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第15話

 俺の鍛錬にグレンさんの槍術が加わって、2ヶ月ほどが過ぎ、新年を迎えた。そんなある日。


「グレン、頼みがある。ケイを連れて森に入ってくれないか?」


「構いませんが、お2人は行かないのですか?」


「行きたいのだが、私たちが行くと魔物のほうが避けるからな。訓練にならないのだ。今は冬だし、それほど危険もないからな」


「なるほど、わかりました。今からでいいですか?」


「あぁ、頼む。……ケイ、無理をしてはいけないよ。始めは全部回避して進むのだよ」


「はい、わかってます。戦っても勝てませんから」


「そうじゃ、ケイ。其方は、魔物との戦闘に不向きじゃからな、危なくなったら、あれを使うのじゃぞ」


「はい、そうさせてもらいます」


「よし、ケイ行くか!」


「はい、お願いします!」


 こうして、“黒龍の森”の初探索に行くことになった。



「ケイ、お前の索敵範囲はどのくらいなんだ?」


「常時展開で200mぐらいでしょうか。方向を限定すれば、5kmぐらいはいけると思います」


「おいおい、お前はどこへ行こうとしてるんだ。獣人系種族のシーフでもなかなか居ないぞ、そんな奴」


「でも、オリジナルの“探知魔法”なんで、低ランクの魔物と魔物でない生物との区別をしにくいです。あと、地下は2mぐらいが限界です。……あっこっちに行きましょう」


「お前、便利だな。……なるほどな、魔力探知か。気配察知はそれほどでもないのか?」


「はい、そうなんです。何か鍛錬方法はありませんか?」


「こればっかりは、種族特性もあるからな。経験するしかないと思うぞ。だから、今、こうして歩いてるんだろ」


「そうですね。やっぱり簡単にはいきませんね」


 “探知魔法”だけど、俺を中心に半径200mの半球状に魔力で作った細い糸が木の枝のように枝分かれし、放射状に展開し続けている。最近は展開しながら寝れるようになったが、最初は気になって寝れなかった。あと地下だが200m先の地下2mも探知できるはずだ。そして、魔眼も使えば、かなり正確に識別できるはずだ。……というのも、今日が初の実戦投入で性能実験も兼ねているからね。


「そういえば、クロエさんが言ってた、アレってなんだ」


「あっ、コレです」


 俺は魔法袋から黒龍の小太刀を取り出した。


「おい、なんなんだ、その小太刀! 抜かなくてもヤバいのがわかるぞ!」


「こっちがクロエさんの牙です。で、こっちが爪です」


「マジか……伝説級の武器じゃねぇか。頼むからオレに向けるなよ!」


「はい、大丈夫です。対人禁止令が出てますから」


 やっぱり、伝説級なんだ。あんまり人に見せないほうが良さそうだね。もう仕舞っておこう。


「当たり前だ。オレでも止めるぞ」



 しばらく探索を続けていると変わった反応を感知した。


「あっ、グレンさん。左前方2kmぐらいに変わった魔力を感じるんですが」


「ちょっと待て、2kmってなんだ! さっき200mって言ってたじゃねぇか!」


「初めての森で不安だったので、全方位の限界まで広げてました」


「まぁいい。で、どんな魔力だ。魔物か?」


「たぶん、隠蔽の結界だと思います」


「おいおい、なんで隠蔽の結界がわかるんだ! 隠蔽の意味ねぇじゃねぇか!……でも、ヤバイな古代遺跡か」


「古代遺跡?」


「あぁ知らないのか、ケイ? どうする、確認するか?」


「いえ、止めておきましょう。途中に魔物の群れがたくさんあります。迂回しても、何組かには、見つかりそうです」


「そうか、今日は止めておくか」


「でも、古代遺跡について教えてもらってもいいですか?」


「一般常識程度しか知らねぇが構わねぇか?」


「グレンさん、元族長さんでしたよね?」


「うるせぇよ、オレはこういう政治的に繊細な話が苦手なんだよ。だから、カイに押し付けて来たんだ。……まぁいい。古代遺跡ってのはな、失われた文明の遺産だな」


「失われた文明ですか?」


「あぁそうだ。この世界の歴史は、3000年前までは遡れる。だけど、それ以前の記録が書物はもちろん、伝承にも残ってねぇんだ」


「それで遺跡を調べれば、わかるかも知れないと?」


「そう信じられているな。そして、それが原因で戦争や国の盛衰が繰り返されていてな、俺たちの種族では、古代遺跡を見つけても触るなと叩き込まれているんだ」


「なるほど、何が見つかるのかわからないのに、その存在が国を滅ぼす原因になりかねないんですね。やっかいなものですね」


「さすがベルさんとこの子だ。うちの種族の奴らは理解できねぇから、体に叩き込むしかねぇんだ」


「それって、虐待じゃないんですか?」


「いや、教育だ。……だから、オレはこの程度のことしか知らねぇんだよ」


「いえ、十分です。ありがとうございました」


 この後も、しばらく探索しながら、グレンさんの話を聞きつつ、魔法の性能実験をしてからギルドに帰った。



「グレン。どうであった、ケイは?」


「あぁ、問題ないだろう。優秀なシーフになれるぜ……ちょっと、汗を流してきます」


 グレンさんはそう言うと、宿泊施設に消えていった。



「ケイ、其方はシーフになりたいのか?」


「シーフって、なんですか?」


「ベル、説明を頼むのじゃ」


「あぁ、わかっている。……シーフは、冒険者パーティの役割の一つで、索敵や探索、撹乱や暗殺を得意としている役職だよ。ケイに向いているかもしれないが、本当になりたいのかい?」


「いえ、俺は冒険者になっても、ソロだと思います。身体能力が低いので足手まといになりそうですし」


「そうだね。低ランクのうちはパーティを組んでも問題なさそうだが、高ランクになると厳しいだろうね。それに低ランクならソロでも問題ないだろう……ところでケイは何か具体的にやりたいことを見つけられたのかい?」


「そうですね。盗賊の討伐をしながら、この世界の教会を周ろうかと思っています」


「なぜ、教会に?」


「教会の存在にも興味があるんですが、奉仕活動ですね。特に炊き出しなんかができると盗賊の略奪品を近くの村や街に還元もできますし、白いご飯の普及もできるかもしれませんからね。あとは、自己満足です」


「やっぱり、まだ罪悪感が残っているのだね」


「少しですが、消えませんね。でも、その罪悪感と付き合っていくと納得したので、自己満足のための奉仕活動ですね。あと、探したい食材もありますからね。結構、楽しそうだと思うのですが、可笑しいですか?」


「ケイが納得しているのなら、それでいい。好きすればいいのだよ」


「だから、冒険者になるのがいいのでしょうか?」


「そうだね、街や国境の入出がしやすいのは、冒険者と商人だね。商人は徒弟制度があるから、冒険者がいいだろうね」


「わかりました。まずは、冒険者を目指します。……そろそろ、夕食の準備をしますね」


 この日から、俺の鍛錬に森の探索が新たに加わった。




 森の探索をしつつ、平和な日々が3ヶ月ほど流れたある日。グレンさんと森から帰ってくると、


「ケイ君、おかえりぃ。お姉さん、寂しかったよぉ。……げぇ! ケイ君、なんでおっさんと森でデートしてるのよ。お姉さんともデートしてよぉ!」


「おいおい、誰がおっさんだ。……っていうか、おまえ、シャルロットか!?」


「そうよ。そういうあんt……銀狼……あんたがグレンか!?」


「あぁ、そうだ。始めましてだな」


「ええ、そうね。はじめまして、シャルロットよ。なんで族長のあんたがこんなとこで遊んでんのよ」


「引退したんだよ。そんで、今はケイを鍛えてるんだ」


「えぇぇ、ケイ君を鍛えるの私の役なのにぃ。……あんな依頼さえなければ」


「おい、色気ババァ。うるさいのじゃ」


「失礼ね! 私はクロエさんよりも若いわよっ!」


「そんなことは、どうでもよい。ケイ、宴の準備じゃ!」


「そうよ。お姉さんは、ケイ君の料理を食べに来たんだから、おっさんは邪魔しないでよぉ」


「誰がおっさんだっ!」


 俺は何も言わず、夕食の準備に取り掛かった。


 そう彼女、シャルロットさんは、俺の体術の師匠だ。グレンさんと試合ったときに出した、カウンターの蹴りも彼女に習った。

 彼女は、豹人族で、くすんだ金髪に丸耳、黄眼で、巨乳だ。金属製の篭手と脛当て以外は、豹柄で毛皮の胸当てと短パンを着用しているだけだ。そして、長いしっぽが揺れている、へそ出し、もも出しのエロい格好のお姉さんだ。

 歳は怖くて聞いてない……美人さんだけどね。



 宴がはじまった。相変わらず、シャルロットさんが来ると賑やかだ……いや、うるさい。


「あのぉ、シャルロットさん……」


「もうぉ、ケイ君、シャルって呼んでって言ってるでしょ」


「すみません、シャルさん。もう依頼は終わったんですか?」


「あんな依頼、お姉さんにかかれば、すぐ済むわよぉ」


「なにを言うておる。1年以上もかかっておるではないか!」


「私だから、1年で済んだのよ!」



 なぜか、クロエさんとシャルさんは仲が悪い。そして、ベルさんはいつも静かだ。シャルさんのことが苦手なのだろうか?


 賑やか宴会は長く続き夜が更けていった。いつものように、シャルさんは俺をベッドに誘うが、ベルさんに引っ張られ、無事、寝ることができた。


 この世界では、他種族間での恋愛は発展しにくいって聞いたんだけど、シャルさんは気にしないタイプなんだろうか? もちろん、俺は気にしないタイプだ!



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