第5話
「こ、ここって、どこかのギルドじゃないの?」
少し立ち直ったアリサさんが尋ねてきた。
「元はそうですけど、今は俺の家なんです。中へどうぞ」
扉に近づくと勝手に開いた。
「お帰りなさいませ、若様。そちらは、お客様で御座いますね?」
「そうなんです、爺やさん。人目を気にせず、話をできるところ、ここしか知らなくて、奥のテーブルを使ってもいいですか?」
「もちろんで御座います。さっ美しかったお嬢様方も遠慮なさらずにどうぞ。ご案内致します」
やっぱりブレないね、爺やさん。それに見た目だけの擬似幼女ではダメなんだね。リムルさん、完全に10才未満にしか見えないのに……緊張しているのか、二人は気付いていないようだ。
奥のテーブルに向かう途中、
「お爺ちゃん?」
リムルさんが声をあげた。リムルさんは大人しい性格なのか、ほとんどアリサさんの相槌しか打っていなかったのに。
「なんじゃ、リムルか。大きくなったのう。ケイの友達なのか?」
「お爺ちゃんこそ、ここで何しているの?」
「ワシはここで、旨い酒を飲んでおるのじゃ」
「後で、少しいい?」
「あぁ構わん。しばらくここに居るからのう」
「リムルさん、ゲルグさんの孫なんですか?」
「あっいえ、ひ孫です」
それ以上、話を広げることもできず、テーブルまで来た。
「若様がお茶をお淹れになられますか?」
「そうですね。アリサさん、リムルさん、お茶を淹れてくるので暫らくお待ちください」
頷く二人を残して、爺やさんとカウンターに向かった。
緑茶を淹れながら、カウンター席にいたゲルグさんとフレディさん、爺やさんに
「あの二人も前世の記憶持ちで、俺と同じ異世界から同時期に転生しているんです。後で聞きたいことが出てくるかもしれないんですが、そのときはお願いします」
「あぁ、構わないよ。ここにいるから、声を掛けてくれればいいよ」
確認をとると、フレディさんが快く返事を返してくれた。
「お待たせしました。あちらの3人はSランクの冒険者で信用のできる方達なので、心配いりませんよ」
「ありがとう。あっ、日本茶! この世界にも日本茶があったんですね」
「白いご飯もありますよ。良かったら、夕食をご一緒しますか?」
「「ご飯!」」
リムルさんも反応した。……白いご飯は偉大だ。
「いいんですか? 迷惑じゃないですか? ごはんですよね?」
「結構苦労したんで、ぜひ食べて頂けるとうれしいです」
「ありがとうございます。でもケイさんの契約主さんって、お金持ちなんですか? こんな場所に、こんな家を持っているなんて」
「ベルさんはお金持ちのはずですが、ここは、俺個人の家なんですよ」
「えっ、じゃあ契約主さんは?」
俺がまず、転生前から今までの話をすることにした。もちろん闇の加護については省いて話した。
「ケイさん、奴隷だから可哀相とか思っていたのですが、全然ですね。あと、ベル・ラインハルトさんって実在していたのですね」
「どういうことですか?」
「ケイさん、知らないのですか? この世界では有名な御伽話ですよ。ねぇリムル?」
「うん、そう」
ついに“です。”までなくなった。
「昔、悪い龍がある国を滅ぼしちゃって、それを退治したっていう、良くある話なんだけど、強くて綺麗はこの世界の女の子にとって、正義なんですよ」
どこまで実話なんだろうか? 元々国はあったみたいだし、クロエさんもいるし……
「あっすみません、ケイさんのことばかり聞いて。私達のことも話しますね」
「お願いします」
ベルさんや黒龍の森のことよりも、こっちが先だね。
「前世で私達は、同じ病院で働いていたのです。私がナースで29才、リムルが医療事務で24才でした。そしてあの日、私達はコスプレ衣装の発表のためにイベントに参加していて、あの事故に巻き込まれたのです」
「やっぱり、あれは事故って認識ですよね?」
「そうですね。殺されたと言われればそうかもしれませんが、極論過ぎますね。たぶん、彼らは中学生か高校生ぐらいじゃないですか ?物語の世界に迷い込んだと勘違いしているのでしょうね」
「若いころは俺もあんな感じだったと思うので、彼らのすべてを否定するつもりはありませんが、できれば関わりたくないですね」
「そうですね、まったくです。……続けますね。神界のあの部屋で私は服飾関係の運命を希望し、リムルは鍛冶関係の運命を希望しました」
「少し待ってもらっていいですか? 今日の彼らとの対談から、スキルについて気になっていたのですが、スキルは前世での経験によって、発現のしやすさが変化するんですよね? リムルさんは、前世で鍛冶をやったことがあるんですか?」
「ない」
「ケイさん、その認識で間違いないです。でも続きを聞いていなかったのですか?」
「続きですか?」
「はい、そうです。スキルには種族や血統によって受け継がれているものもあり、それも享受することもできると私は説明を受けました。だから、リムルは鍛冶を選んだはずです。私達は、前世で同じゲームをやっていて、その時に私は裁縫職人、リムルは鍛冶職人をしていましたが、リアルではリムルはやったことがないはずです。私は趣味程度ですが、リアルでも裁縫をやっていましたが」
リムルさんが頷いている。そうか、続きがあったのか……でも、なんでエリスさんは言ってくれなかったんだろう?
「あっ!」
「どうかされましたか?」
「思い出しました。深く悩まず、簡単に決めてしまったので、説明する暇がなかったのでしょう」
すぐあとに、闇の加護とかいろいろあったしね。
「それでは、仕方ないのかな? 本来、記憶がなくなるはずでしたし、あまり関係がなかったと思いますが、今は記憶が残っていますからね。違う人生があったかもしれないのですよ」
「そうですね。でも、今の人生も悪くないですからね」
「たしかに、こんな家をお持ちですものね。……続き、いいですか?」
「すみません、お願いします」
「いえ、そのための話し合いですから。……その後転生して、私達は別々のところに生まれました。ただ偶然なのですが、たとえ記憶がなくなるとしても、二人とも新しい世界でも友達になりたいと希望を出していたので、アーク学園で出会うことができました。それに、寮でも同室です」
「なるほど。で、今に繋がるのですね」
「はい、そうです。この世界での生活は、種族や血統のおかげでスキルも発現し、やりたいこともでき、学校にまで行かせてもらえているのですから、私達も悪いものではありませんね」
「ありがとうございました。……あと、少し感覚的な話になるのですが、俺は38才で死んで、この世界に転生してから12年が経ちました。でも、50才になった感覚がしません。前世の感覚は38才で止まっているように感じるのですが、お二人はどうですか?」
「私達も、ケイさんと同じですよ。私達も再会した時に確認したのですが、止まっている感じですね。きっと彼らもそうでしょう。もし14才で死んでいれば、26才ですからね。さすがに26才にもなって、あの発想は出て来ないでしょう」
「そうですね、ありがとうございます。……では、そろそろいい時間なので、夕食の支度をしてきますね。続きは、食事のときにしましょう。リムルさん、ゲルグさんを呼びましょうか?」
「うん」
どんどんリムルさんの俺に対する扱いが、ぞんざいになって来ているね。見た目が幼女だから許せるけど、中身が24才だと思うとむかつくね。
「では、しばらくお待ちください」
料理の支度とゲルグさんを呼ぶために、カウンターに向かった。
夕食はゲルグさん達も一緒に摂ることになった。
「ごはんです。白いごはんです。懐かしいです。……でも、前世よりも美味しいような? あっ、ケイさん料理人だった」
アリサさんが、独り言なのかどうかわからない感じで呟いた。リムルさんは、黙々と食べている。しばらく、そっとしておこう。
「あのう、フレディさん。今日、次期勇者のアラン様に会って疑問に思ったことがあるんです。“あと3年すれば、僕が勇者だ!”と言っていたのですが、どういう意味ですか?」
「そうでした。私も気になっていたのです」
アリサさんも疑問に思っていたようだ。
「たぶんだけどね。15才になれば、勇者の加護が発現することを言っているのだと思うよ」
「勇者の加護ですか?」
「そうだよ。シュトロハイム王家の直系の長男が15才になると、勇者の加護が発現されると言われているのだよ。この勇者の加護は、特化型ではなく、万能型だと言われているね。戦闘系スキルなら武器系だろうと魔法系だろうと何でもいくつでも、スキルが発現すると言われているのだよ。強いかどうかは、そのときの勇者によるけど、強くなり易いのは間違いないのだろう」
「ありがとうございます。では現段階はわからないということですね」
「まぁそうだね。今の勇者と聖女の間に間違いが起こるとも思えないけどね」
「そういえば、今の聖女は勇者と婚姻関係にあるんですよね。聖女も血統なんですか?」
「いや、違うよ。聖女はカステリーニ教国にある、光の神を信仰している修道院の修道女の中で、特に光の神に愛されている者に聖女の加護が発現すると言われているね。そして、聖女の加護は特化型でね。光魔法スキルに強い影響を及ぼすと言われているね。言い換えれば、防御と癒しに特化した加護だね」
なるほど、爺やさんは条件付だけど、その加護を超えるんですね。ちらっと爺やさんを見たが聞き流している。聖女でも幼女でないと興味がないのだろう。
「わかりました。ありがとうございます」
アリサさん、リムルさんの二人はまだ学生なので、今日は早めに解散することにした。また情報交換をする約束をして、二人は帰っていった。




