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第9話

 翌日、まだ学園が休みだったので、朝からギルドに行くと、カミラさんに呼ばれた。


「昨日は、お疲れ様でした。予定よりも早く作戦を終了できそうです」


「こちらこそ、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。あの後、どうなりましたか?」


「では、その話から。あのあと、ゴブリンの錯乱状態が収まるのに3時間ほどかかましたが、生き残っていたゴブリンは元の森へ引き返して行ったと思われます。監視役が居りますので、近いうちに詳細はわかるでしょう。その後、死体や動けなくなったゴブリンの処理を現在も続けている状況です。2日後には処理が完了する予定です」


「そうですか、お疲れ様です。あと、アラン様たちは、どうなりましたか?」


「アラン様を含め、8名全員、無事保護されました。そして、あのような事になった理由ですが、アラン様の証言しか取れておらず、まだ調査中です」


「アラン様は、なんと?」


「証言と呼べるものではありませんが、“こんなはずじゃなかった。多すぎるだろう。エイゼンシュテインの奴を呼べ”と叫んでおられました。他の7人は憔悴しており、話せる状況ではないと判断し、今日から聞き取りが行われる予定です」


「エイゼンシュテイン王国が関与しているのかもしれませんが、彼の証言だけでは証拠にはなりませんからね。それで、彼らはどうなるのでしょう?」


「今回、彼らはギルドの依頼を受けております。ですから、通常の冒険者と同じ扱いで命令違反として処罰することができます。これには、ケイ様に感謝致しております。ケイ様の助言通りギルドで協議し、アラン様が依頼を受けられた時点で、シュトロハイム王国に確認を取りました。一般の冒険者と同じ扱いで構わないという王国側の返答を得ることできましたので、ギルド側に責任を問われる心配はないはずです。実際のところ、大きな怪我もありませんので大丈夫でしょう。ただ、処罰に関しては軽いものになるで可能性が高いです」


「いえ、シュトロハイム王国側に確認を取っていなくても、何も変わらなかったでしょう。あと気になるのが、エイゼンシュテイン王国の関与に関する証拠が見つかった場合はどうなるのですか?」


「その場合は、ギルドの裁定を超えていますので、ラルス様に委ねられることになります」


「ありがとうございます。少し話が反れますが、……このゴブリンキングの魔石はギルドで買い取ってもらえますか?」


 魔法袋から取り出した魔石をカミラさんに見せた。


「はい、構いません。しかし、残念ながらその魔石は無属性です。あまり値が付かないと思われますが、査定に出しますか?」


「いくらぐらいでしょうか? 買いたいものがあるんですが」


「そうですね。本来Bランクの魔物の魔石は数百万ルリはするのですが、無属性の場合、50万R前後になることが多いですね。この都市には各種研究機関もありますので、オークションに出せばもう少し高くなるかもしれません。しかし、下がる場合もありますが」


「いえ、50万前後で結構です。お願いします」


「わかりました、ではお預かりします」


 カミラさんが“チリンチリン”と小さなベルを鳴らすと、職員の方が現れ、魔石を受け取り去っていった。


「あと、お伝えしなえしなければならないことがあります。今回、ケイ様がゴブリン王を倒すことによって、予定していたよりも早く作戦が終りそうです。しかし、ケイ様は依頼を受けられていないので、ギルドとしては、報酬の支払いはもちろん、ランクアップの評価対象にすることもできません。ご了承頂きたいのですが、宜しいですか?」


「もちろんです。勝手に突っ込んでいっただけですから。ひとつ間違えば、ご迷惑をお掛けしいたかもしれませんし」


「そう言って頂けると助かります。私にできるのは、先ほどの査定に色を付けるぐらいです。申し訳御座いません」


「いえ、それで十分です。ありがとうございます」


 カミラさんと話していると、先ほどの職員の方が戻ってきた。カミラさんと少し話をして、すぐに去っていった。


「こちらが査定結果と買取額になります、ご確認ください。良ければこちらにサインしてください。……では、こちらが買取額の70万Rになります」


「いいんですか、思っていたよりも高いように思うのですが」


「高いと思って頂かなくては、色を付けた意味がありません。私の感謝の気持ちです。……あとそれと、今、ケイ様に指名依頼が入りました。芝刈りもされているのですか?」


「はい、新しい魔法ができましたので。でも、まだ一度も他所の庭の芝刈りはしていないのですが、依頼主はどちら様でしょうか?」


 “芝刈り魔法”は少し苦労したものの、すぐに完成することができた。メリッサさんに急いで伝えにいったけど、屋敷の芝刈りは終っていたようで、次のときに依頼してもらう約束になっていたんだけど。


「……ベッカー邸の執事の方ですね。ベッカー家は、シュトロハイム王国の穏健派の貴族で、勇者様の派閥だったはずです。昨日の件の探りでしょうね。報酬も少し高いように思われますし、間違いないでしょう」


「俺の事は、もうある程度調べられているわけですね。俺だとよくわかりましたね」


「たしかにそうですね。魔道具なんでしょうか、ベル様もそうですが、ケイ様はかなり影が薄いですからね。たぶん、あの場にいた人のほとんどが、ケイ様だと認識していなかったと思うのですが」


「そうですよね。ある程度、実力のある人ならわかるみたいですが、アラン様のこともありましたし、誰か腕の立つ人がいたようですね。それでも、昨日の今日ですから早いですね。やり手の貴族なんですか?」


「そこまではわかりませんが、次期国王の派閥ですからそれなりに力は持っているはずです。どうなさいます、断りますか?」


「いえ、受けます。俺も気になりますから、様子を見に行ってきます」


「そうですか、お気を付けください。穏健派とはいえ貴族ですからね」


「わかりました。ありがとうございます」




 ギルドを後にした俺は、そのままベッカー邸に来ていた。守衛の方に話しかけると話が通っていたらしく中に通された。


「ケイ君、来てくれてありがとう。メリッサさんに聞いて、ぜひ家でも頼みたいと思ってね。さっき依頼を出したばかりなのに、こんなに早く来てくれるとは思わなかったよ。庭に案内するから、ついて来てくれるかい」


 ベッカー邸の執事さんが笑顔で応対してくれているが、シュトロハイム王国の貴族邸だと知らなかったら、素直に喜べたのにね。


「この庭の芝生を頼むよ。終ったら、先ほどの管理人室に来てくれるかい」


「わかりました。すぐに始めます」


 執事さんは、しばらく俺の仕事ぶりを見ていたが管理人室に戻っていった。それよりも2階からの視線が気になるけどね。


 “芝刈り魔法”だけど、芝の長さを均一にするのが難しく、ファンと刃を一体化することは諦めた。そのため、半球状の芝刈り機の上に掃除機がついている形になった。このおかげで、広範囲のゴミも吸い取れるようになり、“掃除機魔法”の改善にも繋がった。


 冬だから仕方がないが、枯れて剥げているところもある。サービスで持っていた種を蒔いて生やしておいた。品種が違がったらマズいだろうか?


 1時間ほど掛かったが、終ったので管理人室へ報告に向かった。


「えっ、もう終ったのかい? 確認に行くけどいいのかい?」


 先程の執事さんは驚きつつも、確認に向かってくれた。


「噂には聞いていたけど、凄いね。それに剥げているところも治してくれたんだね、ありがとう。サインをするから管理人室に来てくれるかい」



 管理人室に戻ると、年配の執事さんがいた。……きっと呼び出しだろう。


「ケイ様、本日は有難う御座いました。旦那様がお呼びです。お時間宜しいでしょうか」


「5分ほど待って頂いてもよろしいですか?」


 了承を得て、ローブを洗濯し、学園の制服に着替えた。礼服なんて持ってないからね。


「お気遣い有難う御座います。では、どうぞこちらへ」


 年配の執事さんの案内で、屋敷の大きな廊下を進んだ。意外にシンプルだ。貴族のお屋敷はもっとゴテゴテとした装飾がされていると思っていたんでけどね。大きな扉の前で執事さんがノックすると、入室が許可された。



「失礼します。Eランクの冒険者、ケイです。このような席での礼儀を知らず、不快な思いをされると思いますが、よろしくお願します」


 あまり堅いのも可笑しいし、この程度でいいかな。でも、部屋の中もシンプルだ、質素とは違うけどね。


「私は、フリードリヒ・ベッカーだ。そのように堅くならなくても構わない。席に着きなさい」


 黒髪黒眼で30代前半だろうか、当主にしては、まだ少し若そうな男性だ。


「ありがとうございます」


「今、仕事ぶりを見ていたが、大変素晴らしい。この屋敷で働いてみないか?」


 いやいや、俺が契約奴隷って知ってるだろう、無理だから。


「私は契約奴隷です。私の一存では決められません」


「そうか、君の契約主はどなたかね?」


 絶対、知ってるだろ。


「黒龍の森の領主ベル・ラインハルト様です」


 ギルドマスターより格上っぽいよね、領主って。


「あの有名な、それじゃ私でも無理かな。しかし、少し聞きたいことがある。構わないだろうか?」


 なんか少しへりくだったな、意味があるのか? ベルさんも言ってたけど、領主の契約奴隷だから俺にもそれなりの地位があるのだろうか? この辺りの感覚がまだよくわからないね。


「構いません。お答え致します」


「君は、前世の記憶持ちだね」


 今の会話でわかる部分があったんだろうか? まぁ向こうは知っているんだろうけど。


「はい、そうです」


「君は、アーク学園の学生だよね。シュトロハイム王国のアラン様と面識はあるかね」


 学園の制服を着てるからね。あと、これも知っているはずだよね。


「はい、一度お会いしたことがあります」


「そのとき、何を話した?」


 これかな? リーナ先生には話しているけど、伝わっていないのかな?



 アランから呼び出しを受け、前世の記憶持ちが集まった日のことを、アランの登場から俺の退出まで説明をした。


「そのあとの事は、知らないのだね」


 やっぱり、リーナ先生からの報告は伝わっているみたいだね。


 俺は、ペーパーさんから聞いた話であることを念押ししてから、その後の事も説明をした。


「いやいや、ケイ君。君はなかなか隙をみせないね。これ以上続けても時間の無駄だろう。君なら、私がどこの国の人間か知っているね」


 そうか! 俺がどこに属しているのか探っていたのか。そういや、カミラさんも探りだと言ってたのに気付かなかった。危なかったね。……でも俺は、ベルさんと出会ったその日におっぱいを吸わせてもらってから、ベルさんに一生ついていくと心に誓ったんだからね。


「シュトロハイム王国だとお聞きしましたが、違うのでしょうか?」


「いや、あっているよ。うちの者に聞いたが、最近、君は迎賓館で活躍しているね。そこにいる執事もそうだが、裏方にいる者は意外な情報を持っていたりするのだ。だから、私の知らない情報も君は持っているかもしれない。それを踏まえて聞きたい。アラン様をどう思う?」


 たしかに、俺の情報源の一つに迎賓館での依頼があるけど、そんな大した情報でもないだろう。少し聞きたいこともあるし、カマをかけてみるか……


「それをお答えするのに、一つ足りないものがあります。お聞きしてもよろしいですか?」


「構わない、言ってみたまえ」


「シュトロハイム王国から見て、エイゼンシュテイン王国はどういう国ですか?」


「面白い聞き方をするね。まぁ言える範囲になるけど、構わないだろう。まずエイゼンシュテイン王国は歴史が長い。そして、デス諸島との係わりの深い国でね。昔は貿易で、その後は戦争でデス諸島と関係を持つことによって栄えた国なのだ。しかし、500年前に休戦し、さらに300年前にアーク大陸との間に不可侵条約が結ばれてからは落ちる一方でね。打つ手がない状態に陥っているとみているのだよ。この程度でいいかい?」


 なるほど、そういう歴史があったんだ。じゃデス諸島を狙っているのは、アランではなくエイゼンシュテイン王国か……でも、さすがに大した情報出てこないね。


「ありがとうございます。……では先程の質問に対する答えですが、私は、アラン様が考えられているような力はご自身には今のところないと考えています。しかし、それを助ける可能性のある存在がいくつかあるでしょう。エイゼンシュテイン王国もその一つかもしれません。今はまだ繋がりはなく、互いに利用し合っている関係だと考えられますが、アラン様がエイゼンシュテイン王国に取り込まれると困ったことになるでしょう。また、取り込まれずにこのままエイゼンシュテイン王国が落ちていくのも問題です。争いの火種になりかねません。動乱はアラン様にとって追い風になります。今のようにこの世界が安定していれば問題にはならないと考えています」


「わかった。君はこの世界の安定を望んでいると考えていいかい?」


「もちろんです。今が一番だとは言えませんが、戦争や紛争は害のほうが大きいです」


「それが君の本心だと願っているよ。今日はありがとう。また機会があったら来て欲しい」


「こちらこそ、いろいろ失礼致しました。また仕事でお呼び頂ければ参らさせて頂きます」


 これで、やっと帰ることができた。……芝刈りの証明書をもらうのを忘れるというアクシデントはあったが。

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