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第17話

 今日が、黒龍の森で過ごす最後の日になった。


 俺の送別会のためではなく、食べ納めのために大勢来ると思っていたんだけど、ベルさんとクロエさんしかいない。この二人しかいないのは、なんだか懐かしい気がするね。


「ケイ、ここでの生活も今日で最後じゃ。妾の贈り物を受け取って欲しい、“黒龍牙”と“黒龍爪”を出すのじゃ」


 ごめん、言ってなかったね。クロエさんの牙と爪の小太刀、“黒龍牙”と“黒龍爪”って名前だよ。そのままだけど、いいよね。俺は気に入っているんだ。あと、鞘はクロエさんの鱗でできているから、漆塗りのような漆黒の輝きがあるんだよ。クロエさんに“黒龍牙”と“黒龍爪”を手渡した。


 クロエさんは、“黒龍爪”をテーブルに置いた。“黒龍牙”を左手で鞘からぬき、右手に持った鞘をテーブルに置いた。そして、何の迷いもなく透き通ったような純白の刃を右手に突き刺した。真っ赤な血が刃を伝うが鍔に辿りつく前に、刃へと吸い込まれていく……あまりにも自然な動作だったため、止めることを忘れていた。


「あのクロエさん、大丈夫なんですか?」


「心配するでない。必要なことじゃ」


 しばらくして、“黒龍牙”は鞘に戻された。


 そして、“黒龍爪”も左右対称で同じ動作が行われた。


 鞘に入ったふた振りの小太刀を持ったクロエさんがなにか呟くと、ふた振りの小太刀が輝きだした。


 “ケイを護って”って聞こえたけど、口調が素だったので、聞こえなかったことにする。


 輝きが納まり、ふた振りの小太刀は俺に返された。


「ケイ、“黒龍牙”と“黒龍爪”に妾の加護を与えた。もうその小太刀はケイにしか抜けぬ。あと、手をはなしてみよ」


「えっ、下に落とすのですか?」


 クロエさんが頷くので、そっと手をはなすとふた振りの小太刀は、浮き上がり、両肩の上辺りで鞘を前に向けて止まった。


「その加護は、“守護”じゃ、攻撃はせぬが、意志を持って防御してくれるはずじゃ。ケイの身に危険を感じれば、異空間の中からでも出てくるはずじゃ、もらってくれるか?」


 えっ!……加護がない状態でも、伝説級って言われたのに、これって、神話級?……もしかして、四刀流?


「ありがとうございます。加護に護られることのないよう精進いたします」


「そうじゃ、その心構えが大切なのじゃ、さすがはケイ、わかっておるのう」




「私からは、これだよ。クロエみたいに加護をつけることはできないけど、ここで私にしか作れないものだよ」


 そう言って、ベルさんは、旧米軍のドッグタグのようなものを俺の首にかけてくれた。縁取りは白だ。


「冒険者ギルドのギルドタグだよ。ケイの住所はここで、私の契約奴隷だから、この黒龍の森で、私、ベル・ラインハルトにしか作れないのだよ。そこには、いろいろな記録が入るのだが、使っているうちにわかるだろう。その白色がFランクの証だ、何かの役に立つときが来るだろう」


「ありがとうございます。ところで、奴隷でも冒険者になれるのですか?」


「私が冒険者でもあるからね。冒険者の契約奴隷は、冒険者になれるのだよ。ただ、私と一緒でないとこの森から出ることが出来ないけどね」


「ギルドタグがあれば、学園都市でも依頼を受けることができるのですか?」


「そうだよ。学園に入学すれば、私がいなくても都市内の依頼なら受けることができるよ。ギルドタグがなくても、仮証を発行してもらえば依頼は受けられるけどね」


「ありがとうございます」


「そして、最後に……」


 ベルさんが抱きしめてくれた。まだ、ベルさんのほうが少し背が高いので、俺の耳許に、ベルさんの口許がある。


「ここがケイの家だよ。……いつでも帰ってきていいからね。……私はいつでも待っているよ……ぃっm……」


「ありがとうございます」


 泣いた……泣いたのはいつ以来だろう……最後のほうは聞きとれなかったけど、うれしかった……



「よし、じゃ行こうか。学園都市へ」


「妾は、ここでお別れじゃ。また、すぐ会えるじゃろう。妾にとっては、10年でもあっという間じゃ、元気でな、ケイ」


「はい。クロエさんもお元気で。長い間、ありがとうございました」


「じゃ行くよ……」


 ベルさんがそう言うと、周りの景色が変わった。




 どこかの執務室のようだ。大きな机の奥に、長い白い髭、長い白い眉、禿げ上がった頭、黒いローブ、いかにも魔法使いのお爺さんって感じの人が座っている。


「お父様、お久しぶりです」


「おぉ、ベル。そっちの子がケイか? ようこそ、アーク学園へ。わしが学園長のラルス・ラインハルトじゃ。歓迎しよう」


「はじめまして、ケイです。よろしくお願いします。……えーと、ベルさんのお父様?」


「そうじゃ」


「学園長?」


「そうじゃ」


「闇魔法使い?」


「そうじゃ……おい、ベル。なんの説明もしてなかったのか?」


「学園長以外は、説明していたと思うのですが……あっ、見た目ではないですか?」


「おぉ、そうじゃった」


 学園長がローブを脱ぐと、身長160cmぐらいの黒髪黒眼の少年が現れた。


「ケイ、すまんかったな。この姿じゃ威厳がなくてのう」


 この人も威厳かよ……形から入るタイプだな。


「いえ、お気になさらずに。私も緊張しておりまして」


「何を緊張しておるのだ、ワシたちは闇魔法で繋がっておる、身内も同然じゃ。くつろぐがよい」


「ありがとうございます。このあと、どうすればいいんでしょうか? 入学試験とかはないのですか?」


「本来はある。ケイ、聞いておるが基礎身体能力が一般人レベルじゃろ?」


「はい」


「魔法は、初級未満じゃろ?」


「はい」


「勉強もまともにしておらんのじゃろ?」


「はい」


「へたしたら、試験に落ちる。じゃから学園長推薦で合格にしておいた」


「ありがとうございます」


「ケイ、手を出せ。入学手続きじゃ」


 学園長が俺の手を握るとステータスカードが出てきた。


 氏名:ケイ (アーク学園在学)

 年齢:12才

 種族:人間族

 階級:契約奴隷 (ベル・ラインハルト)

 住所:黒龍の森

 スキル:料理・洗濯・掃除

 

 おぉ、在学になった。また年齢しか変わってないけど……


「これでよし。あと、これが制服じゃ」


「ありがとうございます。入学案内やオリエンテーションとかはありますか?」


「ケイは、冒険者コースにしておいたぞ。1月6日が入学式じゃ、その日に学園に来れば、なんとかなるじゃろ。以上じゃ」


「わかりました。なんとかしてみます」


「あと、ケイの家の食料庫とベルのギルドの食料庫を繋げておいたから、また自由に使ってよいぞ」


「俺の家?……もしかしてギルドの食料庫の補充は学園長がされていたのですか?」


「そうじゃよ。ワシしか他人の異空間に干渉できんからな」


「いつも、ありがとうございました。気にはなっていたんですが、確認もできず、すみませんでした」


「ぜんぜん、構わんよ。ちょいちょいワシもつまみ食いしとったからのう。また、頼むわ」


「俺の料理で良ければ、いくらでもどうぞ」


「そろそろ、ワシも仕事をせなならん。ベル、後は任せてもよいな」


「わかりました、お父様。お任せください。行くぞ、ケイ」


「色々ありがとうございました。これからよろしくお願いします」


「あっそうじゃ、ワシもケイには感謝しておるのだ。このベルじゃが、もう長いこと喜怒哀楽の感情を無くしておったんじゃが、ケイに会ってから変わってのう。たまに来ては、ケイの話を楽しそうにするんじゃ」


「お、お父様!」


「ほれのう。ケイ、感謝しておるぞ。そして、これからも頼むぞ」


「はい、失礼します」


 こうして、ベルさんのお父さん兼、学園長兼、闇魔法使いのラルス・ラインハルトさんとの初顔合わせが終わった。



 学園長室を出て、廊下を歩き始めたとき、


「あのベルさん、俺の住むところってもうあるんですか?」


 今日は、まだ12月20日だ。入学式まで、半月ほどある。寮とかあるのかな?


「あぁ、もう用意できているはずだ。これから行くが、何か用事でもあるのかい?」


「いえ、お願いします」


 今は、長期休み中なんだろうか? 学園の広い敷地内に人の気配がほとんどない。


 学園を出て、大通りを進み、噴水のある大きな広場に見えてくるとだんだん賑やかになってきた。広場には、露天も出ていて、買い物客や待ち合わせ、家族連れなどで賑わっているようだ。中には、冒険者風の戦士や魔法使いもいるが、お昼前のためか少ないように思う。あと、俺もそうだけど、黒髪黒眼の人が多い。サタン様やクロエさん以外のSランクの人たちにはいなかったので、戦闘系スキルがあると黒ではなくなるのかな?


 広場の周りに建ち並ぶ、大きな建物の一つの前で立ち止った。


「ここがケイの家だよ」


 となりは冒険者ギルドのようだが、学園の寮なんだろうか?


「さぁ、入ろう」


 両開きの扉を開けると、


「「「「「ようこそ、学園都市へ!」」」」」


 10人ほどで出迎えてくれたが、知った顔が多い。いや、みんな知っている。


「ここはね、ケイのためにみんなが用意してくれたんだよ」


 ゲルグさん、グレンさん、シャルさん、爺やさん、フレディさん、他にもSランクの冒険者が……サタン様までいるし。


「まぁ説明するから、とりあえずビールを入れてくれ。そこのカウンターの奥に食料庫があるはずじゃ」


 ゲルグさんの言葉を受け、カウンターに入ると、いつも使っていた厨房の魔道具が揃っている。そして奥の扉を開けると見慣れた食料庫だった。


 ビールを持って、広いホールにある、広いテーブルに向かった。みんな座ってニヤニヤ微笑んでいる。みんなが持っているジョッキにビール注いで、冷やしてまわった。今日は寒いのに勢いで冷やしてしまったが、いいだろう。


「とりあえず、乾杯だ。……ケイの門出を祝して、乾杯!」


「「「「「「「乾杯!」」」」」」」


「ケイ、少しは落ち着いたか?」


 ゲルグさんがニヤニヤしながら、聞いてくる。


「あの、どういうこと何でしょうか?」


「ワシが代表して説明しよう。ここはな、みながケイの料理を食べたいがために用意した、ケイの家だ」


 ゲルグさんが、説明してくれるみたいだ。


「俺の家? 個人の? でかくないですか?」


 入り口を入って、右手にカウンターがあり、残りは舞踏会でも開けそうなくらいでかいスペースだ。でかいスペースに、ゆったりとテーブルやイス、ソファーなどが並べられている。天井も高く、ちょっとオシャレな感じだ。


「条件に合うところがここしかなかったのだ。条件と言っても、転移魔法陣のある冒険者ギルドの近くというのしかないがな。ここは、元商業ギルドで建物を買い取った。あとは改装して、1階を食堂、2階を宿泊施設、地下を闘技場にした。建物にはベルさんオリジナルの結界がはってあるので、静かで安全だ。となりの冒険者ギルドよりも強固だぞ。あと、このケイの家の管理と維持だが、パーカーボーン13世に任せることになっている。維持費も、ワシらがケイの料理に対して、対価を支払うことによって賄われる。ケイは今までどおり、料理を出してくれるだけでいい。ケイが希望すれば、みんな鍛錬にも付き合ってくれるだろう。そのために、闘技場を用意したんだからな。まぁ心配するな、全部パーカーボーン13世に任せとけばいい」


「若様、この爺やにお任せ頂ければ、何の心配も御座いません」


「あのう、いろいろ聞きたいこともあるんですが、商業ギルドはどうなったんですか?」


「あぁ、心配するな。この都市に2つある門の近くに出張所と貴族街にここよりも大きな建物を用意してやったら、喜んで出て行きおったぞ」


「そ、そうですか。みなさん、ありがとうございます。精一杯、料理を提供させて頂きます。……では、ご注文をどうぞ」


「ケイ、今日はゆっくりするといい。パーカーボーン13世は食料庫にも入れる。任せておけばいい。ワシも秘蔵の蒸留酒を出そう」


「若様、今日は、爺やにお任せください」


 そして、宴が始まった。……しかし、宴なのにクロエさんがいない。なんか寂しいね。



「ところで、サタン様。ここにいても大丈夫なんですか?」


「バレると不味いが、地下2階に転移魔法陣を作って、デス諸島と繋いだのだ。ちゃんとラルスに許可はとったぞ。ラルスの許可がないと我輩でも転移してくること無理だからな。この学園都市の周りには、ラルスの結界がはられているのだ。奴が死なない限りこの都市は難攻不落じゃ。そうそう、我輩の城の者たちもケイの料理を食べたいと言っておってのう。そのうち来ると思うがよろしく頼む」


「わかりました。が、魔族の方がそんな簡単に来てもいいのですか?」


「ここから出なければ、バレないだろう」



 こうして、いろいろ突っ込みどころ満載な、新しい生活が始まった。


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