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第6話

 勇者(仮)に呼び出しを受けた翌日、学園は週に一度の休園日だった。彼らは、今日、決起集会でも開く予定だったのだろうか?


 今日は朝の鍛錬のあと、最近ご無沙汰になっている配達系の依頼を受けようと冒険者ギルドへ行くと、


「君、ケイさんだよね。俺はペーター。ちょっと時間いいかな?」


 俺と目が合った男が声を掛けてきた。昨日の対談のときにいた、前世の記憶持ち15人のうちの1人だ。先にいた5人の中にいたし、狼耳だったから覚えていた。


「急いでないので、構いませんよ」


 勧誘じゃないよね。俺、真っ先に切られているし。


「いや、そんなに構えないでくれ。俺もあの誘いは断ったんだから。奥の休憩所でいいかな?」


「そうなんですね。わかりました」


 “探知魔法”に怪しい反応もないし、大丈夫だろう。


 

 席に着いたところで、俺から話し始めた。


「あれから、どうなったのか聞いてもいいですか?」


 関わりたくないとは言え、気になるからね。


「俺も聞きたいことがあるから、構わないよ」


 さりげなく前に条件を入れている。元営業マンかな?


「お願いします」


「そうだね、君たちが帰ってからでいいね。……あの後、延々と自分たちはどれだけ凄いのかという自慢話が続いてね。そして、そのあとは、デス諸島の話だね。魔族は500年以上まともに戦争をしたことがないから、簡単に倒せるらしいよ。それと気になったのが、エイゼンシュテイン王国の名前がよく出ていたね。繋がりがあるのかもしれないよ」


 魔族を簡単に倒せるって、魔法使いの魔王様が、騎士系Sランクのフレディさんをワンパンで瞬殺だよ。絶対に無理だから。


「ありがとうございます。それでペーターさん達はどうやって断ったんですか?」


「ホント辛かったよ。3名ほど除いて、彼らの話中、みんなどう断るか必死で考えていたんだ。君たちが羨ましかったよ」


「3名って、もしかして勧誘を受けた人いるんですか?」


「そうだと思うよ。最終確認のとき、一人が断ったのを皮切りに3人を残して、残り8人全員で断ったら、向こうがテンパってね。ドサクサにまぎれて、9人で逃げるようにあの部屋か出ていったんだよ。だから残りの3人は、どうなったかわからないんだ」


「大変でしたね。すみません、先に帰ることができて」


「君たちが悪いわけじゃないから、気にしてないよ」


「あのう、ペーターさんから見て、彼らはどうでしたか?」


「俺よりは強いだろうけど、まだ、“栄光の翼”のカイさんとマルク様には勝てないと言っていたから、大したことないと思うよ。“栄光の翼”は有名だけど、Aランクだからね。俺は狼人族なんだけど、カイさんが族長になるとき、前族長で父親のグレンさんと戦うところを見ていたんだ。本来グレンさん槍術なのに剣術でカイさんを子供扱いにしていたからね。あれがSランクの実力なんだと初めて知ったよ」


 やべぇ、グレンさんの中では、剣術で、俺に負けていることになってるんだけど……


「なるほど、実力はそんな感じなんですね。人としてはどうですか? 特に腰巾着の4人は、絡んでないからわからないんです」


「腰巾着か上手いこと言うね。1人危なそう子がいたね。あと2人はアラン様と同じで自分に酔っている感じかな。残り1人女の子だけど、ずっと申し訳なさそうにしていて可哀想だったね。どういう繋がりで一緒にいるのか知らないけど、嫌なんだろうね」


 その危なそうな奴が黄色なのかな……


「ありがとうございました。……ところで俺に聞きたいことってなんですか?」


「それなんだけど、ケイさんってEランクになったって、ホント?」


「一昨日に、ランクアップしました」


 俺は黄色のギルドタグを見せながら答えた。


「本当だったんだね。昨日、うちのクラスで話題になってたんだよ。俺たちの学年で一番初めにEランクに上がったのが、8組のケイって奴だってね。ごめんね、8組を悪く言うつもりはないんだけど」


「実際、落ちこぼれ集団だと思いますよ。試験の結果ですからね」


「そう言ってくれると助かるよ。それで、昨日、ケイさんの名前を聞いて気になったから、今日、朝から待っていたんだよ」


「すみません、お待たせして。朝、鍛錬をしてから来たので遅かったでしょう?」


「こっちが勝手に待ってるんだから、謝らなくてもいいよ。それよりもどうやってなったのか聞きたくてね。聞いてもいいかな?」


「構いませんよ」


 俺は、今までのギルドの依頼での行動を説明した。



「オリジナル魔法で指名依頼か、それならランクアップしても可笑しくないね。もしかして、前世の知識でなんとかなるかもって思ったんだけど、やっぱりそんな甘くないね。ありがとう参考になったよ」


「こちらこそ、いろいろ教えてもらってありがとうございました」


「お互い様だよ。また情報交換しようよ」


 そう言ってペーターさんは去っていった。……なかなか分析能力のある人だったね。




 そして、配達の依頼だ。今日は、今まで避けてきた貴族階層の居住区をまわるつもりだ。


 今日も空いてるキャシーさんのところに行くと、


「ケイ様、おはようございます。ちょうど良かったです。こちらの指名依頼を受けられますか? 3日後です」


「シェリーさんのところですね。また5万Rルリなんですがいいんでしょうか? ありがたく受けさせてもらいますが」


「多い分には困りませんからね。ではこちらを先に受理させて頂きますね」


「お願いします。あと、今日はこれをお願いします」


「配達ですね、わかりました」


 また指名依頼が入った。こんなに楽に稼げていいのだろうか?




 とある豪邸の裏門まできた。


「すみません、冒険者のケイです。果実店からの配達で来たのですが」


「少し待っていてくれ、担当を呼んでくる」


 これが普通の守衛だよね。簡単に中に入れるのは危ないよね。



「ケイ君! 配達の依頼もしているんだね」


 メイド服のスカートの芝を払いながら、一人の女性が近づいてきた。


「えーと……」


「あっごめんね。私、この間のパーティに手伝いで行ってたんだけど、魔法、すごかったね。あの日ね、急にエイゼンシュテイン王国側の人が100人ぐらい増えちゃってありえないよね、開始直前だよ。ホント、ケイ君がいなかったらどうなってたかわからないよ。あっそうだ、ケイ君、芝刈りの魔法はないの?」


 あぁ一昨日のことか、そんなことがあったんだ……あと冬でも芝刈りするんだね。そういう品種かな?


「先にこの届け物いいですか?」


「ごめんね、はいサイン。……それで、できるかな、芝刈り?」


「やったことないので今は自信がないですが、できそうな気がします」


「本当、できるようになったら教えてね。私、メリッサ。そこの守衛さんに呼んでもらってね」


「わかりました。出来次第お伝えします」



 それから、5件ほど配達の依頼を終らせ、芝生の種を買ってから、少し早めに帰った。そして、地下闘技場に降りて、芝生の種を蒔いた。樹魔法も“フォレストウォーク”はできないけど、芝生を生やすくらいならできるからね。


 “芝刈り魔法”のイメージは、“ポリッシャー魔法”と“掃除機魔法”の融合だ。モップの部分を刃の付いたファンに替えて、そのまま上から“掃除機魔法”で吸うイメージだ。上手くいけば、課題である”掃除機魔法”の性能も上がるだろう。そのためにも闘技場を芝生にしなければならない。この日は芝生にするだけで終った。一部分だけ芝生だと見栄えが悪いので、全面芝生になってしまった。……いいんだろうか?



 翌朝の朝食で、ゲルグさんとフレディさんは寝転ぶと気持ちがいいと喜んでいたが、爺やさんが珍しく顔を引き攣らせていた。“芝刈り魔法”のためだと伝えると安心してくれたが……やっぱり芝生の管理は大変なのだろう。



 その日の昼休み、久しぶりにリーナ先生に呼び出され、面談室に来ていた。次期勇者君のことだろう。


「ケイ君、一昨日の午後の授業のとき、アラン様に呼び出されたんだよね?」


「はい、そうです」


「できたら詳しく話してくれないかな?」


「構いませんが」


 俺はペーターさんの話も含め、できる限り詳しく説明をした。



「ケイ君、この話、誰かに話した? あと、そのペーター君の話、どこまで信じられる?」


「内容が内容だけに、誰にも話していません。ペーターさんもわかりません。もしかしたら、アラン様についたのかもしれませんし」


「そうね。……エイゼンシュテイン王国か、本当なら不味いわね」


「あと、関係ないかもしれませんが、この間、エイゼンシュテイン王国の国王の孫娘のお披露目パーティがあったの知っていますか?」


「ええ、聞いているわ」


「では、エイゼンシュテイン王国側が開始直前に100名ほど参加者が増えてパーティが失敗しかけた話はどうですか?」


「えっ! どういうこと!?」


 俺は、あのパーティの出来事と昨日メリッサさんから聞いたことを説明をした。



「どうなんでしょう?」


「今は何とも言えないわ、でも情報は助かるわ。関係がないことを祈るしかないわね」


「1つ聞いてもいいですか?」


「ええ構わないわよ」


「エイゼンシュテイン王国ってどんな国なんですか?」


「有名なんだけどね。エイゼンシュテイン王国と勇者様のシュトロハイム王国と聖女様のカステリーニ教国は三大大国と呼ばれているの。でも、エイゼンシュテイン王国には、今はもう昔のような勢いがないのよ。だから、アラン様に近づいたり、パーティで足を引っ張ったりしても不思議ではないのよ。それだけに、ここで出て欲しくなかった名前でもあるんだよね」


「ありがとうございました」


「ええ、構わないわ。また、よろしくね」


 俺は挨拶を済ませ、面談室を出た。……何か、起こりそうだね。


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