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第7話

 今日は指名依頼のため、シェリーさんが管理責任者をしている迎賓館に来ていた。


「ケイ君、今日もありがとう。これ、証明書ね。……これでやっと通常に戻れるよ」


「なにか特別なことが続いていたんですか?」


「ちょっと俺の愚痴を聞いてくるかい? 人の愚痴なんて面白くないだろうけど」


「今日はこの間よりも早く終わりましたし、いいですよ」


「そうかい。じゃお茶を淹れよう」


 管理責任者って、ストレスが溜まりそうだもんね。


「ケイ君は、エイゼンシュテイン王国を知っているかい?」


「一般常識程度ですが」


 ついこの間、リーナ先生に聞いたばかりだけどね。


「さすがは学園の生徒だね。そのエイゼンシュテイン王国なんだけど、この1週間ほど国王の孫娘をはじめ偉いさんが大勢この学園都市に滞在していてね。それがやっと明日帰ってくれるんだ。あの王国は、なにかとトラブルを起こしたり、ケチを付けてきたりするんだ。仮にも三大大国と呼ばれているのにね。それで今日が最後の晩餐会だったんだけど、新しい不安の種が生まれてね。」


「不安の種?」


「トラブルの素だよ。私たちの仕事はトラブルを未然に防ぎ、円滑に物事を進めることなんだけどね。それなのに、そこに存在するだけでトラブルになりそうな人が、たまに居るんだよ。ケイ君は勇者様のご子息、アラン様を知っているかい?」


「はい、同期生ですから」


「そうだったね。そのアラン様なんだけど、今日来ていたんだ。これがまた、空気が読めないというか、傲慢というか、噂では聞いていたんだけど、予想のはるか上を行っていたね。お父様の勇者様は気配りのできる穏やかな人なのに、どうしてあんな風に育ったんだろうね。友達だったら、ごめんね」


「いえ、顔を知っている程度ですから。そのアラン様が不安の種ですか?」


「そうなんだ。今日も名簿に名前がなかったのに、晩餐会の途中で来てね。好き放題して帰っていったよ」


「それで問題にならないんですか?」


「あぁそれがね、エイゼンシュテイン王国側が何も言わなかったんだよ。いつもなら鬼の首をとったかのように騒ぎ立てるのにね。明日帰るから騒ぎを起こしたくなかったのかな。そのうち、文書かなにかで抗議してくるとは思うけどね」


「そうですか、大変でしたね。俺には、洗い物や掃除ぐらいしかできませんがまた呼んでください」


「ありがとう、そうさせてもらうよ。ごめんね、愚痴を聞いてもらって」


 今の話を聞くと、エイゼンシュテイン王国とアランが繋がっているとは言い切れないか。でも不安も残るし誰かに相談したいんだけど……




 翌日の放課後、学園長に会いに行った。


 相談する相手として、ベルさんが一番良かったんだけど……家にいるSランクの人たちは、誰と何処で繋がっているかわからないから、こういう政治的な話は避けるほうが無難だろうし、リーナ先生はマルク側だから見解が偏っていそうだし、そうなると学園長しか思い浮かばなかったんだよね。


「ケイ、何か問題でも起きたのか?」


「いえ、俺自身のことではないのですが……」


 学園長に、これまでの一連の事を話して、見解を求めた。



「なんじゃ、そんなことか。これは新しい勇者が誕生する時の風物詩みたいなもんじゃ。そして、まだまだ続くぞ。今度は珍しく大掛かりじゃのう。ゴブリンキングの襲来じゃ」


「ゴブリンって、Eランクの魔物のゴブリンですか?」


「そうじゃ、そのゴブリンじゃ。王はBランクじゃがな。今も、この領地とエイゼンシュテインとの国境付近の森に、ゴブリン王がゴブリンを集めておる。そのうち、この都市に攻めのぼってくるじゃろう」


「大丈夫なんですか?」


「この都市には、ワシが結界をはっておる。門さえ抑えておけば、10日もすれば共食いでも始めるじゃろ。食料の備蓄もあるし心配ないわい」


「そんなもんなんですか?」


「まぁ心配があるとすれば、冒険者ギルドかのう。今、ギルドマスターが不在じゃから、どう対応するのか見ものじゃのう」


「これもエイゼンシュテイン王国やアランが絡んでいるんですか?」


「たぶん証拠を残さんと思うが、間違いないじゃろ」


「見逃して、いいのですか?」


「報復はするつもりじゃ、お灸を据える程度じゃがな」


「1つ気になったのですが、冒険者ギルドにギルドマスターがいないとどうして心配になるのですか?」


「ケイも冒険者じゃったな。……前提条件として、この領地には危険な魔物が居らん。だから高ランクの冒険者が少なく、学生などの低ランクの冒険者が多いのじゃ。今回はどの程度の規模でゴブリンが来るのかわからんが、判断を誤れば冒険者に被害が出るかもしれんのう。ゴブリンの規模が小さければ討伐でもいいんじゃが、規模が大きければ篭城しないと被害が出るのじゃ。その判断をうまくできれば、心配ないんじゃがな」


「ギルドにこの事を伝えなくてもいいんですか?」


「もう気付いておるじゃろう。それに領主のワシがギルドに口を出すのは、あまり良くないからのう」


 なるほどね。いろいろしがらみとかあるんだろうね。


「ありがとうございました」



 学園長室を後にし、今日もパーティーの後片付けの依頼を受けようとギルドに行くと、いつもよりも慌ただしいような気がする。依頼書を持ってキャシーさんのところへ行くと、


「ケイ様、お疲れ様です。お手数ですが、カミラのところに行ってもらえませんか?」


「わかりました。この依頼書はどうしましょう?」


「お預かりしておきます。どうぞ、奥の部屋へ」


 カミラさんのところに行くと、何人かの職員と話をしていたが、すぐ俺に気付いて、


「ケイ様、来て頂きありがとうございます。ケイ様はご存知ですか?」


「ゴブリン王の襲来についてですか?」


「そこまで知っているのですね。それなら、話が早いです。今からパーカーボーン13世様とお会いできませんか?」


「家にいると思うのですが、一緒に行きましょうか?」


「宜しいのですか、ぜひお願いまします」



「お帰りなさいませ、若様。カミラ様もご一緒ですかな」


「はい、爺やさんに用があるみたいです」


「なるほど、では奥でお伺いしましょう。どうぞ中へ」


 爺やさんにカミラさんを引き継いだところで、俺がギルドに戻ろうとすると、


「ケイ様の意見も聞きたいので、ご一緒してもらえませんか?」


 カミラさんが引き止めて来た。気になるし、ありがたく同席することにした。



 3人でテーブルに着くと、カミラさんが話し始めた。


「まず始めに、これはパーカーボーン13世様に対する強制依頼ではないと明言させて頂きます。あくまでも、ご協力頂ければという私からのお願いでしかありません」


「まずは、お話をお聞かせ願えますかな」


「はい。現在、この都市はゴブリン王の襲来の可能性が高まっています。まだ調査中ですが避けることはできないと考えられます。そこでギルドと致しましては、門を固め、防衛戦を選択する予定です。ここまでは宜しいでしょうか?」


「間違った選択では御座いませんな」


「ありがとうございます。そこでパーカーボーン13世様には、治癒担当の控えとしてご協力頂きたいと考えております。いかがでしょうか?」


「よい判断で御座います。微力ながら、ご協力させて頂きましょう」


「ありがとうございます」


「カミラさん、俺にも協力できることはないんですか?」


「ケイ様には、今回の作戦を説明致します。そこで総合的な評価をお聞きしたいのです。よろしいですか?」


「はい、わかりました」


「まず予想される交戦開始日時ですが、1週間から2週間後だと考えています。今回の作戦ですが、防衛戦になります。この都市はラルス様の結界に守られているため、門以外から侵入されることはありません。門の前での戦闘を交代制で行います。戦闘要員に関しては、これから依頼にて募集致します。一部を除き強制ではありません。この都市には騎士が居りませんので冒険者のみで構成されるはずです。ただ冒険者のほとんどが学生であることが予想されますので、治癒担当に関して強制依頼の方も居られます。

 そして、襲来が東側からだと予想されていますので、東門を多数で守り、西門は少数になる予定です。これも参加する冒険者の数によって変動します。

 最後に、交戦開始から10日ほど凌げば勝利できると見込まれていますので、現在も備蓄の確認がされているところです。

 以上が今回の作戦となっております。いかがでしょうか?」


「問題ないと思います。あと、この作戦で起こりうるアクシデントはどのようなものが予想されますか?」


「被害の大きいものに限りますが、まず始めに、この都市が標的ではなかった場合ですね。他の都市や街では、防衛戦に向いていないところも多いので、被害が大きくなると予想されます。

 次にこれは考えにくいですが、他の高ランクの魔物や強化された変異体が混ざっている場合、門を突破される可能性があります。

 次に他国が戦闘に参加した場合です。この都市には、各国の騎士も滞在しております。もし討伐に向かうことがあっても、我々には止める権限がありません。被害が出た場合、後々問題になる可能性が高いです。

 あと細かいことはまだありますが、大きいのはこのあたりしょうか」


「備蓄は大丈夫なんですか?」


「贅沢品に関しては保証できませんが、必需品に関しては問題ないです」


「起こりそうなのは、他国の介入ですか。難儀ですねぇ」


「そうですね、我々には止める権限がありませんので」


「爺やさんはどうですか?」


「そうで御座いますな。若様も気付かれているとおり、他国の関与で御座いましょうか。今回のゴブリン王の襲来がどこかの国の差し金であった場合、何か起こる可能性が高いと考えられますな」


「そうですね。あと勇者様のご子息のアラン様は、冒険者登録をされているのですか?」


「仮登録をされていますね。まだFランクですが、“ブレーブロード”の名前でパーティ登録もされています。現在8名のパーティですね」


「Fランクでも依頼を受けることができるのですか?」


「後方支援もありますので、可能です。アラン様も今回の依頼を受けられるのでしょうか?」


「わかりません。アラン様が依頼を受けられたときの対応を考えておいた方がいいかもしれません」


「わかりました。対応はギルドで協議致します。他に何かありますか?」


「今のところはありません。でも、時間が経てば出てくるでしょうね」


「そのとき、また協力してもらえると助かります」


「わかりました。できる限りのことはするつもりです」


 話し合いが済むと、カミラは急いで帰っていった。


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