと思います。今のお話で、マリアさんのマウイ様に対する気持ちが凄く伝わってきました。ほとんど面識のない私にも伝わる気持ちが、姉妹同然に育ったマウイ様に伝わらないはずがありません。自信を持って伝えればいいと思います」


「マウイ様のご迷惑にはならないでしょうか?」


「なりません」


 ここは、言い切らないとダメだよね。


「わかりました、私の思いを伝えてみます。今日は、ありがとうございました」


 そういい残し、マリアさんは去っていった。……残された俺はどうすればいいんだ。何、この冷たい視線達。



 次の日の夕食で、アリサさんが敬語で、


「ケイさん、何をしたんですか? 学園中、ケイさんの噂で持ちきりですよっ!」


 さすがに、友達がいなくてもわかったよ。終日、女の子達からの冷たい視線を浴び続ければね……なんで、あの視線には認識阻害が働かないんだろうか。


「ケイさん。マウイ様は、学園で女子生徒からの人気がナンバー1なんですよ。さらにナンバー2のマリア様まで……ありえませんよっ」


 ……俺の学園生活は、どうなるんだろうか?

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