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第10話

 ベッカー邸を後にし、芝狩りの報酬を受け取るためにギルドに戻ってきた。


「お疲れさまです、ケイ様。こちらが報酬です」


 受付のキャシーさんが対応してくれたが、受取額は8万ルリだった。今回の芝刈りの報酬は10万Rで税金と手数料を引かれた金額だが、多すぎだよね。魔法を使ったから1時間で済んだけど、地道に手作業でやったら1日はかかったと思う。日当なら多くても2万ぐらいだと思うんだけどね。


 この報酬で、今の持ち金が100万Rを越えた。少し余裕ができたので、武器屋のジーンさんのところに行って小太刀を見た後、パン屋さんに行って、酵母菌を分けてもらえないか聞いてみることにした。



「ジーンさん、お久しぶりです。こないだ、小太刀を相談させてもらったケイです。いいのありましたか?」


「兄ちゃんか。ちょっと待ってろ」


 ジーンさんが奥から3本の小太刀を持ってきてくれた。


「好きなのを選べ、それなら1本7万でかまわねぇよ」


 確認したが、どれも悪くない。


「3本とも下さい。急ぎではないんですけど、あと5本お願いします」


「いいのか、兄ちゃん。いや、ケイって言ったか。わかった、ケイ。代金は引き換えでかまわねぇ。探してきてやるよ」


「ありがとうございます。これが3本分、21万でいいんですよね」


「あぁ、確かに。ちょっと時間がかかるかもしれねぇが、また顔を出してくれ」


「ありがとうございます。また来ます」


 無事に3本補充することができた。あと5本注文しているし、しばらくは大丈夫だろう。次は、パン屋さんだ……



 結果から言おう。無理だった。何軒かまわったけど、どのパン屋さんも独自に酵母菌を育てているみたいで、売りものではないみたいだ。パン屋さんでパンを買ったこともないし、仕方ないだろう。少し仲良くなる努力もしてみるか……



 今日はまだ時間もあるし、教会に行ってみようと思う。この世界の教会について、あまり知らないからね。


 噴水広場にある教会に向かった。


 まず、外観だが他のギルドとそれほど変わらない。中に入ると正面にカウンターがあり、職員らしき受付の人が並んでいる。聖職者が着るような服ではなく、冒険者ギルドの職員が着ているような、スーツタイプの制服だ。宗教とは関係ないのだろうか? 前世の役所のように見える。


 利用者も多いようで、列に並ぶ事になった。順番が来ると、男性の職員が応対してくれた。


「ステータスカードを確認します。右手をこちらの石版に置いてください」


 また石版だ。冒険者ギルドの石版も誰が作っているのだろう。右手を石版に置くと、


「ケイ様ですね。名前が白色ですが、本日はどうなさいましたか?」


「すみません。教会についてお尋ねしたかったのですが、よろしいですか?」


「教会については、教会長がご説明致します。お時間はよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


「教会長の時間の都合がつきましたら、係りのものが案内致しますので、あちらの待合室でお待ちください」


「わかりました。ありがとうございます」



 受付カウンターの後方、玄関近くにある待合室で座っていると、向かいに座っている女性の視線が気になった。自信過剰かもしれないけどね。女性はローブに付いたフードを被っているので表情がわからないが、俺と同じぐらいの少女だろうか。学園の生徒かも知れないね。


 少女の視線が気になりつつも、しばらく待っていると男性の職員が奥に案内してくれた。



「アーク学園に在籍しています、ケイです。この度は時間を作って頂きありがとうございます」


「ケイさんですね。私はこのアーク学園都市の教会長をしています、ダニール・バラノフです。そちらにお掛けください」


 質素な執務室にある応接セットのイスに座るように勧められ、ダニールさんも向かいの席に着いた。ダニールさんは、短く切った白髪に黒眼の老人だ。他の職員と同じ制服を着ている。


「ケイさんは教会についてお聞きになりたいようですが、具体的にはどのような事でしょうか?」


「私は前世の記憶を持って、この世界に生まれて来ました。そして、幼いころから森の中で育ち、教会について知らないことが多いです。それに前世では、このような教会にあたる施設がありませんでした。先入観もあるので、一度しっかりと理解したいと思い伺いました」


「前世の記憶持ちですか、珍しいですね。……では、ケイさんが知っているこの世界の教会について聞かせてもらいましょうか」


「はい。教会は、気付かずに罪を犯したときや、情状酌量のある罪を犯したときに、黄色に変化した名前の色を奉仕活動によって白色に戻すことができると聞きました。あと、階級や住所の管理、変更の斡旋もしていると聞きました。この程度のことしか知りません」


「間違っていませんよ。そして、この世界の人のほとんどがその程度の認識です。ケイさんは他に聞きたいことがあるのでしょう。どうぞ、お話ください」


「はい、そうです。最初に、神は信仰の対象ではないのでしょうか?」


「そうですね。神はステータスカードによって、誰にでも存在を感じることができますので、信仰や崇拝の対象ではありません。もっと身近な存在ですね。カステリーニ教国のように、光の神や聖女を信仰している国や人もいますが、ここで言う神と光の神は別の存在です。信仰しなくても神を感じることができますので、信仰している人も信仰していない人もいるでしょう」


 あまり理解できないけど、してもしなくても、どっちでもいいってことかな。次にいくか……


「ありがとうございます。次に教会は、権力を持ったり、政治に係わったりすることはないのですか?」


「それは神によって禁じられていますので、名前が赤色の犯罪者になってしまいます。ないとは言い切れませんが、少ないと思われます」


「なるほど。では黄色は奉仕活動で白色に戻りますが、赤色は殺される以外にないのですか?」


「死もしくは、犯罪奴隷として、一生重労働に就くことになります」


 終身刑みたいなものかな。


「あと少し話は変わりますが、奉仕の内容はどのようなものですか?」


「地域によって内容は変わります。例えばこの都市は安全で比較的裕福ですから、都市の清掃や教会の手伝いなどが奉仕内容になります。辺境の街では開墾など重労働を奉仕活動にしている地域もありますが、その場合は早く白色に戻ります」


「炊き出しは奉仕内容に含まれますか? あと、白色でも奉仕活動はできますか?」


「炊き出しも奉仕活動に含まれますよ。貧しい地域では喜ばれるでしょう。それに炊き出しなら、裕福なこの都市でも喜ばれるのではないでしょうか。あと、白色の場合でも奉仕活動はできます。私を含め、職員のほとんどがそうなのですから」


「ありがとうございました。参考にさせて頂きます」


「ケイさんは、奉仕活動をなさりたいのですか?」


「将来的にですが、各地を周りながら教会で炊き出しができればと考えています」


「そうですか。ケイさんも何かを抱えているのでしょう。そのような方も居られますので、気にせず為されるといいと思いますよ。多くの方に喜んで頂けるでしょう」


 うーん、わかったような、わからなかったような……このあと、少し前世について話をしたが、帰ることにした。



 教会から出たところで、先ほどの少女が近づいて来た。


「ケイさんですか? 少しお話をしたいのですが、お時間宜しいですか?」


「構いませんが、どちら様でしょうか?」


「わ、私は、キ、キアラ・ルミエール。アラン様と一緒にいた者です」


 小さな声で返事をくれたが……腰巾着か? どうする、あまり人に見られるのも不味いか。家しかないね、近いし。


「ああ、あのときの。場所を変えたいと思います。ついてきてもらえますか?」


 キアラさんが頷くのを確認してから、家に向かった。



「お帰りなさいませ、若様。そちらの女性はお客様ですか?」


「はい、そうなんです。少し話をしたいので、奥のテーブルに案内をお願いします。俺はお茶を淹れてから行きますので」


「畏まりました。では、美しかったお嬢様。こちらへどうぞ」


 平常運転の爺やさんにキアラさんを任せ、お茶の用意に向かった。……この家に、10才未満の女の子を連れてきたらどうなるんだろう?……怖いから止めておこう。



 お茶を持ってテーブルに向かうと、キアラさんはフードから顔を出していた。ウェーブのかかった金髪に蒼眼の可愛らしい感じの子だ。俺も席について、話し始めた。


「ご用件はなんでしょうか?」


「あ、あのう、私……この間は急にお呼び立てしてすみませんでした。私も何がなんだかよくわからなくて……」


「とりあえず、落ち着きましょうか。お茶をどうぞ」


「ありがとうございます。……あっお茶!」


「緑茶です。この世界にはあまりないみたいですね」


「はい、初めて飲みました。あっすみません」


「構いませんよ。ゆっくりと落ち着いてから話してください」


 どうしたんだろうね。……この子、前世も中学生ぐらいかな。俺は、この世界に生まれてから、まともに接したのが大人の人しかいないから、どう対応したらいいのか迷うね。


「あのう、知らない間にステータスカードの名前の色が黄色に変わっていて、教会に行ったんですけど、初めてで怖くて……ケイさんを見かけたので、もしかしたら、あの呼び出したことが原因じゃないかと思って」


「なるほど、だから謝ったんですね。でも、謝っても、俺が許しても、奉仕活動をしないと白色には戻らないと思いますよ」


「そうなんですか? 私、わからなくて」


「この都市の教会の奉仕活動は、地域の清掃や教会の手伝いで軽いものみたいです。今、聞いてきたので間違いないでしょう」


「ケイさんも黄色になったんですか?」


「いえ、俺は教会について知りたかったので、聞きに行っただけです」


「そうなんですね」


 ちょっと元気になったと思ったら、落ち込んだ。仲間ができたと思って喜んだのかな。


「奉仕活動の具体的な内容は知りませんが、気になるなら早いほうがいいと思いますよ」


「そ、そうですよね」


 ちょっと可哀想になってきたね。


「あのキアラさん。何か思いつめているようですが、俺で良かったら聞きましょうか。人に話すだけで、楽になることもありますよ」


「えっと、いいんですか? 私たち酷いことをしたようなのですが……」


 酷いことってなんだろう?……誰かに何か言われたのか? この子、アランが何をしているのかもわかってなさそうだね。


「酷いことってなんですか?」


「わかりません。でも、今日、ギルドの人にいろいろ聞かれたんですが、何もわからなくて。気付いたら、名前が黄色になってて。教会に行ったらケイさんがいたんです」


「なるほど、ちょっと待ってくださいね。少し考えますから」


 ぜんぜん、わかんねぇ。でも、頷いてくれたので、ゆっくり考えよう。

 まず、この子が何に対して、不安に思っているかだ。わかったのは、黄色になったこと、あと教会の仕組み関して不安に思っているかな。教会の仕組みについては、とりあえずさっきのでいいだろう。問題は黄色になった原因が分からないことだよな。

 ホントはこんな子から聞き出したくなかったんだけど、仕方ないよね。アラン達との繋がりとアラン達のこれまでの行動を聞くしかないか……


「えーと、いいですか。教会については、奉仕活動をするしかないと思います。なんだったら俺が一緒にやっても構いません。興味もありますから」


「本当ですか!」


 1人で奉仕活動をするのは不安だったのだろう。キアラさんは明るく返事をしれくれた。


「でも、これだけで、名前の色しか変わりません。キアラさんは、なぜ黄色に変わったのかわからないのですよね? そのためにいろいろと聞きたいのですが、いいですか?」


「そうなんです! お願いします!」


 急に元気になった。人は行き詰っているとき、一つ不安が取り除かれると他もなんとかなりそうな気になるよね。


「じゃあ、いいですか。まず、アラン様達とはどういう関係なのですか?」


「アラン様達とは、前世のゲームの中で知り合いました。そこでもパーティを組んでいて、あのイベントでオフ会をしていたんです。そのとき爆発がおこって……」


「じゃあ、前世のリアルで会ったのは、あの日が初めてですか?」


「そうです、アラン様とボブさんとカルロスさんとベッキーさんは、高校生で以前からのお知り合いみたいですが、私は中学生だったから、あまり遠くに出かけることもできなくて、初めてでした」


「なるほど。じゃあ、なんでこの世界で出会うことができたのですか?」


「それは、神界で天使さんと話をしているときに、アラン様に呼び出されて、知らない間に全部決まってました」


「えっ! 自分の人生だよ! 運命だよ! どうして断らなかったんd……の? 驚かせて、すみません」


 吃驚して、口調が強くなってしまった。キアラさんも“ビクっ”ってなってたし。


「いえ、大丈夫です。でも、あの時もよくわかってなくて、また、みんなでゲームができると思ってたんです。それに、今回も回復職だったから、嬉しくて」


「嬉しかったんですね……じゃあ問題ないですね。で、この世界では、どこでどうやって会ったのですか?」


「この学園都市です。私だけ生まれたのが違う国だったんですけど、手紙が来て、アラン様のお屋敷に来るように書かれていたんです。それで会うことができました」


「キアラさんだけが、今回、学園に入学が決まるまで会ったことがなかったのですか?」


「そうです。光魔法は、カステリーニ教国でないとダメだったみたいで」


「なるほどね、じゃあ俺たちが呼び出されるまでは、何をしていたのですか?」


「昼は学校で勉強して、夜はいろいろなパーティに参加してました」


「アラン様達と今後の予定についてとか、話したりしていないのですか?」


「していましたけど、何を言っているのか、わからなくて」


「で、昨日の騒ぎになったということですね」


「ケイさんも知っているんですか? 昨日のこと」


「有名ですからね。でも、わからないことだらけですね」


「そうなんです。だから、どうしたらいいのか?」


「そうですね。キアラさん次第ですね」


「私、次第?」


「はい、このままじゃ名前が白色に戻っても、いつかまた知らない間に、今度は黄色ではなく赤色になるかもしれないですよね。だから、アラン様達と縁を切るほうがいいと思いますよ。できるのならですけどね」


「でも、私、アラン様がいないと住むところがないです」


「住むところだけなのですか?」


「あとは、食べるものですか?」


 なぜ、疑問系? 俺みたいに食べなくても生きていけるの?


「衣食住さえ、なんとかなれば縁を切ってもいいのですか?」


「もちろんです。さすがに私もアラン様達がおかしいのはわかります」


「わかりました。まず、住むところは寮がいいでしょう、学園長に聞いてみます。それに“ブレーブロード”のパーティに関しては、カミラさんに聞けばいいでしょう。あとは食べ物と衣類か……お金ですね。依頼を受ければなんとかそうですね。……うん、いけそうですね」


「大丈夫なんでしょうか?」


「そうですね。とりあえず、今からキアラさんは、アラン様に言って縁を切ってきてください。早いほうがいいでしょう」


「今からですか? 今日、泊まるところもないんですが」


「ここに泊まればいいです。2階が宿泊施設になっていますので」


「えっ、ここって、お店じゃないんですか?」


「ここ、俺の家ですよ」


「ケイさんって、お金持ちなんですか? ここはアラン様の屋敷よりも大きいですよ」


「成り行きです。それに、俺は貧乏ですよ、奴隷ですしね」


「そうなんですか。……わかりました、行ってきます!」


 キアラさんがそう言うと、元気良く出て行った。



「爺やさん、俺も少し出掛けてきます。もしキアラさんが先に戻ってきたら、2階の宿泊施設に案内しておいてください。もちろん、俺と相部屋じゃないですよ」


「承知致しております。お気を付けて」


 どっちに承知してるんだか、わかんねぇよっ!


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