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第2話

 冒険者ギルドでの話し合いを終え、家に帰ってきた。


「若様。お早いお帰りですが、何かトラブルでも御座いましたか?」


「トラブルと言えばトラブルなのですが、今日の夕方、ギルドの方が二人家に来たいと言っておられるのですが、構いませんか?」


「もちろんで御座います。若様はここの主です。誰に憚かることが御座いましょうか」


「でも、Sランクの方や魔族の方が気にするのではないですか?」


「若様。爺やたちは皆、若様に軒を借りているだけなので御座います。もし何かあれば、この爺やが責任を持って対処させて頂きます。そのためにも、爺やがいるのですから」


「そうだよぉ、ケイ君。気にすることないよぉ」


「あと、この家を用意するにあたり、ベル様からの条件があってね。もしケイ君の交友関係に口を出したり、邪魔をするなら許可できないと言われているのだよ。だから気にすることない。邪魔なら私たちは宿泊施設にいるよ」


「シャルさんも、フレディさんも、ありがとうございます。邪魔というよりも、Sランクの方達に会いたいようなのですが、構いませんか?」


「もちろん構わないよ。これからもそういう人達が多く現れるだろうしね、ケイ君の判断で連れてくればいいよ。対処は皆それぞれ違うだろうけど、ケイ君に迷惑をかけることはしないと思うよ。あと一応、魔族が来ることは他所では言わないほうがいいだろうね。ここに来たときに、偶然会うのは問題ないけどね。この屋敷の中は、領主ラルス様の名の下に治外法権が適用されているからね」


「治外法権ですか!?」


「何も特別なことではないよ。この学園都市には、各国の大使館もあるからね。治外法権を認められている施設や建物は多いよ。だから、この建物内は黒龍の森の法に準じるのかな、まぁ何かあれば、領主であるベル様の裁量に任されているのだよ」


「心配ないのですね、ありがとうございます。みなさんには、迷惑をかけることもあると思いますがよろしくお願いします」


 確認をとることができのたでギルドに戻ることにした。


 

 ギルドに戻るとカウンターにキャシーさんがいた。


「キャサリンさん、お疲れ様です」


「ケイ様、どうかなさいましたか。あと、キャシーでいいすよ」


「今日の夕方の件ですが、大丈夫です。パーカーボーン13世さんとシャルロットさんとフレデリックさんが会ってくれるみたいです。カミラさんにも伝えてもらえますか?」


「ありがとうございます。カミラにも伝えておきます」


「あと、この鍛冶屋さんの住所はどのあたりになりますか?」


 キャシーさんに鍛冶屋さんの場所を聞き、そちらへ向かった。



「すみません。冒険者ギルドの依頼で来たんですが」


「おぉ、来てくれたのか! 駄目もとで依頼を出していたんだが、助かったよ。そこの荷車のやつを運んでくるかい」


 気の良さそうなドワーフのおっちゃんだ。ゲルグさんは怖そうなのに……怖そうなのは種族特性じゃないんだね。


「魔法袋を使ってもいいですか?」


「もちろん構わないよ。荷車を返しに来てもらわなくてもいいしな。じゃあこの紙といっしょにジーンのところに頼むわ」


「あのう、この都市に来たばかりで土地勘がないので、場所を教えてもらえませんか?」


 

 無事、ジーンさんのところまで届けることができた。


「じゃあ、この紙をギルドに持っていってくるか?」


 ジーンさんのサインの入った証明書を受け取った。


「ありがとうございます。それと少し見させてもらってもいいですか?」


「あぁいいよ。好きなだけ見てってくれ」


 気になっていたことがあるんだよね。……あった。


「ジーンさん、この小太刀抜いてもいいですか?」


「いいけど、傷つけるなよ」


 1本目、少し歪んでるし、重心も気持ち悪い。2本目、刃の曲線が波打っている。3本目、柄の握り具合が変…………7本目、これはマシかな。


「ジーンさん、この小太刀いくらですか?」


「おい、兄ちゃん。刀術使うのか? いい目してるな。扱いも慣れているし。兄ちゃんなら7万でいいよ」


「すみません。買うのではなくて、値段を確認したかったんです。今、使っている小太刀は頂いたのですが、どのくらいのものかと思いまして」


「なるほどな。今、持ってるなら、見せてみろ」


 ジーンさんに、残り少なくなった小太刀をみてもらった。実際、そろそろ買い足したほうが良さそうだしね


「やっぱ、兄ちゃんいい目してるよ。中古だから値は落ちるけど、新品なら同じくらいだ。手入れもちゃんとしてるしな」


「ありがとうございました。もし買うときはお願いします」


「おぉ、任しとけ。いいの用意しといてやるよ」



 鍛冶屋さんはギルドから離れていたけど、武器屋さんは噴水の広場から大通りに入ってすぐだったので、ギルドにはすぐ戻ることができた。


「キャシーさんいいですか、依頼達成しました」


「ケイ様、お帰りなさい。では証明書とギルドタグをお願いします」


 カウンターの石版にタグを置き、証明書を手渡した。


「確認致しました。こちらが、税金と手数料を引いた残りの1600ルリです」


 銀貨1枚に銅貨6枚だった。とりあえず魔法袋を通して、異空間に入れておいた。財布も買わないといけないね。


 このあと2件の配達依頼を達成してから、家に帰った。3件合わせて手取り4320Rだった。ちなみに十の位は鉄貨みたいだ。あと一の位は切り捨てが基本らしい。



 家に帰って汗を流してから、カウンターで、爺やさん、シャルさん、フレディさんと今日の依頼のことを話しながら料理をして、カミラさんとキャシーさんを待つことにした。報酬の話になると3人とも苦笑いしていたが……仕方ないよね、Fランクだし。


 扉を叩く音が響いた。爺やさんが応対してくれるようだ。


「これはこれは、美しかったお嬢様方、主がお待ちです。どうぞこちらへ」


 さすが爺やさん、ブレないね。


「「失礼します」」


 やっぱりSランクの人に会うと緊張するんだね。少し二人とも少し堅い。


「本日は、私たちの勝手な申し出を受けて頂きありがとうございます。簡単なものではありますが、お受け取りください」


 手土産まで持って来てるんだね。いろいろ大丈夫なんだろうか?


「ご丁寧にありがとうございます。カミラさんもキャシーさんも皆さんも奥のテーブルにどうぞ。食事を用意します」


 みんな、ぞろぞろと奥へ歩いていく。飲み物は爺やさんが用意してくれるみたいだ。ワインを開けている。


 食事を並べ終わり、俺も一緒の席につくと、


「あの私たちも頂いて宜しいのですか?」


「あぁ構わない。ケイ君の料理は美味しいよ。それに君たちの目的もケイ君から聞いているよ。食べながら話をしよう」


 フレディさんが仕切ってくれた。さすがは俺の知る人のなかで一番の常識人だ。爺やさんやシャルさんとは、安心感が違うね。


「じゃケイ君、乾杯の音頭を頼むよ」


 やっぱり……こんなとき何を言えばいいんだ。


「えぇ、カミラさん、キャシーさん、本日は我が家にお越し頂きありがとうございます。簡単なものしかご用意できませんでしたが、ゆっくりと楽しんでいってください。……乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 うーん、俺が呼んだわけじゃないから、ちょっと違うな。


「さぁ、みんな食べよう。……そうだ自己紹介がまだだったね。私はフデレリック・マーシャル。Sランクの冒険者だ。フレディと呼んでくれて構わないよ。さぁ、シャルも」


 もうフレディさんに任せておこう。間違いないだろう。


「シャルロットよ……」


 まぁ対応は自由だしね、あまり見たことのないシャルさんだね。


「私は、パーカーボーン13世、爺やと呼んで頂けると嬉しゅう御座います」


 爺やさんも空気を読んでいるのかな? 挨拶が短めだ。


「私は、カミラ・コルナードです。Aランクの冒険者です」


「私は、キャサリン・マスグレイブです。同じくAランクの冒険者です」


 二人の容姿だが、カミラさんは、人間族かな ?茶髪茶眼、レザーアーマー。キャシーさんは、エルフ族かな? 金髪碧眼、ローブを着ている。二人ともギルドでは制服だったので、雰囲気が違う。


「フレデリック様、お聞きしても宜しいですか?」


「構わないよ」


「なぜ、ケイ様をSランクに推薦されたのですか?」


「どう答えたら、わかりやすいだろう……そうだ、たぶん君たちはケイ君よりも圧倒的に強いよ。でも、私は君たちを推薦することはないだろう。……それはね、君たちもわかっていると思うけど、君たちがSランクの依頼を受けると確実に失敗するか死ぬよね。これじゃあ、推薦はできないだろ。無責任すぎるからね」


「では、ケイ様には可能だと」


「できるかどうかはやってみないとわからないよ。まず、ケイ君の性格からしてSランクの依頼なんて受けないだろうしね。でも私から見て、現時点でもできると思える依頼もあるし、経験を積めばもっと増えるだろうね。たぶん、ケイ君は失敗しても死なないだろうし」


「ケイ様と私たちとでは、何が違うのでしょうか?」


「あとで、一度戦ってみるといいよ。この屋敷の地下は闘技場になっているからね」


「闘技場ですか?」


「あぁそうだよ。食事が終わったら始めよう。君たち二人とケイ君の2対1でね」


「2対1ですか?」


「だから、作戦を話し合うなら今のうちだよ。ケイ君もいいね」


「俺としては、いい経験になるので嬉しいですが……」


「それでいいよ。ケイ君が負けても、君の戦い振りをみれば、この二人ならわかるはずだよ」


「そうなんですか? シャルさん」


「なんでお姉さんに急にふるのよぉ。この二人のことなんて知るわけないじゃない。でも、ケイ君が勝つことはわかるわよぉ」


 うーん、わからん。爺やさんに聞いても、どうせはぐらかされるだけだし……



 地下闘技場で2人と向かい合っている。距離は15mぐらいだろうか。カミラさんは刃渡り120cmくらいの両手剣を構え、その少し後ろで、キャシーさんが杖を構えている。ちなみに俺は無手だ。


「爺やがいるから多少の傷はいいけど、殺してはいけないよ。じゃあいいかい……はじめっ!」




 今、みんなで、先ほど食事をしたテーブルで、飲みなおしている。一応、俺が勝った、特に危なげもなく。


「そんなに気を落とさなくてもいいんじゃないかな。もう一度やったら、確実に勝てるだろうし。ただ依頼では、もう1度する前に死んでしまうのだけどね」


「はい、途中で気付いたときには遅かったです。どうすることもできませんでした」


「私も聞いただけで見てはいないのだが、3年前にSランクのグレンさんがケイ君と試合ったらしい。グレンさんは、舐めていただろうし、両手剣だったのもあるだろうけど、ケイ君に殺されかけたらしい。グレンさん本人が言ってたから本当なのだろう。だから、恥じることはないよ。

 すごいのは、ケイ君の戦術眼と、技や動きの多彩さ、間合いのとり方にあるのだから。たしかに、ケイ君はスピードもパワーもない。最初から強引にスピード勝負かパワー勝負に持ち込めば、君たち二人なら勝てるだろう。でもケイ君は死なずに逃げ切ると思うけどね。これが君たちとケイ君の違いだね。あと、ケイ君は戦略立案能力も高そうだけどね」


「ありがとうございました。いろいろ足りないものに気付くことができました。それに、ケイ様の戦略立案能力に関しては私も今日話していて感じました。最初に選んだ依頼が配達だなんて、長期的ビジョンを持って考えていますよね」


「そうだね、たぶん本人はそこまで意識していないのだろうけど、前世の記憶が作用しているのかな」


「ケイ様も前世の記憶持ちなのですか?」


「ああ、勇者のご子息の話かい。ケイ君と一緒で今度、学園に入学するみたいだね」


「いえ、勇者様のご子息だけでなく、他にも数名、今年入学するみたいなのです。それとこれは未確認ですが、勇者のご子息を含め、かなりできが悪いらしいです。遺伝もありますから、加護やスキルは受け継いでいるようですが、まったく努力もせず、習得魔法陣頼みだと言われていますね」


「それは困ったね。人柄が良ければ、今の勇者のように強くなくても災いにならないのだが……」


「私も会ったことがありませんから何とも言えませんが、いい噂は聞きませんね」



「ケイ様、先ほどの夕食は前世の料理ですか? あの白いの、米ですよね?」


 フレディさんとカミラさんが重たい話をしている横で、キャシーさんが聞いてきた。


「そうです。ご飯と呼ばれていました」


「あれは、どうやっているのですか? 私が生まれた村の近くで稲作が行われていたのですが、あんなに白くて、柔らかいのは見たことがありません。大変、美味しかったのですが」


「籾をとると黄色い米が出てきますよね。前世ではこれを玄米と呼んでいました。その玄米を器に入れて、すりこぎで突くと表面の黄色い部分が削れます。この黄色い部分を糠と呼び、この作業を精米と呼んでいました。玄米から糠を取り除くと米が白くなります。これを白米と呼んでいました。その白米を洗って、水と一緒に鍋で蓋をして水がなくなるまで煮ると先ほどのご飯になります。俺は精米と煮る作業を魔法でやりますが」


「大変そうな作業ですね。でも魔法ですか、そんな繊細そうなこともできるのですね」


「魔法に関しては繊細なことしかできないんですけどね」


 白いご飯のファンがまた一人増えたようだ。頑張って布教していこう。



 この日は、日付が変わるあたりで解散となり、片付けて寝ることにした。



 あと、残りの二人が俺をSランクに推薦した理由だけど、爺やさん「同士だから」シャルさん「ケイ君だから」うん、よくわからない。フレディさんはさすが常識人だね。


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