第14話
季節のうつろいは早いもので、あれから7年が経ちました。髭右近啓太郎、改め、ケイです。まずはステータスカードを確認して頂きましょう。
氏名:ケイ
年齢:9才
種族:人間族
階級:契約奴隷 (ベル・ラインハルト)
住所:黒龍の森
スキル:料理・洗濯・掃除
すみません、年齢しか成長していませんね。
ついでに、少しこの7年を振り返りたいと思います。
まず、刀術かな?
二刀流は、2本の小太刀を使っているだけで、まだまだ、発展途上だ。
次に受け流しは、それなりって感じかな。盗賊レベルなら問題ないけど、グレンさんクラスだと、自信がないね。この間も使わなかったしね。ちなみに、170本ぐらい用意してもらった小太刀が、今では50本ぐらいになっている。俺って、ホントに不器用みたいだ。
次に、ゲルグさん作、黒龍の小太刀だね。あれは、マジヤバいね。クロエさんも、ベルさんも、ゲルグさんも、人には使うな! と対人禁止令が出た。俺の腕が未熟だから、確実に相手を殺してしまうらしい。あと、ゲルグさんはマメに来てくれているよ。……お酒の回収にね。
最後に、基礎身体能力だけど、すぐに限界がきた。スピード、パワーともに、一般人レベルだ。これは仕方がないみたいだ。剣術や槍術、刀術のような身体強化系スキルが発現しないと、これ以上無理らしい。だから、対人戦なら総合的な戦術と受け流しでなんとかなるけど、近接戦に持ち込めない魔物は、闇魔法の自動修復と吸収を利用した、スタミナ勝負に持ち込むしかないらしい。その気になれば、1年でも眠らず戦い続けることが可能らしいが、絶対にやりたくないね。
そして、魔法だけど……
色々できるようには、なった。……でもやっぱり才能がないみたいだ。火球をつくっても、習得魔法陣の“ファイヤーボール”よりも、威力が弱いし。得意の“加熱調理魔法”も、-10℃~350℃くらいでしか使えない。氷は作れるけど凍らせない、料理は作れるけど燃やせないって感じかな。あとは、煙球や草を結んだ罠などショボイ補助系が中心だ。ただ、同時発動、操作、効果の強弱など、器用さは上がっている。刀術は不器用だけどね。たぶんスキルにある属性はすべて使えるけど、この世界的には初級未満ってとこらしい。
最後に料理かな……
鰹節は、まだ無理だ。作り方を知らないので作りようがない。仕方がないので、うま味成分から攻めることにした。食料庫にあるのが昆布のグルタミン酸だ。あと、鰹節のイノシン酸が欲しいけどない。そして、イノシン酸を多く含み、食料庫にあって、俺が知っているのは、鰹、鯛、鯵、鰯、秋刀魚、豚肉、牛肉だ。
まず和食の繊細さが出ないので、豚肉と牛肉はない。
代替品としてなんとか形になったのが魚の薫製だ。香りをあまり着けたくないので、チップにはどんぐりの木を選んだ。サクラが有名だけど、香りがキツいからね。サーモンやベーコンに使うと美味しいんだけど。……まず、どんぐりの木を切る。皮を剥いで、細かく切る。切るのは”曳き斬り”があるので、すぐにできた。そして、乾燥。これも魔法で簡単にできる。これで、チップの完成だ。
次に、鰹からスモークすることにした。薫製は簡単だ。捌いた鰹の表面に満遍なく塩を振りかけ、2時間ほど待つ。時間が来たら、塩を洗い流し、水気をきれいにふき取る。そして、中華鍋のような底の丸く深いフライパンに、スモークチップを入れ、丸い焼き網をのせる。網とフライパンの間に空間でき、その中にチップを入れる感じだ。網の上に、塩をあてた鰹をのせ、フライパンに火をかける。チップから煙が出てきたら、ボールで蓋をして、濡れ布巾で隙間を埋め、火を切る。これで10~15分ぐらい待つと、半生の鰹の薫製のでき上がりだ。
そのまま、食べると美味しかったが、ダシをひくと臭い、失敗だ。その後、完全に火を通すため、途中で火を切らず、弱火で30分したが、臭い、失敗だ。この調子で、素材の厚みによって時間は変わるものの試したが、青背の魚は、臭い。……半生でそのまま食べれば美味しいのだが。
でも、鯛だけは、ダシをひいても美味しかった。鰹節とは違うが和食に合いそうだ。最終的には、鯛の身を完全に火が通るまで薫製し。骨は炙ってから、ダシに使うことにした。ここまでやって気付いたが、薫製しなければ、ヒュメドポワソンだった。
鰹節も探してみたいと思う。
次にぬか漬けだ。米ぬかを唐辛子と一緒に炒ったあと、冷ましてから土器に多めの塩、刻んだ昆布、しっかりと炙ったサーモンの骨、鉄くずを一緒に入れて水で捏ねる。乾燥を防ぐため、上から濡れ布巾を被せて冷暗所に置いておく。朝晩一日2回ほどかき混ぜながら、3日ほどするとぬか床の完成だ。もし冷蔵庫で保管するなら、ぬかを炒らなくても美味しいかもしれない。冷蔵庫が臭くなるから気をつけよう。この世界には氷室ぐらいしかないので、今回は炒った。腐りやすいからね。あと、サーモン以外の魚の骨でもいいけど、なぜかサーモンの骨は溶けてなくなるので、便利だ。
そして、できたぬか床に、塩をすり込んだ野菜を半日ほど漬けると浅漬けになる。漬かり具合は好みだが、俺は浅漬けが好きだ。あと、使っているうちに意外と塩分が薄くなるから気をつけよう。薄くなれば、塩を足してまぜればいい。塩を足さないと腐ってしまう。
実際にやってみるとわかるが、腐って失敗しやすい。腐っても臭いでわかりにくいから気をつけよう。俺には料理スキルがあるが……
料理スキルがあるせいなのか、いろいろやったが失敗が少ない。でも上手くいかないのもある。酵母菌だ。前世で作ったことないためなのか、上手くいかない。なので、パンやピザ生地が作れていない。食料庫には焼けたパンがあるので、街に出たら売っているのだろう。生イーストとかあれば、美味しいパンやピザ生地が焼けるのに……街に出たら確認だ。
こうやって思い返してみると、あまり成長していないね。そろそろ将来の夢も具体的に固まってきたので、もっと頑張らなければならないんだけどね。
そういえば、体も少し成長したんだった。身長170cm、体重60kgぐらいかな。体重はなんとなくだけどね。
生贄の魔法陣は、まだ青にはなっていないけど……そして、ついに、人間を斬った。この世界的にいえば、犯罪者かな。前世でも、魚や鳥を絞めていたけど……違うね。たしかに、戦闘中や戦闘直後は、高揚感や達成感のような感情が強いし、罪の意識もない。……でもね、その高揚感や達成感が薄らいでいくごとに、浮かびあがってくるんだよ……斬ったときの肉の感触が、虚無感と罪悪感が混ざったような感覚が……
前世でも何度もあったけど、二者択一の状況になって、1人を選んだときの感覚に近いかな。仕方がないのはわかっているけど、小さな罪悪感みたいなものが残るよね。その感覚に近いかな。でも近いだけで、生贄の儀式は自分の意思でやっているんだから違うんだけどね……
「……ケイ。……ケイ、大丈夫か?」
「あっ、ベルさん。大丈夫です」
また、妄想の世界に入っていたみたいだ。鍛錬中や家事をしているときはないんだけどね。食後とかにほっとすると、浮かんでくるんだよね、小さな罪悪感が。これは俺の問題だしね……
「すみません、ちょっと気が抜けてました。鍛錬ですね、行きましょう。グレンさんもお願いします」
「おぅ、任せとけ」
「妾はいらんのか?」
「クロエさんもお願いします」
「妾に任せとけば、間違いないのじゃ」
「……」
どうも、最近ベルさんが鋭いような気がするんだけど……
「今日も、槍術の基本の型の確認からじゃ。よいな!」
「皆さん、お願いします」
こうして、グレンさんも加えた、新しい日常が始まった。




