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第13話

 学園が再開されて、ひと月が経った。


「そろそろ、キアラさんの装備をなんとかしましょうか?」


「えっ、でも……今の依頼じゃ必要ないし。爺やさんに習ってる魔法なら杖もいらないです。……あと、お金も装備を買えるほど貯まってないです」


「大丈夫です。いい人達がいます。頼んでみましょう」


 キアラさんはまだ友達が少ないみたいだ。友達が少ないのは俺も一緒だけど、アリサさんとリムルさんと仲良くなれれば少しは変われるかもしれないと思い、彼女達にキアラさんの装備の製作をお願いするために2人の住む女子寮へ向かった。


 女子寮の管理人さんにアリサさんとリムルさんを呼び出してもらうと、


「ケイさん、お久しぶりです。……その子ってまさかっ!」


 アリサさんがキアラさんを見て、声を上げた。


「ああ、それは──」



 俺がキアラさんとの経緯を説明すると、


「それでアラン様達、学園に来なくなったんだ」


 アリサさんが呟いた。


「えっ! アラン様、学園に来ていないのですか?」


「はい、そうです。学園が再開されてから来てないみたいですよ」


「そうなんですね……」


 でもキアラさんにとっては良かったのかな。


「で、今日は何の用ですか?」


 俺が考え込んでいると、アリサさんが尋ねてくれた。


「そうでした。キアラさんの装備を作ってもらいたいのですが、できますか?」


「私達、まだ大したもの作れませんよ」


「それで構いません。予算もないですし店売りの安いものを買うなら、アリサさんとリムルさんにお願いしようかと思いまして」


「私はいいけど、キアラさんもいいの?」


「はい、お願いします。私、何も知らないんですけど、大丈夫ですか?」


「じゃあ、素材を一緒に買いにいきましょう。ケイさんも来ますか?」


「二人に、キアラさんを任せてもいいですか? 俺は少し料理のストックを仕込みたいんですが」


「いいですよ。また食べさせてくれるのならね」


「そんなことで良ければ、いつでも来てください。リムルさんもお願いします」


「ん」


 リムルさん、今の会話で、最後の“ん”しか言ってないんだけど、大丈夫なんだろうか?



 家で料理を仕込んでいると、キアラさんが二人を連れて、笑顔で帰ってきた。仲良くなれたのかな。


「ねぇ、ケイさん。私たちもここ住みたいんだけどいいかな? お願い、キアラだけズルいよ」


 もうキアラって呼び捨てにしてるんだ。キアラさんと仲良くしてくれそうだしいいかな。


「俺は構わないんですけど、リムルさんもいいんですか?」


「ん」


 いいみたいだ。2人ともキアラさんと仲良くしてくれそうだし、問題ないだろう。


「部屋の案内は、キアラさんにしてもらってください。あと、いつからですか?」


「今日からよ」


「今日ですか? 引越しとかどうするんですか?」


「荷物なんて着替えくらいしかないし、明日、学園の帰りにでも取ってくるわよ」


 なんかアリサさんのキャラ変わって来てるんだけど、素がこっちなんだろう。


「わかりました。夕食の準備をしますね」



「ねぇケイさん、やっぱり彼ら高校生だったんだね」


 夕食の席で、アリサさんが話しかけてきた。


「そうみたいですね。アリサさん、学園での彼らの噂を聞かせてもらってもいいですか?」


「いいけど、ケイさん知らないの?」


 友達がいないんだよ……


「ええ、まぁあ」


「まぁいいわ。ゴブリンキングの襲来で学園が休みになったとき、あったでしょ。あの後から来てないらしいよ。自分達だけで突っ込んでいって、大岩に取り残されたのをたくさんの学生に見られていたのよ。それで恥ずかしくなって休んでるんじゃないかって噂されているわね。あと名前が黄色になったって、噂もあるけど。これはキアラもなってたみたいだから、本当かもしれないわね」


「そうだったんですね。でも、名前が黄色になっても教会に行けばいいと思うんですけど」


「そうなんだけど、貴族や王族には昔から多いみたいよ、黄色や赤色。面子とかあるんじゃないかな。あと、政治が絡むとどうしても悪いこともしないといけないんじゃない。赤色になっても、死ぬわけじゃないし、子供は白色で産まれてくるからね」


 そういえば、戦争とかクーデターの首謀者は赤色になるんだったね。じゃあ初代の王様とか、赤色が多いのかもしれないね。


「彼らは、これからどうするんでしょうか?」


「噂が消えれば、そのうち来るんじゃない。キアラにとっては来ないほうが良さそうだけどね」




 噂をすれば、なんとやら……翌日、午後の授業を受けるために移動をしていたら、アラン達がいた。……6人か、もう1人いるはずなんだけど、辞めたのかな。それに、全員、名前が黄色だ。教会に行けばいいのに……


「お前がケイか? よくも俺の獲物を横取りしやがって!」


 アランが怒りを露わにして、何かを投げてきた。……避けた。……白い手袋だった。


「拾えよ!」


 これって、もしかして決闘の申し込み? この世界でも拾うと合意になるのかな? でも、一応アランは王族だし……


「どうぞ」


 拾って返してみた。


「よし、決闘だ。付いて来い!」


 えええぇぇぇっ、マジで! 決闘って何? 殺し合い?



 体育館のような建物に連れて来られた。裏ではなく、表から中に入るようだ。中に入ると地面が土の訓練場だった。その中央にはリーナ先生ともう1人男性が立っていた。


「ケイ君、ちょっといい」


 リーナ先生に腕を取られ、アラン達から少し離れた。……先生、隠れ巨乳だったんですね。


「ケイ君、なんで決闘を受けたの?」


「やっぱり、手袋を拾うと合意なんですか?」


「何言っているの? 誓約書にサインしたんでしょ?」


 良かった。そんなしきたりはないんだね。


「サインなんてしていませんが」


「じゃあ、どうしてここに来たのよ?」


 ここで、リーナ先生と一緒にいた男性が近づいてきた。


「私は冒険者コース1-1の担任、クレメンス・マトゥシュカだ。よろしく頼む。君がケイ君?」


「はい、冒険者コース1-8のケイです。よろしくお願いします」


「アラン様は、君が手袋を拾ったので決闘に合意したと言っているんだが、本当かね?」


「前世の他国の話ですが、何百年も前のしきたりにそのような事があったと聞いたことがありますが、知らない人のほうが多いのではないでしょうか? あと拾ったのは、合意ではなく、命令だったからです」


「まぁそんなことだろうとは思っていたが……すまないが決闘をやってくれないか。この建物は学園長の結界に守られているから死ぬことはないのだ。あと、アラン様は言い出すと聞かないからねぇ」


「この世界には、決闘のルールがあるのですか?」


「もちろんある、説明しよう。決闘は、必ず1対1で行われること。両者の合意が必要であること。誓約書に合意を示す両者のサインがあること。生死は問わないこと。決闘の結果が絶対であること。がルールになるね。誓約書に書いてあることだけどね。誓約書にサインがなく決闘が行われると、犯罪者になる可能性があるのだよ」


「仕方なさそうですね。わかりました、誓約書をお願いします」


「すまない、恩に着るよ」


 誓約書にサインをすると、クレメンス先生はアランたちのほうに戻っていった。アランが、何か言ってるみたいだが、どうでもいいだろう。さて、どうするか……



「これより、アラン・シュトロハイムとケイの決闘を執り行う。立会人は、私、クレメンス・マトゥシュカが務める。この決闘は、誓約に則り執り行われる。両者、異議は認められない。……では、はじめっ!」


 アランが長剣を構えているけど、俺は無手で様子を見ることにした。……うーん、距離あるなぁ。30mぐらいか。何をするんだろう。あの剣、高そうだなぁ。……勝っても不味そうだし。とりあえず、近接戦闘でいいか。


 アランに、歩いて近づき始めると、


「ライトニング・ボルトォォオオオオ!」


 アランが初級雷魔法の“サンダーボール”を長剣を通して放ってきた。……避けた。ちなみにライトニング・ボルトは上級雷魔法だ。


「なにぃ!」


 アランが驚いているが、魔法を打つ前に叫んだら、避けるだろ、普通。アランの剣の間合いの少し前で止まると、


「ライトニング・スラァッアシュ!」


 アランは叫びながら、長剣を振りかぶり切りつけてきたが、打つ前に剣技を叫んだら、避けるって。それに、たぶん初級剣技の“スラッシュ”だし、間合いに入らないと当たらないし……


「ライトニング・スラァアシュ! ライトニング・スラッシュ! ライトニング・スラシュ……」


 だから、間合いに入らないと当たらないっ……って、もう疲れてる?


「……」


 踏み込んで、アランの顎を掌底で打ち抜いた。


「……」


「勝者、ケイ!……以上で、この決闘を終結とする。異議は認められない」


 クレメンス先生の言葉の後、気絶していたアランが起き上がった。なんともないようだ、学園長の結界が効いていたのだろう。


「ケイ! 覚えてろよっ!」


 アランは捨て台詞を残して、仲間たちを連れて出ていった。



「これで、良かったんでしょうか?」


 残された俺は、クレメンス先生に聞いてみた。


「そうだな。アラン様は納得してないようだが、誓約書があるからな。もし逆恨みや闇討ちにあっても、今のケイ君の動きなら大丈夫だろう」


「闇討ちは怖いですね……」



 アランとの決闘の後、リーナ先生と一緒に授業に向かった。


「ケイ君、フリードリヒ・ベッカー様と会ったんだって?」


「お知り合いですか?」


「直接は知らないわ。でも、この都市では力を持っている貴族よ。私もそうだけど、ケイ君とアラン様を比べてしまうんでしょうね。同じ年で同じ前世の記憶を持っているのに、差が大き過ぎるからね」


 何を聞きたいのだろうか?


「フリードリヒ様とアラン様の関係は上手くいっていないのですか?」


「表向きはそんなことないわよ。気付いているでしょうけど、お互いに良く思ってないでしょうね。マルク様もそうだけどね」


「フリードリヒ様が、マルク様をですか?」


「そうよ。フリードリヒ様が勇者様派の貴族だということはもう知っているわよね。勇者様とマルク様は仲がいいの。でもマルク様は国民に人気があるから、勇者様派の貴族は面白くないのよ。だから、表向きはいいけどねってことになるのよ。アラン様がダメなのは国民も知っているから、勇者派の貴族にとってはマルク様のほうが怖いのよ。」


 ということはシュトロハイム王国の貴族にとって、アランはそれほど価値がないのか……それよりも、リーナ先生はこんな話をして、何を言いたいのだろう。 



 授業も終わり、アリサさんとリリイさんの引越しを手伝うために、4人で歩いていると、“探知魔法”で追っていたアランたちが近づいてきた。


「すみません。先に行ってもらえますか?」


「えっ! どうしたんですか?」


 俺が声をかけると、キアラさんが心配してくれた。


「大丈夫です。キアラさんは、お2人の手伝いをお願いします」


 俺はそういい残し、みんなから離れた。アラン達に追われ1時間ほど南の居住区を歩きまわっていると、追って来なくなった。疲れたのだろうか? 



 その後、家に帰ると


「ケイさん、飲んでみて下さい。どうぞ!」


 キアラさんがそう言ってジョッキを付き出してきた。飲むと冷たい黒ビールだった。ついに“ビールを冷たくする魔法”まで……


「凄いですね。頑張りましたね。ちゃんと冷えていますよ」


 キアラさんには才能があるのか、爺やさんの指導力なのか、そのうちきっと他のもできるようになるのだろう。……どんどん俺の希少価値が減っていくね。



 それから2日後、ついにキアラさんの杖とローブができたようだ。


 ローブは、濃い臙脂色に袖や裾、襟元に黒のレースが施され、腰には太めのベルトを通して、スリムに仕上がっている。大人っぽいし、光魔法のイメージではないんだけど……


「このローブはデザインだけだから、汚れの目立つ白や黒は避けて、この色にしてみたの。キアラは大人に憧れているところがあるし、ちょうどいいと思ってね」


 アリサさんが説明してくれたけど、いろいろ考えているようだね。


「ありがとうございます。本当の魔法使いになったみたいです」


 喜び過ぎているのだろう、言ってる意味がわからない。キアラさんは本当の魔法使いだからね。


「ん」


 リムルさんの杖だ。木製で上部に近づくほど、太くなり捩じれている。そして、下部は金属で加工され、重さのバランスをとっているのだろう。


 二人ともセンスがありそうだ。


「あのう、アリサさん、リムルさん、ありがとうございます。でも、こんなにいいもの、私が持っているお金で、足りるかどうかわらないんですけど……」


「お金は、材料費を出してもらっているんだから、いらないわよ。私達も楽しんで作ったんだから。ねぇリムル」


「ん」


 良い人達だ。


「ほう、杖で御座いますか。なかなかの出来栄え、それならある程度、実戦にも耐えられそうですな。キアラ様、明日からは杖術も鍛錬に加えましょう」


「爺やさん、お願いします」


 そういえば、爺やさんって杖術も使えたね。




 翌日の放課後、依頼の確認するため、冒険者ギルドに寄ると、


「ケイさん、久しぶり。噂ってホント?」


 俺と同じ転生者のペーターさんが話しかけてきた。


「ペーターさん、お久しぶりです。噂って何ですか?」


「アラン様と決闘した話だよ」


「はい、やりましたけど、どんな噂になっているんですか?」


「アラン様が、Eランクなったケイさんを妬んで決闘を挑んだら、逆に半殺しされたって聞いたけど」


 噂って凄いね。事実と嘘が混ざっても、それらしく聞こえるんだね。


「半殺しになんかしてませんよ。ちょっと俺の攻撃が先に当たっただけです。実際、アラン様は歩いて帰っていきましたからね」


 嘘はないよね。……言ってないことはあるけど。


「そうなんだ。やっぱり噂ってそんなもんだね。でもどうだった、実際に戦ってみて」


「そうですね。魔法や剣技を連発してましたから弱くはないと思います。まだ、戦闘に慣れていない感じでしょうか」


「そうなんだ、やっぱりケイさん強いんだね。ゴブリンキングを討伐したの、ケイさんでしょ? あのとき、俺、ゴブリンの死体処理のために前線にいたんだよ。誰か前線を抜けて突っ込んでいって吃驚したよ。ケイさんかもしれないと思って声を掛けたんだけど、聞こえてなかったみたいだね」


「ペーターさん、あの時、居たんですか……でも言わないでくださいね。変な人に目を付けられるの嫌ですから」


「わかっているよ。今の時点でケイさんの名前出てないんだから、言うつもりはないよ。……あとそっちの子、あの子だよね。ケイさんと一緒にいるんだ、良かったね。心配していたんだよ」


「キアラさん、彼はペーターさん。同じ前世の記憶持ちで、アラン様に呼び出された時に最後までいたんだけど、キアラさんのことを心配してくれていたのですよ」


「ありがとうございます、私はキアラ・ルミエールです。よろしくお願いします」


 キアラさんは少し困惑していたが、俺の説明で安心したのか笑顔で挨拶をしてくれた。


「俺は、ペーター。こちらこそ、よろしくね」


 ペーターさんも気さくに挨拶を返してくれた。ペーターさん、良い人だね。ゴブリン王の討伐も黙ってくれていたのに、疑ってごめん。


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