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第11話

 キアラさんを見送った後、カミラさんに会うために冒険者ギルドへ出向いた。


「どうしました、ケイ様。ベッカー邸で何か問題でもありましたか? もう報酬は受け取られたと聞いていたのですが」


 そういえば、朝に行ったんだった。忘れていたよ。


「そのことは問題なく終りました。別件なのですが、アラン様のパーティ“ブレーブロード”についてお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「構いませんよ。またトラブルに巻き込まれましたか?」


「“また”ですか?」


「そうです。“また”です。まぁ構いません。ケイ様にはいろいろと借りがありますから。“ブレーブロード”ですが、解散させることが正式に決まりました。今回の失態を受け、消極的になっているメンバーもいるようです。“ブレーブロード”はアラン様がご自身のために作られたパーティです。そのため、脱退を言い出しにくい環境にあります。ですから、1度、解散をさせ、もし再結成される場合はギルド職員がメンバーに加入の意思の確認を得なければ、再結成できない。というのが、今回の処分です。軽すぎるとは思いますが、先の事を考えるとこの程度の事しかできないのが現状です」


「いえ、それが聞けただけで十分です。ありがとうございました」


「もう宜しいのですか? これ以上にお伝えできることはありませんが」


「はい。でも、カミラさんには伝えておいたほうが良さそうですね。“ブレーブロード”のメンバーのキアラ・ルミエールさんと話をする機会がありました。それで、彼女はアラン様と縁を切る方向で進んでいます」


「キアラ様ですか、またピンポイントな。先ほど申し上げた処分は彼女のためのものです。ケイ様が面倒をみてくださるのでしたら、心配ありませんね」


「面倒をみるつもりはありません。住むところと仕事をなんとかしてあげたいと思っているだけですから」


「ケイ様、一般的には、それが面倒をみるということですよ」


「そう言われてみればそうですね。キアラさんが戻ってきますので、そろそろ帰ります」


「ケイ様、キアラ様のこと、どうか宜しくお願いします」


 ギルドもちゃんと動いてくれてたんだね。冒険者同士のトラブルには関与しないって、最初に聞いたんだけど……



 家に戻ると、学園の制服姿を着たキアラさんがいた。


「ケイさん、お帰りなさい」


 キアラさんが笑顔で駆け寄ってきた。


「キアラさん、早かったですね。どうして制服なのですか?」


「私の持ち物は、制服と着替えくらいしかありません。すべてアラン様にお借りしていたので」


「なるほど。で、アラン様はなんと?」


「“お前は役に立たないから、構わない。自分の荷物だけ持ってすぐに出て行け”と言われましたので、お借りしていたものを残して戻ってきました」


「そうなんだ、タイミングが良かったのかな。もっとごねられると思ったのですが」


「アラン様は、そういう方です。自分と係わりのない物や人に執着がありません」


「いやいや、キアラさんは十分に係わりがあると思うんですが……まぁいいでしょう。夕食にしましょう。みんな待っていますからね」


「ケイさんが用意するのですか、お手伝いします」



 キアラさんは、ドジっ娘属性かと思いきや、手際が良かった。


「「「「乾杯」」」」


「ご飯です。白いご飯です……」


 食事が始まったが、キアラさんは自分の世界に入っているようなので、放っておこう。



「フレディさん。聞いた話なのですが、エイゼンシュテイン王国はもう危ないのでしょうか?」


「そうだね、いろいろな見方があるからね。確かに、昔と比べれば危ないと言っても過言ではないだろう。でも他国と比べればまだまだ大国だよ。すぐにどうにかなることはないだろうね。1番、悲観的になっているのは、エイゼンシュテイン王国自身だろう。どうしても昔を知っているからね。そういう見方をしているのは、シュトロハイム王国かい?」


「わかりますか?」


「そうだね。シュトロハイム王国は、エイゼンシュテイン王国のことを楽観視しているところがあるからね。国土が離れているのもあるけど。あと、昨日のアラン様のことでシュトロハイム王国は動いているだろうし、ケイ君に近づいて来ても可笑しくないからね」


「あのう、昨日の事、ケイさんも係わっているんですか?」


 キアラさんが聞いてきた。自分の世界から帰って来れたんだね。


「ケイ君はね、昨日、ゴブリンキングを討伐したんだよ」


「えっ、あれ、ケイさんだったんですか? ありがとうございました。ケイさんのおかげで死なずに済みました」


「俺はキアラさん達を助けるために、戦ったわけじゃないですよ。俺の目的とキアラさんたちが助かったのが重なっただけですよ」


「でも、ありがとうございました。ご飯まで頂いてますし」


「ご飯は構わないですよ、ついでですから。ちょうどいいから、明日の予定を決めましょう。まず最初に教会に行って奉仕活動をしましょうか。キアラさんも早く名前が白色にならないと気になるでしょうからね」


「本当にケイさんも一緒に来てくれるんですか?」


「もちろんです。約束しましたからね」


「心配しなくても、すぐに終わるよ。キアラさん初めてだよね」


「はい、初めてです」


「フレディさんも、奉仕活動したことがあるんですか?」


「当たり前だよ。この世界の人は1回や2回、奉仕活動をしているよ。知らない間に黄色になるからね」


「そうなんですね。じゃあ、奉仕活動の後、学園長に会いに行きましょう。寮のことを相談しないといけませんからね」


「学園長って、そんなに簡単に会える人なんですか?」


「どうなんだろう。俺が行けば会ってくれると思いますよ」


「ケイさん凄いです。こんな大きな家に住んでて、Sランクの冒険者の方だけでなく、学園長まで知っているなんて」


 なんか、キアラさん、目がキラキラしてるよ。周りの人たちはニヤニヤしているし。……わかっているよ、うまく距離さえ取れば、まだ大丈夫だよ。



 次の日の朝食後、キアラさんと教会に向かった。受付を待つ人の列に並んだが、すぐに順番がまわってきた。


「な、名前が黄色になったんですが、だ、大丈夫ですか?」


 キアラさん、あなたが大丈夫ですか?


「大丈夫ですよ。確認するので、石版に右手を乗せてください」


 受付の女性は慣れているのだろう。笑顔で対応してくれている。


「キアラ・ルミエールさんですね。あなたには、奥の廊下を掃除して頂きます。近くに係りの者がいますので、ご確認ください」


「あの少しいいですか。私は白色なのですが、キアラさんを手伝ってもいいですか?」


「もちろんです。奉仕活動ですから、誰でも参加できます。どうぞ、手伝ってあげてください」


「ありがとうございます」



 奥の廊下にいる係りの人の説明を受け、掃除を始めた。魔法は違うような気がしたので手作業でやっていたが、また予想に反して、キアラさんの手際がいい。ずっと、やっていたのだろうか……


 説明を受けた範囲を終らせて、掃除道具を片付けると、


「ケイさん、白色に戻りました。ありがとうございました」


 キアラさんが勢いよく頭を下げてきた。


「いえ、キアラさんが頑張ったからですよ」


 俺はそう言って、危うく頭を撫でそうになったが、思い留まった……


 

 無事、キアラさんのステータスカードの名前が白色に戻ったので、学園に向かったが、今日も休みなので人が少ない。


 学園長室の前に立ち、ノックすると


「ケイか、入いるがいい」


 やっぱりわかっているんだね。


「「失礼します」」


「今日は、どうしたんじゃ。女連れで」


 部屋に入ると学園長が冷やかしてきた。面倒くさいので流しておこう。


「はい、このキアラ・ルミエールさんに寮を用意してもらいたいのですが?」


「キアラ? 誰じゃたかのう。……おお、そうじゃ。アランところの子じゃな」


「はい、そうです。用意できますか?」


「用意するのは構わんのだが、昨日のことで、その子は少し目立っておるからのう。寮生活は辛いかもしれんぞ。……そこでじゃ、しばらくケイのところで預かってくれんかのう。食材費はワシが出しているんじゃ、少しくらいいいじゃろう」


「そう言われると断れないじゃないですか」


「そうじゃろう、そうじゃろう。よいではないか、そんな可愛い子と一緒に暮らせるんじゃぞ」


 このじじい、絶対、楽しんでるだろ。


「わかりました。キアラさんもそれでいいですか?」


「はい。よろしくお願いします」


 同居人が1人増えた。



 夕食には、まだ時間はあるが、今後の事を話し合うために家に帰ってきた。


「お帰りなさいませ、若様、キアラ様」


「き、キアラ様?」


「キアラさん、気にしなくていいですよ。爺やさんは誰に対しても様付けですから。……あと、爺やさん、しばらく、キアラさんもここで住むことになりました。お願いします」


「心得ております」


 だから、なんで心得てるんだっ!


「爺やさん? よろしくお願いします」


「キアラ様、爺やで結構で御座います。さぁ、中へどうぞ」



 1階のテーブル席にキアラさんと向かい合わせで座ったのはいいけど、まず、何から話せばいいんだろうか?


「キアラさん、聞きたいことがあるのですが、いいですか?」


「はい、なんでも聞いて下さい」


 どうしよう。キラキラした瞳で見つめてくるんだけど…… よし、決めた。あまり依存されないように、自分で考えてもらいながら、話を進めていこう。


「キアラさんは、ここに住むことになったので、寝る場所と食べる物は確保されました。あと必要なのは、消耗品など購入するためのお金ですね。何か考えはありますか?」


「どうしましょう。私、今までお金を稼いだことがないです」


 理由もあるから、まだいいだろう。


「学園に来てからのことは聞きましたが、学園に来る前は何をしていたのですか?」


「私は、カステリーニ教国の修道院で育てられました。そして、修道院では、炊事、洗濯、掃除、そして、神様にお祈りをしていました」


「魔法の鍛錬とかはしていないのですか? 光魔法を使えるのですよね?」


「ほとんど、やっていません。私は5才のときに聖女の加護を授かりました。でも怖くて誰にも言えませんでした」


「えっ! 聖女の加護……あぁそういう特典だったのですね。でも、どうして怖かったのですか?」


「他にも何人か居られたのですが、すごくチヤホヤされて目立っていたので、怖くなって……」


 俺にも闇の加護があるはずだけど、闇魔法を使えること以外、自分ではわからないんだけど……えっ何人か居られた?


「聖女の加護を持っている方は、キアラさんの他にも多く居られるのですか? あと、どうして加護が授かったとわかったのですか?」


「今は、私も含めて4人だと思います。あと、聖女様の神託が聞こえました。最初に“あなたに加護を授けます。多くの方を救ってください”と言われました。祈りのときに何度も聞いているので間違いないと思います」


 俺が勝手に1人しかいないと思い込んでいただけか……でも黙っていたということは


「キアラさん、もしかして、光魔法スキルがないのですか?」


「いえ、あります。鍛錬していないので、効力が弱いですが。あと、洗濯と掃除のスキルがあります」


 まぁずっとやっていれば、スキルも発現するか……俺もそうだったからね。


「キアラさん、光魔法を鍛錬する気はありますか?」


「できるんですか? やりたいです。クラスでも私だけ遅れているんです」


「聞いてみないとわかりませんが……爺やさんっ! ちょっといいですか?」


 カウンター席にいた爺やさんを呼ぶと、すぐに来てくれた。


「如何為されましたか、若様」


「キアラさんに光魔法を教えてもらうことはできますか?」


「構いませんが、爺やは、大人の女性には厳しいですぞ」


「お、大人ですか……よ、よろしくお願いします」


 キアラさん、照れなくていいよ。爺やさんが変態なだけだから。


「では、キアラ様。明日から始めましょう。朝7時から1時間。学園から帰ってから夕飯まで、お付き合い致しましょう」


「ありがとうございます」


 これで、光魔法はなんとかなるか……でもお金を……あっ!


「キアラさん、夜、パーティの後片付けの依頼を一緒に受けますか? 報酬は安いですが、掃除スキルもありますし、どうですか?」


「そんな依頼もあるんですね。お掃除は好きです。あと一緒でも迷惑じゃないですか?」


「構いません。キアラさんは人見知りをしそうなので、最初は一緒にやりましょう」


「ありがとうございます、お願いします」


 しまった、キアラさんに考えてもらうつもりだったのに、俺がほとんど決めてしまった。


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